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偽の勇者レンとダウナー勇者レンの冒険記  作者: 中田 虎之介(旧Rago)
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第一章「ザコとクズと、森の変異」

気まぐれに投稿し、気まぐれに書く。

第一章「ザコとクズと、森の変異」


ふと目が開く。

焦げた草木が辺りに焦げ臭さを広げていき、それを吸ったレン・セイバーはむせる。

レンは起き上がり辺りを見渡すと、自分が置かれている状況を整理しだす。

「えっと、確か僕は今まで村へ向かって森を抜けようとして、森の中で千年級ドラゴンと遭遇して、そして……」

そして、からの言葉が出ない。記憶が途切れ、そこから何が起きたのかが分からないのだ。

見れば焼けた草木に何故か凍り付いた草木、そして横たわる赤い鱗の生物が、未だに意識が完全に覚醒していないレンの目に映った。

それが千年級ドラゴンだと理解するのに、そう時間はかからなかった。

「……え? え?」

戸惑い。レンの心中にあるのは、その言葉だけだ。

「一体何が……? あの千年級ドラゴンを倒すなんて、誰が」

呂律もままならない。それ程までに動揺しているのだ。

千年級ドラゴンが倒された。もしそれが本当なら、とんでもない事だ。王国の軍すら倒せず、それなりの装備を整えた要塞都市ですら接近されれば太刀打ち出来ず、1人残らず食い殺してしまうと恐れられている化け物がこの場に横たわっているのだ。

レンの脳内に、恐ろしさが駆け巡る。

もし本当に倒されたのなら、この近くにそれ相当の力を持ったナニかが居る事になる。得体の知れないナニかが、近くにいるのかも知れないのだ。

「ぁ……、ぇ……」

もはや恐怖が上回り、この場から離れようと腰を浮かす。

だが、腰が抜けて思うように走れない。途中で転けたり、頬を木の枝が切ろうが関係なく、我武者羅に滅茶苦茶な走り方でその場を去った。

その時だ、その声が聞こえたのは。

『(起きたか)』

耳からではなく脳の奥から聞こえる、誰かの声。レンは驚きのあまり転けてしまい、地面に顔から突っ込んでしまった。

「え、何⁉︎ 一体誰が言ったの‼︎」

辺りを見渡す。誰もいない。

しかしそれは慌てているレンの様子など関係ないとも言わんが如く、脳内から語り出した。

『(まぁ、面倒だから詳細は色々すっ飛ばすが、お前さんの中に住み着く事になったレン・セイヴァーだ。以上)』

それは、レン・セイヴァーと名乗ったそれは、適当に答える。

「いや、以上じゃないでしょう! 一体何だってんだよ⁉︎ 僕の中から出て行ってよ!」

何がなんだか分からず、本心を露わにしつつ叫んでしまう。頭を抱え、喚くその姿は側から見たらただの痛い人にしか見えない。

『(いや、無理。住み着いてしまったモンは仕方ないだろ。犬に食われたと思って諦めろ)』

「何で上から目線の上に噛まれるじゃなくて食われるなの⁉︎ それって僕が死ぬ未来しかないって事だよね‼︎」

たまらず更に叫びを上げる。

当然といえば当然だ。何しろ死を目前としていたと思ったら、いつの間にか眠ってて、更に自分を食らおうとしていたドラゴンが横たわっていた上に、自分の中に訳の分からない何かが居るのだ。

最悪、幻聴としてスルーすれば良いのだろうが、生憎死にかけた直後だ。気持ちの整理もままならない上に、若干パニックも起こっている為、やや感情が繊細になっている。

挙句、その近くには明かに厄介事の種が横たわっているのだ。現実逃避に駆られたい気持ちが気持ちの中で山を作り出すのも無理はないだろう。

「あぁ、最悪だよ。これ、僕が間違っても倒されたと認識されればまた王国に戻されるし、僕が倒していないと判断されたら更に偽の勇者としての悪評が高まり、行く先々で更に酷な扱いを受けるのは、毒沼に近づけばポイズンスネークに噛まれるぐらいに安易に予想が出来るから!」

