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ニャー・ゴ・ロック

お待たせしました~次はちょっとだけVRですー

205話


「見るが良い!」


「「「おおーーーー!!」」」


 隆二が指差した方向には、様々な種類の野菜達が、

数多く栽培されていた。


「ここが婆ちゃんの畑だぜっ! そして、シルバーの

野生の源だ!」


「スイカにカボチャにトマトに…………()()

みどりだし、更に田んぼも経営しているんだよ

な~~」

「山のお婆様といい、隆二のご家族元気すぎだよ~」


 拓人と美優は、隆二の家族のアグレッシブさに

感心した。


「けど、シルバーの野生の源ってどゆこと?」


 一方、飛鳥は隆二の発言で、気になる部分を

質問した。


「まぁ、シルバーとあのカボチャ辺りを見てみな」


 隆二はそう言って、2方向に指をさした。


「…………何も、無さそうだけど?」


 拓人には、特に変わった景色は見えなかった。


「…………ううん、ネズミが居るわ」


 美優は、遠方の的の中心を見分ける空間分解能を

活かし、カボチャとカボチャの間を動くネズミを

発見した。


「おっ、シルバーさん、お尻をプルプルしていますぞ~」


 そして、ネズミを狙い済ましたシルバーは、

下半身を小刻みに動かして、力を溜め始めた。


『ザザッ!!』

『チュ!?』


 一瞬であった。シルバーが座していた所に(つち)(ぼこり)

()ったかと思いきや、彼女はネズミが座していた

カボチャの隙間に居座っており、その口にはネズミが

(くわ)えられていた。


「速ぇ~~」

「見えなかった…………」

「16でこれはすごすぎだよ」


 3人とも、シルバーの年齢に見合わない俊敏さに

面食らっている。


「だろ? 1日に10匹所か、俺とネズミ取りの

勝負した時なんかは、20匹捕まえたぜ。や~、

(かん)()なきまで叩きのめされたなぁ~~」


「伝説のウイスキーキャット・タウザーもビックリの

仕事率じゃん…………」

「ゴキブリを狩るアシダカグモ以上に仕事人じゃん」


 またまた面食らった飛鳥、拓人だったが


「いや隆二、…………猫ちゃん相手に何ネズミ狩りの

勝負挑んでるの?? 勝てるわけ無いでしょ…………」


 美優が至極当然の発言をしたのだった。


「…………確かにな! お、シルバーもネズミを

食べ終わったみたいだし、次の場所に向かおうか」


 4人と1匹は、歩みを再開した。シルバーは首輪を

着けるのを嫌がる上、道行く景色や植物に気を取られる

事が多々あるのだが、隆二と一定の距離が開くと、

直ぐ様彼との距離を縮める。したがって、心配無用と

言える。


「ここが田んぼだぜ。つっても、シルバーにとっては

その辺の草を食べる為の場所だけどな」


 田んぼの脇の土から生えている、青々しい草を

食べるシルバーを見ながら解説した。


「猫ちゃんが草を食べるのは、胃をキレイにするため

なんだよね~」

「流石に詳しいね、飛鳥ちゃん」

「というかあんた、対人間の時より対動物の時の方が、

色々と誠実だよね? まぁ、学校で学ぶ勉強とかは

苦手そうだけど」


 あらゆる動物知識に富む飛鳥に対し、2人は褒めては

いるものの、褒め方が対照的だった。


「えー、私結構な頻度でテストの総合得点、10位

以内に入ってるよー。何せ私、オールラウンダーな

テンサイですから」


 胸を張り、どや顔で宣言した。


「ははは、天から何物も与えられたら、人生何やっても

楽しいだろーなー!」

「本当、神って不平等な性格しているよなー、居るのか

わかんねぇけど」

(ムカつく~~~!!)


 三者三様、高校生達は調子に乗りまくる中学生に

反応した。


「えー、パイセン達それ言うかな~?」

「いや、凡才(ぼんさい)以下なら誰だって言うだろ」


 飛鳥の意外な発言に、隆二は直ぐ様切り返した。


「いやいや、どこが!? 隆二は間違いなく天才だよ!

こんな筋肉着けて、獣顔負けの物理運動能力で!

