第三章「終わりは始まり、始まりは新たな幕開け。時々口喧嘩」
普通に三週間過ぎての投稿になってしまいました。特に待っている人などいないと信じて、自己満足定義で投稿しまーす。
前回のあらすじ
最低な魔王様
第三章「終わりは始まり、始まりは新たな幕開け」
自然と目が開く。
胸の奥から何かが詰まっていたような感覚があり、少し起き上がっただけで咳が出てしまう。
口から出るは、水。それも舌が痺れる塩辛い水だ。
今自分がどんな体勢になっているのかすら把握しておらず、ファーナは意識が覚醒してからは辺りを見渡す。
地面の感触からするに、コレは砂だ。乾いた粒が肌に付き、振り払いながら砂を落とす。
ふと自身の状況を確認する。着ていた服が半ば脱がされ、胸に巻いているサラシが目に入る。心なしか? 胸元がズキズキと痛みを発していた。
「ケホッ……。ここは何処だ? いや、私のこの姿、まさか辱めにされていたのか?」
「ンな訳あるか自意識過剰。好みでもねぇ女を無差別に抱く程に暇じゃねぇんだよ。言われもねぇ冤罪成立させようもんなら簀巻きにして海の藻屑に戻すぞ」
声が聞こえ、ファーナは体を起き上がらせる。しかし体の至る所に痛みが走り、思うように体が動かない。
「がっ⁉︎ なっ‼︎」
状況が理解出来ずとも、動くのなら例え体から悲鳴を上げながらもどうにか立ち上がる。
目元がヒクつき、頭がクラクラしながらも今自分の側に居るのが脅威なのかどうなのかの確認だけでも取るべく必死に目を走らせた。
「オイオイ、今まで水中ジェットコースターを意識失いながらも堪能したんだぞ。それで動けるってどんな精神力持ってんだ? 平衡感覚が狂ってんのに、立ち上がるなんざ並大抵の人間には無理な事だが……」
そう呆れている、少年の姿。
レン・セイバー。彼は砂浜にある大きな岩の上に座りながら、大きく欠伸をしつつファーナを見つめていた。
姿形はレン・セイバーそのものだ。そのレンが呆れて物言わぬような表情を見せている。色の無い眼が鋭くなり、ゾッと謎の寒気を感じてしまう。
「……お前、レン・セイバーだよな?」
自分でも何故かそう尋ねてしまう。どうしてそう尋ねたのかは分からない。
ただ、本能が訴えかけるのだ。コイツは、自分が知っているレンでは無い!
そう思わざるが得ない。何故なら目の前にいるこの人は、目に色が全く無いからだ。
セイバーのレンのように光が全く無いのではなく、色そのものが無い。似て異なる特徴を、ファーナは見逃さなかった。
心に恐怖が灯る。得体の知れない相手を前にして、その体が震えてしまっていた。
「誰なんだ、誰なんだと聞いている‼︎」
ファーナが吠える。見た目が同じなだけに、ファーナの中で焦りが生まれたからだ。
乗っ取りの術と言うのが存在する。相手の意識を入れ替えて、その体を乗っ取ると言った禁忌の術だ。
言い伝えだけで実際に見た事は無かったが、今までの弱気な人が突然毒舌混じりの呆れ口調となれば誰だって中身が入れ替わっていると疑う。
仮にも一年間は彼の師として指導していたのだ。彼が一体どんな性格なのかは分かっている。
とうの本人は無気力な目を見せつつ、驚愕に染まったファーナを見下しながら溜息をつくと目元を暗くしながら言い放つ。
「別に誰だって良いだろ。お前はコイツを偽の勇者だと扱い、踏みにじっているのだから今更誰だろうが関係無い」
口から出るは、攻めの言葉。しかし実際、そう責められてもおかしくない意味を含んでだ。
「違うっ! 私は、ただ一人の弟子を……っ! 少しでも遠くに逃したかった。だが軍人と言う立場上、それが出来ないから理由を付けていた……」
言い訳をする。それが例え自分でも見苦しい言い訳だったとしても、本心を伝えたくの思いで言い放った。
黙って聞いていたそれは黙ったまま目を閉じ、大きなため息と共にボソッと呟いた。
「そうか。理由を付けていただけの、愚者と言うべきか」
耳に響く、愚者の言葉。それは己が憎む奴と同じ意味合いを持つ。
「愚……者……っ⁉︎」
息を詰まらせるように言い放つファーナ。レンの口からそんな事を言われるとは思ってもいなかった故に、怒りと動揺が同時に襲い掛かったのだ。
誰とも答えていない中、それは更に大きなため息をつきながら肩を竦める。
「安心しろ、今コイツの意識は気を失ったままだ。だからここで何を喋ろうとも、決してコイツの記憶には残らん」
意味が分からなかった。
記憶が残らないと言う事は、それ即ちレン・セイバーを指しているのだろう。しかしそれを何故この何かが断言出来るのだろうか?
