未練無くした霊は在るべき場所へと還り行く
長かった大航海時代の2日目も終わりの時です。
108話
『ぐうう…………ここ……………………ま…………
で…………か……………………』
神の怒りを思わせる雷を食らったベラミーは、
遂に崩れ去ることになった。
「勝ったぜ!!」
アレウスが高らかに宣言した。
「「「「「「やったーーーーーー!!」」」」」」
隊長、副長を除くメンバー達は、声に出して
勝利を喜んだ。
「…………いや、もう少しだけ気を引き締めろ」
「皆気をつけてください! オバケの寒い
オーラがまだ残ってます!」
1年前のイベントにも参加したレオナルド、
そして気配察知に優れたアレウスが、未だ霊が
存在することを感知した。
『ベラミー様をよくもぉぉおお!』
『てめぇらやるじゃねぇかあぁあ!』
『仇討ちだあぁぁああ!!』
ベラミーの部下達による仇討ちといった所だった。
200個位木片や鉄クズが浮かび上がっている。
「レイル色の髪の毛を型どっていた宝石は
沈んじゃったわね」
「俺色って何だよ…………まぁ、あれはベラミーしか
触っちゃいけなかったんだろうよ」
「とはいえ残りは烏合の衆。油断せずに挑めば
どうとでもなるさ」
「遠距離攻撃で一気に叩くぞ!」
それからは一方的な蹂躙だった。ジェルマンの
砲撃、ミューの矢、マリリンの魔法で近づくことも
ままならず、後先考えず魔法を放ったことで、MPが
切れたマリリンを狙おうにも、その隙間を縫った
イシュタルの火力特化の一撃で葬られてしまった。
更に、水中からはブルー、フラッシュ、人魚姫の
攻撃が襲いかかり、それでも堪え忍んだ鉄クズ達も、
スパロウのフレイルや、ウッディが投げた黒い鉄球、
全速力のウィントの頭突きで粉砕され、運良く
近距離に接近しても、レオナルド、ジャンヌ、
クラフトの良く分からない発明品によって
粉砕された。
そして…………
「ホゥアチャチャーーーオッッ!!!」
随分と落下したアレウスが放った、極超音速の
鞭連打により、残り全ての木片が爆ぜ散った。
「完璧完ぺパアッ!!」
勝利に喜びながら、海へと沈んでいった。
さぁ、勝ったのだから、宝石のサルベージだ。
「…………これで全てだな」
「ふむ、陸に上がるまで分からないが、かなりの
収益になるだろうな」
「既に以前俺が参加した時に獲得した報酬を
上回っている。今回は4人とアレウスの
モンスター達の大金星だな。勿論、総力戦で
働いてくれた他のメンバーの働きもあっての
ことだがな」
結局、全員を褒めているレオナルドの発言に、
アグロフラッシュ一同は表情が綻んだ。
「さーてと」
アレウスは、ブルーと人魚姫、そして今の今まで
気絶していたモブ魚人、人魚達の方を見た。
「…………本当に、ベラミー達は優しかったのですか」
「間違いないわ」
「ああ、姫様にも、俺達にも良く接してくれた」
「確かに、船に連れていく時は、正に魚拐い
そのものでした。しかし、船に着いてからは毎日
美味しいご馳走や、地上でのお話を聞かせてくださり、
いつしか私はあの方に惚れ込んでいました」
「…………ということは、行くんですね?」
「…………はい。古の時代の王子に惚れた人魚姫の
ように、天国には行けないかもしれません。ですが、
地獄だろうとあの方に着いていきます」
「そうですか…………ッグス…………」
完全に失恋してしまったブルーは、涙をこらえ
られなかった。
「元気出せや。相手ならこれからいくらでも
出会えるさ」
「姫様、お達者で~~!」
モブ達は、それぞれの精神を良くすべく
語りかけた。
『お別れの挨拶は済んだかい?』
「レイルがロン毛になった!?」
「だからベラミーだ! てか、まだ生きて
いやがったのか!?」
『あー、そこのトゲ頭待った待った、戦意は
ねぇよ』
後ろを見ると、他の船員達もズラリと並んでいた。
