ライ・ド・ォン!
青空イベント開幕~~!!
158話
「アレウス、ウィント、ウッディ、クロウズ。便りに
してるぜ」
「おう」
ゴーグルを被り、飛行機の操縦席に座るクラフトの
問いかけに、アレウスは返事1つを返した。
今、フルダイブ型VRゲームのScience And
Fantasyで、大空を舞台に様々なイベントが
開催されている。その初日である今日は、2人
1組で飛行機に搭乗し、レースを行うのだ。
「ヤッホー、アレ君クラ君。スゴいねー、この飛行機。
本当に射撃特化型って感じだよ~」
「レースで敵になる私達のマシンも手を抜かない辺り、
クラフトの情熱が伺えるわね」
同じギルドの女性2人が話しかけてきた。攻撃魔法
jobのマリリンが魔法射撃を行い、弓系jobのミューが
物理射撃と操縦を行うようだ。
「そりゃそうさ!…………けど、4機も作るのは流石に
堪えたぜ」
クラフトは自慢げに胸を張ったが、それまでの
過程を振り替えって苦笑いした。
「お疲れさん、流石は発明道を突き進む秀才だな」
1番のマブダチであるアレウスは、彼の発明方面の
実力も、よく把握しているのだ。
「でも、試合は手加減無しよ。何なら速攻でその
マシーンを(アレウスのハートごと)撃ち落として
あげるわ」
「アレ君相手でも、今回ばかりは引かないわよ」
「ああ、俺を発明だけのスペシャリストと侮らない事だぜ」
「(ミューの突き刺すような視線…………本気で俺達を
倒すつもりだな)面白い、俺もひと暴れしてやるぜ」
互いに闘志を高めあった。その時。
「盛り上がってるね~」
「よ! クラフトはマシン作ってくれてありがとな!」
「ジェルマンさんにレイルさん。ちゎーっす」
「いやいや、発明家冥利に尽きるよ」
男2人ペアが現れた。近距離で瞬殺するアサシン系
のレイルと、中距離以降から瞬殺するガンマン系の
ジェルマンだ。このペアは、レイルが操作専門で、
ジェルマンが狙撃専門となる。
「フフン、レイル~。今回ばかりは、あたしに
"手も足も出なくて"残念ね~」
と、マリリンが言うのは、普段は鬼ごっことかで
頭をグリグリ等と手を出せるが、今回はずっと操縦
するので、直接攻撃が不可能だということだ。
「なに、俺の隣には優秀な狙撃主がいる。嘆くことは
ねぇさ。それよりもマリリン、そんなはためきそうな
ローブ着ていて、突風で飛ばされたりしないか?」
「!!」
レイルの返しにマリリンが反応したのは、実際に
外部との隙間が空いた飛行機に乗った際、マリリンが
強風で1人だけ飛ばされそうになったからだ。
「まぁ、風は外部と密閉されているから大丈夫
ですけど、ジェルマン先輩が敵に回るとなると、
ゾッとしますね」
ミューとジェルマンは並んで狙撃することが
多いため、互いの実力は良く把握している。
「そうだった! というか、これに関してはアレ君
より驚異よ!」
マリリンも事の危うさに気付き、動揺した。
「つー訳でぇ、優勝は俺達が頂くぜ!」
「まあまあ、お手柔らかによろしくね!」
この時、3人は威勢の良いレイルにも、笑顔が
輝くジェルマンにも恐れを感じていた。
「っおおおーーー!! お手柔らかに撃って避けて
ゴールしてやるぜぇ!!」
アレウスのみ、恐れるどころか更にテンションを
上げていた。しかし、本当に恐ろしいペアは、もう
2人の仲間であると知るのは、試合が始まってから
だった。
そして着々と準備が整い…………
『それでは第2回スカイレースを始める。位置に
ついて…………』
100を超える戦闘機が並ぶ。正に騒然という
言葉が似合う景色が出来ている。
『よーい…………スタート!』
「今だ!」
「どっせぇぇい!!」
「ニャゴロッッッ!!」
クラフトがアクセル全開にしたのは勿論の事、
アレウスは漕いでいた自転車のハンドル部を鉄槌で
殴り、ウィントも、走っていたランニングマシンの
スイッチを可愛らしい肉球で押した。
『ドゴォォォオオン!!』
すると、爆音と共に戦闘機が爆発的に加速した。
準大型機でありながら、小型機の加速力に匹敵
している。
「あーー! 抜かされたーー!!」
これを見たマリリンは、自分達が置き去りに
されたことに歯軋りをした。
「いいえ、アレウスを活かしたギミックがそう多く
あるはずはありません。私達は私達のペースで
進みましょう!」
「うん! それしか無いよね~!」
ミューは四方から飛び交う狙撃を回避しながら
着々と順位を上げている。中型機故に、後半の伸びを
活かして小型機を抜いているのだ。
「発射!」
「うぎゃあああっ!」
「右翼ぶっ壊れたーー!!」
そして、煩わしい敵は、逆に狙撃して打撃を
与えていった。
「魔導砲用意!」
すると、周囲の戦闘機が一斉に魔力攻撃の
準備をしてきた。
「甘いわね!」
「用意完了です!」
「ご苦労」
ミューに一言だけ労いの言葉をかけたマリリンは、
一息だけつき…………
「サンダーボルト! ボルカノフレイム! トルネード!
