落とし所
大変長らくお待たせしました。次話は木金を目処に
投稿したいですね。
213話
「金子隆二様、道先拓人様、的場美優様、この度、
北条家ガードマン一同と防衛設備により、お三方の
生命を脅かしたことを、北条家を代表しまして
北条月季がお詫び申し上げます!」
令嬢、北条月季が土下座をしたと同時に、彼女の
ボディガード12人集が揃って頭を垂れ、地に
這いつくばった。
(お…………俺は…………何て初歩的なミスを犯して
しまったんだ…………。あろうことか、お嬢様の
ご友人と忌々しきヤクザの中位格を早とちりで
勘違いするなんて…………!!!!!)
その中の1人、コードネーム:ガストの男は、
一際目立って冷や汗をかいていた。
「あーー……………………その…………何つーかなぁ……………………」
しかし、謝られている隆二本人は、相当言葉に
詰まっている様子だ。確かに、隆二達3人は、
彼等に殺されかけた。主に攻撃が飛び火した
隆二に関しては、人外の筋力を全開にして、
ようやく攻撃を掻い潜ることに成功している。
当然、ほぼ全身が筋肉痛であり、瞬間的に
酷使した肺も、未だに焼けつくような激痛が
走っている。
(この事態、元はといえば、俺がガストに挑発的な
返答を行った事が戦渦拡大の原因なんだよなぁ。
ま、ガストについては今みたいに謝るのが筋だと
思うが)
例えば、あの問答の時に、お嬢様に招待された
趣旨を伝えることや、ヤクザについて追求する
等すれば、不意打ちの蹴り以上の暴力沙汰には
ならなかった可能性考えられる。
「あの…………皆さん、一旦頭を上げて下さい」
「…………」
拓人は"次にしなければいけない事"に移る為、
彼女等に頭を上げるよう進言をした。美優は
未だに僅かながら震えている。
「しかし! 私達の所業はこんな謝罪ではとても
許されることではありません! 本日はせめて
お三方の気持ちが晴れるまd…」
「うん、俺達は、というか俺は、何億回謝られ
ようとも、今日の出来事を許すつもりは無いよ」
「!!」
「「!」」
拓人のこの発言に、月季は地面に向かって
絶望の表情を浮かべ、隆二と美優も意外そうな
表情に変わった。
(ま、ごもっともだよ…………)
一方、ガストは正論でしかないこの発言に、
寧ろ冷や汗が軽減する程納得していた。
(これはガストだけの問題じゃねぇ…………)
(俺がお嬢様に友人達の特徴の詳細を聞かなかった
ばかりに…………)
(お嬢様を守るためにも、今後、どんな脅迫を
されても、こなさなければな…………)
(それすらはね除けるようだと、いよいよ俺らも
七罪組未満の底掘りチンピラだ…………)
(そもそも金子君相手に俺ら全員でも勝てなさそう
だし、今殺されていない時点で温情かけまくられ
っぱなしだな…………)
他のボディガード達もまた、自分も他人事では
ない事を自覚している。
「許すことは無い…………だけど、どこかに着陸
しなければ、あなた達は兎も角として、俺達すら
前に進めない」
これまでの拓人の発言に、
「…………??? 拓人、何を言っているの?」
美優は首を傾げた。
「許すわけにはいかねぇが、このままだと互いに足踏み
状態……?…………!、何となく言いたいことが分かって
きたかも」
一方、隆二は言葉を解読することで、拓人の意図に
近づいていった。
「そう、これ以上互いに傷つけ合わないよう、
"落とし所"を着けるのです。例えが最悪ですが、
戦争が決した時に、勝戦国が敗戦国に条約を
押し付けるようなことを、俺達があなた方に
行います」
「「「「「!!……………………」」」」」
この場の全員が、その発言に息を飲んだ。
「…………そうね。友人の家にそんな事をするのは
気が引けそうになるけど…………私達は死の危険に
晒されたものね」
「生け贄だの、命をかけない方法だと、これしか
ねぇよな」
そして、隆二はこうも思った。
(きっと、拓人は北条家の"事情"と、"俺達の
落ち度"も考慮してこの方法を選んだのだろうな)
~10分前・令嬢の部屋~
『ドゴォン!!』
「キャアッ!!」
外で大きな轟音が鳴り響き、月季は動揺を見せた。
(に、二ヶ月前から、屋敷を嗅ぎ回っているヤクザが
すぐ側に…………ガスト!! 無事ですか!?)
月季も、この時点までは部屋の前で轟音を鳴らした
主を、ヤクザだと思っていた。
「イシュタル! 俺だ! アレウスだ!!」
「ア、アレウス君!? ヒッ!? ライジュ!!
セプト!!」
ゲーム友達を名乗る大男の両腕には、首を
絞められて息を封じられた敬愛するボディガード
2名がぶら下がっていた。
「クラフトだ! 落ち着いて聞いてくれ! 俺達は
君達にこれ以上の害は加えたくない!」
「ミューよ! だっだけど、ボディガード達が
いきなり私達を殺そうとしてきて止まらないの!!」
「だから君に彼等を止めてほしい!! そしたら
両腕の2人も解放する!! 絶対殺さない!!