うがー! っとセイバーのレンは頭を掻き毟り、その中にいるレンは『(毒沼に近づけばポイズンスネーク?)』と、そこを疑問に思うのであった。

『(ってか、ここで騒いでいるところ申し訳ないんだが、このままこの場に突っ立っていて良いのか?)』

誰のせいで! とセイバーのレンは突っかかろうとしたが、ここへ向かう足音に気付き、辺りを見渡す。

小さいながらも、木の枝や枯れた落ち葉が踏まれる音が耳に届く。この様な場所にいる生き物がマトモな訳がなく、レンはすぐに地面を蹴ってその場から離れた。

すると、レンが元いた場所に飛び込む、数匹の小さな生物。人間の赤ん坊のような体型をしながらも、その顔つきは酷く醜い。デコにはシワが寄り、目付きも鋭く、口からは鋭い牙が出ている。

肌色が緑色のそれは、辺りを見渡すとすぐにレンの存在に気付いた。

ニタァっと笑いを見せ、手に持っていたお手製の石斧をレンに向けて投げつける。

一発、レンの顔に当たってしまう。

「がっ⁉︎」

低く声を上げ、すぐにその場から離れる。

背後では数匹のそれが仲間と合流したらしく、同じような見た目をしたそれと何やら話し合いを行なっているようだ。

『(アレは、ゴブリンか?)』

「ご、ぐぶりん? メラ・イルダの事?」

走りながらセイバーのレンはセイヴァーのレンの疑問に返しを入れる。

「メダ・イルダは森の中に生息する魔族で、小さいながらもその数は多く、一度囲まれると上級者の冒険者でも命を落とすとも言われている奴だよ。一匹いたら近くに千匹いると考えてとは言われているけどね!」

喋りながら走るが、割と余裕はない。

イダ・メルダと呼ばれた魔族は仲間と連携しつつ、レンの行く先々で投石や木の棒を鋭くした槍を使い、レンを狙いに来ている。

紙一重で避けているが、これはいつ当たってもおかしくない。むしろここまで避けられている事自体が奇跡と言えよう。

『(要はゴブリンだな。多分言語に若干のラグが生じているから、今のうちに訂正を入れておくか)』

よく分からない事を言っているが、理解するよりも今はこの場を逃げ切る方を先決している為、無視して先を急ぐ。

『(と言うか、お前全然攻撃してねぇじゃないか。武器はどうした?)』

そう言われ、ギリっと歯を軋ませるセイバーのレン。

確かに背中に身長に見合わない大剣を持っているが、これを使ったところで勝てる見込みは無い。

『(ったく、戦う前から戦う意欲すらねぇ奴なんざ、死んで当然だ。ボロボロの武器がどうした。自身を守る為の剣じゃなければ、それはただのお飾りか?)』

更に険しい顔を見せる。痛いところを突かれた、と言うわけではない。セイバーのレンはもっと別のところで苛立ちを見せた

「何も知らないで、戦う事を強要させないで!」

叫んだ直後、頬に石斧がかする。痛さが頬を刺激する中、自身が囲まれている事に気が付いた。

ジリジリと後退するも、下がった先にもイダ・メルダもといゴブリンが多数待ち構えている。

進めばもっと多くのゴブリンが、レンの命を刈り落とそうと待ち構えている。

どっちも地獄だ。絶望に浸っている中で、セイヴァーのレンは愉悦な声音で語りかけた。

『(確かにそうだな。戦う事を強要するのは良くないな。で、その結果がどうだ? このまま戦わずしたら死ぬだけだが、それについてはどう言った考えを持ってんだ? まさか、話し合いで解決するとか、そんな頭ん中ハッピーハウスな考えを持っている訳じゃないよねー)』