ギガロウェイブ!」
一瞬にして、4つの上級魔法を詠唱した。彼女の
得意分野である早口だ。
「「「「大破! 大破ぁぁぁああ!!!」」」」
1機から、四方八方に魔法攻撃が飛んでくるなど
誰も予想している筈もなく、ある戦闘機はエンジンが
爆発して解体し、ある戦闘機はシステムオールダウンに
よって墜落し、ある戦闘機は大質量の水の直撃で
スピンをし、そしてある戦闘機集団は、竜巻によって
もつれあったのだ。
魔法は飛ぶ対象に凄まじく効くということだ。
「流石です! 先輩!」
「ミューたんも、華麗な操作テクニックを
見せつけるのよ!」
「はい!」
この2人は、着実にアレウス達へと接近していた。
ここで他の選手達も見ていこう。
「オラオラァ、どけやどけーーい!」
「なんだぁぁあ!?」
巨大にも程がある戦闘機が、他の戦闘機を
圧倒的質量で弾き飛ばしながら進撃してきた。
流石に最速ではないが、防御性能なら、他の
追随を許さないだろう。
「アカギ、今回ばかりはお前の意見が正しかったな」
「そうだろレオン、最速機械なんて誰でも考える
からな、最重量機械で挑んだまでさ」
そう、これは迷惑ユーザー達の筆頭2人が乗った
機械なのだ。
「はっはっはぁ! ゴミ共の狙撃なんざ効くわけ
ねぇよなぁ!」
「そうだな。…………ん? 高度が下がってるな」
「少し上昇するか」
レオンもそう反応したので、アカギは機体を
浮かせるように操作した。
「おかしい、上がらねぇぞ」
「何!?…………まさか!」
上では…………
「いいぞ~! その調子で押し下げろー!」
「何度BANされてもやり直すその精神は感服するが、
だからって俺達は、指くわえて害を与えられるほど
優しくはねーぞー!」
「お前らの質量でお前らは自滅だー!」
複数の機体から、安価な質量弾が撃ち落とされて
いた。下方向のベクトルを与え、墜落を狙っているのだ。
「くそっ! おいアカギ! やっぱりお前の意見は
使えねぇな!」
「黙れ中二病! 文句あるなら降りろや! 糞が!
上がれーーー!!」
慟哭虚しく、基本スペックからして揚力が少ない
この機体は、最早墜落以外の未来が無かったのだ。
そしてもう1組の迷惑ユーザーペアは…………
「この武装! 完璧だぁ! 待ってろよ、ミュー!」
「デュフフ、楽しみだぁぁ…………」
ミューに恨みがある、彼女の元リーダーの
ウィルソンと、彼にでまかせを吹き込まれた
メタボなユーザーが、砲撃に特化した戦闘機を
走らせていた。しかし…………
「おっせぇな! 断トツビリじゃねーか! 最早
砲撃も届かねぇし!!」
全てを砲撃に極振りした結果、最早取り返しが
つかない程遅れていた。
「お、おれ言ったよなぁ…………?? エンジンを
砲撃に回したら、速度が激減するって」
「それを何とかするのかお前の仕事だろ!
クソデブ!!」
「何だと!? 言わせておけばこの無能が!
一生薬草を採取していろや!」
遂にはレース順位が確定するまで終わらない
口喧嘩へと発展していった。
そして、2週間前にお騒がせしたあの男は…………
「ベリベリファスト! アーンド、インチョレス
ティング!!」
「オウイェーー!」
2代目コタロウ、そして、初代を勤めた男が
ペアを組み、ただただ速度に優れた機体を爆走
していた。ただし、速いということは、小回りが
効きにくい事の裏返しであり…………
「曲がれねぇ!!」
「オーノー!!」
『ドゴォォオン!!!!』
突き出た岸壁に衝突し、木っ端微塵に粉砕したの
だった。
「あっ、リーダー達死んじゃったわ」
「まー、こうなることは分かってたけどねー」
ギルドの幹部格のくノ一と忍が、呆れた様子を
見せていた。
そして、悪夢は動き出す。
「イシュタル、ありったけの魔力を注入するのだ」
「はい、隊長」
鎧を着込んだ最上級jobの男が、美麗麗しい
中級魔法系jobの女に、彼女の魔法をブースターへ
注入するように命じた。
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