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月面の良く分からん奴

300話


『『『ゲロゲロリンチョ~、ゲロリンチョ~♪♪』』』


「ぐうう…………」

「近付けば近付く程、HPが削られる…………」


 とある五人組の物理職特化パーティーが、歌う

巨大カエル10匹に進路を阻まれている。どうやら

デスボイスソングによる、音波攻撃を仕掛けてくる

為、近付こうにも近付けないようだ。


「ウラッ!」

『『ゲロン♪』』


 かといって、飛ぶ斬撃を放ったところで、2匹の

カエルの伸び・斬れる舌攻撃により、呆気なく()

消されてしまう。


(まと)まったらデスボイス、バラけたら多数で各個

撃破される…………詰んでね?」


 後2周り大きければ、アレウスに匹敵する巨体を

持つグレートウォリアーが、弱腰な発言をしてしまった。


「あーもぅ、(なっさ)()ぇなぁ!!アタシったら、

どうしてこんな遠距離攻撃に即落ちする程度の、

脳筋パーティーと組んじゃったのかしら! そもそも

あんたら脳筋だったら、それっぽく特攻の1つや

2つ位、やってみなよ!!」


 この様にイラついた女バーサーカーが、カエル達の

デスボイスに匹敵する大声で、愚痴(ぐち)(こぼ)した。


((((…………殴り合い以外、バトルじゃねぇとか

言って、猪突猛進に突っ込んでいくしか脳のねぇ、

お前にだけは言われたくなかった!!))))


 言い返したいが、言い返せない男達は、心の中

で総突っ込みを行った。


((けど、弓とかで結構だから、カエルの死角から

撃てる遠距離攻撃が無いことには、どうしようも

ねぇだろ))


