ゲームと夢での白熱試合
ここからしばらくは現実パートが多めになります
128話
「はい、アーン」
「黒毛和牛…………芳醇な旨味にほんのりと甘味が
混ざって実に絶品…………ゴクリ」
「アレウス、アーン」
「フォアグラ…………香辛料の辛味と鳥肉の自然な旨味、
歯応えが絶妙なハーモニーを奏でる…………ゴクリ。
って、何でお前らに食わされてんだぁ!?」
そう叫んだアレウスの両膝にはそれぞれ1人ずつ
ピンク髪の女が座っていた。
「もー、アレウス君は黒ひげ…………クロクマだった
あの魔王軍幹部を打ち破った中心人物なんだよ~?
これくらいしなきゃ~~」
「そうそう、それに私達が将来楽して生きていく
ための訓練にもなっているのよ~。力を抜いて
お手伝いしてよ~~。ね?」
2人揃ってアレウスの片腕に纏わりつき、何かを
自己主張してきた。
「全く2人とも…………将来、哀れな男から一体何億円
搾り取るつもりだ??」
アレウスは心底呆れながら聞いた。
「さぁ~ね~~。でも」
「億じゃあ足りないかもね~~」
2人は顔を合わせながら笑顔で語り合っている。
何時の間にやらかなり仲良しになったようだ。
「恐ろしい事だぜ」
「よーーーし! 折角いろんなギルドから集まってる
しぃ、腕相撲大会をやるぞぉーーー!!」
大勢集まった事を良いことに、有志で腕相撲大会が
始まった。
「うっし、景気付けに参加してくるぜ」
「グリムリーパーの中でSTRが強いからって、
大丈夫なの?」
意気揚々と参加するレイルに、マリリンは
STR不足を指摘した。
「平気さ。1つ策があるんだよ」
対戦者と共に樽に片腕を置いた。
「兄ちゃんよ、戦闘能力はスゲェんだろうが、俺と
腕相撲するにゃ、STR不足だと思うぜ??」
筋骨隆々おっさんアバターの男が注意喚起をした。
jobもジャンヌと同じグレートウォリアーな辺り、
本当にSTRを求めているのが伺える。
「心配無用。俺も無策じゃ無いんでな」
レイルは少しも臆することなく、わざとらしい
笑みを返した。
「レディ…………ファi…」
『ガッ!!』
「ほぁ!?」
レフェリーの合図とほぼ当時におっさんの腕が
樽に叩きつけられた。
「答えは簡単。相手が力を出す前に、俺が力を
込めるのさ。またいつかやろうぜ、おっさん」
「お、おうさ…………覚えてろよ!」
「反応速度とRFD、高速時の力発揮の観点からは、
確かにAGIの高いレイルさんが有利だよな」
「ああ、それに何だかんだで、アバターの中の本人の
感覚や身体能力も大切だと思うぜ。面白くなってきた!」
こうしてアグロフラッシュの武闘派達は、順調に
勝ち進んでいき、次第に同ギルド同士のバトルも
散見されるようになった。
「副長、悪ぃがSTRだけでは俺に勝てませんぜ?」
「フッ、そっくりそのまま返してやろう。仮初めの
AGIで私を上回れると思わないことだ」
それは、準々決勝での出来事だった。
「レディ…………フah…」
「しゃっ!」
「フッ」
「アアアッ!???」
一瞬ジャンヌ側に腕が傾いたかと思いきや、瞬時に
切り返されて、レイルの腕が樽についたのだった。
「惜しかったな。暇なときに付き合ってやるよ」
「ど、どうなってんだ?? 俺と副長のAGIの差なら、
上手く反応できれば俺の勝ち確の筈なのに…………」
「アレ君の言ってた中の人の反応速度の差じゃない?