しかも動物と話せるとか! 今は絶対人生謳歌してる

よね!?」

「言われてみれば確かに…………」

「まぁ、どっちかって言うと、努力の天才って奴?

拓人パイセンは、逆に頭良すぎて、この世界に適応

できてない感あるかも。まぁ、そのうち活躍出来る

だろうしガンバ!」

「ああ、何かありがとう」


 何故、男2人はこうもあっさり言いくるめられるの

だろうか? そしてそして


「美優パイセンは…………あ、美優パイセンこそボンサイ

って感じかも!」

「弓道全国出場したし、最近は短距離も大活躍中

で・す!! てか、こないだの大会あんた見てた

よね!?」


 露骨に下げられた美優は、早速怒りで我を忘れた。


「いやいや、あんなオデブパイセン軍団の中で

ダントツなのは、ボンサイでもトーゼンっすよ。

ここまで成長した努力の効率とかは認めますけどね~」


 他者をイビることしか考えていない、3年女子高生

達を思い浮かべつつ、バッサリと切り捨てた。


「当然よぉぉ~~…………何せ隆二直伝の筋トレで

お尻中心にパワーアップしたからねぇ~~…………」


 下から掬い上げるように、飛鳥を睨んで威圧した。


「あっと、流石と言うべきはやっぱ隆二か~~。

美優パイセン、今のはちょ~~っとポイント

ダウンっす」


 逆効果だったらしい。


「ねぇ、隆二、拓人、後で軽くイイことしてあげる

から、コイツぶん殴るの黙っててくれる?」

「幾らなんでも条件清々しすぎね?」

「後で俺の腹筋でミット打ちさせてやるから、

我慢してくれ。飛鳥も無闇に挑発しない!」

「…………はぁーい」

「挑発してスイマセーン」


 2人して不服そうに返事を返した。


「にゃ~」


 こちらからも待ちくたびれたとばかりに、

不満げな声が聞こえた。


「あっと、待たせて悪かったな。お~よし良し」


 首元を撫でまくった。


「「ヨシヨシ~~♪」」

「キレイでイイ毛並みだよな~」


 既に先程の険悪ムードは忘れ去り、頭や背中を

撫でほぐす。


「にゃ~」

「海…………確かに有意義になりそうだな。よっし、

海に行くぞ~」


 こうして、海岸へと向かうこととなった。


「「「おおおーーー!!」」」


 お客の3人は、海岸の景色を見て感嘆の声を上げた。


「釣りするも良し、泳ぐも良し、遊ぶも良しの海岸だぜ!」


 巨大堤防から始まり、石と砂利の段々坂。そして

広い砂浜が広がっていた。


「何して遊ぶ~?」


 早速美優が、遊びの内容を聞いてきた。


「そうだなぁ…………あっと、面白ぇモノ見せてやるぜ、

あっちに移るぞ」


 そう言って、向こうにある2mの壁が10m毎に

3段連なっている場所へ移った。満潮時に1段目が

海となり、2段目が釣りの足場になるのだろう。


「カックカクしてるなー」


 目の前の景色を見て、飛鳥が不思議そうな声を

あげた。


「引き潮の時、俺とシルバーはこれを使って

アトラクションモドキの対決をしていたんだぜ」


 忍者の名を関した、体一つで障害物を乗り越える

番組を思い浮かべながら、語った。


「…………えーと、走ってこの上に登って…………最後の

丸い広場に先に着いた方が勝ち的な感じか?」


 拓人が半ば呆れた様子で聞いてきた。


「ビンゴ! っお」

「…………」


 足下を見ると、シルバーが真剣そうな目をしていた。


「シルバーもやる気だな! じゃ、実際に見せて

やるから号令を頼むぜ」


 そう言って、隆二とシルバーは段差と等しい距離に

並んだ。


「よーい、ドン!」


 拓人の号令により、2人は駆け出す。


『ダンッ!』

『タンッ!』


 隆二の跳躍に半秒遅れ、シルバーも跳躍した。


「え…………え…………??」