混乱する頭だが、この何かは待ってくれない。
「その上であえて聞く。お前は軍人として何がしたいんだ?」
粗末な物体を見たような目。無性に見下されているのだと分かると、段々と苛立ちの方が強くなってきた。
「……何が、言いたい」
低く、怒りを込めた声音。流石に軍人と言うべきか、眼差しの鋭さは刃に似ており、例え剣を持っていないにしても、肉弾戦の構えを軽く行っている。
相手に悟られないように動いたのだが、セイヴァーのレンは表情を一切変えないまま問答無用の疑問を投げかけた。
「言動が伴ってねぇから聞いているんだ。慕うべき王を愚王呼ばわりした際、その言葉に震えが含まれていたのだからな。お前は決して王の為に戦っているのではない。ならば何故、軍に身を置いている?」
構えていた腕が震える。それと同時に目元が痙攣を起こし、視界が震えるのを感じてしまった。
「そ、それは……」
何も言えない。そもそもそれは自分にとって成し遂げなければいけない事なのだから、誰かに明かすわけにはいかないのだ。
まさかの追い討ちに口を閉じるも、更に目元の影を濃くしながらレンは……。
「はぐらかすつもりなら答えてやろう。復讐の為、だな」
そう、断言した。
「な、っ⁉︎」
激しい動揺。これまでに何度か心揺らされる出来事はあったが、自身の心の内を見破られた事は一度も無い。
だから、その言葉が耳に入った時の衝動は激しかった。
何故知っている⁉︎ 何処で‼︎ 二つの感情が混ざる中で、レンは更に追撃を喰らわせる。
「それもよりにもよって王への復讐だろ? お前みたいな連中は沢山見てきたのだから、すぐに分かった」
何を言っているのかがさっぱりだが、情報量の多さにファーナは唖然と口を開けたまま鸚鵡返しに呟いた。
「沢山見て……?」
疑問符が思考を覆い尽くす。そもそもそこを聞いても何にも意味が無いのに、反射的に尋ねてしまった。
「そこは置いておく。それで、だ。これまで前国王の話がちらほらと聞いては来たが、その家族はほぼ処刑されたと見て良いだろう。だが、もしも何かの抜け道があって今もその前国王の身内かその血筋の者が生きていたとするならば、どうするか?」
見開く。これから何があっても動じないと誓った直後に、またしても頭の中が真っ白になる。
「レジスタンスを結成して反逆の糸口を掴むのを待つか、はたまた身分を偽って王国内に入るか、だ。決して平穏な人生を奪った輩を忘れて生きて行くのなんて、出来はしねぇのだからよ」
的確過ぎる指摘。ファーナは唇を震わせながら、苦し紛れの強がりを見せる。
「……どうして、私がその前国王絡みだと思った?」
少し息が上がっているのを、レンは見逃さない。見れば手は震え、顔も少しだけ血の気が引いているのが分かる。
そんな姿を色の無い瞳で捉えつつ、レンは対称的と言わんばかりに大欠伸をしながら頬を掻きつつ答える、
「無理に男勝りな言葉遣いに、相当鍛錬したであろう数多の傷。何よりも、不器用な思いやりがその証拠だと思っただけだ。育ちの良さが直接的に性格として出て来る。特に混沌とした世界情勢の中では、粗野な連中の中では目立ちやすいとだけ言っておく」
「それだけじゃ証拠にならないだろ!」
ファーナが怒鳴る。
