講義と邂逅
静まり返った教室長方形のその部屋で一人の教師が生徒達に向かって、熱弁をふるっていた。
「私はリグレット・エステル。このクラスの担任を務める者だ。エステル先生とでも呼んでくれ。早速で済まないがこの学校の制度を説明する。この学校では序列制度がある。新入生の諸君は序列外だ。順位を上げる方法はただ一つ、月に1度の序列変更戦で勝つことだ。序列は大会の勝ち負けでは変わらない。魔法ランク100位から11位までは【境界を越えし者たち】と呼ばれていてそのさらに上10位から1位までは【深層へと至りし者たち】と呼ばれている。諸君の一先ずの目標はこのどちらか、もしくは両方に入ることだと考えてもらっていい。
ちなみに魔法戦技どちらかでも10位以内にランクインしている生徒は順位維持のためのエスケープ行為を禁止するため、年に三回のランク戦を欠席することは出来ない。質問は後ほど受け付ける。それでは次。このペンタグラム最大のイベントペンタグラム覇天五星祭について説明する。覇天五星祭というのはこの天空魔法都市ステラで毎年開催されているトーナメント形式の対校戦だ。魔法か戦技又はどちらも、10位以内にランクインしたことのある生徒はこの、覇天五星祭に3年間のうち1度以上は出場しなければならない。今、最も時期が近いのはシャリオールソード。自身を対象とした魔法と戦闘技術のみで戦うヴァルキュローズ戦技学園主催の対校際だ。
そして次の対校際はフォリスヒートマギだな。この大会はさっき説明したシャリオールソードの逆だと考えてもらっていい。自信を対象とした強化魔法を禁止とし、周りに事象を起こす魔法と本人の身体能力のみで戦う。
このいま紹介した2つは戦技か魔法どっちかに特化しているものにオススメだ。
3つ目の対校際はフェリシエントシエテ。7人一組で戦う対抗戦だ。この対抗戦は魔法の使用に制限はないが、他の対校際と違って仲間がいるから、チームワークが大事になってくる。
4つ目は我がアリシディア学園主催のイルディエンスコード。3人一組でフィールドに隠されたコードを奪い合う対校祭だ。
そして最後が、ティルシヤントブレッド。反則以外何でも有りの1対1で戦う純粋な戦闘力の極致を決める対校祭だ。と、まあ規則の説明というか大会の説明になってしまった気もするが、何か質問はあるか?あるやつは後から聞きに来い。ではいったん休憩とする。では解散」
フィデスはいつの間にそんな時間になったのかとモニターを見る。それほどまでに聞き入ってしまっていた。しかし担任の『解散』の一言はどの世界のどんな言葉よりも聞き逃す人が少ない言葉ではないかと思った。しかしフィデスがこんな下らない事を考えてる内にも、新入生たちはどんどん教室から退出していく。
その中でハクア達はと言うと
「ねえ、フィオ、ティリュ少し歩きにいかない?」
「いいよぉ~」
こちらも他と変わらず席に座りながら楽しそうに話している。
しかしフィデスは少し申し訳なさそうな顔をするとやんわりと断りを入れた。
「すまん、俺は少しエステル先生があるから、二人だけで行ってきてくれ」
「それは分かったけど。フィオ、何かエステル先生に聞きたいことでもあるの?」
「ああ、だから間に合えばあとから追いかけるから先に行っててくれ」
「わかったわ、絶対追いかけてきてね」
「ああ」
それを聞いた二人はのんびりと教室から歩いて出て行った。まあハクアは少し不満そうだったが。
そして一人残ったフィデスはエステルのもとまで小走りで行くと
「エステル先生今質問いいですか?」
ちょうど教卓の前の椅子に座り飲み物を飲んでいたエステルはフィデスに話しかけられ咄嗟に気持ちを休憩モードから切り替えるとフィデスの方を向き質問の内容を尋ねる。
「ああ、構わんが。なんだ?」
「はい、五星杯って1年に最大何回エントリーできますか?」
「2つだが。まさかフィデス、君は2つ出ようとしているのか」
エステルは少し驚いたように言う。
「はい、新入生の内から出て経験を積んでおきたいので」
フィデスが真正面から真剣な顔で言う。
しかしその顔に少し危うさを覚えたエステルは、フィデスに少し忠告を促す。
「そうか。熱心なのは良い事だが気をつけろ、いくら対校際といっても本物の武器と殺傷力のある魔法をつかうんだ、医療技術が発達しているから殆どの怪我は治るが死んでしまう生徒もいる」
「はい、肝に銘じます」
フィデスの生真面目な返事にエステルは杞憂だったかと少し苦笑いすると
「なら良い。おっと、もうこんな時間かほらお前も席に就け授業を始めるぞ」
「はい、ありがとうございました」