「普通にシルバーから距離開けてるんですけど…………」


 少し離れた場所から全体の様子を見守っていた

女子達が、人間が猫に素早さで圧勝する様子を見て

驚いている。


「っしゃ勝った!! シルバーもお疲r…」

「に"ゃああっ!!」

「NO!! 噛もうとするな!」


 やはり負けたのが悔しかったのか、シルバーは

たちどころに隆二へ攻撃を開始した。


「悪かったから! っしゃあねぇっ!」


 隆二は隙を突き、最高高度4mに達する走り幅跳びを

行った。つまり、距離20m程移動しつつ、高さ10m

から落ちることになる。


(ぼう)()・五接地転回法!! 楽勝だぜ!」


 小規模な謎の重低音を響かせながら、愛猫の攻撃から

瞬時に脱したのだった。


「…………あー、ビックリした。これくらい大丈夫だと

分かっていても、一瞬死んだかと思ったわ」

「私も…………こればっかりは同感…………」


 シルバーとのケンカシーンで笑っていた女子達も、

隆二の()想天外(そうてんがい)な行動に冷や汗をかいていた。


「カッ!!」

「うん、ゴメンな。大人気無かったよ」


 女子と同時にシルバーが戻ってきた時も、不満を

一纏めにしたクレームを吐かれた。


「あっ、でもよ、美優達なら良い勝負出来そうじゃね?」


 その言葉に全員の目付きが変わった。そして


「よーい、ドン!!」


 ゴール地点の隆二の叫びを合図とし、全員が

駆け出した。因みにどう考えても動きにくいので、

飛鳥のロングコートとヒールは隆二が預かっている。

最大限に条件を揃えるため、高校生組の靴も預かった。


「おっ、やっぱシルバーは別格だよなぁ」

「ハァ、ハァ、」


 2試合目で息を切らせつつ、ちょっと身体能力の

高い程度の連中には圧勝した。


「人間でいっちばーん!」

「やるじゃねーか!」

『パァン!』


 手足の長さが項をなしたか、人間側だと飛鳥が

1番だった。


「「くそー! 負けたー!」」


 半秒後、拓人、美優と僅差で続き、あっという間に

試合は終わった。


「拓人にも負げた~! ぐやじい~! スパーリングで

ボコってやるぅ~~!」

「ボクシング未経験だから却下な」

「そう言えば、釣竿持ってきたんだよね?」

「おう。ミミズ着ければ普通に釣れるからなー」


 と言うわけで、釣りをすることにした。


「うっし」


 最初に釣り上げたのは、隆二だった。魚はアジである。


「釣れた!」


 美優も難なく釣れた。魚はカマスだ。


「きたきた」

「ミートゥー!」

「「イェイ!」」


 調子の良い2人はハイタッチした。…………一方


「釣れねぇなぁ…………」

「私も同じくッス」


 拓人、飛鳥は対照的にも程がある位、釣れなかった。


「おおっ! これはカツオの群れが通ってるな!」

「引きが違う!」


 カツオの群れの通過と連動し、隆二、美優は次々と

釣り上げ始める。そして遂に


「来たぁっ!!」


 拓人もカツオの釣り上げに成功したのだった。

何故か針が背中に刺さっていたが。


「もう無理!」


 あまりにも釣れなさすぎて、飛鳥が駄々をこねた。


「シルバーもめっちゃ暇そうだし、一緒に散歩行って

くる! 拓人パイセン、荷物の見張りお願いッス!」


 そう言って、上着等を拓人に任せて歩きだした所、

本当にシルバーも着いていった。


「…………絶対俺が今後釣り上げられないと見越して

荷物任せたよな?」


 拓人は先程の発言の意図を、直ぐ様理解してしまった。


「ま、あのマセガキよりはましだと思うよ~。

アイツには、心を鎮める才能が欠片も無いもの」


 そう、隆二、美優の異常な釣り上げ率は、その心が

大きく作用していた。筋トレ(と、SAFでの極限戦闘)

