下級クエスト無双
9話
「それにしてもクラフト」
「何だ?」
「このゲームがR15指定されてる理由がよく分かったぜ」
「えーっと……」
話が唐突すぎて、クラフトは分かっていない様子だ。
「女性アバターの見た目よ。副長といい、その辺
歩いている人といい、中々刺激的な見た目をして
やがるのな」
「ああ、そう言うことか。でもその割にアレウスは
普通に話せていたよね」
「ビキニは女性ビルダーで見慣れているからな。
それに副長に関しては剣ばっかり目が行って、
最初ビキニであることすら気づかなかったぜ」
「至極アレウスらしい理由だよ…………」
アレウス……もとい隆二は熱心すぎるボディビルダーで
あるため、女性ビルダーの大会にも脚を運び、時に教え
を乞うことすらあった。その過程で見慣れていたのだろう。
「俺、今まで2次元に惚れるとか意味わかんねぇって
思ってたけど、少しだけ気持ちが理解できたぜ」
「…………ちょっと絶望させるかもしれないけど、
大事な話だから聞いてくれ」
「何だ?」
「…………アバターの性別は必ずしも見た目と
一致しないことがある。要するに、見た目は
美人さんでも、中身はオッサンである可能性が
あるってことだよ」
「………………」
アレウスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔を
してしまった。
「おーいアレウス……あっ…………!!」
アレウスのアバターを構成するポリゴンが
荒ぶり始めた。
「…………もしかして現実とのギャップにやられたのかな?
今は言うべきじゃ無かったか」
~隆二の部屋~
「ヴッ!! げほっ! げほっ!…………拓人の野郎、
悪気ねぇんだろうけど、もう少しで折角の夜飯を
吐きかけたじゃねぇか」
このゲームは異常な脳波を検知すると、自動的に
一時停止される機能が備わっているようだ。
「…………あの人達の中身がオッs…いかんいかん。
想像したら筋肉の材料を無駄にしちまう! 戻ろう!」
今回はどうにか耐えきったが、耐えられなかったら
中々悲惨な結果になっていたことだろう。
~ゲーム内~
「あ、元に戻った。大丈夫か?」
隆二がアレウスに戻ったことで、クラフトは一安心した。
「危うく晩飯をリバースするとこだったぞ。
けどまぁ、あり得なくない話だよな」
「うん、声くらいボイスチェンジャーでどれだけでも
変えられるしね。例えば副長とか、話し方的に、中身は
30代位のオッs…」
「待て待て! それ以上言ったら本当に吐いt…」
「おい!」
背後から声が聞こえたかと思いきや、痛快な音と
共にクラフトが一歩前進した。
「ちょっ、副長。何するんですか!?」
どうやら背中を全力で叩かれたようだ。
「何をするはこちらのセリフだ! 私の中身が
男等とありもしない嘘を吹きおって!」
副長がそこそこ怒りながら、ありもしない話に
ついて指摘している。
「…………だからって公衆の面前で性別を公開するのは
どうかと思うが…………」
「そうですよ。身元バレしたら大変ですよ」
「お前は言うな!」
「すいません」
事の発端はクラフトであるため、大人しく引き下がった。
「で、俺にクエストを課した張本人のあなたが
何故尾行しているんです?」
アレウスからすれば、精神的な衛生を除けば副長の
中身が男だろうとどうでもいいので、本題に入った。
「監視だよ。お前が誰かを脅して不正にクリア
しないかを見るためのね」
「なる程。ってことは邪魔をする訳じゃ無いんですね」
「そうだ。だからさっさとクエストを受注してこい」
そしてアレウスは僅か10分で最低ランクの
F級クエストを5つクリアした。
「まさか手持ちアイテムを納品するだけで
昇級クエストのノルマを達成するとはな」
「ははは、あれだけモンスターを倒せば集まっても
不思議じゃないよ」
「その昇級クエストは仮にもアーマーオークの討伐だ。
初心者には辛いが、これくらい軽くこなしてもらうぞ」
「当然だ。フィールドに移りましょう」
~山岳地帯~
「2人とも遅いz……ッスよ」
副長も居たことを思い出し、敬語に訂正した。
「いやいや、お前流石に速すぎだろ…………
見かけによらず、敏捷極振り型か?」
「俺はリアルフィジクスモードで遊んでいるんです。
つまりリアルの俺自身の身体能力って事です」
「……うん? 普段何のスポーツやっているか知らんが、
期待して良いってことだな?」
「それはご自由に。じゃ、見てて下さい」
相変わらずのロケットスタートで、50m離れた
アーマーオークへ突進していく。
「食らえ! インパクトドリルストライク!!」
アーマーオークとの距離が残り5mまで縮んだ所で跳躍。
そのままきりもみ回転を始め、特技パワー・インパクトを
乗せたドリルキックを鎧にお見舞いした。
「…………アーマーオークの鎧に攻撃して瞬殺する
ノービスとか初めて見たぞ」
「俺もです」
観戦していた2人はその規格外ぶりに驚きを通して
呆れている。
「うっし、クエスト完了!」
「…………折角そこまで強いんだ。格闘家にでも
なってみたらどうだ?」
「あー、転職の事ですよね。それじゃあやってみますか」
クエスト完了報告後、格闘家ギルドで転職した。
「…………何が変わったかはさっぱりだな」
「まぁ、転職ってそう言うものだよ」
「うんうん」
2人共にそう言われたら、納得するしかない。
ここからのE級クエストはダイジェストで見ていこう。
~ジャングルにて~
「オラァ!」
踵を垂直に当てる蹴り上げにより、オークの
上位個体・スーパーオークの顎を粉砕した。
~更に奥地~
「フンッ!」
衝撃属性を持つ技の発勁を発動し、岩盤に大きな
ヒビを入れた。
「上々!」
後は殴って破砕する事で、中身の鉱石を獲得した。
~海岸地帯~
「オラオラオラオラオラァ!」
あまりにも機敏なアレウスに翻弄され、カニ型の
モンスターは鋏や脚を全てもぎ取られた。
「止めっ!」
更にキレの増した前宙踵落としで止めを刺した。
「いや、最初からそれで良くね?」
蟹の甲羅が割れたため、副長が思わず突っ込んだ。
~高山地帯~
「石の力を舐めるなよっ!」
プロ野球選手の倍は速い投石で、人喰いコンドルを
撃ち落とした。
「第四次世界対戦の武器候補だしねぇ~」
クラフトが感慨深げに呟いた。
~沼地地帯~
「釣ったどーー!!」
巨大ウナギモンスターを釣った。
~洞窟~
「ウオッ!…………ヘヘッ、俺に力で敵うと……」
舌を巻き付けてきたホワイトギガフロッグを引っ張り
「思うなよっ!!」
高速で振り回して、地面に叩きつけて倒した。
~ギルド~
「よし、後1つクリアしてから昇格して、
何かのD級クエストを受けるだけだな」
「正直ここまでやるとは思わなかった。
というか私より既に強いな…………」
「どうやらリアルフィジクスモードのプレイヤーは、
jobの強さで実力を測れないようですね」
「ま、そんな戦力が入るなら、あんたらにとっても
悪い話じゃないでしょ」
「そうだな」
「さぁて、次のクエストは…………ん?」
よくよく見ると、高難度クエストが張られていた。
・【高難度】急募! ドラゴンを倒せ
邪臭の洞窟にて、最下級のドラゴンが目を覚ました。
このクエストをクリアした者は、C級にクラスアップ
する。
「これ、受けます」
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