猫鳥相食む
今回、モンスター同士の会話を翻訳して描写
しています。イメージと違うかもしれませんが、
作者的にはこんな口調のイメージです。
198話
「ニャニャッ!! フギャァア!!」
戦禍の最前線。モンスター軍団を蹴散らして
いたのは名うてのユーザーではなく、E級モンスターに
分類される山猫であった。
「フシャッ!! ニャゴロロロロッッッ!!」
宙を高速旋回しながら全方位にカマイタチを
繰り出し、ガーゴイルや人喰いファルコォン、
果ては飛竜までもを一撃の元、断裂させていった。
『『『ゴオオオ…………』』』
「ニャ…………!!」
彼は優れた聴覚で、飛竜数匹が固まりつつ息を
吸っている音を聞き取ったや否や、宙に目掛けて
回転エネルギーを還元した蹴りを放ち、直ぐ様
左下に移動を開始した。
『『『グオオオオオオオッッッ!!』』』
数匹の飛竜は、ランク的に格下の山猫1匹を
滅するだけの為に、全力の火炎放射を放った。
数匹味方のガーゴイルや人喰いファルコォンを
巻き込んでしまったが、そうしてまで山猫を
排除すべきだと判断したのだ。
「フシャッッグルルルルッッッ!!」
『グォ!??』
判断は正しかったが、実力が足りなかった。山猫は
圧倒的範囲の火炎放射を容易く回避していたようで、
反撃とばかりに両腕を突き出してきりもみ回転
しながら、目前の対象を超速度で穿ち抜く
『スーパードリルストライク』を繰り出した。
竜族としてはDEFが低めとはいえ、並の火力では
かすり傷すら負わせられない鱗を容易く貫通しており、
山猫にとって飛竜は、その辺のガーゴイル達同様に
格下の相手である事が伺える。
「カッ!! カッ!! ギニャッッ!!!」
『『グオオオオ…………??』』
技の終わりを狙った飛竜2匹に対し、MPを
消費するまでもなく残像を伴った高速移動を
行い、撹乱した。
「フシャッッ!! ニャゴロロロロロッッ!!」
そして、完全に自身の姿を見失った頃合いを見て、
1匹の飛竜の首を渾身の猫パンチ技でへし折り、
もう1匹の飛竜は高密度の斬撃旋風で細切れに
してしまった。
『グャー! グャー!』
『キー! キー!』
2秒にも満たない立ち合いの間にも、ガーゴイルや
人喰いファルコォンの群れは接近しており、
山猫ウィントは次の技を繰り出した。
「ニャニャニャニャーーーー!!」
スーパードリルストライクのようにきりもみ回転を
しながら高速で突っ切ったのだが、腕は外側に広げて
いた。こうすることにより、ウィントの水平方向に
旋風が発生し、近付いてくるモンスター達を倒しつつ
目的地に近付くことが出来るのだ。
「しゃぁあぁぁあぁ…………」
ひとしきり技を発動し終えたので、風エネルギーを
足首に纏わせるバフ技『ゲイルダッシュ』を4回
重ね掛けした。こうしなければ、眼前の相手とは
闘えないからだ。
『ピィィイィイィィィーーーーー!!』
魔王軍幹部・ウィゾフニル
全長約5m、体重約100kg、光属性を中心に、
炎・風属性にも長けている。物理、魔法共に優れた
スペックを誇り、基礎力は他の魔王軍幹部に見劣り
しない。
「ニャニャニャニャッニャ! ニャニャーニャンニャァ!