洒落にならないのに、中から聞こえるのは明かな煽り。だが、言われている事は確かにその通りだ。

覚悟を決め、背中に担いでいた大剣を持つ。ジリジリと距離を伺うゴブリンだが、レンはヤケクソになって一匹のゴブリンに向けて大剣を振り下ろす。

この程度のゴブリンなら、大剣の一撃で仕留められる。数は多けれど、一体だけでも殺せば多少の隙が出来る。

そう考えたのだが、振り下ろした先に居たゴブリンはその体を真っ二つ……に、される事は無かった。

弾かれたように飛ばされると、近くの木に衝突し、何事も無かったかのように起き上がる。

『(……嘘だろ、おい)』

これにはセイヴァーのレンも呆れ果てる。

セイバーのレンは予想していた光景に、頭を抱えたくなった。

いつもそうだ。狙って放った矢は必ず外れ、信頼度あるロングソードを扱えば何故か根本から折れ、狙いを定めて振り下ろした大剣で敵は殺せず、無傷のまま弾いてしまう。

絶望的に戦いのセンスがない。扱い方を間違っているのか? はたまたたまたま脆い剣や羽がボロボロの矢を手にとってしまったのかは分からない。

だが、彼は一度も生き物を殺した事がない。文字通り害虫も害獣も、叩き潰そうとしても必ず外れ、逃げ回る獣に弓や剣を用いて殺そうとしても、これまで当たった事がない。

今だってそうだ。取り回しが利かず、隙が大きい大剣をどうにか工夫して振り回すは良いが、衝撃が弱すぎるのか? 全然体液すら散らす気配はない。

「ぐ……っ」

呻き声が漏れてしまう。

このままだとただ体力を無駄に消費してしまうだけだ。下手すれば体力切れで集団で暴行されかねない。

『(あー、考えているところで申し訳ねぇんだが)』

そうセイヴァーのレンが声をかけてくる。命かかっている最中に一体何だよ! と内心切れかかっているのだが、そんな心境を知ってか知らずかセイヴァーのレンが……

『(お前の後ろから、爆弾持ったゴブリンが接近しているからな?)』

つい耳を、いや頭を疑ってしまう。

向かいくるゴブリンを吹き飛ばした隙を見て、背後を向く。そこには四角い木の板で出来ており、上から然程長くない導火線が伸びた物体をゴブリン二匹がかりで持っている光景が目に映った。

その近くには、松明を持ったゴブリンが控えており、ニタニタ笑いを浮かべながらレンの方へと向かって来ていた。

「……は、は?」

言葉足らずで呆気に取られるが、内心ふざけんなの文字で埋め尽くされる。

鉱山などで働かせられた際に何度か見た事のある爆弾。その威力は、何度か巻き添えを食らいかけたので、十分に理解している。

リンゴサイズの果物を数十個入れられる木箱を転用し、作られたと言われている。大人でも二人がかりでないと運べないのだが、その破壊力は絶大だ。

岩石さえも砕く為、十分な注意を払わないと一瞬にして命を落とす。実際、セイバーのレンの前で何人かバラバラに吹き飛ばされて死んでいるので、このまま放置すればどうなるかは、安易に想像出来た。

「く……っ!」

呻きを上げながら、その大剣を、爆弾を持っているゴブリン目掛けて力任せに投げる。数体が庇うように体で受け止めるが、狙いはそこではない。

威力が弱まったとは言え、自分よりも大きな物体が当たってしまえば当然よろける。そして持っているものも自分よりも大きいモノだ。

当然、尻餅をついて爆弾を若干倒してしまい後ろに控えている松明を持ったゴブリンに接触しようが、持っていた爆弾の導火線に火が付こうが、周りのゴブリン達が慌てた様子を見せようが、尻餅を付いた事で思考に空白が生まれる。

レンは急いで物陰がないか探す。丁度大きめの岩があったので、その後ろに身を隠した。

瞬間、爆弾は爆発。周囲にいたゴブリンを爆風に巻き添え、辺りを地面ごと抉り取った。

「はぁ……、はぁ……」

正に間一髪。一秒でも遅かったら、今頃はあの爆風の中だっただろう。

『(戦えない割にはその場で転換の効く奴だな。自分の武器を犠牲に、相手の持ってきた爆弾をその場で爆発させるなんて、俺だったら武器が勿体なくて出来はしねぇ)』

一体褒めているのか勿体ないと嘆いているのかは不明だが、セイバーのレンはさっきまでの緊張感に未だ息を切らしながら答える。

「悪かったね。今この場で出来る事がそれぐらいだったんだから仕方ないでしょう」

今の瞬間でよくぞあの様な行動に出れたな。とセイバーのレンは思う。

偶然にも火の近くで爆弾を運んでいたからこそできたのだが、もし相手が誤爆を考慮して火を離していたら積んでいただろう。

だが、悠長にしている場合ではない。確かに爆弾を爆発させてゴブリンを巻き込んだとは言え、まだゴブリンは全滅していない。

むしろ先程の行動により、一層の警戒すら抱いている様に見えてしまった。

「うっわぁ。滅茶苦茶睨まれているよ……」

『(ったりめーだろ。人間も羽音うるさい虫に血を吸われれば、また吸いにくると思って警戒するのと同じだ。殺そうとした相手に反撃される程、癪な話はねーって事よ)』

つまり僕はゴブリンから見れば虫同然って訳なのね……。と認めたくない幻聴が聞こえたが、現実逃避してもどうしようもない。

飛んできた石斧を避けつつ、爆発によって死んだゴブリンが作ったと思われる石斧を拾い、飛びかかってきたゴブリンを叩き飛ばす。

丁度いいところに入ったのだが、無論と言うのか? 地面に叩きつけられてすぐに起き上がった。

『(んにしても妙だ。戦闘が下手って訳じゃねぇのに、この有様。決して間抜けって訳じゃねぇのに、ダメージを与えている気配がない。挙句、どんなに攻撃しても何故ここまで敵はピンピンしている? 明らかに別の力でも働いていると言った方がまだ説明できる事案じゃねーか)』

