近距離物理VS遠距離物理
あの2人が遂に衝突! それぞれの成長はいかほどか。
179話
「はっ!!」
「マリリン様、お疲れ様です♪」
マリリンは、何時の間にやら会場に戻されており、
隣からイシュタルの声が聞こえてきた。
「イシュちゃん。恥ずかしいとこ見せちゃったね」
レイルに負けてしまった為、苦笑いしながら
そう話した。
「いいえ、レイル様との戦いも含め、素晴らしい
立ち回りでしたわ。私だと、正面こそ吹き飛ばせても、
いつの間にか背後からやられてしまいますわ」
対するイシュタルは、心底尊敬の眼差しを向けながら、
マリリンの戦いぶりを褒め称えた。
「お前は十分に力を見せつけてくれた。後は
皆の応援を頼むぞ」
レオナルドも称賛の言葉を簡潔に述べ、試合観戦を
楽しむように促した。
「イシュちゃんも隊長もありがとうございます。
ギルドの力を示せたなら、光栄だわ」
2人の称賛に安堵の笑みを浮かべるマリリンだった。
「お、マリリンさんだ」
「試合、お疲れ~」
クラフト、ジェルマンがアイスクリームを片手に、
帰還したマリリンを労い始めた。
一方、球形闘技場では…………
「おおおおっ!!」
「「「ギャアアアアッ!!」」」
アグロフラッシュ副長のジャンヌが、群がってくる
ユーザー達を、大剣を立体的に振り回すことで、
バラバラ死体に早変わりさせていた。
「隙あり!」
「甘い!」
剛術家が、超スピードで殴りかかる技を繰り出して
きたが、上半身を傾けることで籠手を回避しつつ、
同時に繰り出した足刀蹴りの一撃で、倒してしまった。
「ヒャハハハァ!」
「複数ならどうだぁ!!」
「ははははハヒャア!?」
グリムリーパー、ソードマスター、アーツマスター
…………これ以上の速さが思い付かない上級job3人組も、
動きを見切って繰り出した一閃により、真っ二つに
切り裂いてしまった。
「AGIはそんなに高くない筈…………」
「動きも絶望的な速さじゃない…………と思う」
「なのに何故…………当たらない…………??」
特段速くないのに、自分達の攻撃は当たらず、
返り討ちに合う。不可解な現実に、ユーザー達は
頭を悩ませた。
「経験と動作効率の差だろ」
そう言って、まるで自然現象の一部の如く、
ユーザー達に大剣を命中させていった。
『ドン!』
『キン!』
「ノロイ」
「ギャアアッ!?」
遠方からの狙撃も、僅かな余裕を用いて大剣の
面で反射し、他のユーザーの脳天を貫いて見せた。
「じゃあ…………その反応速度h……ギャッ!?」
「さぁな、他は自分等で調べてくれ」
そうして切り捨てていく内に、とうとう彼女の
周囲にはユーザー達が居なくなっていた。
~アレウスサイド~
「おおおっ!!」
「ここだぁ!!」
ライオンの最高速度で突っ込むアレウスに対し、
大剣を装備した上級job・バスターロードの男は、
刺し違え覚悟で得物を振り下ろした。
「カウンターの」
アレウスは、大剣の間合いスレスレで身を翻し
つつ、右足を加速した。
『ガァァアン!!』
「!?」
右足の踵は大剣を横へと大きく弾き飛ばし、男の
身体も慣性の法則で斜め横へと動いた。アレウスは
右足の速度を減速させると同時に、左足を宙に
浮かせた。そして上半身を逆向きに捻り…………
「カウンター!!」
強烈な飛び回し蹴りで、自身の6割の体重は
あろう男を彼方へと吹き飛ばしてしまった。
「死角からドーン!」
右足に力を込め、刹那の合間に左足にも力を込め、
両手にも力を込め、斜め上方向に急加速し、こちらに
全く注意を向けてなかったユーザーを弾き飛ばした。
「アレウスだー! 逃げャアアッ!!」
更に鋭角気味に加速し、こちらに気づいた
ユーザーが反応できない速度で頭突きして
倒した。
「終わりだー!」
「死ぬ~!」
「「「「ギャアアアアッ!!」」」」
筋肉の塊のような巨漢が、まるでミサイルの
ような速度で立体的にジグザグ移動しながら、
腕利きユーザー達を蹂躙する。こんな光景が
此処彼処で見られるものだから、試合開始5分の
時点で、アレウスと出会ったら死亡確定という
認識が、全ユーザー間で共通となった。
(水を得たサメ…………檻から出たライオン…………いや、
絵巻物から出た龍ね。アレウス恐すぎるよ~~)
物陰から乱闘中だったり、油断しているユーザー達を
狙撃しているミューは、自らユーザー達に突っ込み、
完封しているアレウスを見て戦慄していた。
「うおおおおっ!!」
「危なっ!!」
「クソオオッ!!」
間一髪、正面から向かってきたブリガンドを、
迎撃することに成功した。
「油断大敵油断大敵…………」
チラリと下を向くと、下着を覗こうと奮闘する
変態達が見えたので、片手間に射殺した。
(でも…………)
更に上の女達を狙う変態ごと、強者を
薙ぎ倒していくアレウスを見る。
(こんなことしていても…………彼は絶対に振り向いて
くれない…………)
矢を弓につがえ、アレウスを狙い定めた。
~闘技場・上方~
「「おらっ!」」
2人のソードマスターが、同時に足元と
顔面付近を斬りつけてきた。
(えっ?)