人の性格など、見て取れる情報だけで分かるモノではない。ましてや言葉遣いや傷だけで決め付けられては証拠にはならない。
彼女の怒りの目を向けられながらも、レンは緊張感無くゴスロリ服の胸元にあるポケットに手を入れた。
「そうだな。それだけじゃ、ただの言い掛かりだ。だが、船から落ちそうになった際に外れたペンダントを追いかけたのは何故だろうな?」
取り出すは、長い円形の平べったい形をしたペンダント。それも開いた状態で中に仕込まれている写真を見せつけられながら尋ねられた。
「貴様っ! それは‼︎」
取り戻した冷静さがまたもや取り乱される。
レンは軽く弄りながら、ペンダントを閉じてファーナへと投げ付けた。慌てて受け取ろうと動くファーナ。しかし頭がふらつくせいで真面に動けずに、足から力が抜けて倒れてしまう。
その頭に投げ込まれたペンダントが当たる。弾いて地に落ちたペンダントを、ファーナは必死になって手で掴んだ。
黙って様子を見ていたレンは醜態を晒そうともペンダントを握り締める姿に哀れみを感じてしまった。
しかしそれはそうと、と話を続ける。
「この世界に射影機があるとは驚いた。しかしこれまでに立ち寄った村に、写真なんてモンは何一つ見ていねぇ。とすれば、相当なお嬢様育ちでなければこんなモノは持っていねぇだろ?」
金持ちが為せる権利と言うのだろう。技術の高い代物を使うには、それ相応の対価が必要になる。
その対価とは、金だ。金有りし人なら、誰でも最新技術を使いたいと思うのはある意味理にかなった欲求なのだろう。
実際、ファーナの父親もそうだった。家族との集合絵を考えていた際、下町で射影機の実現化に成功したとの噂を耳にした途端に目の色を変えて王自らが出向いて交渉したとの話だ。
恐れ多くて金を受け取れないと言う技術者と金をふんだんに積んで仕事の依頼をする王の姿が目撃されたとは、今も尚受け継がれる前国王のエピソードとしてあるのだから。
「っ!」
何度目か分からない、動揺。サラリと受け流しつつ、レンはため息を交えながら説明に入る。
「写されている玉座に高級そうな服に身を包む親子の姿。一体何処かは知らんが、同じ様な玉座に座った写真を例の軍艦の中で見た。そしてこのペンダントの写真を見て、合点した。お前は、このオッサンと手を繋いでいる女の子。それが成長したのがお前だな」
ファーナは目を尖らせてレンを睨むが、段々と馬鹿馬鹿しくなり諦めたように顔の力を抜いた。
「……そうだ。私の名は、リファ・トリシアナ。エレルラ国前王ムグム・トリシアナの娘であり、たった一人だけ生き残った、トリシアナ家最後の生き残りだ」
白状する。
これまで自身が誇り、守り抜いてきたその名を、久々にその口に出した。
忌々しい思いを感じる。この名は、殺すべき愚王へと最後に聞かせる名前として口にするつもりだったのだが、その目論みは潰えてしまった。
顔はレンだが、確実にレンでは無いソレが一体何なのかは分からない。だが、ここまで事を見抜き、また最後に見た光景から、どんな方法を使ったのかは不明だが島と島の間の海。それもほぼ中心付近からどちらかの陸まで辿り着いたとの事実が認識してしまう。
とんでもない魔術師か? それとも得体の知れない術を使う者なのか?
