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歪んだ殺気と判断

人は時に、理解不能な思考判断を行う。

86話


「じゃ、行ってきまーす!」


 隆二は両親に挨拶を終え、自転車を走らせた。


「さてと」

『ガチャ!』


 インターホンを鳴らそうとすると、美優が思い切り

ドアを開けた。


「あっ! 金子君おはよっ!」

「おう、おはよう。早速学校でテスト勉強しようぜ」

「うん!」


 美優は隆二と過ごせることが嬉しいらしく、屈託の

ない笑みで、とても快活な返事をした。しかし、この時

隆二は危険な気配を感じ取っていた。


(どっかから殺気をビンビン感じるぜ。俺というよりは

的場さんにな)


 殺気に注意しつつ、自転車を走らせ始めた。


「クソッ! あんのゴリラが邪魔して攻撃できねぇっ!!」

「いやいや、ナイフ投げてゴリラごと倒せただろ」

「何で制止させたん?」

「2人とも忘れたのか? セキドがあたしらに暴行を

加えながら「あの筋肉ゴリラ、あの暗闇で俺様のナイフ

投げを全て見切ったんだぞ! あり得ねぇ!!」って

言っていたことをさ」


 それを聞いた富礼夜と女阿里-は


「そりゃあ2人をバラけさせねぇとダメだな」

「てかそもそも、あのゴリラは何なんだよ………………

…………」


 そしてテストが始まり…………


『スー、フゥーー……、スー、フゥーー……』

(どんなときでも呼吸を意識、筋肉のミトコンドリア

からATPを生産し続け、筋肉細胞にある(と推定

している)ATP貯蔵部屋に貯蓄!)


 隆二は生物のテストをすらすらと回答しながら、

呼吸を意識していた。


((((うるせーーーーー!!!!!))))


 当然周りからは迷惑がられた。


(ここはシンプルな因数分解をして、バラけた数を

計算して、問題式みたいな形に直したら………………

出来た! これはいける!!)


 美優は苦手だったはずの数学のテストで手応えを

感じたようだ。


(あー、張り合いねぇなぁ…………テストって落書き

とかできねぇから、新しい公式とかも書けねぇし

なぁ…………)


 皆の頭痛メーカーな物理学のテストだが、

拓人からすれば当たり前の基礎を書かされて

いるだけに過ぎず、非常に退屈そうだ。


(いける! 後は道先君次第だけど、満点を

取れそうだよ!)


 化学のテストを行っていたのだが、デキスギこと

法二は満点の手応えを感じていた。


(中性子星内部の超極限状態において、陽子や中性子

といった原子は更に細かい単位のクォークという

素粒子に別れる…………。更にクォークが高エネルギー

の障壁を乗り越えることにより、ストレンジ物質へと

なって…………)


 しかし、同じ100点でも2人の知力にはまだまだ

差があるようだ。


 昼が過ぎ、英語のテストが2連続(英語科目は3種類

存在する)あり、今日の1日が終わった。


「2人ともテストどうだった-?」


 美優が隆二と拓人に聞いてきた。


「大方出来たな」

「暇すぎてしょうがなかったよ」

「あ-…………道先君に聞いたのは失敗だったなあ」


 拓人が全国一位の頭脳持ちであることを忘れており、

軽く後悔した。


「さっさと気づけ」


 拓人も美優のその様子に呆れながら毒づいた。


「えへへ、ついうっかり…………ね」

「そういう的場さんはどうだったんだ」


 隆二が聞いた。


「過去最高点は間違いなしだよ! どれもこれもあれも

2人が見てくれたお陰だよ!」


 余程手応えがあったのが嬉しかったらしく、小学生並

にとび跳ねながら喜んでいる。


(これはこれで良いことだが、相変わらず殺気を感じる

ぜ…………)


 そして隆二は行動に出た。


「あっと、筆箱忘れちまったから取りに行くわ!

後ついでに小便してくる!」


 "敢えて"手間がかかりそうな方便を言い、一般人の

ランニングのペースで校舎へと戻る。


「待ってるぞ」

「早く戻ってきてねー!(いっしょに居たいから-!)」


 2人はそれぞれ声かけして、その場で待つことに

した。そして隆二の姿が大分、小さくなった時だった。


「死ね!!」


 汚い言葉と共にナイフが飛んできた。


『ギン!』


 しかし、何かに弾かれ、次の瞬間には凹んだ状態で

壁際に落ちている様が確認できた。


「なっ、何!?」


 美優は突然の事に、動揺以外のアクションを

取れなくなった。


「それよりも、お前達の持っているそれは何だ?

