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それは小さな5界です 第二部  作者: 大宗仙人
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第六章

第六章 再び別世界線へ






「おお、帰って来たぞ!」

 今は……多分だが、麗がおかしくなった時点にジャンプしようとする直前の朝だと思う。

 オレはバタバタと洗面所まで走って自分の容姿を確認した。

「よ~し、大丈夫だ」

 ほっとして、改めてダイニングに戻るとハガイが居た。ちゃっかりダイニングチェアに座ってやがる。

「ご帰還、おめでとうございます」

「ああ、まあな。それよりお前しか居ないのか?」

「ええ」

「何で?」

 オレもハガイの正面に腰かけた。

「部田さんのご尽力により、時空震の原因となる古代での出来事は解決しました。今後はその心配が無くなったと申し上げたいところです。しかしながら……」

「しかしながら?」

「白神さんと知床さんの魂の本質はヘーラ-とセクメトです。この古代神二人はむしろ白神さんと知床さんの念が優勢となり、意識が一体化して時空震を起こしたということです」

「ん?」

 ハガイの口調から事態は全面解決とはなっていないようだ。ここはちょっと真面目に話を聞かないといけないかもな。

「ですから、神の力を用いた原因となった想いは現世の人間側にあったということです。そして今回のエジプトとローマの旅は能力を封じることに成功しただけということになります」

「ん~と、それでいいんじゃないの? だって時空震はセクメトとヘーラーの意識がもう力を貸さなくなったんだから起きないでしょ?」

「それはあくまでも現時点でというだけです。先ほども申し上げましたが、白神さんと知床さんは元は強大な異能力を持つ神なのです。時空震も目的があるわけですし、それを把握してきちんと解消してあげないと今後どのような世界の変更が成されるかもわかりません」

「なぬ!? それってどんな?」

「だからわかりません。世界線の変更よりもっと恐ろしい大変革かもしれませんよ」

「そりゃあ大変だ……」

「ようやくおわかりいただけましたか。時間かかったな」

「何!?」

「いいえ、何でもございません」

「まあ、いいや。それで皆はどこへ行った?」

「分担して白神さんと知床さんを遠巻きに監視していますが、これからの行動については部田さんが重要な役割を担うことになりますから、全員揃ってからに致しましょう。それに我々だけで決める内容でもレベルでもありませんから」

「またかよ……」

 エジプトでもローマでもめちゃくちゃ大変だったのに、まだ頑張んなくちゃいけないというのは辛いところだが、麗と知床のためだし、何より世界の危機だ。

 それでも現実世界では世界線が変わろうが時空震があろうが、その改変された世界で人は淡々と生きているってなんだかなと思う。

 中学生の頃に考えたことがあったけど、実は時間を自在に止められるヤツが居て、何度もそれを実行しているんだけど止められた方は何も気付いていないから、何も変わっていないと思っている。そういうパターンと似ていないか?

 裏世界とかゲートとか呼ばれている向こうにまた時空の異なる世界があるとかね。でもまさか自分がその当事者になるとは思いもよらなかった。




「皆さま、お待ちしておりました」

 ハガイが一同に挨拶をした。当然のごとくこの後の議題の中心になるであろう二人はいない。さやか先生は別格として、天界サイドの出席は希。あとはシーリーを含めたプリンセス全員……じゃなくてやっぱりメリアはいないか。寝ているのかもな。

 マドゥーサは見当たらない。ポセイドンとアモンも居ない。小笠原先生も探したけど残念ながら居ないようだ。小笠原先生と言えばエロ……じゃなくて能力は戻して貰えたのだろうか。ある意味無敵の力だったし。

 それにしても最近はデフォになった一斉出現だが、この人数だとさすがに壮観だ。

 今回はそれに備え、ハガイが長椅子を事前に用意してあり、座る場所は確保してある。


「さて、部田。此度はよくやってくれた。ハガイから聞かされただろうが、緊急事態は回避されたとみてよい。古代でテコ入れしたのだから後世にて世界線の分岐があったとしても、此度のような現代人を変身変異させることはないだろうし、世界線の変更を故意に発動されることもなかろう。……だが、白神麗と知床ゆかの想念の奥底には未だ強い負の思念が残存しており、予断を許さない状況である。放置すればセクメトやヘーラーの能力は使えずとも我々が思いもよらぬ力でこの世の理を捻じ曲げてしまう可能性すらある」

「……やっぱりそうなんですか」

 オレは落胆を禁じ得ない。あれだけ身を削って、ケツを散々叩かれて努力したのにな。

「部田、落ち込むこともない。貴様の功績は大きい。ドスケベが逆効果をもたらした場面もあったが、終わってみれば時空震を起こされる不安要素を完全に消したのだから胸を張れ。それと、今後悪いことが起きると決定したわけではない。あくまでも可能性と言っておる」

