洗濯婦は女帝にまでのし上がる
「今はこんなでも、きっといい事もあるはずだわ。諦めないんだから」
私は貧しい農家の産まれで、十ニの時、牧師さまの家に使用人として奉公に出たわ。
そこでは読み書きまで教えて下さるくらい、とても良くして下さったの。
いい牧師さまご家族の元、穏やかに過ごし、十七で兵士の夫と結婚したのだけど……
夫は戦争で行方不明になり……。その後、住んでいた村は敵国に占拠されて……
私は、将軍さまの屋敷へ洗濯婦として連れて来られてしまった。ただね、洗濯婦ではあっても、多くの兵士の相手をさせられるのよ……
そんな日々を、何とか生きていた中。改宗させられ、名前も敵国の名前に改められたわね。
元の将軍さまの元から、別の将軍さまの元へ洗濯婦として移動したのは、名前が変わった後だったわね。
でも、そこで、私の人生を激変させる人物と出会ったの!
何と、敵国の皇帝その人よ!
皇帝陛下は私を気に入られたらしく、それに気付いた二人目の将軍さまが、私を皇帝陛下へ献上されたの。
皇帝陛下に献上された私は、戦の間ずっと、陛下のお側でお仕えしたわ。
そして……、ね? うふふ。私は皇帝陛下と、秘密結婚をしたの。秘密ではあっても、陛下は前の皇后さまと離婚なさっておられるから。私が平民で、捕虜である以外は問題はないの。
それに、陛下はとってもお優しく思いやりもあるお方で……。私、陛下にお仕え出来るなら、どんな形でも構わないって思うくらい、陛下をお慕いしてしまったから。秘密の結婚でも、そんなの気にならなかった。
◇
秘密結婚をした後も、陛下は周辺国との戦争に明け暮れていらして……。勿論、私は陛下に付いて行き、戦場で前と変わらず、陛下のお世話をしたのよ。
だけど……
「あま、陛下ったら……!」
戦争が激しくなり、戦地に私がいる事を心配なさった陛下により、私は戦地を離れた陛下のご親戚の家にお世話になる事になったの。
そこへは、陛下からの情熱的なラブレターが何通も届けられたのよ!
秘密結婚していた私たちだけれど、後に正式な結婚をしたの。とっても豪華なお式を。
子供は、十ニ人産まれたけれど、成人したのは女の子が二人だけで……。それだけが、ちょっと残念ではあったわ。
それでも、陛下のご寵愛と後見、私を陛下に献上した、陛下の親友でもあった将軍さまのお蔭で、めきめき力を付けられたのよ。
宮廷人たちには、平民出で気品も教養もなかったから……。かなり蔑まされたけれど。仕方ない事だけれど……、ね。
それより、陛下が何人もの愛妾を持たれた事が悲しかったわ。
ま、私も何人も愛人を持ったのだけれど。ただ、陛下は私が愛人を持つことは許されなかった。
彼は首を刎ねられ、その首はアルコール漬けにされ、私の寝室に数日置き置かれたの。勿論、陛下のご指示でね。
◇
最後まで、円満な夫婦生活を送る事は出来なかったのだけれど……
陛下が崩御なさった後、私がこの国の初めての女帝になったわ。
この国の出身でも、貴族でもない私が、よ!
それには、私を陛下に献上した将軍さまのクーデターに近い謀があり、元老院の押さえ付けにも成功したからなのだけど。
それにしても、本当に……。なぜ私が女帝にまでなれたのかしら?
まあ、お飾りには良かったのでしょうね。
将軍さまたちの政治手腕は見事で、私の治世は穏やかだったと評されているのだもの。
私は、ただ、将軍さまたちの用意した物を実行しただけ。
◇
そんな私の治世は、長くは続かなかった。
若い愛人たちとの生活と、美食に明け暮れて二年。
四月頃に体調を崩し、その年の五月に死んでしまったからよ。
穏やかで幸せな人生とは程遠かった私の人生だったけれど。
ただの貧しい農民の娘が皇后に。そして、女帝にまで上り詰めたわ。
まあ、悪い人生ではなかったかしら。
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実在のモデルはピョートル一世皇后で、後のエカチェリーナ一世。