(小さっ!!)
しかし、アレウスは持ち前の関節柔軟性を活かし、
身体を丸めて上下80cm程に圧縮。そこから全身の
筋肉を最大速度で収縮させ、ノーモーションから
2人のソードマスターを一撃で沈める、飛び中段
両足回し蹴りを放った。
(殺気!)
大胸筋の間から、顎、脳天にかけて突き刺さる
ような殺気を感じた為、全身を後退させた。
『ボッ!!』
「かなり速いな」
音が聞こえてから矢が通りすぎるまでのラグが
短く、相当な速度で放たれていたようだ。
「今度は相当大量に撃ってきたなぁ」
雨のように大量の矢が下から上へと登ってきた。
アレウスは1本1本の速度差を把握し、最小限の
体捌きで避けきってしまった。
「もう俺に挑む覚悟が出来たのか?」
下から見上げるミューに問いかけた。
「そうよ。私、アレウスを射抜いてみせるつもりだから」
ミューは緊張しつつも、覚悟が決まった表情で
答えた。
「そうか。四半期で積み上げた力、見せてみろ!」
アレウスはそう言って、直線的に猛加速した。
「絶・強射!!」
対するミューは、弓の風属性と、矢の爆破属性を
活かした単純に高速・高威力の一撃を放った。
(分かってるじゃねーか)
アレウスは、いとも容易く方向転換を行い、
避けてしまった。
高速で直進する相手には、高速の攻撃が痛恨の
一撃となる。アレウスは、ミューが基本を固めきった
事を理解し、成長を肌で感じていた。
「乱射・誘爆大破!」
ミューは次に、大量の矢を放った。その一つ一つに
爆破属性が付与されており、最後に放った矢が、その
直前に放った矢にかする事で、大爆発が巻き起こる。
『ボゴゴォォン!!』
「逃がさないわ。曲連射・竜巻乱陣!」
アレウスは、単純に高速で下へ突っ切ること、
爆発を避けきった。ミューは次に、3本ずつ弓に
矢をつがえ、合計18本放った。
弓と矢、両方の風属性が互いを増幅させ合い、
周囲に無数の竜巻を巻き起こした。
(こりゃ移動しづれぇわ。矢の速度は限界あれど、
属性との複合で苦しめてきやがるか)
うねる風により、思うように移動が出来ない。
しかし、アレウスは最近急発達しつつある皮膚感覚を
頼りに、逆に空気抵抗の低い領域を発見し、そこから
接近を試みた。
(締めよ。無数の竜巻に、爆破と炎をブレンドする!)
ミューは、アレウスといえど、竜巻で動きに制限が
かかっていると仮定し、その竜巻に爆炎を巻き起こす
べく、とどめの行程を開始した。
『カッッ!!』
現在生存している全ユーザーが振り向く大爆発が、
巻き起こった。
「ど、どうかしら…………流石ni…ッッ!!!」
背後にあまりにも大きな気配を感じた為、振り向き
様に渾身の右ストレートを放った。
(後ろッ!!)
今度は後ろから気配を感じ、前のめりの状態から、
後ろ蹴りを繰り出した。
(左ッッ!!!)
そして左から気配を感じ、握っていた弓を振るって
打撃を繰り出した。
(前…………!!!!!!)
が、それら全ては空振りに終わり、いつの間にか、
眼前にはロングコートからはみ出る大胸筋と、腹直筋
上部が視界一杯を埋め尽くしていた。
「強くなったな!」
『ドゴッ…………!!』
命の危険を察知し、加速し続ける時間感覚の中、
腹の底から鈍い打撃音が聞こえ、強い衝撃が襲って
きた。
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5/12 お待たせしています。本日の19:00~
19:20分に投稿予定です。




