Who am I
部屋には空き缶や腐った食べ物、家具であったものが散乱している。どうやらここはダストシュートにつながるゴミ置き場のようだ。まともな人間なら1秒と居たくないひどい悪臭であり、淡い緑色の非常灯がついているだけの状態で薄暗く遠くは見えない。そのゴミの上に一人の男が眠っている。正確には気絶しているようだった。上にダストシュートの出口があるのを見る限りどうやらそこから落ちてきたらしい。
「う、、、、」
男が目を覚ます。
「ここは・・・どこだ・・・・?」
体をお越しゆっくりと周りを見渡し状況を確認しようとするが寝起きの脳には耐えきれない悪臭のようだ。男はその場で嘔吐する。ひとしきり吐いた後に男は現状を把握を試みるが今度は頭痛に遮断される。触ってみると少し腫れていた。降ろした手に硬いものが当たる。どうやら鉄パイプのような筒状のものに頭を打ったようだ。ここで男は非常に奇妙な感覚に襲われる。
「ここは・・・どこだ・・・・?自分は・・・誰・・・だ・・・?」
思い出そうにも自分の事が思い出せない。名前も、自分の顔すらも。まるで今日産まれたかのような感覚だ。思考をまとめようにも悪臭がひどい。まずはこの部屋から脱出すべきだ。
男は非常灯を目指してゴミの山からゆっくりと歩き始める。幸いにも頭以外は打っていなかったらしい。非常灯に沿って歩き続けると扉があった。あまり使われていない扉だったのだろうか開けるときに金属が擦れる大きな音が響き渡る。扉の先も部屋で切れかけの電球がジジジと音を立て付いたり消したりを繰り返していた。どうやらゴミ捨て場の管理室のようだ。いくつかの制御スイッチがあり、壁のモニターには先程自分でいたゴミ捨て場のような映像が流れている。暗視対応されているらしく少しわかりずらいが様子がうかがえる。
ここは廃墟だろうか。少なくともまともに管理されている訳ではなさそうだ。とにかく自分が置かれている状況を整理しなければ。何かこの部屋に建物に関する情報を示すものは無いかを探そう。
部屋には2つの縦長のロッカーと制御スイッチなどがある机が一つ。スイッチは見た事ない文字が書かれている。ここは海外なのだろうか。机の棚には鍵がかかっており開きそうにない。ロッカーからは作業員の服が出てきた。腕の腕章にはDCW ■■■■と書かれている。文字のようだが■の部分は見た事がない文字だ。どこの国の言語だろうか。自分の服よりは衛生的に見えたのでこちらに着替える事にした。元々着ていた服はロッカーに入れ着替えが終わると同時にモニター脇にあるスピーカーからものが落ちる音がした。モニターに目を向けるとゴミの山に何かが落ちたようだ。
人だ。人が落ちてきた。
モニターを見ながら考えていると相手が立ち上がった。明らかに何かを探しているかのように周囲を見回している。よくみると手に何かを持っているようだが何かはわからない。すると男が歩き始めモニターから消えた。
こちらに来るか?だとすれば鉢合わせする可能性があるがコンタクトするべきだろうか。ただ、相手は何かを持っているようだったな。。。相手と自分の関係性が分からない限り遭遇するべきではない気がする。この部屋でやり過ごそう。
ガコン ギギギギッギギ ギギギッギギッギギギ ガコン
ざっ ざっ ざっ
バァン ギィン キィー、、、、、ッ
ざっ ざっ ざっ
ガコン ギギギギッギギ ギギギッギギッギギギ ガコン
部屋から気配がなくなった事を察して男はゆっくり立ち上がる。音の方向的にゴミ捨て場の扉とは別の扉から出ていったようだ。ロッカーが半開きになっているところを見るとどうやら着替えたロッカーを開けていたらしい。途中の金属同士がぶつかる高い音は何だったのか。男がゆっくりロッカーを開けるとロッカーに穴が空いていた。穴は縦長で鋭利なもので突き刺してできた感じのものだった。ナイフのような物を持っている事。そして何の躊躇いもなくソレを突き刺した事を考えると、自分は殺意を持ってアイツに追われているようだ。
状況は何ひとつ分からない。ただ一つ分かった事は自分は殺される可能性があると言う事だけだ。私はゴミ捨て場に戻り何か武器になるものが無いかを探した。そうだ、鉄パイプがあったはずだ私は記憶を頼りに倒れていた場所に戻り鉄パイプを手に持つ。
ギギッギギギッギギギ
同時にゴミ捨て場の扉が開いた。私はパイプを握り身構える。さっきのアイツか?