での全力集中を得意とする隆二。そして、矢を放つ時の

極限の集中を得意とする美優。2人はそれ故に、意図

して心を鎮めることが得意であるのだ。


「けど、初見でシルバーと散歩に漕ぎ着けるアイツの

ビーストコミュ力は尊敬に値するぜ」


 隆二は飛鳥の対動物コミュニケーション能力を、

ビーストコミュ力と表現した。


「「ビースト…………コミュ力……………………」」


 この独特なネーミングセンスに、2人は言葉に

詰まった。そして5分もしない内に


「皆ちょっと来てーーー!!」


 シルバーと散歩しにいった飛鳥の呼び声が

聞こえてきた。


「この反応はもしや!」


 距離10m、高さ4m程を移動すれば合流できると

把握した隆二は、五接地転回法を使うまでもなく、

ひとっ跳びでシルバー達の元へ降り立った。


「隆二! シルバー凄すぎるよ! 魚捕まえちゃった!!」

「のぁ~!」


 飛鳥に追従して鳴いたシルバーの口元には、

小振りのアジが咥えられていた。


「流石はシルバー大先生(だいせんせい)! お(じょう)()!!」


「え!? 本当に魚捕まえてる!」

「こりゃ本当にスナドリネコもビックリだぜ…………」


 釣り場に戻り、魚の数がかなり多いことを確認

したので、浜辺で遊ぶことにした。


「オラッ!!」


 隆二が本来の腕の長さの最速投擲(さいそくとうてき)で、ビーチボールを

海に投げた。


「1番は当然私よ!」

「いいや俺だ!」

「隆二のビーチボールは私の物よ!」


 浅瀬を素早く歩く3人の傍らで、シルバーも

遊泳していた。彼女は猫でありながら、海すら

自由に(かっ)()出来るらしい。


「はい、時間切れ~」


 結局奥に流されかけたのを見かねた隆二が、

ビーチボールを回収した。それからは、ふくらはぎ

まで浸かる程度の浅瀬でボールのラリーを行い始めた。

 しかし、祖父母家で話題に上がった散歩が出来て

いない飼い主と犬ペアが、浜辺に置かれている飛鳥の

ロングコートに接近していたのだ。


「おいおいおい、どーこ行くんだよぉ」


 30台半ばのおじさんな飼い主が、ダルそうな様子で

毛並みが乱れたダックスフントに引っ張られていく。


「ううう~」


 ダックスフントはロングコートの目の前に止まると、

身体の向きを180度変え始めた。


「オーライ、オーra…ィヤン!?」


 美優がビーチボールを弾こうとすると、風で真後ろへ

飛んでいき、彼女も海水に尻餅を着いてしまった。


「あ~あ、パイセンやっちゃった」

「手ぇ貸すぜ」


 飛鳥が呆れ返り、隆二が手を差しのべる。


「ありがとう…………(不幸中の…………最上幸福!!)」


 美優は内心、心臓をバクバクさせながら、全力で

隆二の手を握りしめた。


「ショートパンツ、平気k…」


 美優を立ち上がらせる過程で、手を掴まれた事で、

視線を彼女の顔から背景に移したところ、放置すると

映ってはならない内容に変化しそうだと気づいた。


『バッッッ!!!!』

「ブッッ!?」


 真後ろに海水を爆散させる程の踏み込みを行い、

超加速する…………と同時に、爆散した海水が、拓人に

直撃した。


『ドッ! ドッッ!』

「間ni…」


 砂を2度蹴った頃には、猫でも至近距離では

目視不能な速度まで加速していた。隆二はその

速度のまま、ダックスフントの放尿より早く、

飛鳥のロングコートを回収することに成功した。


「合e…ッッタァ!!」

「キャイン!?」

「フゴォ!?」


 彼が通った事で発生した風圧は凄く、ダックス

フントの尿が反射したり、飼い主が誰かに超軽度の

平手打ちをされたと勘違いする程であった。


「おい、あんたぁ! 昔から真面目に犬を散歩しろ

って、地域中から言われてるよな!?」


 隆二は珍しく、年上に対して一切の敬語なしに

攻め立てた。


「うるせぇ! 俺はコイツを愛しているから、自由に

行動させるって決めてるんだ! 丁度良いトイレシーツ

が置いてあったら使って当然だ!」


 当然、男は端から滅茶苦茶な言い訳を開始した。


「オッサン! それはトイレシーツじゃなくて、私の

ロングコートだぞ!」


 自分の所持品が原因の言い争いが始まったので、

飛鳥は猛ダッシュで参加した。その後ろからは、

シルバーも早足でやってきている。


「後、そんな育て方で犬を愛しているとか良く

抜かせるよな! 犬は飼い主と上下関係を築いて

初めてコミュニケーションを取れるのよ。当然、

飼い主がリーダーになって、犬を快適に導かなきゃ

ならないのに、オッサンは何で下僕に成り下がって

るのよ!? それじゃあ、この子が訳分かんない

人間社会で、無理してオッサンを導かなきゃ

いけないじゃない! かわいそうだろ!!」


 自身も犬を飼っている立場から、飛鳥はロングコート

そっちのけで、飼い主の愚行を攻め立てた。

 しかし、その返事は全員の斜め上の方向を向いていた。


「おおー…………君、スッゴクエッチエチだねぇ…………

どうだい? お兄さんと一緒にお泊まりしにいかない

??」


 犬の事をそっちのけで、飛鳥を口説き始めたのだ。


「いや、気持ち悪すぎ…………」

「てめぇ、人の話聞かねぇ分際で、自分の話を聞いて

もらえると思ってんじゃねぇぞ」


 30代後半とは思えない発言は、飛鳥に多大な

恐怖・嫌悪感を抱かせ、隆二はそんな彼女を守る

ように前に出た。


「クソゴリラキッズはお呼びじゃねぇんだよ!!

