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第4話 レイモンドの想い

「そうですか…。では、はっきりと言います。僕には想いを寄せている人がいます。ですから貴女と結婚する気はありません。」


「…はあ?」


いきなり何を言い出すのかしらこのおぼっちゃまは。

私を軽んじているのかしら。


「貴女を蔑ろにする気はありませんが、この想いを持ったまま彼女以外の人と結婚することはできません。いずれ婚約を解消することになります。ですので、もしお嫌でしたら婚約を断って頂いて構いません。」


…そんなことはなさそうね。

でも、好きな子がいるから結婚したくない、なんてワガママは貴族として生まれた以上許されないでしょう。

彼もそのことはわからない筈無いと思うのだけれど…。

今回の婚約、双方のメリットは面倒くさい事情のある者である厄介払いでしょうから、婚約が流れても大した問題にならないと考えたのかしら。


「貴方の気持ちは理解しましたわ。その上で聞きたいことがありますの。」


「何でしょう。」 


「では、貴方が想いを寄せる方について教えて欲しいわ。どのような方が男性の心を射止めるのか知りたいもの。」


「それは…遠慮したいですね。」


「…わたくしが何かすると考えているのでしたら、何もしませんから安心なさって?」


「いえ…そのようなことは…」


政略とはいえ別の女性と比べるのは失礼にあたる。

その事を気にしているのかと思ったけれど違うようね。


「彼女がどのような人か説明するのは難しいのです。唯一つ言えるのは非常に極端な性質を持った人だと言う事です。」


「極端?偏った考え方の人なのですか?」


「偏った人というわけではありませんね。両極端と言った方が正確なのです。非常に気位の高い貴族であり、粗野な平民であると言いますか…。男としては相手しにくく、関わろうとしないタイプの人でしょう。」


「貴方、その方のことが好きなのですよね?どこに惹かれたのです?」


『くくくっ…。女性としての評価が低すぎるのに好きとは…。人とは面白いな。』


『朱雀の感じたことはその通りだけれど、気配に気づかれるから大人しくしていて!』


『そうカリカリするな。今後は黙っていようではないか。』


はあ、全く…。


それにしても、気位が高い貴族であり粗野な平民でもあるって、絶対に相容れない要素じゃないかしら。

そんな人間、滅多にいないわよ。


「僕自身、彼女のどこに惹かれたのかと聞かれても答えられないのです。一緒にいることが当たり前で、彼女が隣にいないで生きられると思えないのですが…。一般的な女性として魅力的ではないですね。」


「そう…。一緒にいることが当たり前というとそれなりに近しい方なのよね。貴族位にあれば婚約を望めるのではない?」


「ええ、彼女とは一緒に市井に行くことも黙認されていましたし、家柄も問題ありません。ですが、彼女は既に別の方と婚約してしまったのです。」


別の者と婚約!?市井に一緒に行く仲なのにその方とご家族はなぜレイモンドと婚約しなかったのかしらね。


「彼女との婚約を望みませんでしたの?」


「婚約したいと言ったことはあります。その直後に私が玄武と契約したことで様子見をすることになり…。その間に彼女の方に断れない縁談が来てしまったそうです。」


複雑な事情がありそうね。

下手に関わらない方が良さそうだわ。


「そう。想い人には婚約者がいて、ご自分は婚約しない。貴方、家の血を絶やすおつもりですの。」


「そのようなつもりはありませんよ。僕はいずれ彼女と結婚したいのです。」


「つまり、略奪すると?」


「そうですね。彼女の婚約者は彼女の一面だけを見て拒否しているようですし、あれでは彼女が不幸だ。婚約の解消をさせる為に動くつもりです。」


…諦めるという選択肢は無いのね。

彼女の婚約者が誰かは怖いから聞かないけれど、レイモンドの考えが読まれて追い払われた可能性もありそうね。


「アルロスト公爵子息様、わたくしと取引をしませんか?」


「…取引?」


「ええ、わたくしにはある目的があるの。貴方にはその目的を達成する為に協力してほしいのです。そのかわり、わたくしは貴方が想い人を手に入れるまでの間、仮の婚約者としてカモフラージュしますわ。」


下手に関わって巻き添えで破滅するのは遠慮したいけれど、レイモンドとの繋がりがあれば今後の選択肢が増える。

利用しない手はないわ。


「仮の婚約者…!いずれ婚約解消することを前提としたものということですよね?婚約解消は経歴に傷をつけます。殿下の目的はそこまでして成したいものなのでしょうか。」


レイモンドは驚いているようね。

平静を装っているつもりのようだけれど、声に焦りがあるわ。


「そうですわね。確かに経歴に傷をつけることになるでしょう。けれど、わたくしは王族よ。多少経歴に傷がついても問題ありませんわ。そもそも、わたくしの目的が叶えば、それまでの経歴など不要ですから。」


「経歴が不要?一体何をするおつもりですか。内容によっては協力はできません。」


不信感を露骨に出して来たわね。

貴族社会で重視される経歴が不要になるなんて言えば、それも仕方がないですけれど。


「目的については、わたくしの幸せの為、とだけ言っておきますわ。それ以上は取引成立後でなければお話しできません。貴方に協力してほしいことは情報収集ですし、貴方の望み程、危険な橋を渡ることはありませんわ。」


「王女殿下は他人を信用なさらないのですね。」


「初めてお会いした方を信用できるとお思いですの?」


「それもそうですね。では、少々お時間をいただけますか。帰国するまでにはお返事いたします。」


「ええ、構いません。ゆっくり考えていらして。」


「ありがとうございます。それでは、御前失礼いたします。」


そう言うと、レイモンドは立ち上がって扉へ歩いて行った。

そして扉の前で、思いついたようにこちらを見た。


「王女殿下、ひとつ忠告いたします。この世界は例え朱雀の力があろうとも、一筋縄ではいきません。前世の経験があるからと安易な行動はしないほうがいいですよ。」


「!!!」


朱雀のことも、前世のことも気づかれた!?

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