自暴自棄の顔とは対照に思考はそこへ辿り着き警戒を続けていた。
また、トリシアナの名前を聞いての反応を見る。相当な田舎でも無い限り、トリシアナ家の名は国々に知れ渡っているからだ。
故に「暴君が残した姫」なんて言われも無い誹謗中傷の名を付けられてしまっている。自身の父をそんな風に思った覚えは無く、不名誉な名に嘆くばかり。
愛した家族を晒し者にされ、ただ一人だけ生き残ったとの事実。
表向きには死んだとされているのだが、協力者のおかげで今も生き延びている。例え己が父を殺した愚者を守る為の軍であろうとも、ファーナは過去を捨て、過去の復讐の為に生きているのだ。
そんな事情を、このレンは知らない。知らないからこそ、退屈そうに背伸びをしながら視線だけを向けて……。
「そんな細かい事情までは聞いてねぇぞ」
キッパリと、言い放った。
うっかり足から力が抜けてずっこけるファーナ。砂を顔面から浴びつつ、振り払いながらレンを見上げる。
「白状させたのは貴様だろうが! 何だ一体! 何がしたいんだ‼︎」
ごもっともなツッコミ。過去を抉り、閉じていた記憶をこじ開けられながらも自白して出て来た言葉があの様だ。
プライドを踏みにじられた姫が激昂する中、セイヴァーのレンはとりあえずはと答える。
「只の探偵ごっこ。何千年……だったけ? まぁ、良いや。とにかく長い時間を過ごす中で最大の天敵は暇だから、こうして探偵の真似事でもしてみれば面白そうだなと思ってしまっただけだからな。いやはや、随分前に起きた“雪山小屋、完全密室殺人事件“の方がまだ謎の解き甲斐があったからなぁ。アレは現場に釘が落ちていなければ解決出来なかった程に難問だった。床下這いずってピアノ線を使って人を殺すとか、よく思い付いたな」
「思い出話に耽るな! それに私をわざわざ問い詰めたのが探偵ごっこの類だっただけなのか⁉︎」
あまりに外道の所業だと言わんばかりの怒鳴り声。未だにファーナは自身が煽られている事に気付いていない。
「そうだ。別にお前の事情なんて興味ない。セイバーのレンなら心配するだろうが、残念ながら俺にそんなたかが小娘一人の復讐劇にそそられる要素など、精々ご飯の中の米粒程度だろう。その程度だ」
もったいない精神があれば食べなきゃいけない衝動に駆られ、特に気にしない人は気にせず捨てる。
過去の悲劇を程度と言い張り、あまつさえ気にも止めぬその態度。流石に度が過ぎるのもあって、腹が煮え始めた。
「……いい加減怒るぞ。黙って聞いていれば、私の憎しみや恨みを何だと思っているんだ‼︎」
本気の怒り。今まで馬鹿にされていた故に、このレンに対しての本気で抱いた殺意が溢れ出る。
だがそんな姿を前にしても、セイヴァーのレンは決して態度を改めない。そこに怯えも無ければ楽しさも無い。
無の表情だけだ。何も感じないと言うのは、不気味な程に嫌な気分となる。
だがその無表情から発せられる言葉に、更に嫌な気分を味わう事となった。
「非道に成り切れない非道、だな」
たったそれだけ。それだけなのに、何処となく胸内がドロドロとした何かが溢れてしまう。
軍人になった時から甘さは捨てたつもりでいた。だがこの言葉は、それを否定されたモノとして取れる。
そして何より、そう答えた意図が全く分からなかった。
「何だ、それは!」
怒鳴るファーナ。眉間に深いシワを作りながら、己のやる事を事如く否定する何かに対して吠える。
側から見た姿など想像せずに、ただ噛み付くだけの野良犬に対してレンは更に色の無い瞳を細めた。
「文字通りだろ。復讐を成し遂げたいと思っていても、途中の障害物で遮られてしまいその障害物に気を取られる、只の馬鹿だ」
正に今回がそうであったように。
メメイは確かに救いようの無い程に悪女であったのは否めない。しかし個人が操れる兵としての質は高く、場所によって指揮能力が高いのは噂として流れている。
今のエレルラ軍にとっては必要な人材だ。挙句、下手に逆らって警戒心を募らせてしまえば優秀な部下によってその身元が明かされる危険性があった。
下手を打たないようにしていたが、レンがここを訪れた事によって予定が狂ってしまう。レンの顔は上層部には知られている。だからこそ変装させて海を渡らせる必要があった。
かつて己が教えた弟子として、そして同じように不幸を共にする共通者として放っては置けない。いや、性分が放置出来なかったのだ。
