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【書籍化】雑草聖女の逃亡~隣国の魔術師と偽夫婦になって亡命します~【3/15小説2巻発売】  作者: 森川茉里


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檻の中 03

「マ……じゃなくてリズ様、先にどちらを開けますか?」

「小さい方は元気そうなので大きい方から開けましょう」


 もぞもぞと活発に動く小さい方に対して、大きい方はほとんど動かない。マイアが大きい方を選んだのは、カーヤのように怪我をしていないかが心配だったからだ。


 袋の口を縛る紐に手をかけた時だった。唐突に馬車が動き出した。


「それなりの数が揃ったから依頼主の所に連れて行く、という事でしょうか」


 発言したのはネリーだ。マイアは気持ちが重くなるのを感じた。屠殺場に連れていかれる家畜になったみたいだ。


 ひとつ大きく息をつき、気を取り直してから麻袋に向き直る。

 大きい方の麻袋の紐を解くと、中から出てきたのは猿轡と縄で拘束された大人の女性だった。

 年齢は少しマイアより上に見えた。マイアとよく似たテルース女神に扮した衣装を身につけている。漆黒の艶やかな髪には生花が飾られていたが、袋に詰め込まれたせいかぐしゃぐしゃに乱れていた。


「……ありがとうございます。あの、私、ローウェルからお祭の見物の為に出てきて……」


 拘束を解くと女の人は優しげな顔を青ざめさせ、震える声で話しかけてきた。


「あの、私、夫とはぐれて……そうしたら変な人に取り囲まれたんです! 婚姻腕輪も奪われて……ここは一体……私たち、どうなってしまうんでしょうか」


「どこぞの魔術師貴族に売られるみたいですよ。人体実験の材料としてね」


 ネリーの直接的な物言いにマイアはギョッとした。


「ネリー様、もう少し婉曲的に……」

「遠回しにお伝えしようが売り飛ばされる先は変わりませんよね」


 それはそうなのだが。

 女性は目を大きく見開いたかと思うとさめざめと泣き出した。

 着ているものの質や見た目からして良家の奥様風の女性だ。穏やかでおっとりとしており、見るからに打たれ弱そうである。


 そんな女性の様子にネリーは軽く肩をすくめると、もぞもぞと動き続けている小さな麻袋の方へと移動した。そして救出の作業を始める。マイアも慌てて手伝いに向かった。


 小さい麻袋の中に入っていたのは、見るからに元気そうな少年だった。

 年齢はネリーより少し下だろうか。マイアが苦手としている年代の子供である。


 オレンジがかった金髪に黄緑色の瞳、そして意思の強そうな眉が特徴的な少年だ。

 身に付けているのは騎士の仮装でなかなか良くできている。


「むー、むむーっ!」


 猿轡を噛まされ、縄で雁字搦めに縛られながらもうめき声で何事かを訴えてくる。

 マイアは少年の後ろ側に回り、口を縛める布を外してやった。


 すると、


「お前ら! よくも僕を後回しにしたな!」


 これが少年の第一声だった。


「僕はブレイディ男爵家の嫡男だぞ! 家の者が助けに来たら覚えとけよ!」

「リズお姉様、袋に戻しても構いませんか?」


 開口一番の高飛車な発言に、ネリーはいたく気分を害した様子だった。

 ネリーの気持ちはちょっとわかる。ネリー以上に気の強そうなクソガ……いや、お坊ちゃまだ。


「ま、待てよ。僕が悪かった! 袋を戻すな! 僕を解放してくれ。解放してくれたら金貨をやるぞ!」


 袋に戻そうとしたネリーに向かって少年は慌てて声を掛けてきた。

 その発言内容は完全に成金のドラ息子である。


「あなた……プライドはないの?」


 マイアが思わず突っ込むと少年は顔を真っ赤にして黙りこくった。


「たかが男爵家風情が偉そうに……」

「何だと!?」

「あんたが男爵家ならこっちは伯爵家よ。私の方が偉いんだから! 『お願いします、馬鹿な僕を助けてください、ネリー様』って言うなら解いてあげてもいいわ」


 少年も酷いがネリーもなかなかである。


「誰がそんな事言うか! お前が伯爵家の関係者だって証拠なんてないんだからな!」

「それを言うならあんただってそうでしょ! 何とか男爵の嫡男っていう証拠なんてどこにもないじゃない」

「何とかじゃない。ブレイディ男爵家だ!」


 ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた少年少女の姿に、マイアは孤児院時代に戻ったような錯覚を覚えた。


「お、お二人ともやめてください! 仲良くしましょう! 同じ攫われた者同士なんですから!」


 二人の間に割り込んだのは、さっきまで泣いていたおっとり系の人妻の女性だった。




「私、ローウェルから来たファリカ・コーエンといいます。まずは皆さん、落ち着いて自己紹介でもしませんか……?」


 人妻――ファリカが名乗ったことによって、ひとまずネリーと少年の言い合いは収まった。


「……アイク・ブレイディだ」


 どこか憮然とした様子で少年は名乗った。


「私はネリー・セネットよ」

「セネットって……まさか領主様の……?」


 驚きの声を上げたのはファリカだった。


「本物かどうかなんてわかるもんか」

「何ですって!? 新興貴族のブレイディに馬鹿にされる謂れはないわ!」


 アイクが余計な事を言うからネリーが噛み付いた。

 ネリーの言葉で思い出した。ブレイディ男爵家は、確か海運業で財を成して爵位を得た新興貴族だ。

 歴史ある名門、セネット伯爵家の娘であるネリーから見ると、お金で爵位を買った家柄ということになる。


「私はリズ・クラインです」


 険悪な空気を和らげるため、慌ててマイアは割り込んだ。

 するとアイクから馬鹿にしたような視線を向けられた。


「なんで捕まってんだよ。あんた魔術師だろ?」

「……不意討ちされたので」

「間抜けすぎ」

「リズお姉様になんて事を!」


 ネリーはアイクに食ってかかった。


「お姉様を馬鹿にすることはネリー・セネットの名にかけて許しません!」

「なんでお前がその魔術師を庇うんだよ」

「当家はお姉様には大きな恩義があるからです」


 またも睨み合う二人の姿にマイアはこっそりため息をついた。

 どうもネリーとアイクは相性が悪いようだ。

 ただでさえ拉致監禁されて不安なのに、檻の中の空気も悪くなりそうで気が重くなった。

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