だから…………頼む!!!」
「ッッ…………!!」
月季はあまりの急展開に、思考が回りきらなか
った。しかし、3人の演技とは思えない様子、毎晩
ゲームで飽きるほど聞いた声、そして何より、隆二
の真っ直ぐな眼差しを向けられた事で
「…………分かりました! 2人とも、解放されてから
両手を上げて静止して下さい!」
その言葉と同時に隆二は2人を解放し、2人は
這いつくばりながら息を整えつつ、どうにか両腕を
上げた。
(やっぱ、イシュタルの発言は"絶対"だったな!)
隆二がガストを倒してから、強行突破を行った
理由は、目の前の様子に全て映し出されていた。
「り、隆二…………これを見越してこんな無茶をしたのか…………??」
頭は良くとも、基本常識的な拓人も、隆二のこの
行動には面食らっている。
「ああ…………だが、屋敷に侵入者排除設備が仕掛け
られていることに気づけなかったのは、俺の判断力
不足だったよ…………2人ともゴメン。イシュタルもな」
「ッツ…………!? あ…………あ…………あの防衛システム
を正面から突っ切って来たの!!?」
月季は、自身に安心を与えようと、ガードマン達に
何度も防衛システムの凄さを聞かされていたので、
隆二の荒唐無稽な発言を聞いて激しく狼狽えた。
「お、おu…muギュ!?」
隆二が返事をしようとしたら、ミューの左手で
両頬を摘ままれた。
「そうなのよぉ!!! 隆二1人で突っ込むもの
だからぁ!!! 死んじゃうかと思ってぇ!!!
グスッ…………ヒグッ…………!!」
「ミューちゃん…………」
泣き崩れた美優を、月季は抱きしめて落ち着かせ
ようとしていたのだった。
~回想終了~
(俺達の落ち度は、ガストに重軽傷を負わせた事と、
各種器物破損、そして執事メイド達の配膳の邪魔を
したこと…………って!!)
ここで隆二は気づいた。
(落ち度があるのは"俺達"じゃなくて、全部"俺"
じゃねーかぁ!!!…………短絡的過ぎて命の危機に
晒されるとか、いよいよ危機感持たねぇとヤベェ
…………)
大きすぎる二次災害の原因は、他でもない自身の
短絡さにあったのだと。
「話し合いは、道先拓人、的場美優、金子隆二、
北条月季、ボディガード・ガストの5名で行います。
その他のボディガード達は傍聴人となり、全員の
危険物、武具をこの机に置いてください」
そして、危険物まみれになった机の側に隆二が
座ることで、誰も誰かを殺害出来なくするのだ。
連携しても、隆二の人間投擲で阻止するだけだと
釘を刺すと、ボディガード達は全員青ざめた表情
となった。
そして、着々と個人と屋敷の間での契約が
出来上がっていった。
「…………戦犯の俺が言うべきではありませんが、
本当にこのような契約でよろしいのですか?」
そうガストが言った理由は、契約書を見れば
一目瞭然だった。
「ええ、俺達は月季ちゃんといつまでも仲良く
遊びたいだけですから、屋敷の往来をスムーズに
行い、4人で行きたいところにスムーズに到着し、
誰かが困った時に全力の援助を頂ければ十分です」
拓人は偽り1つ無く、屈託の無い笑みを浮かべ
ながら答えた。
「ガストさん、俺はいきなり殺されかけた事を
許すつもりはありません」
「俺も、許されるつもりは毛頭ありません」
「だが、あの時の俺はもっと良い声かけを出来た
にも関わらず、売り言葉に買い言葉であなたの逆鱗
に触れた。そして、大怪我を負わせました」
「しかも、逃げながらルインで月季ちゃんに連絡を
取れたのに、私達まで危険に晒して正面突破を
行いました。これは、状況に飲まれて隆二を
止められなかった私の責任でもあります」
「俺も、もっと強く逃走を進言できたのに、
しませんでした。明らかに責任があります」
「お三方共、私だってお三方の事をボディガードに
伝えきれず、直前の連絡も綿密に取れませんでした。
責任の重さは違えど、業を背負う者同士、前をm…
っっすいません! わ、私が言って良いことじゃ……」
月季は、失言を放ったことを、直ぐ様訂正した。
「月季、ここからは前だけ向こうぜ! ガストさんも!」
「隆二君…………」
「金子さん…………」
「月季ちゃん、イシュタルの時みたいに、口調崩そうぜ」
「使用人さん達にもお詫びしたいし、自慢の屋敷を
案内してほしいなっ♪」
「…………はいっ!」
こうして、屋敷巡りが始まったのだった。
「…………スゲェ派手に割られたんだなぁ」
「ガラスもだけど外見てみなさい」
「…………何か痛々しいって言葉しか出てこないん
だけど」
「侵入者はこれを掻い潜った挙げ句、
幾つか破壊したらしいわ」
「ヤクザ怖すぎ…………お嬢様、どうか
生き延びてください!」




