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ヒートアップ

長期放置してしまって申し訳ありません

でした。明日も更新します。

306話


(あづ)い~~……………………!」


 後部座席の美優が、前部で自転車を漕ぐ隆二に、

全体重を預けながら、暑さに苦しんでいる。


「だったら身体伸ばして、隙間を空けろぉ~」


 常人なら熱射病レベルの体温になっている隆二は、

これまた常人なら脱水症状になりかねない量の汗を

流しながら、へばりつく美優の姿勢を起こすように

声をかけた。


「背筋ピーン…………おおー、風が流れ込む~~」


「な、風を感じるだけでも涼しいもんだぜ。うーし、

そろそろ停車だぜー!」


「イエーイ! ドリフト~!」


 校門を通りすぎた隆二達は、遠心力を活かした

ドリフトを行い、弧の字を描いて駐輪場に停車した。


「でも、何で風を受けたら涼しくなるのかなー?」


「確か…………風が皮膚に当たることで、体温が奪われる

からだ。って拓人が言ってたぜ」


 隆二は半年程前の何気ない会話を思い出し、答えた。


「そっかー。でも真夏だとそれでも熱いよねー」


「そうだな、人間の体温は大体36~37℃位だが、

真夏だと気温がそれくらいになるし、ほぼ体温な風が

当たった所で、冷えようがねえってことかもな~~」


 当然だが、温度が同じ物体同士で熱移動は起きない

ということである。


「氷風呂に凍った肉を入れて、解凍しようとするよう

な状態?」


「やろうとしてることが逆じゃねーか。言いてぇ事は

分かるけどよ」


 隆二は軽く呆れながらも、美優の主張に寄り添った。


(ここ数ヵ月、色々とあったけど…………なーんか隆二

との距離の縮まりが実感できないのよね~~?)


 一方、美優は隆二との距離間について、停滞を

感じていた。


(よーし、ここは思いきってっ)

『ギュッ!』


 そこで、前触れなく彼の手を握って反応を見ること

にしたようだ。


「ん、どーした? 手の甲は筋肉少ねーぞ?」


「し、知ってるもん!」


 しかし、無情なことに、自身のイメージが筋トレ

女子に過ぎないということが、確認できただけであった。


「だが、マッサージしてくれるなら歓迎だぜ」


「…………したげるー」


「サンキュと言いたい所だった、…………が」


 怪訝そうな表情の、隆二の目線の先には、物理学の

担当教師がこちらを睨み付けている姿があった。


「お前達、ここは神聖なる学びの場所だぞ。みだりに

男女が接近し、浮わついた心で手を取り合うなぞ、

言語道断だ!」


 案の定、2人に食いつき、説教を開始した。


「隆二君の手をマッサージしているだけでーす!」


「下の名前じゃなくて、上の名前で呼びなさい!

不要な馴れ合いは慎め!」


(俺が知るだけでも、4ペアが情事に励んでいる並月()

高校()を、よく神聖なる学びの場所とか言えたな…………)


 事実だが、正当性が弱い言い訳に、物理教師が話を

すり替えてイチャモンをつける傍ら、隆二は光輝の顔

と共に、一抹の疑問を浮かべていた。


「どうして話をすり替えたのですか?」

「口答えするな!」


「まあまあ、不仲で連携を取れないよりも、友好的な

方が良くないですか? 実際、的場さんは俺やたk…道先

君と勉強することで、物理力が大幅に上がっています

よ。先生だって、テストの点数経由でそれは分かって

いますよね?」


 質問すら封じようとする物理教師に、美優と共に

怒りたい気持ちがあった隆二だが、グッと堪えて1度

は穏便に済ませようとした。


「赤点手前が、倍以上の点数を取れるようになった

からって、調子に乗るなよ?」


「乗っていません! 苦手な物理を克服する為に、彼ら

にky…」

「だから口答えするなって言っているだろうがっ!!