何やらぶつくさ頭の中から聞こえてくる。とりあえず逃げながら、何処かに隠れ場所がないかを必死に探すレン。

「……って、そんな簡単な話にはならないんだけどね」

追ってくるゴブリンの一体が弓矢を放つ。レンは軽く背後を見ていた為に気が付くと近くの木に手を伸ばし、掴んだ反動で無理矢理行き先を変える。

矢は虚しく空間を飛んで行く。しかし、新たな悩みの種に頭を抱えたくなる。

遠距離攻撃の出来る敵が現れた。それだけで、生存率が各段に下がってしまう。

おまけに大剣も先程の爆弾によって粉々に吹き飛んでしまい、身を守る武器が何一つない。

そろそろ息も上がり始め、速度も落ち始めてしまった。

一方ゴブリンはスタミナなど気にしないと言わんばかりに速度を落とさず走っている様子が目に映る。

ここまで来て、死ぬの? セイバーのレンが諦めかけていた。

その時である。突如としてゴブリンの額に、矢が突き刺さったのは。

一体が地面に倒れ、紫色の体液が落ち葉に滴る。他のゴブリンは何処から放たれたのかを探そと躍起になっていた。

そうしているうちにまた一体。もう一体と、確実にゴブリンの息の根を止めて行っていた。

見知らぬ敵に的とされる恐怖がゴブリンの集団の中で漂い始め、ついにはその場から逃げ出した。

撤退している間にも後ろ頭に矢が刺さり倒れ込むゴブリンが居たが、連中からしてみれば自分以外が死んだとしか受け止めていない様子で、特にこの場に留まる様子も見せないまま、気が付けばレン一人がその場に立ちぼうけていた。

「た、助かった?」

膝に手を当て、今まで不足していた呼吸を一気にその場で行う様に息を荒げながらレンは呟く。

途中で咳を上げつつ、周囲を見渡した。

すると、その場に現れる影が一つ。

まず見えたのが、弓矢の様な武器だ。普通の弓矢とは違い、横に取り付けられた弓に照準を付ける為だと思われる筒が上部にあり、また弓が細長い台座に取り付けられ、固定する為の金具と金具を外す為の引き金が台座には取り付けられていた。

初めて見る武器にレンは興味津々に見ていると、またしても中から声が聞こえてくる。

『(クロスボウか。こんなところで見るとはな)』

クロス、ボウ? とレンが呟くと、セイヴァーのレンが答える。

『(要は素人でも使える弓矢ってところだ。技能を要する普通の弓矢とは違い、こっちは矢を付けて引いて固定して、狙って撃つだけの簡単な弓矢だ。だが固定する際に割と力がいる上にある程度の反動もあるから決して簡単って訳じゃねーけどな)』

それに、とセイヴァーのレンは言葉を上乗せする。

『(普通のクロスボウよりも巨大な上にスコープまで付けているって事は、長距離に特化したモンだろう。おまけにゴブリンに飛ばしていた矢の装填を考えると、相当な力を付けている上に手慣れている様子だ)』