(会いたかったぜぇ! 魔王軍幹部さんよぉ!)」
モンスターとモンスター。特に魔王軍幹部や
テイムされて感情を得たモンスターの場合、
互いの言葉で対話する事が可能である。
「素晴らしい。生まれが弱小の身でありながら、
ここまでの力を着けるとはな。山猫よ、名が
あるなら述べよ」
「ウィント! テメェを狩る猛獣の名前だぜっ!!」
ウィントは名乗り終えたや否や、先制攻撃のために
駆け出した。四段バフを掛けたウィントは加速度、
最高速度共に四足走行のアレウスをも上回る。当然、
それだけでアレウス以上の戦闘力とは言いきれないが、
この低体重からド肝を抜く程の火力を引き出す要因と
しては、かなりの割合になっていると言える。
「極めて速いな」
「油断は出来ないねぇ」
ウィゾフニルを防衛するS級モンスターの神衛
ファルコォン達は、ウィントのスペックを見て
油断禁物だと判断した。
「けど猛獣はねーわwwwww」
「可愛らしすぎるよなぁwwwww」
が、小さな見た目を理由に先程の猛獣発言を
笑い飛ばされてしまった。
さて、この神衛ファルコォンだが、最高速度は
隼と同等の350kmに達する。これはウィントの
最高速度の倍以上であり、加えて彼等はガーゴイルの
ような、即ち人間サイズの大きさを誇っている。
正面衝突した場合、即死は免れない。
「え、速s…ギャッ!!」
が、その内の1匹はウィントの速さに翻弄され、
真下に潜り込まれてからの上への切り返し時に、
すれ違い様の爪攻撃で瞬殺された。
「オルァオラァ!!」
「「うぎゃっ!!」」
他の2体も同じ立ち回りで瞬殺され、悲鳴を
ほぼ同時に発することとなった。
「何だコイツ…………!?」
「おかしいだろ! 俺たちより速いなんて!!」
「フン、そんなことも分からねぇのか」
今度は動揺するファルコォン達の上方を駆けながら、
真下の彼等にカマイタチを繰り出しながら鼻で笑った。
「フッフッフ、見事な立ち回りだ。彼等の弱点を
熟知しているかのようだな」
「とーぜんだろ、散々三下共を観察できたからなぁ」
どうやらウィントは神衛ファルコォンの
下位種である人喰いファルコォン及び類似点の
あるガーゴイルの挙動を参考に、彼等の弱点の
仮説を立てて行動していたようだ。
~回想~
「ってことで、隼は落下速度こそ鳥類最速だが、
水平飛行速度は実は大したこと無いんだよなぁ」
「そうそう、水平速度だとハリオアマオオツバメの
足元にも及ばないのよねー!」
アレウス、フィンチが鳥類最速についての議論を
行っている。
「下方しか速度を維持できないってことはさ、
横とか…………上に対する戦闘力は弱そうだねー」
ミューが思い付いたことを口に出した。
「確かになー。現環境で隼系のモンスターが来たら、
上から攻撃するのが良いかもな」
「ニャゴロロ(成る程なぁ)…………」
~回想終了~
(奴らは加速力と最高速度をごちゃ混ぜで認識
しているし、水平・上方の最高速度は殆ど差が
ない。対人格闘は主人に鍛えられてるから、
負ける要素はねぇな!!)
ウィントは、その速度からは想像も出来ない程
正確な切り返しを駆使し、MPを消費するまでもなく
神衛ファルコォン達を蹂躙していた。これぞまさしく
電光石火の無双といった景色だ。
「奴より上ni…」
「ああん!?」
「ギャーー!!」
1匹が思いついた打開策を実行しようとしたが、
聴覚や触覚で状況を把握していたウィントの奇襲に
敢えなくやられた。
(つっても、このまま昇っていくコイツらを
倒し続けても、ウィゾフニルの首からは離れていく
一方だよなー)
取り巻きこそ完封できているが、いつまでたっても
ウィゾフニルに攻撃できないという問題が発生している。
「ぎゃっ!?」
「何だぁ!?」
突如、数匹のファルコォンが銃弾のような何かに
急所を撃ち抜かれて倒された。
「フラッシュ! 良いところに来たなぁ!!」
『バジュッ(僕も加勢するよ)!!』
ウィントの声かけに、フラッシュは鉄砲水で
返事を返した。
「ほう、これは変異後が楽しみな仲間が来たな」
ウィゾフニルはフラッシュについても、その
