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爆ぜ散る熱湯、加速する筋肉

これぞ、刹那の戦闘。

229話


『ジェリーにしてやらぁ!!』


 裸のスッポン(スッポン・ポーン)が、時速100km超えで

赤髪男との間合いを詰め、水と炎を混ぜた

(こぶし)を打ってきた。


『ボン!!』


 拳の水は、パンチのインパクトと同時に

水蒸気爆発を起こした。



「スッポンミンチにしてやらぁ!!」


 アレウスは、爆発の寸前に両手斧を納刀(のうとう)し、

地面を踏み込んで爆発範囲外に逃れた。間髪

入れず、地面を両腕で蹴ることで、獣のごとき

()足走行(そくそうこう)に移行し、スッポンの背後の有効間合い

に達した瞬間、両手斧を抜刀した。


『うおおっ!!』


 しかし、スッポンは(しゅん)()に足元を水蒸気爆破

することで、間一髪(かんいっぱつ)で右薙ぎを回避。それと同時

に間合いを取りつつ、両腕に炎と水を(まと)おうと

したが、出来なかった。


「良いステップだなぁ!!」


 そう、アレウスは、スッポンの動きを読んだこと

で、地面を踏み込んで斧を(ふる)るうのではなく、一瞬

だけ地面を蹴ることで、速度を維持してスッポン

との間合いを開けさせず、それでいて腰の(ひね)りで

あたかも最高威力の(みぎ)()ぎを繰り出したかのように

見せつけていたのだ。


「もう一撃ぃ!!」

『うおあっ!!』


 捻りきった腰を逆回転させれば、当然高威力の

斬撃をもう一発放てる。スッポンは足元の爆発で、

今度こそアレウスの脚にダメージを与えようと

したが、アレウスは爆発の直前に蹴り込みを終了

しており、全くダメージが入っていない。


「オラァ!ソラァ!どりゃあっ!!」

『うおっ! そこだっ! ックソオッ!!』


 アレウスの袈裟斬(けさぎ)りを彼視点で斜め左に()け、

追撃の左薙ぎの直前の蹴り込みに合わせ、足元

爆破を行ったが、ワンテンポ後にずらされて斬撃

の質を上げられてしまい、右脇腹(みぎわきばら)(かす)めた。


 更に、追撃の左切り上げも右大胸筋を切り裂き、

次こそは絶対回避だと思ったスッポンだが、想定外

の事態に見舞(みま)われた。


「ニッ…(すき)ありぃ!! オラオラどうしたぁ!?」

『ッ!? 危ne…ヒギャアアッッ!!』


 アレウスが即座に斬撃を切り返さず、腰の捻り

と両手斧の位置を対象に入れ()えてから、袈裟斬り

を放ってきたのだ。


 スッポンはすんでの所で掠めずに回避を成功

させたのだが、アレウスは足元爆破の直後に両足

踏み込みを行い、スッポンの(きょ)を突く程の速度で

間合いを詰め、モーションの大きな斬撃ではなく、

到達速度の早い()(まつ)での突きを、連続で繰り出した。


『やられてたまるかぁ!!』

『バグォォオオオン!!!』


 ()えなく、左脇腹、右肩、腹直筋を深く抉られて

しまい焦ったスッポンは、コンマ1秒溜めを作る

ことで、足元爆破をフルパワーで起こした。


「やっぱ分かりやすいな」


 しかし、アレウスは即座にバックステップを

行いつつ、両手斧を納刀。矢継(やつ)(ばや)に四足走行を

開始し、熱気を()(かい)しながらも、スッポンの気配

に追従していった。


『近づけなくしてやらぁ!!』

『ドン!! ドン!! ドゴゴゴォン!!!』


 一方のスッポンも、まともに当たれば即死も

あり得るアレウスの斬撃を、本気で回避しようと

考え、辺り1面を爆破することで、アレウスの

動きを牽制(けんせい)し、あわよくば、熱や衝撃で倒そうと

画策(かくさく)した。


「やっぱ見え見えだ!」


 だが、アレウスは肉体同士の衝突こそ好めど、

別に無理して近付く必要はなく、レーシングカー

並の速度で、爆心地を周回しながら、スッポンの

気配に向けて飛ぶ斬撃を連発していった。


『うおおおおおっっ!?』


 案の定、スッポンは()(じん)轟音(ごうおん)でアレウスの

()(そく)を出来なくなっており、全方位からランダム

に飛来する飛ぶ斬撃に翻弄(ほんろう)され始めた。


『ドゴゴォオン!!』

「隙間見っけ!」


 そして、爆破の精度が(あら)くなった事で、

ノーダメージで間合いを詰められる"道"が

発生し、カラカルのような敏捷性(びんしょうせい)で方向転換

し、レーシングカー並の速度で道を爆走した。


『ぬぅあ!!』

(おっと!)


