表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

3.結婚の相手

「あちらの王子は良き方と聞いておりますよ」

ヴェルエラが、言った。

 王女は、肩を竦める。

「子供だわ。あちらの王子に限らないけど。男はみんな子供」

 十四歳の王女に男を語られて、ヴェルエラは、苦笑を浮かべる。


 宰相(おっと)を好きだと言う程には、早熟な方の様だ。


 ヴェルエラは、王女に興味を持つ。

「因みに、夫の何処がよいのですか?」


 王女は、頬を赤らめて、微笑む。

「優しくて、頭も良くて、頼りになる方だわ」


 ヴェルエラは、微笑んだ。同感だった。

「周りからは、蛇蝎のように嫌われていますけど」

「それは・・仕方がないわね」

王女は、そう言って、窓から庭を見た。

「でも、頼りになる方よ。あの方のお蔭で、どれだけ争いを避ける事が出来ているか・・」

 優柔不断な兄に任せていたら、どうなっていたか。

 宰相が、方々で利害を合わせているから、国内外は落ち着いていられるのだ。


 ヴェルエラは、思った。

 この方は、政と言うものが良くお分かりの様だ。物事の本質も、ご自身の立場も充分、理解していらっしゃる。


「これから、どうされるのですか?このまま、断食――の振りを続ける訳には行きませんよね」

 ヴェルエラの言葉に、王女は、力無く微笑む。ぼんやりと庭の薔薇を眺めながら、

「そうよね。なんだか、急に、色んな事が嫌になっちゃって。こんな馬鹿な事してしまったけれど」

「私は、王女殿下を愚かとは思いません」


 王女は、ヴェルエラを振り返った。

 ヴェルエラの、落ち着いた理知的な顔を見ていて、王女は思った。


 まるであの方の様。あの方は、私の価値を見出して下さった。

 あの方への想いを断ち切る事は、とても、難しい。この想いを抱いたまま、あちらで上手くやれるかしら。

 王子はまだ、子供だから、体が大人になるまでは、子供は作れない筈だけど。それまでに、忘れる事が出来るかしら。 

 想いを持ったまま、他の人と出来るかしら。


「殿下」

ヴェルエラは、立ち上がった。

 悠然と、声を張り上げる。

「妻の席は埋まっております。王女殿下は、心置き無く、カイレン王国へ嫁がれて下さい」


 王女は、顔を歪めた。無理やり未練を絶たれて、直ぐに声が出なかった。


 ややあって、

「生意気」

王女は、低い声で言った。

 ヴェルエラは、余裕の微笑みを浮かべる。

 王女は、溜息をついた。もう、考えても仕様が無い。嫁ぐことは決まっている。そして、自分は、それを覆す気も無い。


 ギシッ。

 ふいに、壁際から軋む音がして、床板の一部が跳ね上がった。

 驚いて目を剝くヴェルエラの目の前で、床下から若い女中の顔が出て来た。

 女中は、窓際の王女を見つけ、笑顔をつくる。

「王女様」

「ミーリャ」

 ミーリャと呼ばれた若い女中は、パンとチーズとワインの入った籠を床に置き、自分の身体を穴から出した。

 床板を閉めて、籠を持って振り返った時に、やっと王女以外の人間がいる事に気が付く。

「えっ?!ど、どちら様ですか・・?」

「えーっと」

「ミーリャ、その方は、私の恋敵だわ」

王女が、憎々しく言った。

 えっ?!っとミーリャは、声を上げた。


「ミーリャは、幼馴染なの」

王女が、ヴェルエラに言った。

「私の事は何でも知ってるの。私はミーリャには何でも話してるから」

「はい」

ミーリャが、嬉しそうに微笑む。

 自室に立てこもった王女に、こっそり差し入れていたのがこのミーリャという訳だ。

「そうでしたか」

 ヴェルエラは、微笑んで、思った。この城には、隠し通路がある。

「あれを使えば、逃げ出すことが出来ますね」

「ほんと、ヤな人」

王女は、苦々しく微笑む。

「なんだかんだ、私は、今まで何不自由無く生きて来た。そこを出て、外の世界で生きて行くなんて、きっと出来ないわ」

 ヴェルエラは、何も言わなかった。

 王女は、溜息をついた。

「受け入れましょう」

王女は、言った。

「王子とは、関係が良好になるよう努めましょう。事あれば、ロエンダに利する様に働きかけます。それまでは、目を付けられない様、せいぜい良妻を演じますよ」

 ヴェルエラは、満足気に微笑んだ。

 ミーリャは、王女の代わりに、一筋の涙を流した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