実力とポテンシャルを一目で見抜いた。
「オラオラオラオラァ!!」
『ババババババババッ!!』
「「「「ギャアアアアアッッ!!」」」」
ウィントの電光石火とフラッシュの鉄砲水
ガトリングにより、神衛ファルコォン達は
瞬く間に全滅した。
「飛ぶ鳥落とすぞぉ!!」
『ヒュゥゥゥゥ(了解)!!』
このいきで、リーダーの首に狙いを定めた。
「第2陣、出動しろ」
が、ウィゾフニルの護衛が二十数匹の
神衛ファルコォン達だけな訳が無く、
S級のプテラノドン、そしてSS級の
ケツァルコアトルス2体まで現れたのだ。
「ドリャリャリャアッッ!!」
『ヒュゥゥウ(水衣泳法)!!』
ウィントは連続猫パンチで1匹のケツァル
コアトルスに畳み掛けを繰り出し、フラッシュは
全身に水を纏うことで、ウィントレベルの
加速能力を獲得した。
「おんどりゃああっっ!!」
『バカなぁぁああっっ!!』
フラッシュが陽動に徹していた甲斐があり、
ウィントはケツァルコアトルスの1匹を無事に
討伐した。
「期待以上の力だな。だがこれはどうだ?」
ウィゾフニルが号令を出したところ、数匹の
神衛ファルコォンが"上空"から現れた。
「油断したな!」
「終わりだー!」
時速350kmの垂直落下が、2匹に襲いかかる!!
「くそっ!!」
(これじゃあ攻めに転じられない!)
幸い、音や風圧で予備動作を察知して回避
することは出来ているものの、形成は完全逆転
され、防戦一方になっている。
「1人コアトルス様がやられた時は焦ったが」
「これは勝つのも時間の問題だな」
ウィゾフニル軍のモンスター達は、勝利を
確信していた。
「とどめd…ギャッ!?」
急降下で攻めていたファルコォンの1匹が、
突然両断されてしまった。
「待たせたな、遅れてヒーロー参上っっ!!」
「ウッディ!」
ゴム体質チンパンジーのウッディが、
『紫電一閃・瞬』を放ち、ファルコォンを
討伐したのだった。
(そうか、ウッディは敢えて技を使わずに
中速飛行を維持し、僕達の痒いところを
掻くように技を繰り出したんだ)
MPを消費して技を放てば、大きな速度を
獲得できる。しかし、技は効果範囲が決まって
いるため、範囲の外側に達すると、速度が
強制的に0m/sになってしまう。
「アレウスといい、お前といい、見かけによらず
策士だよな~」
余裕が出来たウィント達は、漸く攻勢に出ることが
出来、着々とモンスター達を倒していった。
しかし
「チンパンジーは猫と魚に比べたらノロマだぞ!」
「アイツさえ倒せば再び勝機は訪れる!」
速すぎる2匹と比べられ、ウッディが複数から
標的にされてしまったのだ。
「イイネイイネー! もーーーっと沢山来や…………」
しかし、ウッディは何やら悪い笑みを浮かべて
全身を捻ると…………
「がれぇ!!!!」
捻りを活かした超高速回転で剣を振り回し、
舐めてかかったウィゾフニル軍の大勢を一網打尽に
してしまった。
「おいおい…………」
(本当に策士だよね…………)
これには超速ペアも苦笑いが浮かんでくる。
「フッフッフッフッフ、これはこれは、私も戦う
必要がありそうだな」
3匹の健闘に感心したウィゾフニルは、漸く
重い身体を羽ばたかせて攻撃を行おうとした。
「その必要はぁ!!」
2匹目のケツァルコアトルスを倒したウィントは、
ウッディのフリーな右手に収納され…………
「ねぇんだ」
「よ!!!」
マッハ2以上で投げられた後にMP消費で
5倍加速し、『紫電の頭突き・神速』を炸裂
させたのだった。
『バジュッ(嘘)!?』
「は??」
だが、フラッシュとウッディは信じられないものを
見た表情になった。
「決まったぜぇぇ……ぇぇえぇええええ!!?」
速度0になったウィントも、一瞬遅れて驚いた。
「おや? 3匹揃ってどうした?」
ウィゾフニルは、1ダメージはおろか、掠り傷
1つ負っていなかったのだ。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
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