説明が終わる頃には、その全容が明らかとなる。

モッサリと生えた髭に、ゴワゴワとして広がっている髪。耳が少しだけ尖っていて、少しだけ肌の色が茶色い。

身長はレンとほぼ同じぐらいだが、顔にはシワが寄っている上に すこし腰が曲がっている。

相当歳を食っている様子が見受けられるそれは、人の前には滅多に表さない種族として有名だと噂で聞いた事が、セイバーのレンにはあった。

「ラ、ラーヴァリ?」

『(ふむ、ドワーフだな。また言語ラグが発生しているから訂正しておくか)』

また訳の分からない事を言っているが、気にせずラーヴァリもといドワーフに視線を向けた。

「人間、か。こんな辺境の地に何の用だ? ここらが我らドワーフの住処と知っておきながら入り込んだのなら、汚れたゴブリンの後を追わせる事になるぞ?」

物騒な言葉に、クロスボウに装填された矢を向けられる。明らかに殺気めいた感情が見えてしまう。

「ち、違います! 僕はただ、この山を近道で通りたかっただけで、決して貴方達ドワーフに危害を加えようとした訳じゃありません!」

必死の答弁。ドワーフは怪しんで引き金に触れている指に力を入れていたが、その情けない様子に呆れたのか? クロスボウの照準から外した。

「なら良い。ここ最近、千年級ドラゴンがこの森に住みつくわ、ゴブリンが異常発生して森の生態系を壊すわで相当気が立っていたんだ。怖がらせたのなら謝っておく」

無機質な声音に、表情を表さないその顔つきに、若干の寒気が襲う。

「小僧。本当に近道の為にここを通っていたのなら、最悪の時期だ」

ふと、ドワーフがため息混じりに言い放つ。

「それって、どう言う意味で?」

「さっき言っただろ。千年級ドラゴンが住み着き、挙句ゴブリンが異常発生している上に、ここ数日間でドワーフの民族が大勢失踪している。もし魔族絡みだったら、貴様みたいな人間は格好の的になるってだけだ」

ドラゴンやゴブリンはさっきまで対峙していたから分かる。

しかし、失踪の類は初耳だ。昔からこの森にドワーフの民族が暮らしていたのは噂になっていた。

彼らドワーフは高い鍛治の技術と力技を使った獰猛な攻撃者として王国では名を馳せている。実際に王国へ出稼ぎに来ている連中もいるのだとか。

ただ、背は小さく少し肥満体質みたいになるのが彼らのコンプレックスだとも噂がある。そのせいで同じ様に森に住むエルフの民族とは仲が悪く、住んだ森にたまたまエルフが居たり、逆にエルフが住もうとした森にドワーフが居た場合、互いをチビデブだとかデーモンイアーだと罵倒した挙句、最悪殺し合いにまで発展する場合があるらしい。

ただ仲間意識は強く、仲間に手を出されたら手を出した輩を総勢で探し出し、狼の餌にした事件がある程、大切に思っているらしい。

そんな彼らの仲間が失踪しているのだ。本当は数人体制で、仲間との連携を取りながら捜索している筈なのだ。

しかし、目の前に居るのは歳を喰った老人ドワーフだけだ。おまけにドワーフは普通斧や剣などの近接戦闘を主流としている。弓を使ったドワーフなど、セイバーのレンが聞いた中では覚えがない。

『(成る程な。つまりはこの森にドラゴンやゴブリンの他にも魔物が潜んでいる。って話か。武器も無しに乗り越えるにはかなり骨が折れそうだな。いやー、困ったねぇ)』

「あの話でそこまで分かった事に驚きだけど、出来るだけ知りたくなかった単語が出てきてしまっているんだけどねー。あぁ、最悪だよ」

頭をうずくめたく衝動に陥るセイバーのレン。

失踪ともなれば、当然ながら捕食された可能性だってある。ドラゴンに喰われたのか、はたまたゴブリンに嬲り殺されたのか? それとも連れ去られたのかは分からない。

どれにしても、武器無しでこの森にいるって事は、肉を身体中に巻き付けて狼の群れが住む森の中を歩くのと一緒だ。

いつ襲われるか分からない恐怖と戦いながら、丸腰で進まなければならない。

こんな気持ちを持ちながら進みたくはないだろう。気持ちのいい緑色の景色に蠢く緑色の化け物に襲われるなんて、悪夢以外の何者でもない。

「ねぇ、この森の中で安全地帯と言える場所かゴブリンが襲ってこない場所とか知らないよね?」

「そんな所があったら、ワシはこんな所までは来ておらん。もはやこの森に安全地帯なぞ無いに等しいからな」

ハッキリと断言された。

泣きたくなる感情が生まれつつあるが、泣いたところで何かが変わるわけでは無い。むしろ声につられてゴブリンが寄ってくるだけだ。

「しかし、千年級ドラゴンまで住み着くようになるとは、長く生きているワシも初めてだからのぅ。こんな異常事態、長老が言っていたかつての魔王侵略時以来かも知れんがな。しかしその際はここよりも大規模な森の中に居たそうだけどな。千年級ドラゴンが三体も居たらしいがのぅ」

