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黄昏の終わりと始まりの世界《ステラ》  作者: ガイハ
銀の姉妹
8/61

交戦準備

「ん、もう朝か…」

フィデスが目を覚ますと、そこは昨日と同じ治療室のベッドだった。

フィデスは床に丁寧にたたんで置いてあった、制服に着替え保険室を出ていく。

保健室の前には前と同じように銀髪の少女と緑の髪をした少女、そして今日は青い髪をした少女も保健室の前で待っていた。

「おはよう、フィオ」

「おはよぉ~フィオ」

「おはようございます、フィデス」

「ああ、おはよう、シア、ティリュ、イディス」

「けがの具合は大丈夫ですか?フィデス」

「まあ、若干体が動かしにくいし少し傷は残ってるけど全然問題はないよ」

「そうですか、それは良かったです」

「じゃあ、もうそろそろ行きましょう。フィオが起きるの遅いから意外と時間ギリギリよ」

フィデスがモニターを開くとそこには、8時50分と表示されていた。

「シア、何時から始まるんだっけ?」

「9時よ」

「やばっ!シア、ティリュ、イディス・・・・・・は違うか。クラスまで走るぞ!」

「ええ!」

「朝からぁ~!」

「ふふっ、頑張りましょう、リューネ」

そう言って4人は校舎を走り抜けていった。

_________________________

「――――――以上が魔法誕生の歴史だ。部屋でしっかりと復習しておくように。では、解散!」

生徒たちが各々の場所へと散っていく中、四人は

「ねえフィオ、イディス、ティリュ。昨日部屋で調べてたら新しいカフェを見つけたの。四人で行かない?」

「ああ、昨日部屋で調べたあのカフェのこと?いいねぇ、フィオ達も行こ?」

「すまん、今日はこの後予定があって行けないんだ、二人で楽しんできてくれ」

「そう。イディスは?」

「すみません、この後生徒会の用事が入っていまして」

「そ、そうなの。二人とも忙しいのね」

すると、隣のリューネはニヤッとすると少し落ち込んでいるハクアに向かって少し悪い顔で囁いた。

「残念だったね。昨日あんなに楽しみにしてたのに…」

ハクアは顔を真っ赤にして反論する。

「そ、そ、そんなんじゃないから。フィオには色々助けてもらったからお礼っていうだけで別に好きとかそういうわけじゃないから!」

「そう、じゃあ私がフィオと二人でどこか行っても問題ないよねぇ。今日は無理みたいだから明日とか誘ってみよっかなぁ~」

「そ、それは……イヤ」

「じゃあ、やっぱり好…」

「ち、違うってば。確かに少しはかっこいいし優しいけど、そういうんじゃないっていうか…」

「すまん、盛り上がってるとこ悪いんだが少しいいか?」

ハクアが途中まで言いかけたところでフィデスが少し申し訳なさそうな顔で会話を強引に遮った。

「ん、どうしたのフィオ。今ちょうどフィオの事でもりあがって…」

「な、何でもないわよフィオ!」

途中まで言いかけたところでハクアに口をふさがれるリューネ。

「何の話で盛り上がってたかは知らないけど、俺はもう今行かなきゃいけないから少しだけ言わせてくれ」

途端に真面目な顔になるフィデスを見て二人も気持ちを切り替える。

「何かあった?フィオ」

「いや、何かあったっていうより今夜あるんだ。詳しくは言えないが今夜シアは襲われる。必然的にティリュも巻き込まれる。でも俺とイディスは助太刀に行けない。だから二人で撃退してもらうことになる」