副長も隊長並みにただ者じゃないもん。レイルに
しては頑張った方だと思うわ」
マリリンとしては普通に称賛したつもりだったの
だが
「てめぇ…………わざとおちょくってんのか??」
「はぁ!? 誉めたのよ! 本当は恥ずかしいから
誉めたくなかったのに!!」
「いや、もっと普通n…」
「これ以上のクレクレは許さないわーー!!」
腕相撲の横で物騒なタイマン鬼ごっこが
始まったのだった。
~準決勝~
「うおおおおおっ!!!」
「ぬぅああああっ!!!」
「「「おおお…………」」」
瞬間的に放たれた2人の剣幕に、周囲の者は
圧倒された。
「フッ、やはり瞬発力は負け知らずだな」
「隊長の分も優勝しますぜ」
皆が正気に戻ったときには、負けてアレウスを
称えるレオナルドと、彼の分も優勝すると宣言した
アレウスが居た。
~もう一方の試合~
「ぬぐぐぐぐぐ…………」
「惜しかったな、姉ちゃん」
初動こそ勝っていたが、途中からSTRの差で
押し返されてジャンヌが負けたようだ。
~決勝戦~
「さぁて、アレウス。俺は人呼んでSAFのアーム
レスリングチャンプと呼ばれているんだ」
「何せ副長を倒しちゃいましたからね。所で
お名前は…………??」
「グレイブだ。全神経をこの一撃に集中するぜ」
「改めてアレウスです。俺もそのつもりです」
そして、脱力して構えた。
「レディ…………g…」
「「ヌン!!!!!」」
瞬時にグレイブ側に45度傾いた瞬間、加速は
無くなったが、それでも傾き続けて樽に着く。
『バギャアッ!!』
視認できていた誰もがそう思った瞬間、樽が
爆ぜて2人の腕は虚空に放り出された。
「ぬおりゃあああっ!!!」
しかし、そうなったや否や、アレウスは全身の
筋力・体重をグレイブの手にかけ始め、下段突きの
ようなフォームで床へと腕を伸ばした。グレイブも
抵抗したのだが、普通に猛獣と張り合えるアレウスに
敵う筈もなく、敢えなく床に手の甲を叩きつけられた。
『ベキッ!!!』
「ちょま…………」
「あっ…………」
が、床を破壊したと同時にアレウスが手を急減速
してしまったせいで、グレイブの全身が横へ加速。
握っていた手もすっぽぬけ、グレイブは壁をぶち
抜いた後、海へ落ちてしまったのだった。
「直ぐに助けてきます!!」
こうしてアレウスは優勝し、グレイブも
助けられたのだった。
「う~ん、今回は間に合わなかったな~。ま、
来年頑張れば良いや!」
その様子を潜水艇で見ていたSSS級ユーザーが
居た。
~翌日・昼休み~
『グゴオオオオオッ!! グゴオオオオオッ!!』
「相変わらず凄まじい呼吸音だよなぁ」
「一体何Lの酸素を吸ってるのかしらね~?」
うるさすぎる隆二の呼吸音に、拓人と美優は話を
膨らませていた。いよいよ明日に控えた野球の大会に
備えた昼練があったらしく、持久力皆無な隆二は
回復のために乳酸除去とATP大量生産を図った
呼吸を行いながら昼寝中なのだ。
その頃彼の夢の中では…………
「よぉぉい…………スタ~~ト!!」
ハシボソガラスのレフェリーが合図をしたと同時に、
横にならんだ隆二と猪が駆け出した。
「オラァ!!」
時速90kmの隆二が1足先に木のブロックを
盛大にぶち飛ばした。
「フゴォオ!!」
遅れて猪もブロックを飛ばしたのだが、隆二の
圧勝に終わった。
「勝者ぁ、隆~~二~~!!」
「っしゃあ! 今回は俺の勝ちだぜ! うり男!!」
うり男が去った後、日本猿がヒョコッと
顔を出した。
「よぉぉい…………すたぁとぉぉ!!」
合図と共に、2人は木々を縦横無尽に
駆け回り始めた。
「まだまだ甘いな、猿吉!」
「ウキャーーーー!!」
猿吉の悔しそうな叫びと共に、隆二は
ゴールを通過した。
~現実~
『キーンコーンカーンコーーン』
「間に合った!」
えらく長い間大便をしていた武三が、授業の
チャイムと同時に席についた。
「うっ…………物理かぁ…………今日も沢山教えてね隆二。
…………おーい、始まったよー??」
チャイムがなったにも関わらず、隆二は起きない。
「金子隆二、早く起きろ。折角の100点を
パーにしたいのか?」
物理教師が問題発言をしながら威圧してきた。
『スクッ…………』
「フン、少し無駄な時間をすg…」
隆二が立ったので、物理教師が要らないことを
話し始めていると…………
「オラァ!!!」
何と、隆二は全力のボディブローで学校の壁を
破壊してしまったのだ。コンクリート製とはいえ、
随分古くなっていたのが原因だろう。両隣のガラスも
その衝撃で破裂してしまった。
「っしゃ! 見たかぁ!! 熊ノ介!!
…………ん? 夢か」
ここで、漸く夢から覚めたのであった。
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