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まさかまさかの元教師と元教え子の関係性

「家に帰れば冷蔵庫にレモンスカッシュ。家に帰れば冷蔵庫にレモンスカッシュ。ふふふ、ふふフ、くフフ、クフフフフフフフ」


 街灯の明かりしかない夜道を、クフフフと怪しげな声と共に黒いオーラが口から出てるような。なんなら体からも出てるような、そんな気分で。夏の怪談とかに出てきそう、なんて頭の片隅で考えながら。

 春の新入社員の研修とフォロー、そしていつもの残業。春の[は]はハードワークの[ハ]よ。なんて、悪態も心の中で呟きつつ。冷蔵庫にあるレモンスカッシュのために家に帰る。

 鍵を開けて、閉めて。靴はぬいで玄関にぽいっと。ボタンやらチャックやらを緩めて。全体的にゆるーくなったら、いざ冷蔵庫の……


「おかえりなさい」

「んぁ」


 変な声が出た。


「ただいま美羽ちゃん」


 美羽ちゃんが居たのを忘れてた。でも「おかえりなさい」か。悪くない、それどころか凄くいい。「おかえりなさい」と言って貰えるだけで今日の疲れの1割くらいが癒された感じがする。しかし残りの9割は残ったまま、早速レモンスカッシュを。

 と、冷蔵庫の扉に手をかけたところで思い止まる。未成年の前で飲酒は教育上宜しくないのではないだろうか、と。酔っ払って美羽ちゃんに飲ませようとすることは無いだろうけど、でもやっぱり。

 なんて考えてるうちに、手は勝手に冷蔵庫の扉を開けてレモンスカッシュを三缶ほど腕に抱えていた。


「寝ててよかったのに」


 時刻はあと数時間で明日になると言った時間。良い子は寝てる時間。まあ、家出少女はいい子じゃないかもしれないから。起きててもいい、わけないか。成長期に寝ることは大事だし。


「お布団が」

「あっ」


 昨日の後始末してないじゃん。急いでシーツとタオルケットを洗濯機にぶち込んで乾燥もするようにセットした。結果3時間後ということで寝るのは日付が変わる頃になりそう。


「美羽ちゃん夕飯食べた?」

「カップ麺以外なくて」

「あ、うん。カップ麺食べてよかったのよ」


 冷蔵庫はいまお酒とおつみに占拠されてて、食材なんてない。が、これまた美羽ちゃんの発育上宜しくない。そう断言出来る。だいたい夜にカップ麺食べてる私の、健康診断の結果が少し悪いんだもん。体に良くないんだよやっぱり。

 となると、料理するしかないなー。一人暮らしだしいいやーなんて、サボってたけど。美羽ちゃんと言う同居人がいる以上、ちゃんとしたものを食べさせないとね。巡り巡って今年の健康診断の結果にも、影響するかもしれないし。

 とりあえず今日の所はカップ麺で済ませよう。お湯を入れたカップ麺を二つテーブルの上に置いてあとは待つだけ。という時に、美羽ちゃんから話があった。


「聡里さんって、越冬(えっと)って苗字なんですか?」

「ん、そうだけど」

「中学校に教育実習しに行ったこととか、ありますか」

「あるね。結局こうして会社勤めだけど」

「じゃあ、風鈴(かぜすず)って女の子のこと覚えてますか」

「んー、居たと思う。学校に遅くまで残ってて、勉強教えてあげたような気もするけど……」


 昔と言っても三年くらい前の話だから、朧気な記憶から鮮明な記憶になってくる。だんだんと風鈴って女の子の顔を思い出してきて。その子の顔が、何処と無く美羽ちゃんに似てるような気がした。

 これはもしかしなくても、もしかするやつ。あって一日で私の昔のこと、ここまで知ってるのはおかしいよね。


「美羽ちゃんってもしかしなくても、風鈴さんだったり?」

「はい」

「おぅ」


 全く知らない女の子じゃなかったよ。何なら教育実習生だったときに勉強見てた子だよ。ある意味教え子だよ。え、私教え子と寝たの。やばくない、やばいよね。色々論理感的にやばいよね。うわぁ……


「先生?」

「ぐふっ! それはちょっとダメージがでかいから。聡里でお願い」

「聡里さん、約束まだ有効ですか」

「約束、あーうん。いいよ」


 約束したねぇ。家でも学校でも居場所がないっていうから。そばにいるときは居場所になってあげるって、約束したねぇ。家は両親がいつも喧嘩ばかりしてるから、居場所がなくて。学校でも居場所がなくて。それがかわいそうだなって思って言った約束だけど。思い出したら余計に美羽ちゃんを居候させなきゃいけないなー。だってあの怪我とか、虐待とかいじめじゃんね。虐待ならそれこそ帰せないし。でもこの状況って誘拐とかそういうのになるし。あぁ……これが板挟み状態。いや、仕事でもよくなってたわ。取引先と会社に板挟み……ふふふフフフフフ。カシュッ! ゴクゴク


「聡里さん」

「はっ!」


 無意識にレモンスカッシュを開けて飲んでた。


「ありがとうございます」


 隣までテトテト歩いてきて腕に抱き着いてくるなんて。


「かわいい、癒し。可能な限りずっといていいから」


 この生活になれたら私、美羽ちゃんを手放せなくなりそうなんだけど。ダメ人間になりそうなんでけど!

 なんて思いつつ、拒絶しないでそのままにしてる私はもう手遅れかもしれない。

毎日更新のつもり!

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