 さやか先生が一人立ち上がった。さすが教壇で慣れているとはいえ、政治家の街頭演説並みにビシッと決まっている。こんな時に不謹慎だが。

「ところで部田、エジプトとローマの経験を貴様はどう感じた?」

 オレの前に立ち、いつになく真剣な眼差しのさやか先生。ふざけた返しは絶対に出来んな。

「え、ええ、そうですね……両方とも男の側が酷いと思いました」

「どういった点で?」

 さらにオレへ顔を近づけ問い詰めるさやか先生。良い匂いがする。

「浮気の度が過ぎて何人も女を囲っているものだから、奥さんのヘーラーとセクメトは悲しんでいました」

「ほ~う。なんで浮気ばかりしていたんだと貴様は思う?」

「二人の奥さんは根っこの部分では夫を愛する貞淑な人と感じましたので、ただ単に夫がスケベなだけなのだと思います」

「うむ、わかっておるではないか。では今の白神と知床の問題はどうしたら良いと貴様は考える?」

「え!? ん~と、麗と知床はまだ高校生で浮気性の夫もいないわけだし、全く別のアプローチをしないといけないのでしょうけど…………すいません、わかりません」

「本当にわからないのか!?」

 今度は一歩二歩と後ずさりするさやか先生。そんな引かれるようなことは言っていませんけど……

「部田、貴様は阿呆だ、阿呆!」

「ええ!? 何でですか、先生!?」

「……説明するのも馬鹿臭いのう、こんなヤツに」

 さやか先生は頭をボリボリ掻きだした。顔も険しい。

「……あのう?」

「やはり、やめておく。貴様は自分の本質と行動を客観的に分析できておらぬからそんな能天気なボケをかますのだ。よって指示だけする。天界では本件を最重要案件の一つと認定した。これにより問題解決のためにかなり多くの禁じ手が許可されたのだ。貴様のエジプトとローマ行きもその一環である。そして……ここからだ部田!」

 一層凄みの増した顔でためを作った物言いでオレに迫るさやか先生。

「は、はい」

「ハガイから聞いておるな? この戻った先の世界、すなわち今だが、少し変化が生じた。先に申した通りだが、ヘーラーとセクメトは落ち着きを取り戻した人生を送ったことにより、白神と知床の個性も若干の変化がある。これはどの世界線を探しても以前とは異なる人格になってしまっているのでどうしようもない。プ・ラ・ス未来の危機を回避しなくてならない。わかるか?」

「理屈はなんとなく……でも具体的に麗と知床はどう変わっちゃったのですか? それにこれからあの二人とどう接していけばいいんですか?」

「うむ、良い質問だ。まさにそれをこれから説明しようとしていたところだ。白神も知床も今は貴様にほぼ同レベルで同様の情愛を持っておる。そして以前より自分の素直な気持ちをストレートに出す気質になっている。これがそのまま続けばよいが、セクメトとヘーラーのように心の憂いが大きくなるような事態になると……?」

「時空震かもっと想定外の危機が起きるかもしれない」

「そうだ! 正解だ! 珍しい」

「勘弁してください」

「貴様は、今後決して二人の気持ちを傷つけてはならん」

「ええ!? どうやって!?」

 オレは二股が出来る器用さなんてない。

「何だその顔は!? 何度転生してもスケコマシだろうが、ああん!?」

「ひいい~!」

 今回は殴られはしなかったものの、ハンパない睨まれ方だ。そこまでのことをオレはやったんですか?

「貴様に限らず多くの者は出生時に過去世の記憶を抹消される。現世の体験はゼロからスタートが魂にとっては修行になるからのう。だから一定の理解はしてやろう。でもだ! プリンセス達も含め、白神と知床も何故この時間、この場所で共に深く関わっているのか? エジプト・ローマと同じく因縁であり、カルマである! そしてその根本原因は貴様の『ドスケベ』だ! どれだけ女を泣かせれば気が済むのだ、この変態!」

「えええー!!?? ちょ、ちょっと待ってください! プリンセス達がいるのは時空震で大変動が起きて、再区画整備が終わるまで一か所に集めるためですよね?」

「じゃあ訊くが、来世が昆虫のようなゴミカス野郎のオンボロアパートにそんな全時空的イベントを何故やる必要がある!?」

「え!? そ、それは…………ない……かもです」

 さやか先生の言う通り、そもそもあのハガイが初めて来た時点でおかしいのではないかともっと考えるべきだったとは思うよ。

「貴様の現世はこのようにゴミカス・クソブタだが、過去世においては地位や名誉もあり異能力にも長けていた。しかしその状況におごり高ぶり、無差別に女と交わるわ、世界が気に入らないと時空震を起こすわで完全に転落し、地獄に真っ逆さまであるところを女達が救いの手を差し伸べて今世も生きていられるのだぞ? わかるか?」

