冒険者になったリフターDK
6話
「おい……!」
足元から声が聞こえたので、視線を移す。
「ったくまだ俺を雑魚呼ばわりしたいのか?」
この非常識ユーザーには本当にウンザリしている。
後、他もうるさかったから、躾るぞとか言っていた
ことを今の今まで忘れていた。
「お前…………今はやっていけるかもしれねぇが、
いつか挫折を味わい再起不能になるぞ!」
「挫折? 愚問だな。論理的に考え抜いて、
克服するまでだ」
挫折は筋肥大や筋力upの停滞期で何度も
経験済みだ。
「論理的だぁ!? リアルフィジクスモードを
選ぶ低能が何をほざいている! お前みたいな
脳筋思考の馬鹿ゴリライノシシは
くぁwせdrftgyふじこlp……」
「…………分かったよ。最後に天空の旅へと
送ってやるから、もう話しかけないでな」
「ああ!? 俺のはn…うわあっ!?」
突然空中へとぶん投げられ、動揺する。
「高く!」
隆二の助走からの幅跳び天空蹴り? で、
更に高く飛ぶ。当然HPゲージは既に真っ黒だ。
「ぶつかるっ!」
「心配無用!」
非常識ユーザーが木にぶつかる寸前に、
垂直かけ上がりで7m登ってきた隆二に
蹴り飛ばされる。
「高い! 怖い!」
10mで制止し、落ち……
「まだまだこれからぁ!」
始める前に、更に蹴り飛ばされる。この
一連の動作を3回は繰り返された。
「もう…………いや…………」
マイナーなモードを選んだだけの人物を
虐め抜いた男の現在は、最早嬉々として
虐げていた頃の面影1つ無い。
「とう! とう! ラストアーップ!」
10mまでは大木をかけ上がり、やや減速した
タイミングで木々の壁キックに移行して、15m
地点の非常識ユーザーを20mまで蹴りあげ、
しがらみを完全に断ち切った。
「うし! 今度こそギルドに申請だぜ」
後ろで「せめて受けとめろー!」とか聞こえた
が、もう既に他人同士なので完全無視!
流石にこれ以上襲撃してくる者は居らず、
というか現場を見ていたプレイヤーは
恐れおののいており、スムーズにギルドの
前まで来ることが出来た。
「お邪魔しまーす!」
周囲の雰囲気を楽しみながら、真っ直ぐ
受付へ向かった。
「冒険者ギルドへようこそ。ギルドへお越しに
なるのは始めてですか?」
「はい。冒険者登録をすべく来ました~」
「ではお名前を教えてください」
(お、ここでユーザー名を決めるのか。本名は
犯罪に巻き込まれたくねぇから無しとして……)
パッと浮かんだのは、闘いの神と、俊足の男。
「(アレスとアキレウスを混ぜて…………)アレウスです」
「アレウスさんで間違いありませんね」
「はい」
「ではこれにて冒険者登録を終了します。
セーブは宿屋かギルドで行うことが出来ます。
アレウス様が魔王討伐することを祈っています」
「お任せください!」
無事登録できたので、ギルドにあると思われる
セーブポイントを探した。
「これか。時間的にも……7時3分。ベンチプレスの
練習をしようか」
セーブをし、ゲームを終了しますを選ぶと、
映像が暗くなり、ヘルメットの隙間から光が
見えた。
「お、現実に戻ってきたか」
今の今まで自分でもしたことがないレベルの
強度で運動していたのが嘘みたいに筋肉の疲労が
少ない。そそくさとBCAAだけ接種して、
早速ベンチプレスの用意に取り掛かる。
「さてと、先ずはバーから始めてと……」
隆二の現在のベンチプレスの最大重量は230kg
だ。この時代の高校生ノーギア(特殊なシャツを着用
しない)日本記録は、250kgである。
「……うし、温まってきたな。ひとまず日本記録を
突破しねぇとな」
次はいきなり100kgに調整した。
「フッ! フッ! 軽い軽い。速くしても
遅くしても問題なし。コントロール出来て
いるな。次!」
軽々とラックに引っ掻け、170kgに
セットした。