船は魔物のせいで出航しておらず、出る船は軍艦のみ。海を渡らせるには相応の理由が必要であり、そのせいで簡単な思い付きでありながら世間ではありがちな設定を思い付いてどうにか乗る許可をもらった。
だがそれは本来やっても意味が無い事であり、むしろレンの正体がバレたと同時に自身の立場が危うくなる時限爆弾にもなってしまうのだ。
それでも彼女はレンを逃そうとした。それもわざわざシナリオまで作り、仲間である者達を欺いてまでも。
ただ自分の立場を危うくすると分かっていながら、そこまでやる意図が無いのをわざわざ行っているのだ。復讐する立場として、他人の不幸に同情するのは失格とも言うべき感情だ。
だからセイヴァーのレンは「非道に成りきれない非道」と言った。中途半端な志で復讐など出来る訳が無いと言わんばかりの、言葉の棘がその胸に絡まり刺さった。
凝縮された意味合いの「馬鹿」を突きつけられ、言葉を失う。唇が何を言うべきかの思考が追い付かずにただ震えるだけだ。
「……だったら、どうすれば良いと言うんだ」
尋ねる。砂浜と言う地帯で熱を肌に感じながら、どうしようも出来ない理不尽をどうすれば良かったのかを、顔を前髪で隠しながら。
心も体もボロボロのファーナに対し、セイヴァーのレンは軽く舌打ちをする。
「知るか馬鹿、お前の復讐事情など毛程の興味もない。本当に復讐したいのなら、その現在の国王が住む町を無差別に破壊すれば良いだけの話だ」
外道の所業とでも言うべきだ。だが、国王を巻き込んで殺せるとなればそう言う方法もあるのだろう。
だがそうなれば、愛する民さえも皆殺しにしなければならない。そんな悍しい事が、ファーナに出来る訳が無かった。
「そんな非道な事をっ! 出来る訳がないだろう!」
その返事に、予想通りと言わんばかりに首を軽く縦に振った。
「だろうな。だが、非道だの人道だの気にしている内は、特定の誰かを殺すなど出来る訳が無い。全てを投げ出し、全てを殺して自害するか、一人の相手を殺してその後に自身が死ぬ運命を覚悟しない限りはな。復讐とは、連鎖の産物だ。復讐が復讐を生み、殺しが殺しを増幅させる」
発想がテロリストそのもの。そもそも標的は一人なのだから他の誰かを巻き込む道理など何処にも無い。
しかし、最低限の覚悟は必要だ。心を持ったモノが、復讐など所業を成し遂げられるとはレンから見れば到底思えない。
「……そんな事をすれば、セナが悲しむ。私の友に、悲しい思いをさせたくない!」
セナとは、友人の事であるのは分かる。この女は、復讐を望むも友を見捨てたく無いとも言い始める始末だ。
とうとうレンの無表情が崩れ、嘲笑うかのように深い笑みを浮かべた、
「綺麗だな。その綺麗さが、足を引っ張っているとも知らずに」
復讐者とは、全てを捨てて遣り遂げてこその所業だ。
そこに綺麗も汚さも、ましてや人道も非道も無い。あるのは、恨みだけで人を殺したとの結果だけだ。
捨てきれない綺麗さがあるのなら、それが足枷となって躊躇を生む。
「ならばどうすれば良い! 私はあの愚王を許せない! けれど友を捨てたくない‼︎ ならば一体、どうすれば良いのだ……」
打ち止めされたかのように膝を折るファーナ。しかしレンからの答えに容赦はない。
「だから言っているだろ、知るか馬鹿。お前の善悪判断を、誰かに委ねる時点でお前は復讐者では無い。自身で迷い、決断し、実行しねぇ限りは迷い続けるだけだ。まだショッピングセンターの迷子の方が自分で判断する能力がある」
後半の意味はよく分かんなかったが、言いたい事は分かった。
自分で考え、迷い、答えを出せ。ただそれだけの、至極単純な答え。
「そ、それは……っ!」
今まで自分を自身で追い詰め、自身で耐え続けて来たファーナにとって一度立ち止まるとの選択肢が無かった。故に、その答えに少しだけだが心が揺らいでしまう。
「今は今を生きろ。建前だの、立場上だの、面倒な事は沢山あるだろうがな。それでも、全てを捨ててまで成し遂げたい事があるのなら、お前の好きなようにやれば良いだけの話だ。復讐だけとは言わん。お前の友を守る為なら守る為に戦えば良い。だから、今は今なりに正しい生き方をしろ。多分、恐らく、それが今答えられる正しい生き方って奴だ」
今までボロクソに言っていた人と同一人物だとは思えない返し。ファーナは震える唇をどうにか抑えながら、レンに尋ねる。
「……出来ると思うか? 復讐へと身を染めようとしている私に」