 そして、打つ手がないことを嘆いてると、


「ん? 後ろから何か来t…」

「左右に避けろ!」

「ボサッとすんじゃないわよっ!!」


 後方からの振動を感じ、それと同時に何かに

面食らったカエル達が、前方に向けて最大威力

のデスボイスを発射した。


 脳筋パーティーがかろうじて有効範囲から

逃れたと同時に、彼等の頭上を謎の物体が過った。


「ブーツ!?」

「生足!?」


 ある者達は、それが人体を構成する部位に見え、


「豚!?」


 ある者は、豚を目撃し、


「銀色…………」

「金色…………」


 ある者達は、チラリと見えた髪の毛の色を

強く記憶した。


『『『ゲコォ!!』』』


 彼等が上を過ったとほぼ同時に、カエル達の

断末魔が聞こえた。


「え!?」

「「死んでる!?」」


 これには、一同が騒然(そうぜん)となった。次の瞬間には、

ドロップアイテムが発生するのだが、更に一瞬

過ぎた時、


「…………引き寄せられている」


 磁力でも働いているかのように、アイテムが全て

謎物体の方へと吸い寄せられていったのだ。


「…………お前が見た豚が、吸い込んでるんじゃね?」


 あまりに突然の現象故に、バーサーカー女が

こう思うのも無理はなかった。


~疾走中のアレウス達~


「そういやさっきの行為って、横取りに

なっちまわねーか?」


 アレウスはふと、先程の行動がユーザー間の

暗黙(あんもく)の了解に反しないか、気になった。


「さっきの連中は明らかに死にかけていたし、

何か言われても緊急時の(とっ)()の行動で通るさ」


 クラフトが、簡潔なクレーム対策を教えた。


「そうそう、死にかけを助けてもらったのに、

クレームを入れるような恩知らずなんか、相手に

する価値0だぜ~~」


 アレウスのマントにしがみつく飛び豚に張り付く

トリトンも、常識的に正論を述べた。


「おっ、アンタの主サマ、良いこと言うじゃない!」


 ミューは、肩にとまっているハゲコンドルに

(ほお)ずりしながら、トリトンの発言に共感を示した。


「情けは人のためならず。アレウス君の善行が、

自分自身に返ってくることを祈っているわ」


 イシュタルが、有名なことわざで()めくくった。


「世の中の全てがそうだと、皆幸せなんだろうな~~」

「「ね~」」

「「な~」」


 そして、アレウスの一言に、全員が共感を

示した。それは一重に、今の世の中がそうでない

事の方が、多いことを示している。


「そういやすれ違ったアイツら、俺らを見て面白い

反応を示していたぜ」


「えっ? スゲェ顔芸してたのか??」


 トリトンは、先程の中ボス戦でアレウスの

スピードが、マンガキャラに匹敵することを

知っている為、高速ですれ違う人間の顔程度は

見分けられると思った。


「顔が凄かったのは、口をアングリと開けた

バーサーカーのネーちゃんだったな。面白い

のは聞こえた声だよ」


「相変わらず人外染みた聴覚してるな…………」


 クラフトが、呆れの感想を述べた。


「それぞれ、ブーツ、生足、豚、銀色、金色って

声が聞こえたぜ」


 アレウスが述べた単語の内、豚を聞いたトリトンは、


「飛び豚~~! やっぱりお前の可愛さは図抜けて

いるぜ~~!」

「ぶぅ~~♪」


 トリトンは、大喜びで飛び豚を()で始めた。


「ブーツは、アレウスかミューかな?」

「色は私とトリトン君の髪色かしら?」

「ヒュー! イシュちゃんと俺様はスターカップル

だぜぇ!」


 更に、イシュタルの発言を超絶ポジティブに

解釈し、勝手にカップル成立させた。


「…………俺も銀系の髪色だが?」

「…………オメェはお呼びじゃねぇぜ」

「ぁあ??」


 トリトンが口に出した、罰の悪そうな反論に

対し、クラフトは怒気を込めて威圧した。


「もうっ、2人とも、仲良くするのっ!」


「だってぇ…………クラフトばっかりイシュちゃんの

隣に座っているもん…………」


 (なだ)めるイシュタルに対し、トリトンは飛び豚

よりも豚らしく…………もっと言うなら、()(ぶた)

ような眼差しで、不満を訴えた。


「1度くらいならポジションチェンジしてやらん

こともないが、アレウス的には不都合だろうな」


「何でだよ?」


 クラフトの発言に、トリトンは首をかしげる。


「慣性モーメントって知ってるか?」


「…………何だそりゃ??」


 文系で物理を1つも学んでいないトリトンの首は、

180度回った。


「身体についている物体が、重く、遠方にあるほど

動かしにくくなる物理法則さ。現在、飛び豚とお前

が遠方の物体に該当(がいとう)するんだけど、ヒョロガリの

お前が(よろい)ガチ装備のクラフトに置き換わったら、

俺が動きにくくなることは想像がつくよな?」


「…………あー、棍棒ぶんまわすより、ハンマー

ぶんまわす方が力が要る的な?」


「そんなとこ? だな!」


「プフッ、さてはアンタ、物理を履修していない

わね~~」


「なっ! 文理選択は個人の自由じゃねーか!

お前だって理系科目苦手そうな面してるくせに!」


「なっ! 失礼な男ね!…………失礼と言えば、

アレウス。あのパーティーの発言にあった

生足ってさ…………」


 ミューは怒りと恥ずかしさから顔を赤らめ、

アレウスに問う。


「ああ、十中八九お前だな」


 怒りについては自身の責任外とばかりに、

アレウスは素っ気なく回答した。


「どうして男って、太ももが出ていたら見ずに

いられないのよ! 特にそこの奴とかそこの奴

とかそこの奴とかぁ!!」


 トリトンを(にら)み付けながら、(ののし)った。


「し、知らねぇよ! 先祖からの遺伝子じゃねーの!?」


「こっちは迷惑なのよっ! 私の腰から下を

2度と見るなっ!」


「…………首攣るだろ」


 飛び豚にしがみつく都合上、視線の高さが3人

のお尻に当たるトリトンには、辛い話である。


「だからって、胸見ようと画策(かくさく)するな! 首から下

見るの禁止っ!」


「目も()る…………(顔しか見ちゃダメってなると…………)」


 顔芸で()(れん)さが台無しになっているミューを

見た後、少々心配そうにこちらを見るイシュタル

の、"美しすぎる横顔"が、()りかけの目に映った。


(眼腹(がんぷく)ッッ…………!!)

