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偽の勇者レンとダウナー勇者レンの冒険記  作者: 中田 虎之介(旧Rago)
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第二章プロローグ

おまたせしました(誰も待っていない)

まずは導入です。

第二章、プロローグ


深い森の中で巨体が雄叫びを上げる。牛のような顔つきに、馬のような四本足。それとゴリラのような腕が挑んでくる挑戦者に容赦のない攻めを仕掛ける。

挑戦者ことレン・セイバーは迫り来る拳を翻すように避けては、追い討ちとばかりに馬の蹴りを寸前で止まって無理に足を滑らせて、尻餅を付かせる。

鼻の先に凶器の足が掠り、冷や汗が滴った。

負けじと持っていた剣を馬の腹部に突き刺し、悲鳴を聞くなりすぐ立ち上がっては距離を取る。

血を吹き出しながらレンを見るソイツは、恨めしそうに見開いた上で再度突撃を行う。

レンは背後に視線を送り、一旦鞘に剣を差す。そしてソイツと同じ方向へと全力で駆け出した。

何がやりたいのか分からないソイツだったが、諦めて逃げ出したのだと解釈してそのまま大きな腕で小さな子供を握り潰そうと手を伸ばした。

その時、レンは急に飛び上がる。何事かとソイツは驚いたが、目の前に大木があるのを見て、焦りを覚えた。

レンは二、三歩勢いに乗せて大木の側面を蹴りながら歩くと、ソイツの顔の辺りまで飛び上がる。

そして再び鞘から剣を抜くと、視界が反転しながらも巨体が大木と激突するその直前に首元を狙い、勢いよく振り回した。

ソイツは首を討ち取られ、頭が地面へと落ちるその前に、巨体が大木へと激突し、倒れた拍子に落ちた頭を押し潰した……。


    ♰          ♰


倒れている巨体を横に、頭から落下したレンは頭をさすりながら戦いの中では開けなかった口を開く。

「痛ったた……。まさかミノタウロスを探していた途中で、ミノタウロスを使ったキメラと遭遇するとは思わなかったよ!」

痛がっているのか怒っているのかが分からなくなりそうな口調だが、予定とは大きく外れた魔物が出たと言うのは分かる。

無残にも首が無く、その首も自らの巨体に潰された哀れな死体を見つめるレン。見ていて気分の良くなるモノではないものの、どうしても自然に出来たとは思えない体を見て、つい呟いてしまう。

「これって、あの時に作られたキメラだよね?」

ここに居るのは一人。誰からも返事が来ない筈……。なのだが、声はレンの中から聞こえて来る。

『(だろうな。しかし、とんでもない化け物だ。生物の違法建築にも程があるだろ)』

声の主、レン・セイヴァーと名乗るそれが返してくる。

とんでもない化け物と言う部分には同情するが、生物を家と同じ様に考えるのはよく分からなかった。

「言っている意味は半分しか理解出来ないのはいつものだから流すけど、一体どうしてこんなところにまで?」

『(逃げ出した個体、だろうな。まさかミノタウロスを狩る筈だったのにミノタウロスよりも厄介な奴がいるとは思わなかったけど。これ、村人か冒険者が遭遇していたら間違いなく馬鹿真面目に真正面から挑んで握り潰されていただろうな。いや、それはそれで面白そうだから見てみたかったような気もするな。残念だ)』

一体どんな感性を持てばそこまで皮肉れた上に見たくもない光景を目にしたいと思うのかが本当に理解出来ないセイバーのレン。

「面白味も無ければ人が潰されるなんて光景は目にしたくないよ⁉︎ キミってどんな中を今まで過ごして来たんだよ!」

森の中だからと遠慮も無しに心の底から叫んだ。

『(そう頭に血を上らせんな。血圧上がるぞ)』

「言っている意味が全く理解出来ないけど、バカにしているのは分かった! お願いだからいい加減僕の中から出て行ってよ‼︎」

更に声が大きくなる。

最も、この世界に血圧なんて理念が無い上に頭に血が上ると言った意味が理解されないのだから分からなくて当たり前だ。

『(無理な事を強要するとは良い身分だなレン・セイバー。テメェの使っているアサルト・ソードが一体誰の物かを知っての売り言葉だろうな?)』

それはそうだけど! っと、レンは言葉を詰まらせる。

レンの腰に差さる二本の剣。そのうちの一本は、無くてはとても困る代物だ。

レン・セイバーはこの剣を使わないと何故か生物を傷付けられない。理由は不明だが、繰り出す攻めは全て弾き飛ばすだけかそもそも効いていないかのどれかになってしまう。

原因は不明だ。ただ思い当たるとしたら、数週間前にレン・セイバーの体に浮かび上がった紋章らしきそれだろう。

それはまた別の話になるのだが、それが一体何なのか、本人も分からない。

「確かにキミの剣のおかげでこうやって戦闘が出来るのは感謝しているよ! でもね、キミ自身が戦いもせずに中から野次を飛ばすわ、罵倒をするわで戦っている最中でもストレスが溜まるって、今まで旅をして来たり色々な仕事をしてきたけどここまで嫌になるのって初めてだよ!」