「……う~んと……よくわかりません!」

「ど阿呆ーー!!」

「びす!!」

 さやか先生は敢えて一歩下がったところからオレの顔面に前蹴りを見舞った。本当に一瞬、星がいくつも見えた。

「とにかく……セクメトとヘーラーではなく、白神・知床、彼女たちの心を満たさねばならぬ。もしそれが達成されれば世界線が違っても各々魂の経験となり融合されるのでこの危機は完全回避されよう。わかるか?」

「はあ。でも一体どうすれば……」

「既に貴様は双方と恋人関係になった世界線を経験済みではないか?」

「……わかりました。やってみます」

「……どうやって?」

「え?」

「どうやって二人の女を平等に愛してやれるのかと聞いておるのだ」

さやか先生のトーンが下がった一方、威圧感が増幅された。

「いえ、だって、そうしろと言ったのはさやか先生ですよね?」

「貴様……担任に盾突く気満々だな」

 また、『反社』的威嚇が来ましたよ。

「え、え、ちょっと待って下さい。でもやるしかないんでしょ?」

「良いか! 失敗したらどうなるかは先ほど確認したな? では貴様はどのような戦略を持って事に当たるのだ!? まさか無策とは絶対に言わせんからな。さあ申してみよ!」

「ええっと……」

「うむ」

「そうですね、それは……」

「うん?」

「あ~、何というか」

「ほう?」

「つまり……」

「つまり?」

「わかりません!!!!!!!!」

「クソたわけが!!」

「はぼ!」

 オレはかかと落としを食らった。これは一瞬にして片足を頭上まで高く上げ、直後に相手の脳天に自分の踵を打ち下ろす恐ろしい技である。高い技術が求められるがあっさり繰り出すさやか先生の格闘センスには脱帽である。

「相分かった! この場は一時凍結とする! 我らは他に緊急の案件があるため、そちらに急行する」

 さやか先生にはまだ抱えている事案があるらしい。大変だな。

「部田、オレには関係ないっていうツラだな? とんでもないぞ」

「え?」

「貴様が渡り歩いた世界線で『天魔騒乱』の状態になっている世界があったであろう?」

 天魔騒乱……

 あー、オレがこの世界に戻ってくる直前に居た世界線。最も今とかけ離れた状況になっていた。5界ではなくて天界と魔界の二つだけに分かれており、(獣人界だけはあり、中立だった)その分かれたグループ同士で同盟を組んで、二つの勢力で争いを続けているという当時のオレにとっては非常に悲しい世界だった。

「あちらがかなり面倒なことになっておってのう。放置できない事態になっておる。貴様がローマに居た時にあまり支援できなかったのもこれのせいだ」

「え? そうだったんですか」

「そうだ。アレもな、貴様があの天魔騒乱に関わったことが背景としてあるのだぞ。元々あそこはもっとぼんやりしていて存在自体があいまいな世界だった。貴様が現れたことにより創出されたと言っても良い。換言すると貴様が作った世界。だから責任を取れ」

「ええ!? 何すかそりゃあ!? オレに天魔騒乱を収めるなんて無理っすよ!」

「うむ。確かに貴様は無能。無能オブ無能。無能チャンピオン。しかし此度は貴様が必要となった」

「先生、ちょっと無能って何度も言い過ぎです」

「貴様が立ち寄った天魔騒乱の時から状況は変化しておる。今は魔界、とりわけ魔王サタンとプリンスであるアモン、及びプリンセスエキドナの親子対立が軸となっておる」

 無能と呼ばれた件は無視された。慣れているけど。そんでもって今の天魔騒乱は魔界内の親子喧嘩が他の戦線に影響してるってことかな?

「仲介だ」

 今度はそっぽを向いてぼそりと呟いたさやか先生。そしてその言葉の意味は?

「は?」

「仲立ち」

「何と何のですか?」

「魔王と子供二人」

「……はあ」

「貴様がやれ。ご指名だ」

「は!? いや、ちょっと待って下さい! そんなことオレなんかに出来るわけないですよ。無理です」

「向こうのアモンとエキドナからの依頼だ。断れば魔界内で全面戦争となり、ひいては5界、この世界も巻き込まれることとなり、ありとあらゆる世界は闇に包まれるであろうな。あ~困った。部田が全時空を壊滅させてしまうとは思いもよらなかった」

「なんすかソレ!?」

「そんなに目ん玉ひん剥いてもやらんのであろう? じゃあやっぱり壊滅だ、全滅だ、滅亡だ」

「やめてくださいよ!」

「じゃあ、やるか?」

「出来るかわかりませんけど……」

「むこうのプリンセス達とこっちのプリンセス達とは記憶や意識も同調させておるからその点は安心しろ。きっと貴様をサポートしてくれるだろう。無論、私もだ。じゃあ、頼んだぞ。おい、ハガイ! 部田をジャンプさせるぞ」

「え、またすぐ? 腹減ったからメシくらい食べさせてもらえ――――」

 オレのささやかな希望は発言途中でぶった切られた。

第三部執筆中です。暫くお待ちください。

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