まさか刀やナイフなのか? 銃刀法違反だぞ」


 「それよりも、」の区切りのタイミングで、

拓人はこっそりスマホの録音機能を作動させた。


「知ってるわ、だからさぁ」

「証拠隠滅すりゃ良いんだよっ!!」


 富礼夜がわめき、絶世美女が数年間以上、練習

しているとしか思えないフォームでナイフを投げた。


「嫌っ!」

(避け……)


 美優も拓人も避けられそうにない。


「させねーよ!」


 と、そこにやってきたのは金子隆二。当然ナイフを

人差し指と中指の間に挟んで止めたのだが、右腕の

関節が全て外れていた。


「「「うぎゃああっ!! 化け物!!」」」


 隆二の"特技"を知らないヤンキー達は、同時に

(きょう)(がく)した。


「そういやお前らには初披露だったな。さて、俺が

来たからには、2人を殺すなんて不可能だぜ」


右腕を元に戻しつつ、ヤンキー達を威圧した。


「ふん、いくら獣だろうとあたしらには武器がある!」

「強者の数で言えば3体1! 負けっかよ!!」

「今からお前を狩猟してやるぜ!!」


 女阿里-が勢い良く飛び出し、金属バットを

横なぎにスイングしてきた。


「よぉっと!」


1月前、SAFでレオナルドにかけられて、先週

ヤンキーにかけた、弧を描く攻撃の軌道に合わせて

掬い上げるように力を加えて攻撃者を転倒させる

技を、頭突きで繰り出した。


「ッワアッ!! ゴフッ!!?」


 女阿里-はバランスを崩して頭から転倒し、瞬く間

に気絶した。


「頭に当てたん…………だよな??」

「何にせよぶっ殺す!!」


 絶世美女がナイフ二刀流でラッシュを仕掛けてきた。


「オラオラオラァ!!」


「金子君っ!?」

「り、隆二!!?」


 絶世美女のラッシュは中々凄まじく、美優は隆二が

殺されたと思ってショックを受けた。


 しかし拓人は、いくら早くて速い連続攻撃とはいえ、

隆二なら容易く回避できるため、彼が"動かない"選択

を行ったことに驚いた。


「お前さー、さっきから何やってんの?」

「あ? っええ!?」


 いつのまにやら握っていたナイフが失せており、

かわりに隆二の両手がナイフの柄をつまんでいた。


「あぶねーからポイっとな」


 そして壁際まで投げ飛ばす。


「っっっ!!」


 絶世美女はたまらず後退した。理由は、隆二が

誰にも目視不可能な速度で腕を振るえるからだ。


「じゃあ残酷に屍をさらしてやる!!」


 とうとう日本刀を構えた富礼夜が駆け出してきた。

(ちゅう)(ちょ)している様子は()(じん)もない。


「ひっ!」

「…………」


 臆病な美優が怯んだのは言わずもがな、拓人も

冷や汗を流した。しかし、ターゲットの隆二は、

少しも驚いている様子がない。


「構えが甘すぎだぜっ!」


 彼がそう言った次の瞬間、両者の間合いが重なる

寸前に、日本刀が真っ二つに砕けたのだ。


「は??」


 原因が分からない富礼夜は、当然間抜け面で

棒立ちになる。そして原因は


「膝関節外して、後ろ回し蹴りを刀の柄に当てて

やったぜ。ほら、刀って横からの力で簡単に折れる

からさ、その性質を利用してやったわけだよ」


 金子隆二の、膝関節が外れた脚による、回し蹴り

だったのだ。


「「「「…………何それ???」」」」


 しかし、(こう)唐無稽(とうむけい)すぎる隆二の発言に、

ヤンキー達も彼の友人達も疑問詞しか

浮かばなかった。


「一先ず今の出来事を裁判にかけてやるぜ。拓人と

美優は勿論の事、そこのカップル達! 見てたなら

証言だけでも頼む!」


 そうは言ったが、2人は逃げ出した。


「頼むから!」

「うぎゃあっ!!?」

「はうっ…………」


 隆二が追いかけた上、彼氏の肩に関節を外した

腕を置いたため、2人に驚かれて彼女に至っては

気絶してしまった。


「わ、悪い。これは俺の特技だから気にしないで

くれ。裁判に勝った暁には賠償金の一部をやる

からさ。な?」

「はぁ、分かった。ゴム筋肉達磨から逃げれる

わけないしな。おーきーて」


 彼氏は観念したのか、彼女を起こした。

そして拓人達も


「そこの1年達、証言してくれたら先輩が

家庭教師のバイトをタダでやってあげるよー!」

「宇海! ちょっと証言してよー!」


 それぞれ赤の他人や幼馴染みに証言の手伝いを

頼んだ。

 しかし…………


「裁判だってさ」

「良いねぇ~」


 ヤンキー女2人は悪そうな顔でニヤついていた。


 そして様々な証言がなされていき…………


「なるほどなるほど分かりました…………」


 校長は真面目な表情で証言を飲み込み、方針を

決めた。


「彼女達三名は()罪放免(ざいほうめん)にしましょう」


 その場の大多数にとって、衝撃の発言が放たれた

のだ。

ブクマ、評価、感想、レビューが励みになっています。

寒さと共に、クリスマスが迫ってきてますね!

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