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開戦の爆音

思わぬ切っ掛けが、両勢力を引き合わせる。

172話


「はぁ!? 怠惰隊の…………実働隊まで捕まっただと!?」


 壁全体に黄金の塗装が塗りたくられた、悪趣味な部屋。

そこで、グラサンスーツ姿の中年がわめき散らした。


「は、はい…………組の痕跡を見られぬよう、警察を

足抜けした最後の仲間から、去り際に()()(ぞう)達が

捕まったのを確認したと報告を受けました」


 部下と思われる若いグラサンスーツが、ビクビク

しながら報告をした。


「ぐぬぬ…………あの場所には…………並月高校

には…………どんな怪物が潜んでいるというの

だ…………!?」


 したっぱはいざ知らず、実働隊となるとそれなりの

腕利きと認知されており、それを倒す存在に戦慄した。


「そして、本来実働隊が捕まった時の為に警察に

潜入させたのに、したっぱを助けて実働隊をみすみす

機能不全にしたスパイの男は、罰が必要だな」


「!!、は、はい…………(うわぁ~…………折角

仲間を助けたのに、罰せられるスパイ君可哀想

すぎだろ…………)」


 部下は内心で、看守に扮していた仲間を哀れんだ。


「お前、理由は分かるよな?」

「はい、立て続けに敗北することを想定せず、

先走って弱者を救った結果、全体の戦力を

下げた愚行を行ったからです!」


「その通り。奴は、怠惰隊のしたっぱ共は…………

そして、事態をここまで大きくし、高校の次期組員

候補を育て上げられなかった挙げ句、脱走された

憤怒隊のしたっぱは、相応の罰が必要だ!」


 上司は楽しそうに、下の者への罰を思い浮かべて

いる。


(憤怒隊のしたっぱが、罰せられるのは分かるけどさ

…………七罪組は絶対に負けず、下に見られてはいけない

とか教えられているスパイ君が、怠惰隊の実働隊の

敗北を読めずに、したっぱを助けたのは仕方ないんじゃ

ないのか?)


 上司に従いつつも、部下は内心では、スパイを

していた仲間に同情しか沸かなかった。


「失礼します! 先ほど、北方14km先の遊戯施設

『酒池肉林』付近から、音爆弾のような高周波が

検出されました!!」


 別のスーツ男がドアを勢いよく開け、報告した。


「敵対組織の活動…………いや、あの付近には生意気な

チンピラ軍団『レールガンズ』が居たな…………」

「…………奴等は義賊を謳って居ますので、堅気に

迷惑をかけないのでは?」


 敵勢力の特徴から、浮かんできた疑問点を

聞いてみた。


「フン、そんな古くてダサい思想を本気で崇める

バカは、もう居ない」

(その古くてダサい思想に憧れてヤクザを始めました

なんて、口が裂けても言えねぇ…………)


 部下は仁義を重んじる極道に憧れていたが、

何故かチンピラ軍団な七罪組に入ってしまった

ようだ。


「そうだなぁ…………嫉妬隊のしたっぱでは相手に

ならなかったらしいし、ここは実働隊にしたっぱ

3グループを着けて、原因究明と露払いをさせようか。

おい、早速指令を送れ」

「はっ!!」


 こうして、七罪組の嫉妬隊は、大きな戦力を

動かすことになった。


~酒池肉林・カラオケボックス~


「顔を凹ませ、四肢千切る~♪」

(ははは、足坂先輩は相変わらずアクサツジャーの

テーマが好きだなぁ)


 修人が3年前に流行った少々過激な戦隊モノの

テーマを歌っており、光輝は彼の相変わらずさに

笑みを浮かべていた。

 一方で


「あー、かいー」


 隆二は腫れていないが真っ赤になった頬を擦り、

痒そうにしている。


「大丈夫か? しかしダメージ受けてるのか

受けてねーのか最早わかんねぇなぁ」


 拓人が心配すべきなのか、しなくて良いのか

分からない様子で隆二に声をかけた。


「インパクトの時も含めて、全く痛くなかったが、

滅茶苦茶痒い」


 隆二はそう言いつつ、顔全体を赤くして俯いている

美優の方を見た。


「なぁ美優…………お前がビンタした時の手に、変なバイk…」

「なぁに?」


 隆二が問いかけようとすると、般若を超えて

悪魔のような形相をした美優が聞き返してきた。


「…………いや、何でもねぇ」


 流石の隆二も聞くのを止めた。というのも30分前、

隆二の声でカラオケ機器がハウリングを起こした際、

全員が気絶した。美優以外は15分以内に起きたのだが、

隆二の声を良く聞こうとしていた美優は、25分経過

するまで起きなかった。

 そして、起きる直前に寝ながら隆二への好意を

述べてしまい、飛び起きと同時に、恥ずかしさから

隆二をビンタしてしまったのだ。直ぐに謝ったとはいえ、

漸くしてから隆二は叩かれた頬の痒みを訴え始めた。


「あんのビンタ、拓人以下の肉体強度だと、頭蓋骨

粉砕しかねなかったからなぁ~~」


 武三が美優ビンタの威力について、思いを馳せている。


「本当にゴメンね…………ううう……………………」


 美優は恥ずかしさと罪悪感、そして…………


「まぁ、仕方ねーさ、現実だと何とも思ってねー奴が

夢で超絶イケメンになるなんて良くあるし、ましてや

俺が夢に出たなら憤る気持ちも分かる」

(違うよぉ~~~~!!!!)