そう言ってフィデスは席に戻ると、フィデスの席の横には少し怒ったような顔で着席しているハクアと、怒っているハクアの顔を見てクスクスとほほ笑んでいるリューネの姿があった。
フィデスは追いかけなかったこと怒ってるかと思いハクアにバレないようこっそりと座るとやはりばれないはずもなくハクアがフィデスの方に顔を向けて
「どうして追ってこないのよ」
と、少し怒ったような顔で聞いてくる。
するとその横にいたリューネが悪戯っぽく微笑むと
「そうだよぉ。シアずっと拗ねて大変だったんだからねぇ」
と、フィデスへ少し怒ったようにわざとらしく頬を膨らませる。
「ちょ、ちょっとティリュ、別に拗ねてなかったわよ」
ハクアは動揺しながら必死にリューネを止めようとするが
「ええ~そうだっけ?『フィオとお散歩したかったのに』って聞こえた気がしたんだけどぉ」
リューネの暴走は止まらずどんどんハクアの頬が染まっていく。
「ちょ、ティリュそれは言わない約束だったじゃ・・・!」
ハクアは恥ずかしさが限界を突破し思わず大きな声を上げてしまう。
すると、それに気づいたエステルから注意が入る。
「ほらそこの3名、授業に集中しろ」
「「「はい、すみません」」」
ハクアはこれ幸いとばかりに一際大きく返事をすると今の話題を強制的に断ち切る。
しかしリューネは自分が怒られることに納得がいかなかったのか
「なんで私までぇ~」
とぼやきそれをハクアがからかい、二人は追加で注意を受けたいた。
すると、追加で注意受けたハクアとリューネは納得いかないというような視線をフィデスに向けると恨みがましい口調で呟いた。
「全部フィオのせいよ…」
フィデスは元凶が自分にあることから強く言い返すことができず
「えっと、なんか二人とも済まん。後から飲み物おごるよ」
と、申し訳なさをうに呟いた。
それを聞いたハクアとリューネは二っとして顔を合わせるとお互いにうなずいて
「「じゃあ放課後街のカフェで!!」」
と呟いた。フィデスは苦笑いをし、負けたといわんばかりに二人に了承の意を見せる。
「わかったよ」
ハクアとリューネは小さな声で「やったね!」と言うと、3人は授業をしているエステルの方に向き直った。
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「と、このように世界は5つの大国が中心になって動いている。インヴィリオ帝国、アリシディア公国、フェリミオス王国、ヴァルキュローズ覇術連合、サリヴィエット魔法同盟。
そしてこの5国が平和条約を結ぶために全ての国家から等しい距離にありどの組織にも属さない場所を作ろうと考え、作られたのが天空魔法都市ステラだ。この場所で調印されたことから五芒星同盟と名付けられた。それに伴い次代の優秀な国家の戦力を確保するためにそれぞれの学園が作られた。まぁ今はもうステラも一つの国のようになっているがな。さて、では次は・・・」
と、その時、終わりを知らせる鐘が鳴った。
エステルはモニターを閉じ「解散」とだけ言うとそそくさと立ち去って行った。
その言葉を聞いて生徒達は皆各々の場所へ歩いていく。
フィデス達も立ち上がると街のほうへ歩いて行った。
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ステラの中央都市リニスについたフィデス達は制服のままカフェに入り、それぞれの飲み物を買って(お金はフィデス)屋外テーブルに座り、3人はそれぞれ雑談に興じていた。
「そういえばフィオ。あの時先生に何を質問していたの?」
フィデスはストローから口を話すとハクアの方を向き答える
「ん、ああ。4大対校際の内何個までエントリーしていいかってこと」
それを聞いたリューネは興味があるのか尋ねてくる。
「お、フィオもしかして複数の大会に出るつもりなの?」
「ああ、試しに少し出てみようかと思ってな」
リューネは納得したようにうなずく。
「なるほどぉ~」
「シアとティリュは大会に出ないのか?二人が戦ったとこは見たことがないから結構見てみたいんだが」
フィデスが尋ねると二人は少し考え、質問に答えた。
「私はフォリスヒートマギに出てみようと思ってるわ」
「私はシャリオールソードかなぁ~」
フィデスは二人が出る大会からハクアは魔法型、リューネは戦技型だと予想した。
「そうなのか、じゃあティリュとシア両方と、当たる可能性もあるのか」
フィデスはそこで何かに気づいたように言った。
リューネは驚いたようにフィデスに問いかける。
「ということはフィオはシャリオールソードとフォリスヒートマギ両方に出るのぉ?」
「まあ、お試しでな」