 しかし、スッポンは偶然、アレウスが迫ってきた

方向に爆破を起こした。その為、アレウスは抜刀を

中断し、左、前左へと方向転換を行ってから、再び

スッポンへ切り返し、距離を詰め始めた。


『!!』

「ウラッ!!」


 スッポンの背後からの逆風だったが、彼は間一髪

殺気に反応することが出来、不完全すぎる足元爆破

で宙を舞った事で、背中の(ほね)を斬られることを回避

した。


『!!』


 宙を浮き始めて直ぐに視線を真下に送ったが、

アレウスの姿は砂塵を残して消えていた。そして、

スッポンの脳裏には、無数の飛ぶ斬撃に被弾する

自身の姿が過った。


『グオアアアアッッ!!』


 そうはさせまいと四肢の水蒸気を爆発させた

ものの、反作用で動く方向をも見切られている

かのように、斬撃が骨身を切断していく。


「終わりだぁ!!」

『お前だけでも道連れだぁ!!!』


 "もうやられる。"そう思ったスッポンは、

アレウスの斬撃に向けて爆発しながら直進する

高圧熱湯を放った。スッポンの予想に反し、熱湯

は飛ぶ斬撃を()()しながら直進した。


「本当は、どこまでも熱い奴なんだな…………」


 しかし、アレウスはシンプルに素早いので、一発

の威力が高い斬撃を、"一瞬で連発すること"が可能

だった。斬撃が熱湯を切り裂く度に爆発が起き、

斬撃が1つ()(さん)するのだが、次の斬撃が爆風を

切り裂きながら熱湯に直撃し、先程より前方で

爆発する。


 この現象が一瞬で(れん)()すれば、当然…………


『がはぁ!!』


 半秒にも満たない一瞬で、斬撃がスッポンに

命中する。


『ドサリ…………』


 HPが0になったスッポンは、全てのベクトル

が一旦リセットされ、月の重力加速度に従って

大地へ落下した。


『お前…………流石に強すぎだろ…………。ポギーが

敵わないのも納得だ…………』


 ビルパン(甲羅の皮)一丁で大の字に横たわる

スッポンは、アレウスの回避力、カウンター技能、

予測力、攻撃力、攻撃速度に命中精度、そして、

(しゅん)(びん)さや敏捷性を含めた()動力(どうりょく)を回想し、自身の

敗北が必然であったと認めた。


「正直、最初はサムいだけの奴だと期待して

なかったけど、スッポンになってからはマジで

熱かったぜ。…………何故か言葉にすると説得力が

失せるが、マジで」


『…………そうか。そういってもらえりゃ、少しは

報われるなぁ。…………来年、よかったらタイマン

しようぜ』


「おっ、良いな!」


『そこで、間違いなくポギーよりスゲェって所、

見せてやるよ。まぁ…………武器の条件は合わせ

られねぇけど』


「良いよ別に。ポギーと同じ装備で両方張り倒すし」


『フッ、言ってくれるな。そんなにやられてぇなら、

社長(ゴッド)に掛け合って、理不尽スタッツにしてもらうぜ』


「おう! そいつぁ、楽しみだぁ!! えっと…………」


『ジェリー・バイツだ。来年また、名乗ってやる』


「アレウスだ。俺も名乗る!」


『じゃあな、立て(こも)り犯扱いされちまったボスに、

簡単に負けてくれるなよ?』


 そう言って、トップ・ポギー並に多くのアイテム

を残して消えた。


「バイツ、サンキュな。皆! 回収するぞ!」


 アレウスは、中ボスが残したアイテムを分け合う

ために、全員に声をかけた。


「「「「……………………」」」」


「どうしたよ? 3分たったら消えちまうぞー?」


 しかし、皆棒立ちで固まっている。アレウスは

不思議そうにドロップアイテムルールの忠告をしたが、


「…………あのな、俺達が見た景色を想像すれば、

固まった理由は分かるぞ」


 クラフトが、他3人と共有していた恐怖の記憶を

語りだした。


~回想・1分前~


『『シュン!!』』


 アレウス、スッポン巨漢(きょかん)の姿が消え、俺達は

次の瞬間に即死してしまうのではないか? という

恐怖に震えた。


『ボン!! パァァン!!パ! パ! パ!

