成長と反省、そして相食む速攻
お待たせしました。また、数日に一回のペースに戻します。
180話
今ここに、私の恥ずべき記憶を語ろうと思います。
あの日、私は三度目のリアルフィジーカーPKに
参加していました。
~4ヶ月前・ミュー、三度目のPK~
この日のPK対象は、後にアグロフラッシュ最強の
呼び声を身に受ける男、アレウスでした。所詮有象
無象の私達の攻撃など、彼にとっては驚異でも何でも
なく、避けられ、弾かれ、利用され…………現実では
的の中央に百発百中な私の矢も、全て回避されて
しまいました。
そして、倒れて泣きじゃくる前リーダーの友人と、
私以外が全てPK返しされてしまいました。
「お、おっ、女の子を殴るなんて、男の風上にも
置けないじゃないですかぁ~~!」
とても情けないことに、この時の私は悪いことを
したことを認知できておらず、恐怖のあまり、都合の
良い言い訳で逃げることしか考えていませんでした。
「…………確かに。女を殴る男はみっともねぇよな!」
すると、彼は私の言葉に納得した様子を見せ、
左掌の上に右手の握り拳を置きました。
「そう! そう! っだから、私を殴るのは無し!」
私はこの言葉にあろうことか、彼が逃がしてくれると
勘違いしてしまいました。情けないことこの上無しです。
「分かった。じゃあ、"現実"では絶対に殴らないよ」
「やった……現実??」
この言葉で、流石の私も我に返りました。当然です、
いきなり良く分からない集団リンチをしてきた相手の
1人です。逃がすわけがありませんよ。
「VRならさ、痛くも痒くもないじゃん?」
「でもっ! ぐわってくるじゃん!」
私はまた訳の分からない事を言っていますが、
このゲームでは、攻撃を受けると痛みの変わりに、
相応の大きさの衝撃や振動を感じます。幾ら
痛くないとはいえ、ビックリはしますし、勢い
良く飛んでくる攻撃を恐いと感じてしまいます。
「顔にも傷が着く訳じゃねぇ。衝撃くらいスリルと
して楽しんだらどうよっ!」
彼はそう言って、私の知覚を超えた速度の拳で
殴り飛ばしました。ごく稀に戦闘したモンスターから
受ける衝撃とは比べ物にならない威力でした。
トラウマレベルの恐怖を感じましたし、HP的にも
即死しました。当然の報いなのですが。
「キャーーー!! う"っ!?」
そして15m先の大木まで吹き飛び、昔所属していた
ギルドへ死に戻りさせられました。
~そして現在~
現在、あの一件から色々とあり、彼の所属する
ギルドで修行を積み、現在はバトル・ロワイアルに
参加しております。
修行の成果を存分に発揮させ、奇襲戦法とはいえ、
そこそこの人数の強者達を倒すことに成功しました。
接近されることもありましたが、アレウスやギルドの
先輩方から教わった格闘術で距離を取り、鍛えた
弓矢の腕で倒しました。
そして、今、憧れのアレウスと全力の一騎打ちを
行っており、出せる力を全て出し、目前の彼の拳が
私の鳩尾に…………
『ドゴッ…………』
…………あれ? これってあの時と同j…
「キャーーーーーー!!」
アレウスのボディブローを諸に食らったミューは、
ハリオアマツバメ(時速170km)以上の速度で
吹き飛ばされた。
「がっ!?」
「うわっ!」
「ゴハッ!」
「デュフッ!(ミューたんにぶつかられて死に戻るなら
本望!)」
1人、絶対に本心を口に出してはいけない奴を含め、
数名のユーザー達を即死させながら、壁間際まで来た。
「う"っ!!!」
そして、かつて大木に叩き付けられた時の
10倍以上の速度で壁にぶつかり、100倍
以上の衝撃を感じながら、客席へと死に戻りした。
~客席~
「ミューたんお帰り~~、凄く頑張ってたね!」
「以前助けられた時と同じくらいカッコ良がったわ!」
マリリン、イシュタルの2人に戦いぶりを称賛された。
「…………ううう~~」
しかし、ミューは悲しげな声を出し始めた。
「気持ちは分からなくないけど、相手はアレウス
だぞ?」
「アイス奢ってあげるから、元気出してよ!