「私が襲われるってことは姉様絡みよね?」

「ああ」

「そう、そこまで私を…」

「シア、最後にこれだけは言っておく。今回の襲撃とレイティアは関係ない」

「それってどういう…」

「じゃあ、俺は行くから、二人とも、絶対に生き残ってくれ」

「あ、私もフィデスと同じ方向ですのでこれで」

そう言ってフィデス問イディスは歩いて行ってしまう。

残された二人は与えられた情報をつなぎ合わせようと頭をフル回転させていた。

「フィオが最後に言った『今回の襲撃とレイティアは関係ない』ってどういう意味かしら」

「分かんない。でも多分フィオはこの件に関して何かを掴んでるんだと思う。重要な何かを…」

それから二人は数十秒の間何も発さず考えていたが、ハクアは顔を上げるとリューネに笑顔で話しかけた。

「とりあえず今は今日の襲撃を撃退することだけ考えましょ。フィオが私たちに話さないのはきっと意味があるのよ。フィオが私たちに害のある事をするはずがないもの」

ハクアの言葉にリューネは小さい声で「羨ましいなぁ…」と言いながら頷く。

「そうだね。詳しいことは後からフィオに聞けばいっかぁ」

「少しの文句もね」

ハクアは片目を閉じ、悪戯っぽく舌を出して言う。リューネは首を不思議そうにかしげる。

「文句?どうして?」

「また、一人で傷つこうとしてるんだから」

ハクアの予想外の言葉にリューネはクスっと笑うと

「そうだね。すべてが終わったら少し文句を言っちゃおっか」

「そして今度何かあったときは絶対に三人でやるって約束させるの」

「あ、カフェでなんか奢って貰うのも良いかもよ」

二人は頭の中から恐怖が消えていることに気づいていなかった。

_________________________

「フィデス、良いんですか?」

「ん、何がだ?」

「ハクアとリューネの事です」

「ああ、四人で一緒に戦えばいいんじゃないかってことか」

「はい、今夜の襲撃は苛烈なのでしょう?私も手伝えませんしあの二人も同じ場所で戦った方が」

「確かにその方が安全かもしれない。でも、一昨日【地帝神滅書(ケラウノス)】に動きがあったんだよな?」

「はい、確かにありましたが…。なるほど、そういう事ですか」

イディスは納得したと頷く。

「そう、今一緒に戦うのは確かに安全かもしれない。でも、いつでも守ってあげられるわけじゃない。そういう時に自分で身を守れるようになった方がいい。そのために今は少し辛いだろうがハクアなら大丈夫だ。きっと認められる」

「そうですか。少しハクアさんが羨ましいです」

「ん?どうしてだ?」

「フィデスにそこまで信じられていてです」

「そうか?俺はイディスのことも同じくらい信用してるぞ」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

イディスは少し染まった頬を見られないように少し顔を背けて答えた。

しかし続くフィデスの言葉によって一気にイディスの顔は引き締まった。

「本隊はいつ来る?」

「二日後かと思われます」

「そうか」

「良いのですか?多分今日の襲撃の中に現当主はいないと思われますので私くらいなら加勢しても問題ないかと思われますが」

「いや、気持ちはありがたいがイディスは二日後の襲撃の時に加勢できるよう生徒会の治安維持部隊を集めておいてくれ」

「はい、それは勿論。ここは一国の国と同じ扱いになるので、彼らは無断入国していることになりますから、制圧するのに力はお貸しします。ですが、もし万が一私が加勢しなかったせいでフィデスやレイティアさんが命を落としでもしたら…」

「イディス。一番最悪の事態は、今日イディスが加勢して当主やその側近にばれ二日後の襲撃が変更されることだ。そうしたらそいつらがどこに居るかも分からないままのさばらせることになる。しかも人数もわかっていない。人質をとる可能性だってある。だからここは俺とレイティアは少し危険でも確実に向こうが襲撃してくるようにするのがベストなんだ。それに、レイティアは俺が必ず守るから大丈夫だ」

「違います。私はフィデスの事を!」

「大丈夫だよ、絶対無事に帰ってくるから」

そう言ってフィデスはポンとイディスの頭に手を置く。

「それは、反則です…」

イディスは俯いたまま少し頬を染めている。

しかしイディスは一拍つくと今はその場ではないと思い直し、真剣な顔に戻り

「分かりました。二日後我々生徒会メンバー及び治安維持部隊の総力を持って彼らを捕縛します」

と決定の意思を伝える。

フィデスはイディスの真面目な様子に、少し苦笑すると

「ああ、よろしく頼む。やっぱりイディスに深夜の内に事情を話しておいてよかった。イディスの協力がなかったら二日後の襲撃の日も分からないまま最悪の事態になっていたかもしれないからな」