さー、嬢ちゃん、おっ、お互い気持ち良くなろぅ

ねぇ~~」


 隆二の側面から躍りだし、飛鳥へと両手を伸ばした。


『プチっ…………』

「ギャアアアッッ!!!」


 悲鳴を上げたのは飼い主だった。


「もう、シャバから失せろよオッサン…………動物

いじめるわ、セクハラするわ…………次近づいたら

本気で潰すぞ!」


 普段の悪戯な陽気さは微塵も残さず、どす黒い怒りの

表情で、飼い主に忠告した。


「いってて…………んだとクソアマァ!!」

『ザッ…………』

「ヒイッ!!」


 反抗を試みた飼い主だが、飛鳥が脚を少し動かす

だけで、恐れ(おのの)いた。


「うううう…………」


 手下が腰抜けなことが気にくわなかった

ダックスフントは、臨戦態勢に入った。しかし


「フギャアアッ!!!」

「キャイン!?」


 シルバーの迫力ある接近に驚き、全速力で

逃げ出した。


「うわあっ!」

「ギャン! ギャン!」


 瞬発力が皆無な飼い主は、ダックスフントの動きに

着いていけず、リードに引っ張られて転倒し、ダックス

フントは思うように動けず更にイラつく。


「ギャン! ギャ……!?」

「もういい!!」


 が、ここに来て飼い主はあろうことか、力ずくで

首輪を引っ張り、脚を振り上げてダックスフントに

振り下ろそうとした。


「あっ!」


 飛鳥が止めようとするも、間に合わない。


「おい」

「おわああっ!?」


 しかし、隆二が居たことで、彼が持ち前の神速を

活かし、蹴りが放たれる寸前に男の足を払うことで、

盛大に横転させたのだ。そして


「ふん!」

『ブチッ!』


 男に絡まりまくったリードを馬鹿力で引きちぎり


「お・す・わ・り!」

「…………きゅぅん」


 躾がなっていないため、やむなく威圧で上下関係を

刷り込んだ。


「飛鳥、ちょいとこの子を見守ってくれ」

「了解~♪」

「ふざけんな! この寸胴は俺の所有b…」

「躾一つ出来ねぇテメェにその資格はねぇって

言ってんだろ!!」

「うわ、やめろやめろやめろおおおおっっっ!!!」


 隆二は男にチョークスリーパーをかけつつその場を

10回ほど高速回転。そして技を解除した瞬間、頭上に

持ち上げて地獄車を10回転。最後は地面に下ろしつつ

駒のように10回転させて、無事にリバースさせた。


「ゲロッ! ゲロッ、ゲロッ! オエエエ…………」

「取り敢えず警察に連絡入れるぜ。相変わらずダチが

有能なお陰で証拠は十分だ」


 案の定、拓人が海中の魚を取るための

スマホカメラを使ったお陰で、男のワイセツ等々や

隆二のダイナミックかつセーフティな無力化が、

バッチリ映っていた。


「ぐぅ、俺は何もしていn…」

「どの口がほざいてるのよ。ワイセツして、その前は

コートに放尿しようとして、本当にやってたら慰謝料

請求もしてやったからな! 隆二と運に感謝しろや!」

「くぅーん」

「ヨシヨシ」


 こうして、運良く隆二が昔落とし物でお世話になった

警官が来たこともあり、ことはスムーズに運んだ。


「ここからは全員でダッシュだ!」


 家から40m程の距離、これを全員で走った。隆二、

シルバーがトップなのはお約束。3位~5位は、美優、

飛鳥、拓人だった。こうなった原因は、飛鳥が調子に

乗ってハンデとしてヒールを履いて走った事。拓人の

自己申告(いいわけ)曰く、服がびちょびちょで、サンダルだと

走り辛かった事が原因らしい。


~夕暮れ時・海の祖父母家~


「ご馳走さまでしたー!」