「フッッ!……ゥゥウウ……フッッ! ……ゥゥウウ」
先程より加速度は小さかったが、まだまだ
容易く挙げられる感じだった。
「パワーリフティングフォームは久々だったから、
やっぱ感覚が鈍ってるかもな…………。よし、
取り敢えず230kgを挙げれるかだな」
バーベルをセットし…………
「………………」
ゆっくりと下ろしていき…………
「…………はあああ"あ"あ"ッッッ!!!」
3秒程かけて、どうにかラックアップを
成功させた。
「…………ふぅ、何とか挙げれたな。ボディビルの
減量と今日の体育のカタボリックがあったにも
関わらず、挙げれたのはこの上なく良かったぜ!」
汗を軽く拭き、スポーツドリンクを補給する。
「次は…………」
あろうことか、バーベルの重量を250kgに
増やした。
「勝てない重さに抵抗し、最大筋力以上の力を出す!」
それから五分置きに、隆二の筋トレルームから
獣の鳴き声のような叫びが聞こえた。
「よし!有意義な時間だった。今は……」
時計は7時35分を示していた。
「あらかじめ作っておいたディナーをチンして食うか!」
減量が終わり、多少はセーブしつつも好きなものを
沢山食べれる幸せを噛み締めた。
「ご馳走さまでした! 自分の皿洗うから、今日は
2階に来ないでね」
VRゲームに打ち込むため、両親に来ないように
お願いした。
~自室~
「さてと、ログインするかな?」
スーツを着用し、ヘルメットをかぶった瞬間、
拓人から無料通話がかかってきた。
「拓人。俺は準備万端だぜ!」
「隆二、SAFは慣れたか?」
「慣れたは慣れたが、他のユーザーにマナーの
悪いのが多くてなんか残念だったんだよなぁ」
「マナーの悪い奴? ちょっと聞かせてくれるか?」
「勿論だ。ソイツはなぁ…………」
非常識ユーザーの事を赤裸々に語った。
「…………なる程、リアルフィジクスモードの軋轢に
ついて言い忘れていたよ。要らん心労かけちまったな」
「なんか糞雑魚は辞めろとか非人道的な事を
偉そうにのたまっていたけどよぉ……そんなに
このモードって悪いのか? 俺的には使用感
最高だったぞ」
「…………もしかすると、隆二なら最高に
適正があるのかもしれないな」
「俺に…………適正?」
「だって、隆二って圧倒的な筋肉量だけじゃなくて、
パワーも限りなく獣並みじゃん?」
「おいおい、俺で獣なら俺以上の偉人たちは
何になるんだ?」
隆二的にはパワーリフティング等の
世界チャンピオンをリスペクトして
いるので、親友の拓人の発言でも
すんなりと許せないのだ。
「神獣? 彼らはひとまず置いといて、
そんな隆二でも他のスポーツだと瞬発系で
あっても、その道を極めようとしている人達
には勝てないでしょ」
「…………確かにな、50m走も陸上部エースや
野球部の盗塁王には勝ったこと無いなぁ。
せめてリアルフィジクスモードの時並に
加速できりゃあ…………あっ!」
遂に自分のポテンシャルに気づいたようだ。
「そう、怪我のリスクがないリアル
フィジクスモードなら、隆二の身体
ポテンシャルを限界突破して発揮
できるんだ」
「なる程…………とはいえ、今は無双出来てるけど、
流石に魔王まで倒せるとは思えねぇぞ」
「フッフッフ、そこは俺に任せたまえ。隆二は
現実でひたすら筋トレし、VRでは運動神経を
鍛えれば良いのだよ」
「まぁ、力さえ伸びりゃあ加速力も伸びるよな。
うん、ニュートンの第2法則様様だな!」
力が物体の質量と加速度の掛け算で算出できる
と言うことは、加速度は力を質量で割ることで
求めれる。筋トレすれば速くなると言うことだ。
「まぁ、今は俺にその身体能力を見せてほしいな」
「おう、ビックリするほど動きまくってやるぜ!」
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