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9.アルエスト

 宰相、アルエスト・ハーネスト。


 カイレン王国の旧王朝にルーツを持つこの男は、五年前、十歳以上年下の国王の補佐として宰相の任に就いた。

 内外で、長く断続的に続いた戦争と伝染病の影響等で、内政はボロボロだった。戦争を終らせ、国を立て直す為、家名を使って宰相に名乗り出た。


 戦争によって利益を得ていた者は反発したが、これ以上は結局の所、自分の首を絞めると引き下がった。民は頼りない国王よりも格下ではあるものの名のあるハーネスト家の男に期待した。


 国王は、宰相に頼り切っている。定期的に報告は受けているが、聞いても良く分からない。もう全部任せた方が良い、とばかりに、自分は詩を作ったり、狩りや舟遊びにかまけている。

 

 とはいえ、国王の決済は必要である。

 アルエストは、形骸化したとはいえ、定期に国王と面会し、状況の報告と共に署名を求めていた。


 国王の居城、ロエンダン城。

 今、アルエストは、国王の執務室にいる。部屋自体はそこまで広くないが、権威付けの為か、蔦が絡み伸びて行くような金彫刻の施された吊り下げ型の燭台が部屋の中央部の天井から下がっている。執務机は部屋の奥にあり、国王は、大人しく椅子に座ってペンを走らせている。今は、昼間なので、窓から入る光が充分あり、燭台に火は灯っていない。そもそも、この国王が火を灯す様な時刻まで仕事をするという事は今まで一度も無いのだが。

 

 国王は、うんざりしながら、膨大な量の署名をこなしている。当然、内容はろくに読んでいない。いちいち読んでいたら全く終わらない。読む必要ないように、アルエストは口頭で短く説明する。

「ローバリー橋、改修」

「はい」

カリカリカリ。署名する。

「売上税の導入。売り上げに対し三十分の一」

「はい」

署名。

「貿易船の再編」

「はい」

署名。国王の手が止まる。

「アルエスト」

「何でしょう?」

「手がつってきた」

「・・休憩しましょうか」


 侍従が、流行りの紅茶を入れてくれた。

 甘くほろ苦い香りが、執務室に漂う。

 二人は、部屋の中央の温かい日差しを浴びるソファに向き合って座り、紅茶をすすった。

「はあ・・。美味しいね」

吐息交じりに、国王が言った。優柔不断な若い国王は、良く言えば穏やかな人物で、栗色の髪と童顔が優しい空気を増幅させていた。最も、逆に悪く言えば、甚だ頼りなかった。

「美味しいですね」

アルエストは、話を合わせようと、同意した。実際、変わった味だが、美味しかった。

「そういえば、先日は、ご協力頂き、ありがとうございました」

「なんだっけ?」

「設計士のエレオの件です」

「ああ。名誉な事だよ。カイレン王城の庭を設計するなんて、すごいね。頑張って欲しいね」

国王は、しみじみと言った。

 アルエストは、少し、意外な感じがした。

 この方は、他人に対してこの様に言う人だったろうか?もっと、自分と人とを比べて、卑屈になっていた気がする。

 国王は、にこにこと紅茶を飲み干した。



 アルエストが、自分の執務室に戻って仕事をしていると、約束も無く内務大臣を務めるアランダ卿が訪ねて来た。

「ごきげんよう」

アルエストは、突然の客人に立ち上がり、ソファを勧める。

 アランダ卿は、勧められるまま、ソファに座った。

 対面に、少しだけ左によって、アルエストが座った。

「如何されましたか」

アルエストは、年上の大臣を丁重に扱う。

 アランダ卿は、今年五十歳。もう家督を息子に譲らねばならない歳だった。


 悩んでいたのは、息子の結婚の事であった。

 息子は、以前婚約者がいたが、互いの家の事情で一度ご破算になった。

 その後、別の家の娘と結婚したが、子供が出来ず、大司教の許可を以て離婚となった。

 独身に戻った息子をどこの家と結ばせるか・・・。

 政略結婚に定評のあるアルエストに、相談に来たのだった。



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