ミューちゃんは本当に良く頑張った!」
クラフトに敗因という名の人物を挙げられ、
ジェルマンに励まされた。
「だってぇ~~! 初めてPKされた時と同じやられ方
だったもん~~! これって、アレウスにとって私は、
昔と変わらないクズ女だって事ですよね~~!?」
最早号泣しながらこの場の全員に問いかけた。
「え~と…………?? ミューたんの昔については
分からないけど、戦闘中のアレ君がそういうことを
深く考えれるとは思えないよ??」
マリリンが少し困惑した様子でフォローを入れた。
「お前が過去の自分を悔い改め、変わり続けようと
していること位、アレウスも我等も十分に知っている。
今回のイベントで、成長も反省点も見えただろうし、
泣いている暇があったら、観戦や応援をしたらどうだ?」
「レオナルド隊長…………」
レオナルドに諭され、少し落ち着いた様子だ。
「そうだぜ、泣いてないで、アレウスのあの姿を
見てみろよ」
「…………あはは」
~闘技場~
「「「「覚悟しろーーー!!」」」」
10人のアーツマスターが徒党を組み、アレウスに
向かっていった。アーツマスターはSAFの格闘術を
極めたような上級jobであるため、ツキノワグマの
ような身体能力の格闘家が10人居ると考えて良い。
「俺の台詞だぜーー!」
時速50~60kmで向かってくる籠手装備の
10人に対し、アレウスも似たような速度で
突っ込んでいった。
「命破連打!!」
時速200~300kmで突き蹴りを浴びせる、
攻撃にもカウンターにも使える技を放ってきた。
(左上段突き! 右中段突き! 右中段回し蹴り!
飛び中段左蹴り! 詰めて左中段突き! 死角からの
右上段突き!……を右上受け左中段突きでぶっ飛ばそ)
それらに対し、初めの上中コンボをその場の体捌きで
回避し、右中段回し蹴りを右後ろに下がって回避。
右足を戻して加速した左中段蹴りを左にずれて回避。
距離を詰めて放ってきた左中段突きを右側に反らして
回避。
その後、死角から放たれた右上段突きを、しゃがみ
ながら右腕を顔面の上にスライドする、右上受けで
回避しつつ、切り返し動作で加速した左中段突きを
鳩尾に命中させて倒した。
「!! 旋風爆下」
このラッシュにカウンターを入れたアレウスを見て、
左の男が回転中は風属性、炸裂時に爆破属性も付与する
踵落としを繰り出してきた。
「ヒャッハァ!」
「がっ!?」
アレウスは右に横跳びしつつ、現状把握が
間に合ってない男を肘打ちで倒した。そして
直ぐに左上に跳ぶことで、眼前の男の下段
飛び蹴りを回避しつつ、踵落とし技の踵と
風圧をギリギリ回避し、下に切り返して脳天を
割るほどの右拳を命中させた。
「「広腕飛斬!!」」
前方中央の男が横に広がる斬撃を、その左の女が
平行に浮きながら縦に広がる斬撃を放ってきた。
(同じ胴着とハチマキ…………格技探求会の
メンバーさんかな?)
アレウスは予備動作中に右前下に潜ることで
斬撃を回避しつつ、2人が格闘系強豪ギルドの
同僚だと推察した。
「チェアアッッ!!」
そして左上に切り返して2人と平行な位置に
飛び出ると同時に上半身を捻りきり、返しの捻りで
両足を超加速させ、後ろの別ギルドメンバーも含めて
顔面に回し蹴りをおみまいした。威力十分な上に
急所に命中したことで、即死だった。
(後4人…………おっ)
右側の1人がドリルストライクを繰り出した事で、
回転を始めた。
(じゃ俺も~~!)
アレウスも、その動きに反応し、蹴り終えて
捻れた身体を再び回転させた。
『ガッ!』
同じ方向に回転し、ぶつかった瞬間に何かが
固定された音がした。
(えっ!?)