「見比べるなぁ…………!!」


 完全に格の差を見せられた事で、ミューは

落ち込んだ。


「まぁまぁ、それだけ筋トレでエグい

プロポーションを獲得できたって事だろ。

顔はアバター作成の都合上、創造力で差が

出るけど、肉体は現実のを適応しているの

だし、ガン見してくる奴に自慢しまくりゃ

良いだろ」


「アレウス~~…………現実の顔面偏差値だって、

イシュタルに(かな)いっこ無いこと知ってるでしょ!」


「はは…………彼女はg…マジで別格だからな」

「比べるだけ野暮だよ(アレウス危ねーなぁ!)」


 アレウスが"芸能界"と言いかけた事で、

危うくイシュタルの"現実の正体"がバレそう

になった。


「でも、いくら両親から多くの物を授かっても、

努力が足りなければ、抜群のプロポーションの

ように、簡単に他者との差を付けられてしまうわ」


 イシュタルは、ミューのフォローをしつつ、

自身がまだまだであることを再確認した。


「イシュタルは、才能に(おぼ)れないから、嫉妬しても

嫌いにはなれないのよね~~」


 彼女の見解に、ミューは満更でもない様子だ。


「それに、顔って好みが真っ二つに別れるから、

順位付けしたところで無意味な気もするしな」


「後、デリケートな話題ってのもあって、慎重

に扱わないといけないし、基本話題にしない方

が良いまであるな」


 アレウス・クラフトの親友ペアは、1つ結論

付けた。


「やっぱ、俺は謙虚(けんきょ)(ぜっ)世美女(せいびじょ)なイシュちゃん

最推しだぜ~~…………」


 トリトンは空気を読まず、飛び豚を愛でながら

イシュタルにアピールを続ける。


「フフフ…………、お気持ちは十分すぎる程、

受け取りましたわ」


「コイツの動画、絶対炎上しているわよ。

自業自得、アーカイブで誹謗中傷の嵐に

苦しみなさい!」


 イシュタルも、止まらないアタックに困惑を

見せ、ミューはトリトンのチャンネルが、炎上

している事を確信していた。


「おっ、そろそろ竹林(ちくりん)に跳び移るぜ」


 その後、下から突き上げるカエルの舌を

掻い潜り、中ボスの元へと到達した。


「…………炎上してた」


 セーブ地点で確認したところ、トリトンの

チャンネルは結構な炎上をしていたらしい。


「ホラ見なさい。今時、失礼発言は世に

受けないのよ!」


「それもだけど、初対面のイシュちゃんに

馴れ馴れしすぎた。2人ともゴメンなさい」


 重苦しくならず、かつ謝罪の意思を見せようと、

30度の礼をした。


「…………まぁ、私もかなり子供っぽい反論を

してしまったわ。それについては、トリトン

含めた皆、ゴメンね」


 ミューも、自身の幼稚さを謝罪した。


「でも、トリトン君は決して私達を嫌っている

訳ではないし、中ボス前に仲直り出来たのは

良かったと思うわ」


「そうだな。視線の件も、トリトンからは一欠片

の悪意も感じなかったぜ」


「とりあえず、悪い奴に利用されない程度に、

そういうのを抑えられるようになれば良いさ」


 クラフト自身にも言えたことなので、自身に

言い聞かせる意味合いを込めて、トリトンに

助言をした。


「おう、そうだな。クラフトにも、嫉妬で攻撃的

な態度を取っちまったよ。ゴメン」


「良いって事よ」


「そうそう、クラフトに対しては、(まご)う事なき

悪意があったな!」


「ある程度は仕方なしにしてもな」


「私達は、あくまでアバターよ」


「0と1の集合に嫉妬するのは、不合理…………

だっけ??」


 ミューも皆に合わせて心理を言おうとしたが、

発言内容の理解が足りず、言い(よど)んだ。


「要するに、今見ているのはゲームの映像だから、

ソレに嫉妬するのは野暮って事だよ」

「それそれ!」


(やっぱミューって、理系科目が苦手なんだろう

な…………)


