策を練り、無駄を削ぎ、いざ開戦
118話
「この10隻…………全部お前の同盟なのか?」
「フフン、そうよ。リーダーは私じゃないけど、
作戦の主力にはなってるわ」
船の上に立つ船員達を見ると、半分ほど
モンスターが占めていた。
「ヒェー、ガチのテイマー軍団だなぁ!」
「ま、いくらテイムしたモンスターが強くても、
あんたほどのお子様をリーダーには据えられない
わよね」
このミューの発言に
「そうね、だけど実力は認められているから、
後方から大した威力も射程もない弓を放っている
お姉さん以上の戦果は上げるわよ。当然ね」
フィンチは、売り言葉に買い言葉とばかりに
遠回しな陰口を叩いた。
「…………ふぅん、精々モンスター達を死なせない
ように立ち回ることね」
「援護を張り切るのもありがたいけど、いざという
時に弾切れ起こして迷惑かけないようにね」
そして火花が飛び散る。
「似た髪色同士仲良く仲良く!…………両側から
耳を引っ張るなよ。耳グワングワンするだろ」
耳を引っ張られ、痛みの変わりに振動が襲いかかる。
「アレウス! 私とこのおっちょこちょいの
何処が似てるのよ!」
「誰がおっちょこちょいよ! 私、こんな
生意気なクソガキと全然似てないわよ!」
「言いづらいけどさ、こういうのって大抵図星
だからイライラす…………本当のこと言ったのに
頭グリグリまでするか…………??」
今度は両側から空いた手の拳で頭を
グリグリされ始めた。
「「する!!」」
返事もコンマ1秒違わずに合っていた。そして
お互いの顔を合わせ、不細工に歪めてからグリグリの
力を増した。
「脳が震える~♪♪」
((ぜ、全然効いてない…………))
そもそも痛みを感じないSAFで、まともな
お仕置きをしようとすることに無理があるが、
これが現実であっても、アレウスの鋼の頭蓋に
頭グリグリは効かなかった事だろう。
「フィンチ、アレウスは…………見つかったようだな」
マントを羽織った男は、アレウスをグリグリ
しながら、凄まじい顔芸をしている2人を見て、
ドン引きした表情を浮かべた。
「おおー、お前は確か…………」
「ドラゴン使いのドラコだ。久しぶりだな、
野生猛獣のアレウス」
「いつの間にか変な肩書きをつけてんじゃねーよ…………」
「ふん、俺のドラゴン達に身一つで打ち勝った事を
称賛しているんだ。ありがたく思え」
一応本人的には本当に称賛の意を込めて
肩書きを着けているのだが、いかんせん態度と
ネーミングセンスの問題で、誰も信じていない。
「ドラコ、その肩書きは違うと思うよ?」
「てかあんた、最後は沼に溺れて負けてたよね…………」
「あー、見た見た~。流石に泳げないとは
思わなかったよー」
遂に、アグロフラッシュの女性陣から、
アレウスに負けたときの決着内容をディスられ
始めた。
「し、しかたねーだろ! 俺はドラゴンと共に
いてこそ真の力を発揮できr…」
「つっても指示は出しているけど、お前自身は
アレウスみたいに戦力になってねーよな?」
「自分の指示によってドラゴン達が真の力を
発揮する。とか言った方が良いんじゃない?」
「まぁ、誰もがアレウスみたいに動ける
訳じゃねーしな」
「気を落としてはいけませんわ。…………あら?」
ここで、ドラコがワナワナと震えている
ことに気づいた。
「テメェらミンチにしてやらぁーーー!!