「ふふっ、フィデスのお役に立てたのなら良かったです」

「じゃあ、また二日後に」

「はい」

二人は話を終えると反対の道へ歩いて行った。

_________________________

「すまん、レイティア。待たせたか?」

昨夜と同じく中庭の噴水前の芝に座っていたレイティアに、フィデスは横に座り声をかける。

「待たせたよ、かなり」

「そ、そうか。それはすまん。以外に話が長引いてな」

「まあ私のために頑張ってくれてるんだし仕方ないんだけどさ。怪我は大丈夫?」

「ああ、まだ少し痛むけどな」

「そう、それなら良かった。怪我が平気なら、今日私を待たせた罰として、この件が片付いたら一日私のショッピングに付き合って」

レイティアが明らかにわかる、怒ったような演技で立ち上がって言う。その眼には期待もこもっているように見えた。

「まあ、そんなことで良ければ全然構わないぞ。この件が片付いた後、俺も誘おうと思ってたしな」

フィデスは小さく溜め息をつくとレイティアに続く様に立ち上がった。

「えっ、それって、デー…」

突如頬を紅潮させ、恥ずかしがるレイティア。

「ああ、レイティアも女の子らしい事してみたいかなって思ってな…て痛っ!どうしたんだレイティア?」

突然膝を蹴られたフィデスはレイティアに問いかけるが

「ふんっ!知らない!」

レイティアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

フィデスは何がまずかったのかと思考を巡らせるが女心に鈍感なフィデスに思いつくはずもなく

「レイティア。俺何かしたか、って痛っ!」

フィデスは1発目より強い蹴りを食らい、どうすればいいかと悩んでいたが、前からクスクスと笑い声が聞こえたのでフィデスは少しホッとし、苦笑いをする。

「レイティア、からかうのはやめてくれ。心臓に悪い」

「ふふっ、ごめんね?でも、フィデス君はもう少し女心っていうのを理解した方がいいと思うなぁ」

「そうなのか?」

「そうだよぉ、もう。女の子は繊細なの」

「そ、そうか」

「なら、私の女心を傷つけた罰としてショッピングの時飲み物何か奢って?」

レイティアは少し悪戯っぽく微笑みフィデスに尋ねる。

フィデスは降参だと言わんばかりに苦笑いをすると

「分かりましたよ、お嬢様」

「ん、よろしい」

「ははっ…」

「ふふっ…」

二人は互いに見つめあうと揃って笑い始めてしまった。フィデスは楽しそうな顔で笑っているレイティアを見てもう少しだけ良いかと、思ってしまうのであった。

そして二人は数十秒もの間笑い続け、少し和やかな雰囲気になったところでフィデスが本題に入る。

「レイティア、今夜の作戦だが…」

「うん、とりあえず二人とも固まって戦う。でも現当主がいたら最優先で狙う…」

フィデスの懸念にレイティアは少し胸をはると

「いやいや、フィデス君は私達の事を過小評価し過ぎじゃない?アリシディア学園の現トップとそれを上回る魔力量の持ち主だよ。そんな二人を排除したとなったら他の四大貴族から何を言われるか分かんないからね」