 釣れた魚とご飯、そして野菜を合わせた料理を

平らげ、そろそろ解散の時がやってきた。


「んん? この写真の猫ちゃんは?」


 飛鳥が額縁に飾られた三毛猫の写真に興味を示した。


「ああ、この子はニャゴロウといってな、隆二が

2歳になる頃まで共に生活していたぞ」


 祖父が懐かしげに語った。


「じいちゃんの船でネズミ取りをしていたり、

俺が赤ん坊の時、泣いていたら母さんに逐一

知らせていたとも聞いているぜ。…………何となく、

ほっぺを舐められていた記憶は今でも残ってるなぁ」


 隆二もまた、懐かしい記憶にふけていた。


「隆二のビーストコミュ力は、この子達総出で

培ってきたんだね…………あっ、だからか! 冷蔵庫の

パスワードが2856なのは、28(ニャ)5(ゴ)6(ロウ)の

アナグラムなんだね!」

「ええ、そうじゃよ。こうしてニャゴロウの想いを

残していくことが、生き残った者に出来ることじゃ」

「…………私も、家の皆の意思を継いでいきます!」


 この会話により、飛鳥は動物との"別れ"が

来ることを意識した。


「くぅーん…………」


 引き取ったダックスフントが、彼女の方を向いた。

 そして4人でゆっくりと帰る。


「ま、あんたのワンちゃんが乗っているし、今回

ばかりは席を譲るわ」

「エヘヘ、美優先輩、ありがとうございます」

「ホェ!?(スッゴク礼儀正しく返された!?)」


 想定外の丁寧な返事に、美優は面食らった。


「けど、こんな海あるなら泳ぎたかったな~」

「ああ、水着持ってこいって言えば良かったぜ」

「また皆さんと遊ぶときに泳ごうよー!」

「そうだね~。ま、拓人は私達の水着を見たいだけ

でしょうけど!」

「違うっ!!」

「いやいや、見たいのは私だけですよね?」

「はぁ!? 私に決まっているでしょ!!」

「てか、俺に見られても需要ねーだろ!」


 拓人が正論をかました所


「「…………確かに!」」

「お世辞でも否定しろ!!」


 納得してしまった。


「ま、俺も需要はねぇだろ。テキトーなイケメンに

でも見せとけ」

「あ…………いや、隆二は」

「何て言うか筋肉の付きk…」


 2人が口ごもっていると


「分かれ道か。拓人、美優、じゃーなー!」


「じゃあな」

「あっ、バイバイッ!」


 分かれ道に差し掛かり、2人とは別れた。


「さて、コイツの為にも少し飛ばすぜぇ~」


 隆二はかごに座るダックスフントを早く安心

させるため、飛鳥の家へと急いだ。


「隆二って、やっぱり優しいよね…………」

「ん? そうだな、人間にどうしても嫌悪感を抱く分、

動物に対してはそう見えるのかもな」

「でも、私達にも優しいと思うよ?」

「味方の味方は当然、味方だ。味方に協力を惜しむ

理由はねぇ。シルバーやヴォルフ達とは、互いに

与え合い続ける関係なのさ。もちろん、今日遊んだ

3人やじいちゃんばあちゃん達もな!」


 そう言って、運転に集中した。


(…………やっぱり隆二こそ、私の野望を達成するための、

最高のパートナーになり得る男だ! 隆二ばかりは、

美優パイセンにも絶対譲れない!!)


 一方の飛鳥も自身の思惑を再確認しながら、隆二の

広背筋を堪能した。

最後まで読んでくれてありがとうクマ!

ブ"クマ"や★★★★★を着けてくれたら、

執筆の励みになるクマ!


ダックスフントはああ見えて、ボクらの

天敵クマ!

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