その表情は誰もが安らぎに満ちている。
「そっか、姫様をお迎えに来たんだな」
『ああ、彼女の気持ち次第では姿を現さずに
あっちに行く予定だったがな』
「…………あ」
ミューが海賊達の中から1人の少年を見つけ、
怪訝そうな表情になった。
『やぁ、ピンクのお姉ちゃん。あの時はおちょくり
すぎちゃったね』
「全くよ! 漫画でもここまでスケベな悪ガキは
出てこないわ! 顔も見たくないからさっさと
行きなさい!」
『まぁまぁ、そう言わずに。お詫びとして、
そよ風の弓をあげるよ』
少年ジョンは一枚の鳥の羽を落とした。
「はぁ? こんな鳥の羽が弓なわk…あっ」
『こういうこと』
ミューが羽を受け取った瞬間、ジョンの
入れ替え能力で、そよ風の弓と羽を入れ替えた
のだ。
『姉ちゃんおっちょこちょいだから、最初は
苦労すると思うけど、この弓は使いこなせる
ようになったら凄く力になるはずだよ。だから、
頑張ってね!』
「…………アリガト」
そっぽを向き、不貞腐れた表情で礼を言った。
「良かったじゃねぇか。でも何か不服そうなのは
何でだ?」
「……………………」
アレウスがミューの挙動の違和感を聞いた。
「ああ、実はアレウスと分かれている間にn…」
「言っちゃダメよ!!」
「耳ガガガガガ…………」
内容が内容なため、ミューはクラフトの耳を
全力で引っ張って阻止した。
「では、皆、そしてブルー、私は行って参ります!』
海賊達と人魚姫は光る扉へと吸い込まれていった。
『行き着く先は天国か地獄か』
『はたまた虚無の空間かもしれませんね』
扉の行き先は、彼らのみぞ知る。
「行っちゃったな」
「姫様~~」
ブルーは未だに泣きじゃくっている。
「…………まぁ、これも結局は制作委員会が
考えた作りb…」
「クラフト君、メッ!」
「アイ、スイマセンデシタ」
雰囲気を壊しそうなことを言いそうだったので、
今度はイシュタルに耳を引っ張られた。
「ブルー、寂しいナラ、私達とクル?」
様子を見かねたスパロウが、ブルーに
声をかけた。
「フニャア、ゴロロロロロ…………」
ウィントも喉をならし、ブルーに甘えた。
「ウィントが甘えるって珍しいなぁ」
主のアレウスは、彼の物珍しい様子に感慨深い
様子だ。そんなおりに、飛行していたフラッシュが、
ブルーの肩に静止した。
「器用…………鳥さんみたい…………」
マリリンが感心したように呟いた。
「ウッディも肩叩いてるね」
「感情の読み取りは人間よりもモンスター達の方が
優れているのかもしれませんわ。アレウス君、彼を
仲間に誘ってみては如何?」
イシュタルがアレウスに提案した。
「俺もそうしようと考えていた。なぁ、ブルー。
海も広いが地上も広い! 俺達と共に色々と見て
回ろうぜ!」
アレウスは、"トークテイム"を発動した。
「…………地上の…………旅」
「ウン! 地上ニハ、色んなカタチをした
モンスターや、カワイイ女の子も沢山イルヨ!」
スパロウが"テイムアシスト"を行った。
「…………はい、行ってみます。アレウスさん、
皆さん、これからどうぞよろしくお願いします」
『テイム…………SUCCESS!』
アレウス達は、ベラミーの財宝と、新たなる
仲間を手にいれて、一夜を終わらせたのだった。
「ふう、俺のモンスターズも大所帯になって
きたな。バトルのコンビネーションとか考える
のが楽しみだぜ」
SAFから現実に戻ってきた隆二は、今日遊んだ
ことを思い出していた。
『ゥマッスル!!』
ルインの通知が来た。
「眠り浅くなったら嫌だから、マナーモードに
変えとくか」
そう言って、極薄頑強なスマホの通知を見た。
「的場さんからか…………なんだろう」
ミューこと、的場美優から連絡が来ていた。
最後までお読みくださりありがとうございました。
よいお年を!