レイティアの自信満々な発言に、フィデスは少し安堵すると、フィデスにとって最も重要な事を尋ねる。

「そうか。なら、これで二人は自由になるのか?」

レイティアはフィデスの方を見ると、昨日までとは想像も出来ないほど嬉しそうな満面の笑みを浮かべると

「そっ。これでやっと自由になれる。本当にありがとうフィデス君!」

と言って突然フィデスに抱き着いてくる。

レイティアがとった余りに大胆な行動に、周辺を歩いていた男子達は羨望と嫉妬を向け、女子達はきゃあきゃあと騒ぎ立てながら色めき立っている。

しかし、フィデスとレイティアはその視線などに全く気付かず

「俺は少し手伝っただけで、レイティアの今までの行動の結果だよ」

「そんなことないよ。その少しの手伝いのおかげで私は生きられるんだから。この戦いが終わったらフィデス君に、必ずお礼をするから楽しみにしといて」

傍から見たら完全にカップルとしか思われないような会話を繰り広げている。

「それは楽しみだ」

しかし、2人はその雰囲気に最後まで気付くことはなく

その言葉を最後に二人はそれぞれ寮の方へ歩いて行った。

_________________________

暗闇がすべてを包みこんでいる。そこには杖を膝に抱え噴水のふちに座っている少女、そして剣を腰の鞘に納め、同じく噴水のふちに座っている少年。レイティアとフィデスである。

二人は目をつぶりながら静かに神経を研ぎ澄ましていた。手はレイティアの希望で重ねられている。

その状態のまま数分経った頃、校舎とは逆の森の方から人の影が見え始めた。

見えている数は30にも満たないがその奥からも気配が感じ取れた。


しかし、レイティアはすべてが同程度の気配であることにすこし落胆していた。

それでも、厳しい戦いになることは間違いないと気を引き締めなおし目を開ける。

同時にフィデスも目を開けると剣を鞘から抜き右手に、レイティアは杖を左手にそれぞれ構えるとほぼ同時に立ち上がり、武器を構えた。


「あ、フィデス君。ちょっと待って!」

「おっと、レイティア?どうかしたか?」

じわじわと距離を詰めてくる敵にフィデスはこちらから仕掛けようと地面を蹴り、走り出そうとした瞬間。レイティアの腕が走り出そうするフィデスの左腕を掴んで引き止めた。


「少しだけ待って。ーーー」

出花をくじかれたフィデスは、何事かと掴まれた左腕を見ると、重なった二人の腕を固定するように灰色の魔法陣が二人の腕を包んでいた。


「何をっ・・・魔力が増幅してる?」

レイティアが何をするつもりなのか分からないフィデスは思わずレイティアに問いかけるがその問は魔法の効果を持って返された。ただ、フィデスは知っている。何の代償も無く魔力を増幅させる魔法など存在しない事を。

「レイティア、これは・・・」


「・・・ごめんね、いつか説明するから。それじゃ駄目?」

しかしフィデスがどんな魔法を使ったのか尋ねようと口を開いた時、レイティアが言葉を遮った。

今までレイティアがフィデスの言葉を遮った事などない。それほど秘匿性の高い魔法か、言いたくない魔法か。

どちらにせよ言いたくない事を言えと強要するような趣味をフィデスは持ち合わせていない。


「勿論構わないよ。レイティアが俺に危害を加えるつもりがない事くらいは分かるからな。いつか、レイティアが話しても構わないと思った時にでも聞かせてくれ」

「・・・うん。ありがと」

静かに告げる御礼の言葉も物音が何も無い暗闇の中ではハッキリと聞こえる。二人の腕が通されていた水色の魔法陣はいつの間にか消えており、そこには何も異変はない。

先程まで魔法陣に通していた腕に何処か不思議な感じを抱きながらもフィデスは掴んでいるレイティアの腕を優しく振りほどくと再度剣を構えた。


_________________________

それとほぼ同時刻。女子寮の裏でハクアとリューネも20人ほどの男たちに三方向を囲まれ、にらみ合っていた。本と双剣を、二人は背中合わせで構えている。

「どう?あと何人くらいいそう?」

「うーん。後見えてないのが10人くらいかなぁー」

「合計30人か。いける?」

「勿論。シアこそ大丈夫ぅ?」

「当たり前じゃない」

「じゃあ、行っくよぉ~!」

「ええ!」

二人は【身体能力強化(アース)】をかけるとそれぞれ敵の集団と交戦を開始した。








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