超全力の運動
2話
「5万円です」
店員さんから告げられた値段は、隆二にとって
衝撃的な高さだった。
「(いや……値段については拓人から確認したけどよぉ、
いざ言われるとグサッとくるなぁ……)丁度でお願い
します」
凹みつつ、丁度5万円を出した。
殆どの日本のボディビル大会では賞金が出ない。
隆二が出ていた大会は、高校生日本一クラスの
大会であった為、10万円の賞金が出たのだ。
(賞金が半分消えちまった……クレアチンとかBCAAとか
その他サプリを揃えることを考えたら、持って3ヶ月と
いった所か??)
隆二はことトレーニングにかける情熱が他のビルダーや
リフターと比べても図抜けている。その為、サプリ選びも
かなり厳格に選んでいる。
「あー、隆二。……その、急に5万も出させて悪いな」
「……いいや、うじうじしたってしょうがねぇ。拓人の
オススメだし、とことん楽しむぜ!」
「ああ、やっていったらどんどん楽しくなるぞ。俺も
塾が終わった頃……8時くらいから一緒に出来るから、
ルインの無料通話で話ながら教えるよ」
「そいつは助かる。それまでに操作感だけでも
慣らしておくわ」
そう言って、隆二は家へ。拓人は塾へと向かった。
拓人はこう見えて、ぶっちぎりで学年一勉強が
出来るのだ。
(正直、俺が現代文とかで赤点回避出来てるのは、
あいつのお陰だよなぁ。感謝♪感謝♪)
家に帰ってから、勉強道具などを片付けた後、
手を洗った。
「さてと、数時間VRに拘束されるから、血中アミノ酸
チャージにプロテインとBCAAだな」
始めにレモン風味のBCAAを水に溶かして飲み、
それからプロテインを作ろうとした時、ふと大会の
優勝賞品として貰った未開封のプロテインを見てみた。
(お、これはいつも飲んでるプロテインよりカゼインの
含有量が高いな!)
今回は小手調べにVRゲームを操作してから、
パワーリフティング版のベンチプレスを練習
するため、ゆっくり持続的に吸収される
カゼインプロテインを摂取することにした。
「ふぅ、これでよし。それじゃあ始めるとしますかな」
服の形状をしている身体センサーを着用し、
これまたセンサー付のヘルメットを被ってから、
ゲーム本体のスイッチを押した。
「おおっ!? いかにもバーチャルな画面が出て
きやがったぜ…………何々? 操作したい身体部位を
選べ。お、更に細分化された。目、口、鼻、耳、
頭髪…………頭髪は色も選べるのか」
色々と弄っていると、それだけで10分
経ってしまった。
「いけね、キャラクリ位さっさと決めねぇとな。
取り敢えず体型を俺みたいに……」
体型リストを次々にスライドするも、貧相な身体しか
出てこない。
「体型を俺みたいに……」
時々おっ! となるも、やっぱり細マッチョ以上の
筋肉質な体型が現れない。
「……俺、みたいに!」
スクロールを重ね、やっと大柄な体型が出てくるも…………
「いーや、前腕太くて腹筋無いとか○○イかよっ!」
実際に存在したら、まともに走ることすら
難しそうな、突っ込み所しかない体型であった。
「……どうしたものか」
と、その時
『お困りですか? よろしければミラーメイク
システムをお使いになりますか?』
突然ナビゲーターが案内してきた。
「それって……どういうシステムだ?」
『ミラーメイクシステムは、自らの姿を
最大限までアバターに投影するシステムです。
自身とは別の姿になれるVRゲームの醍醐味を
損なわないよう、投影後に微調整も可能です』
「へぇ~。作り込まれてるなぁ」
キャラクリに関しては、この時点で凄まじい
作り込みだと思った。
「じゃあ投影してくれ」
『かしこまりました』
ひとつ返事で変形したアバターは、まさしく
鏡写しの自分であった。
「まさに鏡に写った俺だな! 筋肉のバルクや
カットまで再現されてら……このままでも良いが、
流石に顔と髪型とかは変えるか」
鏡写しの自分の顔、髪型、髪色を微調整した。
「出来た! テーマは野性味溢れる戦闘民族!」
よく優しそうだと言われる目付きを鋭くし、
後ろ髪を長くし、日光で少し赤くなった
髪の毛を更に真紅へと近付けた。
「服はまぁ……胸はだけさせたロングコートに
紺の皮ズボン、ブーツとかで良いかな?」
これにてキャラクリエイトを終了した。
『それでは、どちらのモードを遊びますか?』
「えーっと……」
『
ノーマルモード : お馴染みのRPGのように、
レベリングと同時にステータスが上がって
いきます。
リアルフィジクスモード : 自らの身体能力を
駆使し、より現実に近い体感で遊べます。
』
『尚、どちらのモードでも、最終目標は魔王討伐と
なり、違うモードを遊ぶ方々とも同時に遊ぶことが
出来ます』
「じゃあ、折角だしリアルフィジクスモードを遊ぶわ」
『かしこまりました。それでは楽しいお遊戯を』
バーチャルな空間は無数の板となり、散り散りに
崩れていった。それと同時に見えた景色は真っ青な
青空、そして彼方まで広がる緑の草木であった。
「ッシャアッ! よくわかんねぇから
走りまくるぜぇっ!!」
隆二は全力で加速する。
加速する。
加速するっ!
「……今何秒経ったんかな? いつもだったら既に
吐いてる所なのに、全く疲れねぇ。それに、
体力測定とか全員リレーの時より明らかに
速く走れてるなぁ」
独り言を呟きながら、全く疲れずにトップスピード
を維持できた。少し体勢を変えたりすると、それに
応じて遅くなったり速くなったりするのがまた、
面白かった。
「おあっ!?」
ちょっとした着地ミスでスッ転んだが、
全く痛くなかった。
「ははは、マジな方の現実だったら全身骨折
していてもおかしくなかったな。さぁて、
他の動作もやってみるかぁ!」
垂直跳び、ハンドスプリング、バック宙、マカコ、
その辺の幅跳び選手を総ナメしかねない飛距離の
幅跳び……ありとあらゆる運動を、盛大な失敗も
含めて楽しんだ。
「おっ、崖だ! だったらやることは1つ!」
現時点で最高速度を出せるフォームで走り、
大分近付いたところで跳躍! そして…………
「どっっせぇぇぇい!!!」
現実で行ったら反動で、足から頭まで全身の骨が
砕けるほどの飛び蹴りを放ったのだ。
「おおっ、痛くねぇけど反動は帰ってくるのな」
ついでに先程発見したHPのゲージを見てみると、
少し減っており、減った部分は黒色と赤色に
別れていた。
「赤色が徐々に緑に戻っていくな。自然回復って
やつかな?」
『操作感は慣れたかな?』
ナビゲーターが話してきた。
「おう、慣れてきたぜ」
地味に微小のヒビが入った崖を見ながら答えた。
『それじゃあ基礎的な戦闘を覚えるチュートリアルに
移ろうか!』
チュートリアルをしますか? という表示が現れた。
「分かんねぇし、やっとくか」
はいを選択した。
『それじゃあ、先ずはゴブリンに攻撃をして、
倒してみようか』
ゴブリンが目の前に現れ、少し緊張感を掻き立てる
戦闘BGMが流れ出した。
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