いい加減にs…」

「うるせぇな! いい加減にするのも、あんただろうが

ゴルァ」


 それでも、矢鱈と美優を攻撃してきた為、隆二は

(やから)を相手にする時並みの威圧で黙らせた。


「ヒイッ!? っなっ! おっ、おまえこそっ! 道先と

池中に並んで100点取れているからってっ、調子っ

にっ乗るなよっっ!? 100点取るのが当たり前なん

だからなっっ!!」


 物理教師は、何でもアリだと敗北確定な威容に萎縮

こそしたが、それでも隆二にすら高圧的な態度をとり、

そそくさと逃げるように校内に戻っていった。


「何よアイツ! あんたのせいでやる気が無くなる

のよ!!」


 度が過ぎた罵倒を受けた美優は、汗が吹き出すこと

を省みず、行き場の無い怒りを声に出した。


「ああ、全くその通りだ。前年の武木先生が恋しいぜ」


「武木先生、あまりにもデキが悪い私にも、凄く

分かりやすく教えてくれた」


「テストも考えて作られていて、イヤなテスト期間も

物理の日だけは、矢鱈モチベーションが上がったぜ」


 そう、今の隆二達の学年の物理教師は、教師として

のセンスが全く無いのだ。


「それに対して、アイツ最悪! チョクチョク女の子

付けるし、授業とテストの問題文分かりにくいし、

採点理不尽だし!」


「女子付けるのと関係あるのか知らねーけど、何か

アイツから不穏な気配を感じるんだよなー…………」


 また、行動にも問題があるらしく、それを裏付ける

かのように、隆二は違和感を抱いていた。


「隆二、私の頭撫でて! アイツへの当て付けよ!」


「それで気が晴れるなら良いけどよ、誰かに見られて

も知らね~ぞ~~?」


 そして、謎の怒り解消行動の後、それぞれの部活へ

と向かった。


~グラウンド~


『ピーーー!』

『ドヒュン!!』

「速っ!?」


 野球部の1ベースを素早く駆け抜ける練習にて、

隆二は速度をセーブして、断トツのタイムを出して

いた。


『ピーーー!』

「おおおおおっ!」


 次の集団では、武三が抜きん出た速さで1位を取り、


『『『タタタタタタッ!』』』


 2位~4位が似たようなタイミングで駆け抜け、


「うおおおおおおっっ!」

『ドスドスドスDOSッ!』


 律が僅かに遅れて駆け抜けた。


「律、大分脚力向上が結果に表れてるなぁ!」


 彼の速度向上に、ワークアウトコーチの隆二は、

称賛の声をかけた。


「ゼェ…………ゼェ…………、お陰さまで、この通りだド!」


 律は、全身油マシマシになりながら、自慢げに胸を

張った。そして、


「この調子で、まずは筋トレ女子の美優ッチを抜かす

ド!」


 直近の目標を美優にしていることを明かした。


「そうだなー、美優なら力も速度も男顔負けだし、

筋肉目標としては良いと思うぜ」


 それを聞いた隆二は、好意的な返事をしていた。


(何せ、熊のガキを保護した時に、俺の直ぐ後ろを

マークしていたからな。あの時俺の体臭に文句を

付けたことは、一生根に持ってやるぜ)


 対する武三は、彼女が忘れているであろう出来事

に、思いを馳せていた。


「ほっ」

『ガギャァァァァァアアン!!!』

(((((音エグすぎ(だド))))))


 それからも、隆二は発声と打球音にギャップが

ありすぎるホームランを打ったり、


「いきまーす」

「タンマタンマァ!! やっぱり手のひらが痛すぎる!」


 プロ含めて最速の投球故、キャッチャーの守田が

痛みを理由に制止をかけるのも、無理のない話だった。


『カキーン!!』


「(ん? この高さは、)出番だ! 隆二!!」


 ホームランと長打ヒットスレスレの打球を見て、

2塁守備をしていた武三が、隆二の名を叫んだ。


「おっ、」


 予め動いていた隆二は、ある地点で屈み、ガゼルの

ような跳躍を行った。そして、


K(けー)ーーーい!!」

『バシィ!!』


 高度5m付近の球を、捕ったのだった。


~昼休憩前~


「流石だな。お前がいるだけで、チームの底力が

倍近くはね上がるぜ」


「ははっ、褒められると悪ぃ気がしねーなぁ」


 練習を終え、武三が隆二を称賛していた。例の如く、

隆二は気づいていないが、この称賛は彼のヤル気を

維持するためのパフォーマンスでもある。


「事実だからな。金子、上級生の俺からもお願いだ。

この野球部に、甲子園優勝の栄光を与えてくれ。

その暁には、焼き肉食い放題を奮発するぞ」


「おおーーー! ソイツぁ、成し遂げるしかねぇッス

ねぇ~~~!! けど、あくまでチーム戦なんで、俺

だけに押し付けるとか、勘弁してくださいよー」


 追い討ちで、守田が隆二を肉で釣った。


「愚問だ。この守田、今大会に骨を埋める覚悟で

臨んでいるからな」


「そんで、微生物に分解されて甲子園の土になるん

ですよねー」


「で、お前が持参した瓶に突っ込まれるのか」


「いや、微生物の分解能力エグすぎィ!?」


 その後の武三とのボケ突っ込みを見届け、とある

塾へと向かった。


「待たせたな~」


「精々2分だ。乗った乗った」


 出てきた拓人を後部座席に乗せ、彼のスマホの案内

に従い、とある場所へと到着した。


「これは…………」


「100年前の建築だな…………」


 その場所には、『鳥豚亭』と書かれたのれんが

下がった定食屋が、立っていた。


『ガラガラガラ!』

「ヘィ! ラッシャッッセェーーー!!」


 そして、聞きなれた声のする若者が、出迎えてくれた。

最後までご覧くださりありがとうございます。

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