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4.夫の願い

 ロエンダ王国の最大の港町、マーニ。


 そこにヴェルエラの商館兼屋敷があった。


 夫は、普段は王都で暮らしている。毎日マーニまで戻るには距離があるからだ。


 ヴェルエラは、商館の主としても働いていた。


 


 王女との会談より数日後。

 その日、久しぶりに夫がマーニの屋敷まで戻って来た。


 荷物や上着は執事が受け取る。


 アルエストが、身軽になって居間まで入って来ると、ヴェルエラが出迎えた。

「おかえりなさい」


 アルエストは、不思議そうな顔をしていた。

「君は、一体どうやってシルヴィラ様を説得したんだ?」

 ヴェルエラは、不思議そうな顔をする。

「王女殿下は、何か仰っていましたか?」

「結婚を進めて下さいと、お言葉を頂いた」

「それはよう御座いました」

「ああ」

と、アルエストは頷いて、

「どうやったんだ?」再び訊いた。

 ヴェルエラは、微笑んだ。

「別に、女同士で、和気あいあいと、お話をしただけです」

「和気あいあい・・?」

「女同士の方が、話が通じ易い、という事もあるのでしょう」

「そうか・・」

アルエストは、呟いて、口を閉ざした。

 黙り込んだまま、中央のソファに腰を沈める。


 ヴェルエラは、何も気付いていない様に、傍で微笑む。

「因みに、結婚の話は、誰が最初に王女殿下に伝えられたのですか?」

 アルエストは、顔を正面に向けたまま、答える。

「私だ。兄王に任せたら・・あの優柔不断男。妹姫に嫌と言われたら、止めようという事になりかねないから」

アルエストは、未だに憮然としていた。

 ヴェルエラは、内心、それでか、と思った。


 好きな人に、よそに嫁に行けと言われたら、嫌になるかも知れない。夫は、先回りして手を打ったつもりが、逆に王女の機嫌を損ねたのだ。

 ヴェルエラは、王女の本当の気持ちは言わず、遠回しに、夫の気持ちを慰めようとした。

「嫌われ者の貴方に伝えられた事で、王女殿下の誇りを傷付けたのやも知れませんね」

 

 アルエストは、両目を閉じて、鼻から息を吐いた。

 

「俺が伝えたのがまずかったのか・・?」

「かも知れませんね」

ヴェルエラは、そう言って、夫の向かい側のソファに座った。夫は、眉間に深い皺を刻んでいた。自分の失敗を受け入れ難いようだった。


 ヴェルエラは、黙って夫の様子を伺っていたが、夫は、中々、口を開かない。


 ヴェルエラが、しびれを切らして口を開けようとする。と、

「今度から、女性たちに伝える時は、君に伝えて貰おう」


 夫は、ヴェルエラを見て、そう言った。


 ヴェルエラは、目を見開く。

「よいのですか?」


「女同士の方が、通じ易いのだろう?快く行って貰った方が、お互いの為だ」


 ヴェルエラは、微笑んだ。

「分かりました」

 アルエストは、面白そうに微笑む。

「嫁ぎ先に迷った時も君に相談しよう」

 ヴェルエラは、苦笑を浮かべる。そんな勝手な事をして、

「よいのですか?」

「君の意見を聞きたいんだ」

そう言った、夫の顔は、無邪気な子供の様に、眩しい笑みを浮かべていた。


 ああ、愛しいアルエスト。


「貴方のお役に立てて、とても嬉しいです」


 ヴェルエラの心は、満たされていた。



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