 その為、トリトンのミューへの疑惑は確信に

変わった。


「さーて、霧とスポットライトが出現したぜ~~」


 中ボス登場のギミックが発動し、皆の緊張が

高まり、同時に過去の記憶も呼び起こされる。


『ボコッ!』

「「「!?(どっかで見たことあるぞ!!)」」」


 地中から何かが出現し、過去に見た月面の

影と重なる。しかし、ソレが何の影であるのか、

思い出せない。


「「カエル!」」


 インテリコンビのクラフト、イシュタルは、

自身ありげに回答した。


『正解ゲッコォー! 我が名はトード・グル・

ヌーイユだゲコ』


 半身のみで、縦2m、横と奥行きが4m程の

カエルが、露になった。


「トード…………?」

「グル」

「ヌーイユ?」


 平均的知能の3人は、揃って首を傾げた。


「ヒキガエルに…………グル・ヌーイユ、あっ」

「グルヌイユはフランスのカエル料理。つまり

カエルを妥当に表した名前ね!」


 最早お約束、クラフトとイシュタルの名称解説

が行われた。そして、


「言い換えると」

「ベタね」


 トリトンとミューが、ダメ出しをした後微笑み

合った。


『いつの時代も、ガキは失礼ゲコ』


 所が、カエルは他の幹部と違い、冷静にいなした。


「まるで昔から俺らを見ているような口振りだな」


『その通りゲコ。我の余裕にムカついたなら、

文句は運営に報告ゲコ~。ネタバレの注意換気

も忘れずにゲコ~~』


(要するに、キャラ設定にムカついたら、口コミ

に書けってことか)


(しかも、ネタバレ防止も忘れさせない徹底ぶり、

凄まじいINTの持ち主だと推察出来るわ)


 クラフトはカエルの制作者の意図を汲み取り、

イシュタルに至っては、能力の一端すら推察

せしめた。


「試合の注意も聞いたことだし、やろうぜ」

『OK、覚悟するゲコォ…………』


 3秒間、なにもない時間が過ぎていった。


「クラフトガードだ!」

「分かってる!!」

『シュパパンッ!!』

「「「!?」」」


 カエルが動いた。全員がそう思った瞬間、

アレウスは前線で目にも止まらぬ速度で、

両手斧を薙ぎ払い続け、クラフトは盾を

巨大化させて、広範囲をガードしていた。


 そして、何かが空気を切り裂く音が木霊した。


「ブヒャッ!?」

「飛び豚!?」


 そして、何かによって飛び豚の左翼がへし折れ、

HPも半分程削られてしまった。


「飛び豚超後退! 他、前進!」


 アレウスは、何かを捌きつつ、グイグイと

前進し、負傷した飛び豚以外も同時に前進させた。


『ほほぅ、初見で我の舌技を捌き、ウィーク

ポイントを見抜くとは、やるでゲコな』


「こちとら、音速は慣れっこだぜ!(…………

トッポギといい、リアルフィジーカーの脳髄を

爆ぜ散らすジャブ技使い、多くね!?)」


 俗にいう速くて弱い連撃。クラフト等、DEFの

高いノーマルユーザーには何て事の無い小技も、

運動エネルギーが物をいうリアルフィジーカー

にとっては、超速一撃必殺・of・超手数連続攻撃

という、理不尽極まりない攻撃となる。


 今のアレウスの身体能力は、紛れもなく突然

変異によって、これに適応した産物と言えるだろう。


 とはいえ、


「こんだけ近付きゃ」

『ゲコォ…………』


 近付けば、左右に良く(なび)いているだけの、

超硬質ゴム。一旦斧をしまい、


「俺のフィールドだぜオラァ!!」


 全筋肉を総動員し、地面から引っこ抜k…


『力を見誤るなゲコォ!!』


 抜けるはずが無かった。身体の大きさから

明らかなように、1t超えのカエルの力に、

アレウスの力が敵う道理はない。


「そう来ると思ったぁ!!」

『がごぉ!!?』


 だが、反応速度は、カエルすら凌駕する。

アレウスは、カエルの飲み込み攻撃を利用して

十分な加速を獲得し、一段強化した唐竹割りを

炸裂させたのだ。


「今だぁ!!」


 これまでの反省を活かし、脚から順にカエルに

めり込ませた両手斧まで全身を(ひね)り、斜め左下に

方向転換を行う。


 そして、"マジック・キャノン"に合図を出した。


「アイス・ランス!!」


 次の瞬間、縮んだクラフトの盾の真上から、

先端部が鋭利な氷柱が飛来した。

「「「…………カエルって、月面に居たっけ??」」」


「上半身のカエルってのが、見え方の

バリエーションにあるらしいぜ」


「面白い解釈ですわね♪」


(((思い付いた人、スゲェ発想力だな…………)))


最後までご覧くださり、ありがとうございました。

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