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12.敗北、そして王子との出会い

 新緑の中を馬で歩く、ヴェルエラ、エレナ、レイオス。

 太陽の光が、柔らかく馬の毛並みを艶めかせる。


「アランダ卿の御子息が貴方との婚姻を希望されている事、ご存知ですか?」


 エレナは、応えなかった。


 レイオスは、寂しそうに、目を伏せた。


「貴方が最初に婚約した方です。家柄もよく、知らない相手でもない。良き話かと存じます」

 エレナは、そこに敵が居るかの様に、鋭く正面を見つめる。

「貴方に指図される筋合いないわ」

「そうでしょうね。私はただ、思った事を申したまでです」

「ほんと、貴方って、噂通り・・・」

「噂通り、、何です?」

「むかつく」

ヴェルエラは、品良く苦笑を浮かべた。


 エレナは、すいと背筋を伸ばす。

「私はね、自由に生きたいの。誰の指図も受けない。私が、私を好きに使うの。だから私・・・」

エレナは、馬の脚を止めた。並んで馬を歩かせていたヴェルエラも、馬を止める。


 エレナは、射抜く様にヴェルエラを見た。

「私、貴方の事が嫌いなの。人の自由を奪う為に働いてる貴方が」


 ヴェルエラは、目を見開いた。

 何も知らないで勝手な事を言っている、そう思った。だが、それ以上に感じたのは脅威だった。


 この女は、誰にも言う事を聞かせることが出来ない。後見人にも、国王にも、神ですら。


 ヴェルエラには、使える手段が、言葉が、無かった。


 さわりと風が吹いた。

 エレナは、微かに微笑んで、馬を進めた。ついて行くレイオス。


 ヴェルエラは、一人、留まるしかなかった。



 

 帰路に着いたヴェルエラは、馬車の中で、一人、あれこれと考えを巡らせていた。

 最初から、()()を結婚させるのは無理との認識もあった。


 実際、取り付く島が無かった。

 彼女には財力がある。

 家もある。使用人もいる。都合の良い男もいる。困ることが無い。

 あれでは、説得の仕様が無い。

 別の家を薦めた所で変わらないだろう。

 

 夫のがっかりする姿が目に浮かぶ様だった。

「はあ」

 ヴェルエラは、思わず大きな溜息をついた。

 ああ、アルエスト。

 良い所を見せたかった。

 マーラの屋敷から、アルヴァリオン家のエレナが住む屋敷まで、一日では行けない距離だった。その割に、無駄足だった。


 街道に戻り、王領最北の都、ディセナで宿を取る。


 王都ほどの賑やかさは無いが、古都として華があり、貴族の別荘地としても人気だった。

 今の時期は、王族がお忍びで来る事もあった。近隣各国の王族御用達御宿なるものもあった。


 ヴェルエラは、そこから少し離れた、普通の宿に泊まった。

 

 王領であり、貴族の別荘地でもある為、騎馬部隊が四六時中巡回しており、治安は比較的良かった。


 ヴェルエラは、気分を変えようと、散歩に出た。使用人が付いて行こうとしたが、一人になりたいと言って、残してきた。

 

 ぼんやりと町を歩く。

 灰色の石造りの礼拝堂を見つけ、中に入る。

 

 ゆっくりと中を歩く。中は天井が高く、足音が響いた。

 

 正面奥にある銅製の救世主の像の前で、ヴェルエラは、両手を組み頭を垂れた。

 

 ふいに、隣に気配を感じた。誰かが、自分の右横に立ち、自分と同じように頭を垂れた。


 ヴェルエラは、頭を上げた。

 隣の人物も、同じように頭を上げた。

 二人は、互いを見た。

 ヴェルエラの隣にいたのは若い男だった。夫より背が高く、くせのある金髪、薄い青い瞳、鼻筋は通り、目尻が垂れ、優し気な顔をしていた。

 男は、上着は着ておらず、パンツにシャツにベストという軽装だった。ふと、礼拝堂の入り口の壁際に、使用人らしき人が控えているのに気が付く。


 何処の貴族の四男坊かしら。


 ヴェルエラは、そう思ったが、ここは、ゆったりと過ごす為の場所。無粋はせず、会釈だけをして、出口へ向かった。


「あの」

と、爽やかな張りのある声が背中に掛かった。

「お名前をお聞きしても宜しいですか?」


 ヴェルエラは、少し不思議に思ったが、拒否する程でもないと思い、応えた。

「ヴェルエラと申します」

「ヴェルエラ・・」

男は、呆然と、その名を呟いた。

 ヴェルエラは、男の様子に苦笑すると、もう一度会釈をし、背を向けた。


 男は、ヴェルエラが去っていく姿を黙って見つめていた。



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