 隆二が顔は兎も角、心情的に真逆の解釈をしている

事実に打ちひしがれ、泣くしか出来ないのだ。


「まー、美優、獣二も許してくれるみたいだし、

肉でも買ってあげたら?」

「うんうん、いつまでも泣かないの」


 女友達2人は美優を立ち直らせようと背中を

撫でている。


「っしゃ! 90点超えた!」


 修人が歌い終わり、点数に喜んでいる。


「何か凄いことになっちゃったし、カラオケは

お開きにする?」


 法二が提案した。


「そうだな」

「潮時だな」


 隆二、拓人を中心に、全員が賛成を示した。


~外~


「プハー、そろそろおやつの時間だな」


 プロテインを飲み干した隆二が時間帯を言及した。


「隆二…………欲しい肉、何でも言ってね…………」

「あー、本当に気にしてねーから、あんまり重く

受け止めないでくれ…………そうされると、互いの

筋肉に悪影響だし」

「そ、それって…………」

「インストラクターの練習をしている以上、

お客さんの筋肉コンディションも考えて当然だろ?

後でうちで筋トレしようぜ」

「うん…………」


 最後の言葉によって、美優の表情は大分普段の

ものに近くなった。


「けど折角だしもうちょい遊b…危ねっっ!!」


 隆二は大きく飛び下がった。それとほぼ同時に、

コンクリートの地面に弾痕が出来、銃弾が向かいの

ビルの強化ガラスに弾かれた。強化ガラスは銃弾を

弾いたワンテンポ後に、粉々に散った。


「キャアッ!?」

「何だ!?」


 オフィスで働いていた社員達は、動揺する。


「ママー、あのお兄ちゃんスッゴくジャンプしたー」

「…………うん、凄かったね」


 地上でも、子供が2mほど跳んだ隆二に喜ぶ中、

母は不安げな様子を見せていた。明らかに銃声が

鳴り響いたからだ。


()(ろぉ)!! 遂に出やがったなぁ!!」


 隆二は着地後、武三が持っていたボーリングの

マイボールを掠め盗ると、500m先のビルへ、

関節を外した投擲フォームで投げ飛ばした。

 武三のマイボールは新幹線に匹敵する速度で

飛んでいった。


~ビルの頂上~


「クソッ! 遠距離狙撃を避けるって何だよ!?」


 ライフルを構えたヤクザが大きく動揺している。


「流石に2度目は…………んん?」


 再び隆二の頭に照準を定めたが、突如謎の

暗色球体にスコープいっぱいを覆われた。

構えを解き、少し起き上がった瞬間


「ガボッ!?」


 球体はライフル銃を弾き、男の腿にぶつかってから、

人が居ない場所へと落下していった。おそらく落下と

同時に砕け散るだろう。


「ギャアアアアッッ!!」


 ライフル銃は鉄格子に当たったことで、曲がって

使い物にならなくなり、男の右腿の骨も複雑に砕けた

ので、1年ほどはヤクザを出来ないだろう。


~事件現場~


「お、俺のボール…………」


 武三が涙目になり、ただただ悲しみに明け暮れている。


「隆二! あなた武三に恨みでもあったの!?

酷すぎる!!」


 美優が、流石に酷いと隆二を責めた。


「恨みなんてねぇさ。ヤクザが狙撃してきたから、

倒すために咄嗟に使わざるおえなかった。すまなかった」


 落ちてきた銃弾を左手に取り、弁明した。


「これは本物の銃弾だ…………」

「奴等…………こんなところまで狙ってきたのか…………??」


 この事実に、法二と拓人は事態の重さを把握した。


「皆逃げよう、流石にヤバすぎる!」


 光輝が焦りながら逃走を提案し、黒羽が

うんうんと頷いた。


「全員無事では無理だな。囲まれてるぜ」


 隆二はあちらこちらから感じるヤクザの気配、

そして声から、自分がどれだけ奮闘しようとも、

全員五体満足で逃げるのは不可能だと判断した。

 加えて、中途半端に全力を出して逃げると、

追い付かれた時にスタミナ不足で殺されかねない。


「金子の言う通り、ゲス特有のクセェ気配が

プンプンするぜぇ…………。てなわけで、雑魚は

あの隙間に隠れな、そんで強めの4人で固まって、

ボコるぞ」


 修人も過去の修羅場で殺気感知を身につけて

いたようで、隆二に同意し、具体的な指示を

出した。


「女子は僕と道先君が守ります! どうか前線を

お願いします!」


 もしもの時、運動神経抜群の法二が中心で、

女子を守る事になった。そして女子4人は、

拓人主導で複数の警察に通報を開始した。


「先輩、ご武運wo…」

「光輝ぃ、テメェは一緒に殺り合うぞぉ!!」

「いやいやいやいや無理でしょ!?」


 修人は光輝も頭数に加え、円陣を固めた。


「よくもまぁ、今まで組を虚仮にしてくれたなぁ…………」


 筋肉質だが、肌が病的に青白いヤクザが隆二達を

威圧してきた。


「へっ、虚仮にされるほど雑魚なのがいけねぇんだよ、

烏合の衆さんよぉ」


 修人はターゲットを自分に集中させるためか、

或いは気持ちの昂りを抑えられないだけか、

挑発で返答した。


「殺せ」


 リーダーの一言で、玉石混淆(ぎょくせきこんこう)のヤクザ達は、

武器を手に襲撃してきた。


「流石にしつこすぎる。1人残らず2度とこんなこと

出来ねぇ身体にしてやる。ゴミクズ共め」


 隆二からすれば、幾度となく命を狙われ、親友を

襲われそうになった。至って冷静であるが、その心は

青く静かな、全てを気化させてしまう怒りを燃やしている。

最後までお読みくださりありがとうございます。

評価、ブクマを着けてくださると、執筆の励みに

なります。

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