だがその瞬間、レンの顔が怪訝に嫌そうな顔を見せた。面倒臭いと言わんばかりの表情だが、それは言葉にも現れる。
「面倒、マジ面倒。お前、重い女とか言われてるぞ絶対」
問答無用の貶し発言。悲しみに明け暮れていた思考が、一気に怒りの色が混ざり始めた。
「悪かったな! 言われた事あるが、そこまでなのか‼︎」
無自覚程に厄介なモノはない。レンは地面へ向けて唾を吐くと、いい加減鬱陶しくなってきたゴスロリ服を脱ぎ始めた。
「ケッ、復讐だろうが何だろうが、何を目的とするかにもよるだろ。正義だの悪だの、そんなのは後からでも付け足せる。苦しめられている民を解放する為だとか、処刑された家族の無念を晴らす為だとか、理由ならわんさかある」
何処からか取り出したボロボロの上着とズボンを履き、これまたボロボロのマントを頭から覆った。
「決めるのはお前だ。だから改めて尋ねる。お前は、一体どうしたい?」
あの港まで着ていた格好へと戻しつつ、レンは改めて尋ねた。
これはレン・セイヴァーとしての問い。数多もの世界を巡り、その目で見て来た野郎が示した、微かな興味であった。
ファーナは頭を押さえながら、半ばヤケクソになりながらも、己の心中にある答えを偽り無く言い叫んだ。
「私は……。私はっ! 父や母、そして婚約者の仇をとりたい! けど、友人であるセナを捨てて人生を終わらせたくないっ‼︎」
変わらない主張。だがこれは、彼女が心から思っている、本心だ。
腕を組みながら、そんな板挟みを聞かされたレンは若干呆れながら、でも少しだけ目元を緩ませながらファーナへと言葉を送った。
「絵に描いたような板挟みだな。だが、今はそれで良い。悩み、足掻き、お前で答えを出せ。手放したペンダントよりも後を追って飛び込んで来たコイツを優先して守ろうとしたお前なら、勝手に答えは出るだろう。後は、お前次第だ」
飛び込んだのを他人の事情とばかりの言い方。それに姿はレン・セイバーな筈なのにその言葉遣いは全くの別者。
あまりに分からない情報の量についファーナはそれに対して尋ねた。
「一体お前は何なんだ? そのマイペースさと言い、レン・セイバーからは想像も付かない程の洞察力と言い、人を弄ぶのに特化したような言葉使いと言い、完全に別人だと思ってしまう」
「悪かったな。それは元からだ」
少しだけ不機嫌気味に返すレン。ほんの少しだが気にしているようで、その小悪さはある意味自覚を持っているように感じてしまう。
それはそれでどうかとファーナは思ったが、口には出さないようにする。
「一々答えんのも面倒。だが二度ある事は三度ある。三度目で小っ恥ずかしいが、答えてやろう。レン・セイヴァー。とある目的で異世界を渡り歩く、イレギュラーだ」
雑に言い放つ。
何度もと言うのは、既に何度か名乗っているらしいが、それだったらもう少し自己紹介を短的に出来ないのか? とついファーナは思ってしまう。
『(……うぅ。ここ、は?)』
レンの中で声が聞こえる。声の主は誰なのかは理解しているセイヴァーのレンは立ち上がると、空高くを見上げた。
「時間切れだ。だが最後に言っておいてやろう。今回の一件、ちゃっかり尻拭いさせるように小細工仕込んでおいたから、後は任せた」
確実に逃げるつもりなのは目に見えている。ファーナは慌ててレンを掴もうと手を伸ばすが、頭のふらつきのせいで上手く動けなかった。
「ま、待て!」
ただ叫ぶファーナ。しかしレンは止まらない。
「待てと言われれば待つとでも思うか? むしろ逃げるのみ! コロンくーん。時にはテメェの良いとこ見てみたーい」
訳の分からない言葉を発した直後、近くの砂の中から一匹の犬……。いや、犬擬きの何かが背中から炎を噴きつつ現れる。
『散々文句ばかり言っておいて、さも当たり前のようにコキ使うとか自己中だワン! 私的利用はやめるワン!』
文句を言いながら、その腹部から先端に何かが付いたロープが下される。レンがそれを掴むと、更に犬っぽい何かの足からも火が吹き出た。
「私的じゃねぇーよ。逃げる為の手段だ手段。あとテメェが言えた義理じゃねぇだろ」
軽口を叩きながら上昇して行くレン。訳の分からない原理で飛ぶその姿に、ファーナは圧倒されてしまった。
『(ちょっと状況が分かんないけど、絶対に違うとだけは分かったよ)』
イマイチ状況が理解出来ていないが、とりあえずはツッコミを入れておくセイバーのレン。
そもそも今何で自分が空を飛んでいるのか? そして何でセイヴァーのレンに体の主導権を握られているのか?