セイバーのレンが不満を叫ぶ。

それ程までにレンの中にいるレン・セイヴァーの野次は酷い物だ。レンが痛みでのたうち回れば馬鹿にしたように嘲笑い、揉め事で腹パンを食らった時には悶絶する中で聞いたセリフが……。

『(拳が浅いな。もっと鳩尾を狙わんと倒れんだろうが。アイツはまだまだ甘い。よし、もう一度腹パンされて来い)』

……だ。

何が楽しくて自ら志願して腹パンをお願いする馬鹿がいるのだと心から思った次第であったが、その際に入れ替わられ挑発した挙句、殴られる寸前でセイバーのレンへと人格を入れ替えられて拳を正面から喰らったのは思い出したくも無い記憶だ。

余計な騒ぎ事を起こさない様にと気を付けているのに、この仕打ち。

正直な感想として、最悪の二文字で表せる悲しい現状だ。

『(ケッ、野次を飛ばさせる方が悪い。動きは悪くねぇんだからそれ活かせば良いものを、余計な感情を持つから甘くなるんだよ)』

悪そびれも無く返すセイヴァーのレン。微塵も悪いとは思っていない証拠だ。

更に言い返そうとレンは口を開く、その時であった。

「あら、楽しいお話かしら?」

突然声が掛けられる。

セイバーのレンはその声に聞き覚えがあった。恐る恐る辺りを見渡すと、それは大木の上に居た。

エメラルドグリーンの瞳とほぼ同じ色のロングヘアー。まるで自然がそのまま生命になったかの様な美しさは、整った顔付きとも合わさって更なる美が詰まっているようにも思える。

耳は人と同じ様にやや丸く、ただ鼻が少し高い。

だが整った顔立ちに反して、服装はやや見窄らしい。白い生地のみで作られ、露出させてはいけない部分だけを隠す様に作られたとも感じ取れる。

その隠されても分かる平べったい胸を見て、男だと言おうものなら間違いなく拳が飛んで来よう。この人は、彼女は女性なのだからコンプレックスを口に出されると怒る。

だが、そんなデリカシーなど知った事かと思う奴が一人。

急にセイバーのレンの意識が遠のく。そして入れ替わる様に出てきたソイツは、彼女を見るなりニヤけた顔を見せると……

「お、平草原娘へいそうげんむすめか。こんな所までどんな用だ?」

間違いなく、悪意百パーセントで、言い切った。

瞬間、彼女は腰に着けていた鞘から剣を抜き、飛び上がる。落下する中で確実にレンへ狙いを定めると、その脳天に向けて剣を振り下ろした。

すかさずアサルト・ソードを抜き、鍔迫り合いで止めるレン・セイヴァー。落下の力も有りながらも、それを止める事実に多少表情が固まり掛けたが、それよりもとばかりに剣へと入れる力が強まった。

「誰の胸が平草原娘だ⁉︎ 私にもラビーと言う名があるわよ‼︎ 純エルフとして生きていた中で、アンタが初めてよ! ここまで私が気にしている所を素足でズゲズゲと踏み躙る奴は‼︎」

怒りは更に上昇する様で、力が若干押されている。

「事実だろ。それとも何だ、空気を読んで触れないでってか? 俺にとって、無理難題なお願いだ。いやー、酷だな。薄い胸と堂々と言えないなんて、言論の自由を奪うのがエルフって生き物なのかぁ?」

「殺す!」

明らかに楽しみながら御託を並べるセイヴァーのレン。ラビーの剣術が問答無用で襲い掛かるも、全て余裕を持ちながら己が持つ刃で弾く。

『(いや、事実だろうけど! 少しはデリカシー持って⁉︎ 見て、少し泣いているからラビーさん! これって言論以前の問題だからぁ!)』

セイバーのレンが見ていられずにツッこんだ。

はてさて、どうして純エルフである彼女が彼らを知っているのか? そしてどうして大草原娘と呼ばれて意図を理解して激怒したのか?

その原因を語る為に、時を数週間前へと遡らなければならない。

紋章云々の出来事も、丁度同じ頃に起きた事件だったのだが、それもついでに触れるとしよう。

第二章までは、最初のプロローグ以前の話からです。

それ以降の出来事は、第三章からとします。後、あだ名を少し改変。

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