ドリルストライクを繰り出した男は驚愕する。
アレウスが同じ速度で回転しつつ、自身の両腕を
掴んだからだ。アレウスの方は両足も空気に固定
しているらしく、最後の一捻りを加え、男を
逆方向から攻めてくる男へ投げ飛ばした。
「は?」
逆方向から攻めてきた男は、突如目の前から
飛んできた掘削機のような何かに腹を貫通され、
状況を飲み込めぬまま死に戻りした。
「目が回る~~!!」
掘削機化した男は、そのまま多くのユーザー達を
抉り裂き・貫きながら、壁まで進んでいく。
「すーpa…」
「させるかっ!」
「ガハアッ!」
右上の男は、自らのAGIで規定の回転速度に
達しようとしたが、旋回中のアレウスが全身を
捻って繰り出した、踵飛ばしとでも言えそうな
蹴り上げで、予備動作中に倒した。
「ホァァアッッ!!!」
最後の男が真横から物凄い速度で突っ込んできた。
「フッ! ハッ!!」
しかし、アレウスは両腕で前方に加速することで、
放たれた拳を回避。それだけでなく、両足で拳を
挟むことで捕縛までした。そのままもう一度の叫びで
全身を捻り、捕縛した男をたぐり寄せ、切り返しの
右ストレートで顔面を殴り、倒したのだった。
「うごあっ!? …………生きt…腕がああっ!?」
1秒半前、掘削機にした男が壁に衝突したようで、
辛うじて瀕死で生き延びていたが、両腕が裏ダンジョン
に行った時のアレウスのように、グニャグニャに折れて
いた。
(ジュラシックパークを思い出す。あの人も関節外しwo…)
「しまった!」
動揺している間に、ヒットマンの重火器に撃ち殺された。
(ダメか、やっぱこんなの人体解剖図に精通
してなきゃ、直ぐに編み出せねぇよな)
今みたいな切っ掛け、関節の着脱可能な骨格、
人体骨格知識の精通、キチガイとも言える好奇心が
なければ、関節外しには目覚めれないだろう。
(それに、習得して日が浅い内は、関節を外すだけで
反動ダメージに準ずるダメージを受け続ける事になる。
ここでの習得は皆厳しいだろうな)
そう思いながら、五感と第六感を駆使し、次の獲物に
向かっていった。
~客席~
「いや、何あの動き」
「武器も特技も使わず、筋力と体術だけであれを捌いたな」
ミュー、クラフトは、アレウスの動作速度に
ドン引きしていた。
「フッ、今のところ、関節1本も外してないのか。
ジャンヌとレイルが組みでもしなけりゃ、アレウスは
暇になりそうだな」
この様子に、レオナルドは両手を広げて首を振った。
「イシュちゃん、関節なんて外さなくても良いん
だからね!」
マリリンは、本人なりに心配して、イシュタルに
忠告した。
「…………ええ(でも…………関節外しをマスターすれば、
杖のトップスピードが更に上がるかも…………)」
イシュタルは、返事こそ返したが、自分自身の
パワーアップ引き起こすトリガーかもしれないと、
考え始めた。
~闘技場~
「オラオラオラオラァ!!」
やはりというか、この男は対戦者を悉く打ち倒し、
そして高頻度で吹き飛ばしていた。
「うわあっ!」
「こんな死に方ッッ!!」
吹き飛ばされたユーザー達は、流星群となって、
遠方のユーザー達に被害を与えていた。
~遠方~
「はああっ!!」
ジャンヌが大剣を薙ぎ、3人纏めて倒した。
「あれは…………ふん!」
「やべでっ!」
遠方から猛スピードで人が飛んできたので、
大剣の面で打ち飛ばした。
「うおっ! 何だコイツは…………」
そのユーザーは、壁際にいたレイルの手前で
壁にぶつかり、死に戻りした。
「レイルか」
「ふざけないでくださいよ、副長」
またまたアグロフラッシュ同士の対戦カードが揃…
「故意ではない。原因はあれだ」
「…………」
レイルは、ジャンヌの挙動に最大限の注意を
払いつつ、彼女が指差した方向に片目を向けた。
「…………そーですよね、んなこと一番するのは、
アイツですよねぇ~~!」
アレウスが人を飛ばす様子を見て、納得した
様子を見せた。
「そこでだ、一旦お前と私で組んで、奴を仕留める
のはどうだ?」
「ははは、俺ら先輩の威厳が皆無ッスね~~。けど、
これくらいの覚悟がなきゃ、奴は仕留められませんね!
乗った!」
「よし、早速仕掛けよう」
2人は、人が居なくなりつつある、アレウスの方へと
向かった。
「チェックメイトォォ!!」
「ギャーーーー!!」
アレウスはとうとう、付近を完璧に掃除しきって
しまった。
「おっとぉ!」
巨大な飛ぶ斬撃が放たれる寸前、横移動を行った事で、
紙一重の回避に成功した。
「副長!」
背後から飛来したダガーも避けた。
「レイルさん!」
再び飛んできた斬撃も回避した。
「とうとう!」
「うおあっ!!」
そして更に飛んできたダガーを回避しつつ、蹴りの
カウンターを行ったのだが、レイルは咄嗟に両肘で
ガードし、ダメージを全HPの4割に抑え込んだ。
「チッ、流石アレウスだな」
レイルは回復ポーションを飲みつつ、アレウスの
強さを再確認した。
「だが、私達も古株として、お前相手でも倒すことに
決めた。逃がさないぞ」
ジャンヌも接近し、レイルと並びながら宣言した。
「面白くなってきましたね~~。俺も全力で2人を
倒しますぜ!」
近接物理の3人が激突する!
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
星や、ブクマを着けてくださると、執筆の励みに
なります!
総合ポイント2300pt達成! いつも読んでくださり、
ありがとうございます。