とりあえず、今言える事は……。
「い、犬が飛んだ⁉︎」
今度ファーナと出会った際に、どう説明するかを考える事とする。
そもそも空を飛ぶなんて事自体が異形だと言うのに、感覚が麻痺していたのか? 驚きの顔を見せているファーナの姿が視界に入ったと同時に嘆いてしまった。
更にこの馬鹿野郎はファーナへと視線を移すと何処からか取り出した先が大きく手前が小さな筒状の何かを使い……。
「個人的に、お前の事は気に入った。だから死ぬなよ。俺の退屈凌ぎが無くなるのは困るからなー」
感情が篭っていないながら、大きな声となって辺りに響かせた。
遠ざかって行きながら、その声だけはしっかりと耳に入れてしまうファーナ。
意図を理解するや否や、次第に怒りのあまり顔を赤く染めながらレンへと目掛けて。
「なっ⁉︎ 人を! 退屈凌ぎの! 類にっ! するなぁ‼︎」
怒鳴るのであった。
姿が見えなくなるにつれ、近くの森の中へと向かう犬擬きことコロン君。鼻歌を聞かせながら、とりあえずは人目の無い場所へと着地するべく颯爽と飛ぶのであった。
『(ねぇ、念を推して尋ねるけど君ってさ、人の心を持ち合わせているんだよね?)』
飛んでいる最中に尋ねるセイバーのレン。未だに体の主導権を返してもらえないままなので、とりあえずはと聞いてみる。
その結果は……。
「とうの昔に捨てた。何処ぞの馬鹿勇者とサヨナラした日から……な」
と、何処か遠くを見つめながらそう答えるセイヴァーのレン。色が無いながらも、一瞬だけだが、哀愁が目に覗かせる。
『(そうなのね。そう、なの……ね)』
歯切れの悪い返し方。
それ以上答えなさそうなので、大人しくセイバーのレンは、その視界から見える風景を眺め始める。
彼の過去に何があったかは分からない。それは恐らくこのレン・セイヴァーと名乗るこの人も同じで、何をどう歩んでこんな性格になったのか等は自身にしか分からない。
セイバーのレンは今の今まで見ていた夢の断片を思い出す。
そこには無気力な少年が、一人の少女から半ば無理矢理連れ出して、無理矢理旅に同行させられると言った拉致紛いな出来事に遭遇しながらも、やさぐれさだけは変わらないまま旅をする。
何処の誰かも分からない夢なのだが、何となく、今の意味を理解してしまい心が締め付けられる気持ちを抑えきれないセイバーのレンなのであった。
会話だけでここまで長々と伸ばしに伸ばす。書きたい事を永遠と書き続けるとキリがないとの具体的な例となっている気がするのは、俺だけだろうか……。
と思っていたら、何故か同じ文面が二重になっていただけと言う、ね。慌てて削除して元に戻す。いや、恥ずかしいな……。
次回は二週間後の日曜日を目指します。
ではではー。