パァァン!! パァァン!! バグォォオオ

オオン!!!』


 即死こそしなかったが、3秒位で10回近く爆発

が起きたから、恐怖は更に増したよ。…………案の定、

お前らの姿は目視出来ねぇし。


『ドン!! ドン!! ドゴゴゴォン!!! ドゴゴ

ゴギャギャゴガゴゴゴゴゴガァァアン!!!!

ドゴゴォン!! ドン! パァン!』


 この爆発は10秒弱続いていたんじゃないかなぁ?


 一部分が爆発の砂塵で見えなくなり、見えない

範囲が徐々に広がっていく様に、ミューと飛び豚は

泣きながら抱きついていたし、俺達は共通して月面

の終わりを感じていたよ。


『パン! パン! パン! パァン!!』


 爆発の規模こそ収まっていたが、この4発も2秒弱

に詰め込まれた、ハイボリュームな音だったな。この

爆発で空が随分と晴れたから、俺達は無意識的に

見上げたよ。そしたらさ…………


『ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴガァァアアアア

アアン!!! ブォォォォォ……………………』


 一瞬、破壊光線的な線が見えたかと思いきや、空気

の揺らぎ的な物と衝突して、着弾点が爆発したんだよ。

そして、その爆発が光線を食うように上昇していって、

遂には光線の発生源が爆発したのさ。


 この現象は1秒もかからなかったんじゃないかな?

まるで片方の神が、もう片方の神を食い殺した現場を

見た気分だったよ。直後、ビルパン一丁のスッポンが

落ちてきて、アレウスが勝ったと理解できたけどね。


…………まぁ、安心したかと問われれば、ずっと放心状態

でしたーって答えるけどねー。


~回想終了~


「兎に角怖かったんだよ。わかるよねー?」


「いや、"ドンドン"ばっかり言いやがって…………

自慢の国語力はどうした? クラフト」


 アレウスは、クラフトの説明が擬音だらけだった

ことに突っ込みつつも、語彙(ごい)力が消滅するほどの

恐怖を感じたことは、理解した。


「仕方ねぇだろ…………飛び豚ちゃんとお前の弟子(?)

に至っては、泣く程怖かったらしいし」


「何せ私達、アレウス君とバイツさんの姿が

見えなかったものだからねっ」


「グスッ…………騒がしくて怖かったよねー…………」

「ブブブーー…………」


「まー、見えなくて怖いのはどうしようもねぇ。

だが、他の中ボスは兎も角、立て籠り犯のボスは

間違いなく更に強いぞ」


「「「「!!」」」」


「俺は可能な限り全員クリアを目指して、援護とか

惜しまねぇが、それでもダメな時はダメだろう。

つまり、最低限ボス戦までに恐怖に(さら)される覚悟を

決めてくれ!」


 アレウスは、珍しいほど真面目に演説をやり遂げた。


「…………そうだよな。本来、ボスって理不尽な程強いよな」


「私、あまりにも速い相手に、腰が引けていましたわ」


「皆で挑むのは、誰かがどうしても乗り越えられない

局面も、乗り越えるため。恐怖を感じるのは当たり前」


「規模は違えど、俺は相棒達と共に、何度も恐怖を

乗り越えてきた。アレウス、イシュタルちゃん!

…………えっとぉ」


「クラフト」

「ミューよ、忘れてんじゃないわよっ!!」


「悪いな、クラフト、ミュー、俺も覚悟決めたから、

このイベントに同行させてくれ!」


「おう、最後まで共に頑張ろうぜ!」

「フフッ、大歓迎よ」

「大勢の方が不安は和らぐ」

「私達の良い場面、動画に納めてね!」


「勿論だ!」


「んじゃ、1分半で素材回収しきるぞー!」

「「「「おおーーー!!」」」」


 彼らは素材を集めきり、次の中ボスへと向かって

いった。

「アレウス、スゲェ太刀筋…………いや斧筋? だな」


「多くの武器術は剣術がベース。俺も副長に

ガッツリ教わったぜ! 因みに、斬撃の名称だが


唐竹    上から下へ斬り伏せる

逆風    下から上への斬り上げ

右薙ぎ   右から左への水平斬り

左薙ぎ   左から右への水平斬り

袈裟切り  相手の左肩から右脇腹への斬撃

逆袈裟   相手の右肩から左脇腹への斬撃

左切り上げ 下方向からの袈裟切り

右切り上げ 下方向からの逆袈裟

刺突    突きのこと


大体こんな感じらしいぜ!」


「副長、現実で剣道道場開いていてもおかしく

ないよね~~」


「ああ、制限装置で身体能力を同等にしたら、

技量差で絶対勝てねぇんだよ!」


「まぁ、流石副長!」


「因みに、制限装置は俺が開発したぜ!」


最後までご覧下りありがとうございました。

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