しんみりした様子でドワーフは語る。

ドワーフの寿命は約三百年。丁度前勇者が魔王を討伐していた時に生きていたドワーフなのだからそれはそれは恐ろしい光景を目にしていた事だろう。

こんな辺境ののないただの森の中とは違い、大規模な森ともなれば数多くの魔族が拠点防衛の為に数多くの防衛戦を行なっていた事だろう。

大規模ともなれば、それはそれは大量の魔物や魔族が居たと言うのは安易に想像しやすい。

王国に居た頃、セイバーのレンは文献を何度か読んだ事がある。拠点としていた森の中に魔族や魔物用の空間転移魔法を作り、そこから魔物を送り込んでいたとの事だ。

その為、森の中はゴブリンやサイクロプス、千年級ドラゴンやキマイラ等が守りを固めていたと言う。

当然ながらゴブリンの最上位にあたるギガ・ゴブリンと呼ばれる個体やリザード兵と呼ばれる魔族の中でも知能が高く連携した戦術を使う厄介な魔族軍も居たのだとか。

……と、ここでセイバーのレンは唐突に疑問を浮かべる。

「千年級ドラゴン……。でも待って。それにしては、何で千年級ドラゴンがこの森に住みつく様になったんだろう?」

口に手を当てながら、レンの独り言は続く。

「考えてもみれば、あのドラゴンは伝説級の筈なんだけど、そう言った魔物はもっと重要施設を守る為に配備されている筈なんだよね。王国の軍隊だって、弱そうな魔物や魔族しかいない森の近くに達人級の鋭利兵やエリート部隊を置く筈がないのと同じで、こんな時々にしか人が通らない上に別に敵でも味方でもないドワーフの民族が住むこの森にドラゴンを置くなんて考えられない。下手をすればドワーフの民族全てを敵に回すようなデメリットがあるのに、一体何で……」

出来事があるのなら、それに至る原因もある。そうレンは考えた。

思考を捻り、考えられる可能性を浮かべるも理由が思い当たらない為に否定して次の考えに移る。

そんな時だ、中からセイヴァーのレンが声を響かせたのは。

『(何で、ではないだろ。考えてもみろ、仮に雑魚しかいねぇ森の中に制圧用の物資や王国へ直接攻撃出来る兵器があったのなら、それを防衛する為に防衛線を引くのは当たり前の話だ。だとすると、連中にとって触れられてはいけない何かがこの森にあるって話だろ。隠すなら森の中ってことわざを知らないのか?)』

そんな言葉は知らないし、第一ことわざって何だよ。とセイバーのレンは声に出しそうになるも、この場に居ない人間へ返してもただの独り言か余程の痛い人とドワーフに見られてしまうだろう。

その為レンはグッと堪え、更に言われた事に一理ありとも思った。

もし変化があったのなら、ここに住むドワーフなら心当たりがある筈だろう。レンはドワーフに尋ねる。

「ドワーフさん。ここ数日間の間で何か変な出来事はありませんでしたか?」

ドワーフは少し考え、ふと思い出したかのように呟く。

「……闇に包まれたような光が、落ちてきたな」

無論と言うべきか、どう考えても原因らしき単語が出てくる。

「小僧、見た所武器も持っていなさそうだ。それにそんな事を聞くって事は、何か解決策を持っていると見て良いんだな?」

え? とレンは呆気に取られる。

別にこの森に起きた事変を解決する気などまっさら無かった。更に言うと、レンがその事に気が付いたのは、文献を見ていたからこそ偶然気付いたに過ぎない。

「この近くにワシの家がある。武器もある程度なら貯蔵しておるから、一度寄ると良い。その代わり……」

何やら雲行きが怪しい。このまま次に出る言葉が何かが分かってしまう。

ダメだ。絶対に受けてはいけない。けど丸腰のままこの森を突破出来るとは到底思えない。タダでさえゴブリンが徘徊しているのだ。武器も無しに突破すれば例え突破出来たとしてゴブリンを連れたまま旅をしなければならない。

そうなれば、村へ入るどころか偽の勇者が魔物使いへと変貌したと勘違いされかねないのだ。

あぁ、ダメだ僕。キッパリと断りを入れないと、絶対に……。

「この森に起きた異変、一緒に解決してもらうぞ」

鋭い眼光を向けられ、軽く悲鳴を上げたセイバーのレンは、情けなく……。

「わ、分かり、ました」

返答するのであった。

乾いた笑いが出てくる中で、中から声が聞こえてくる。

『(うわっ、情けなっ。お前、絶対に頼まれ事をされたら嫌とは言わない人間だろ。パシリとか絶対にされていたな、コイツ)』

割と思い出したくもない記憶が脳裏に浮かばされつつ、この状況に深いため息をついてしまった。

「どうして、こうなったんだよ」

また描き終えたら投稿します。

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