「おぉーい!誰か居ないか?」
喋りかけてきた?誰かを探しているのだろうか。
「おぉーい!居るんだろうそこに?」
そう言いながら私の方に近づいてくる。恐らく制御室のモニターに映ったのを見られたらしい。このまま近づけさせるのは危険だ。私はパイプを前に突き出し立ち上がる。
「誰だ!」
「おいおいおいおい待ってくれ!やっぱりいるじゃないか。脅かせるなよ。」
両手をあげてそう答える。手に何も持っていないように見える。さっき来たやつとは違うのか?
「と言うかなんで着替えてるんだ?」
「・・・こんな所にいて服が汚れたからだ。」
「違いない。とりあえず悪臭がひどい。物騒なものを降ろしてくれ。外に出よう。」
そう言って相手は振り返って元来た道を戻る。声の感じでは男だろうか。少なくとも子供の声ではない。パイプを握る手は緩めず相手の後ろについていく。
「なぁ、ここはどこだ?」
「どこだ、、、って、ゴミ捨て場だよ。分かるだろう?」
「違う、この建物の場所を聞いているんだ。」
「建物って、、、何だよ。仲間同士でカマをかけるのはやめてくれよ。」
「思い出せないんだ。頭を強く打ったらしい。」
「なるほど?何も思い出せないのか?知らない訳じゃなく。」
「・・・あぁ。名前も自分の顔も思い出せないんだ。」
「オーケー。とりあえずこの中では呼吸も辛い。管理室についたら話してやるよ。」
(仲間同士とは一体どう言う事だ・・・?)
ガコン
「さて、話す前に聞きたいんだが、お前誰かとすれ違ったか?」
相手は扉を背にして話し始めた。
「・・・何故そんな事を?」
「確認だよ確認。で、どうなんだ?」
なんと答えるべきか。。。コイツとさっきの奴が仲間だとしたら、コイツも私を殺そうとしている可能性がある。コイツとさっきの奴が仲間じゃないとしてもコイツが私の仲間でない可能性もあるな。
「すれ違っていない。」
「オーケー。じゃあ仲間だな。」
恐らくさっきすれ違ったやつと誤認しているようだ。
「それで、ここはどこだ?」
「まぁまぁ、どこから話せばいいかを確認する為にもうひとつ答えてくれよ。その服の■■■■って読めるか?」
「・・・読めない。上のディー・・・」
私が喋る途中で男はどこからか出してきた小さなナイフを突き出し突進してきた。咄嗟に避けるが尻餅をついてしまった。
「見つけたぞ!!!」
そう言って男は目を血眼にしてナイフを振りかざしてくる。殺される。私は体勢を立て直しパイプを構える。手は震え激しい動悸がする。手の震えを見てか男は叫びながらナイフで突進してくる。咄嗟にパイプを振りかぶり男の頭に振り落とす。
「ガッ!ーーーテメェ!!」
男は逆上し突進してくる。私は転ばされマウントポジションを取られる。パイプも手放してしまった。男は吸血鬼に杭を打つかのようにナイフを振り落としてくる。その手を取り必死に止める。
「し、、、、ねええええええええ!!」
殺される。ナイフが喉元まで来た。必死に抵抗する。力んだせいか相手の頭から顔にかけて血が流れ始めている。血が目に入った瞬間に力が一瞬緩んだ。その隙を見て相手の手をそのまま男の胸に刺さるように全力で押し返し
刺した
男の口から緩やかに血が出始める。そして、覆い被さるように倒れ込まれた。私はすぐに男をどかし男から離れた。殺人を犯してしまった。手が震える。動悸が止まらない。嗚咽と共になぜ私がこんな目に遭わなければならないのかをずっと考えていた。
私は誰なのか。ここはどこなのか。なぜ私は殺されようとしているのか。
誰か知っている者がいたら教えてくれ。