グランド、ロックスロウ!」
「ウォーミングアップとシャレ込もうぜ!」
アレウスは、自分をグリグリしていた2人を
抱き抱え、軽やかに宙を舞った。
「「ありがとっ!」」
抱かれて助けられた2人は、それはもう
満更でもない表情で、彼に感謝を述べた。
「「……………………」」
次の瞬間、彼を挟んで鬼の形相へと変わった。
「俺を挟んで怖い顔するな!!!」
これには流石のアレウスも怒鳴り付けてしまった。
「…………おい、グランド。岩投げねぇか」
ドラコは、先ほどグランドが投げモーション
しかしてないことを指摘した。
『グルルルルッ、グルルッ』
「岩が無い…………あっ!」
「あっ!」
「「キャン!?」」
何も起きてないのに謎パフォーマンスを
見せた4人は、一斉に顔を赤くした。
「ま、まぁ、客としてゆっくりすると良い」
「そ、そうね。私達と連携するかもしれないし、
少しでも情報交換しなきゃね!」
「そ、そうだな。皆さんの紹介頼むぜ!」
「ど、どんなモンスター達がいるのかなぁー!」
4人はしどろもどろになりながら、
船の探検を開始した。
「…………やれやれ」
「我が親友ながら、脳筋過ぎるぜ」
「ミューたん、アレ君に毒されすぎだし、何で
あの子まで脳筋なの…………??」
ガヤペアとクラフトは4人にあきれ果て、
ジェルマン、イシュタルは微笑ましく笑っていた。
「おお、久しぶりだなぁ」
「ええ、ジャンは元気ですか?」
懐かしい顔も居れば、
「俺はグース。相棒の残雪達と共に先方を任されてるぜ」
「僕はシンドバッド。相棒のミサイルと船の破壊を行うのさ」
「私はケイト。船同士が接触し合う段階で、猫達と一緒に遊撃を行うわ」
お初にお目にかかる顔ぶれも居た。陸、海、空、
それぞれのモンスター達が居ることで、明確に役割を
分担出来るようになっている。
「俺はアレウス。今はテイマーじゃねーから
モンスター達は先方を務めれねぇが、真正面の
ぶつかり合いできっと活躍するぜ。最も俺が
暴れて終わらせるつもりだがな」
アレウスはテイマーでないので、ウィント達は
自由に動けない。その為、彼らは船同士が接触し、
アグロフラッシュの船に近づいた海賊を倒していく
ことになる。
「あのバトル、テレビで見てたぜ」
「最早君がモンスターだったよ」
「君の力で解決できるとそれに超したことは
ないよね。期待してるわ」
「皆さんとモンスター達のコンビネーションも
楽しみにしてますぜ」
こうしてアレウス達は、簡単な打ち合わせ
を行い、大体の役割を決めた。
「はぁ、ま、こうなっちゃうよね~。お姉さん、
しっかり海賊を射止めるんだよ」
「誰にそんなこと言ってるの? あんたも
ドレイクに的確な指示を出すことね」
(大丈夫かなぁ…………)
どうやらフィンチが操るドレイクの上で、
ミューが遊撃を行うことになったらしく、
アレウスは水と油な2人が心配なようだ。
「オラァ! 虎の威を借る狐どもぉ! お前らは
今から俺達の言うことを聞けぇ!! でなけりゃ
沈めるぞぉ!!」
「あぁ!? 何言ってやがる! 相手は黒ひげ、
噂では魔王軍幹部なんだぞ! もっと協調性を
持て!!」
いかにも荒くれ者といった連中に、ドラコは
同レベルの口の悪さで反論した。
「そうか、じゃ、沈めて……」
「オーシャン、ミストブレス!」
ドラコの指示で、すかさず水竜のオーシャンが、
敵船の大砲に湿った霧を吐いた。
「クソッ! 火が着かねぇ!」
「バカども! 接近して殴るぞ!」
合図と共に、船を近づけてきた。
「アーウィン、ミストストライク!」
「ウギャアアッ!」
「霧で何も見えねぇっ!!」
フィンチの非行要因、熱と冷気を片側に
まとう鳥・アーウィンが船に落下し、大量の
水蒸気を発生させた。
「残雪、凍てつく旋風!」
アーウィンが離脱したタイミングでグースの
相棒・残雪が、氷点下を下回る旋風を巻き起こし、
船ごと荒くれ者達を凍りつけにした。
「お…………おの……れ…………」
「広域爆射!」
最後に、ミューが変則的な機動を可能にする
そよ風の弓を引き、爆破属性が付与されている
矢を4本放った。
「おい! 船沈んでねーか!?」
「あの女! 動けねぇ俺達を沈めるとか
卑怯だろ!!」
「卑怯! ブースー!」
自分達から攻めておいて、いざ負けが
確定すると、情けなくミューを罵倒した。
「卑怯? 一方的に不平等条約を押し付けた
挙げ句、いきなり攻めてくる野蛮人達に
言われる筋合いはないわね」
手に持った矢を上下させ、羽部分を肩に
バウンドさせながら冷たく突き放した。船底に
穴を開けられた彼らの船はみるみる失速し、
1分後には沈没した。
「へぇ、ピンポイント爆撃は中々のものね。
少しは期待してるわ」
「相変わらず偉そうに…………けど、あんたの
モンスター達は骨がありそうね」
(素直じゃねぇなぁ…………)
お互い実力を垣間見たことで、少しは連携が
捗りそうだ。
『黒ひげの船、アン女王の復讐号が見えたぞ!
っそれどころか大艦隊を率いている! ざっと
1000隻はあるぞ!!』
見張りのリーダーが、連合軍全体に敵襲を伝えた。
「よし、先方はモンスター達にライドするわよ!」
アレウス達、アグロフラッシュは、ミューの
ドレイクと、ドラコのオーシャン、エアロに乗って、
攻めに行った。
「待ってろよ、黒ひげ!」
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