「ならティルシヤントブレッドは良いの?あれは一番盛り上がる対校際だと聞いてるけど」
リューネは思い出したように毎年一番盛り上がると言われているその対校際の名前を挙げた。
しかしフィデスは強い人と戦いたいわけではないので、否定した。
「いや、ティルシヤントブレッドは調べたんだが大体どの学校もランク上位者ばかりが出てくるから、来年まで修業を積んでから出ようと思ってな」
リューネとハクアはフィデスの答えに納得したようにうなずくと
「なるほど、そういうことぉ~。でもシャリオールソードでフィオと当たっても容赦しないよぉ~!」
「私もよ、いくらフィオでも当たったら全力で倒すわ!」
二人の飛び出しそうな勢いにフィデスは頬を引きつらせてしまった。
「はは、お手柔らかに頼むよ。っとすまん、少し席外す」
フィデスは唐突に話を切ると、理由を言わずどこかへ行こうとする。
「ん、どうかしたの?」
「いや、言わないほうがいいと思ったんだが、トイレだ」
「ああ、そういうことね」
ハクアは納得したようにうなずくと、そのまま飲み物を口にする。
「あ、じゃあ私もついでに行ってくるぅ~」
「飲み物でも飲んで待ってるから、ごゆっくり」
「トイレ行くのにゆっくりも何もないと思うが、まあいいか」
そう言ってフィデス達は店内に歩いて行った。
フィデス達が見えなくなったころハクアは飲み物のコップを置くと
「そこに隠れている人たち出てきなさい」
すると外の何もない空間から20人程の男が現れた。皆手にはナイフのようなものを持っている。
「ほう、よく気づいたな」
「ちっ、以外に数が多いわね。」
「悪いがあなたを捕まえてこいと命令されているのでな」
(どうする・・・逃げる・・・のは駄目ね、あの二人が巻き添えになってしまうかもしれない。
戦うしかないか)
ハクアが魔法書の形をしたメイヴを構え【身体能力強化】を発動し、臨戦態勢に入る。
すると一番前の男がナイフを片手に走ってきた。
しかし魔法を使えない人間などナイフを持っていようがほとんど脅威にはならない。
ハクアは男に視認できない速度で懐に潜り込み男の腹に掌底を叩き込み気絶させた。
ハクアは二人目からは魔法を使い蹴散らしていく。
【隆起する大地】、【土槍】
男達の足場が盛り上がり爆発し、ハクアの周囲には10本程の土の槍が作られた。
ハクアが手を翳すと土の槍が一斉に男達を貫いていく。
数分後、ハクアの前方の大地は大きくえぐれ、その下には20人ほどの男たちが肩などから血を流して倒れている。
「ふう。これで全員かしら?」
ハクアがメイヴを閉じて、一息ついていると、その直後強烈な風がハクアを吹き飛ばした。5メートルほど吹き飛ばされたハクアだが【身体能力強化】を使って着地したのでダメージはなかった。しかしハクアは別の意味で警戒していた。
その直後
「やっぱりハクアちゃんか~。入学してきたって聞いたとき驚いたよ~。次期党首に選ばれなくてショックで死んでると思ってたのにさ~」
嫌な予感が的中したハクアは敵対心を隠そうともせず嫌悪感を孕んだ口調で返答する。
「期待を裏切ってしまってすみませんね、姉様」
二人の間に険悪な空気が流れる。
そこにトイレから帰ってきたフィデスとリューネがハクアのそばに駆け寄る。
「シア、大丈夫か?」
「ええ」
しかし言葉とは裏腹にハクアの顔は一切変わらず深刻な顔をしていた。
フィデスは一先ずハクアがケガをしてないことに安堵する。
「なら良かった」
「あの人誰ぇ?知り合い?」
リューネが尋ねる。その声には少し怒気が孕んでいた気がした。
「あの人は、アリシディア学園の2年生で、戦技、魔法共に1位の【深層へと至りし第一者】。【狂嵐の巫女】の二つ名を持つレイティア・リーフェンシア。私の…姉様です」
それを聞いたフィデスとリューネは状況を把握しようと思考を巡らせる。そして1拍後、状況を少し把握したフィデスはレイティアの方に振り返ると唐突に穏やかな声で質問を呈した。
「少しいいですか、レイティア先輩」
レイティアは笑みを浮かべ、質問に応じた。
「レイティアで良いよ、新入生主席フィデス・オービット君」
(よかった。一先ず問答無用で即殺なんてことはなさそうだ・・・)
フィデスは質問に応じてくれたことに少し安堵し、話を再開する。
「では、お言葉に甘えてレイティアと呼ばせていただきます」
「うんうん、会話しづらいからその敬語もやめていいよ」
フィデスは「分かった」と頷くと、同級生に話すときと同じような口調で本題に入った。
「ならレイティア、君は妹を攻撃したのか?」
フィデスの口調には認めないでほしいというような感情がありありと現れていた。
「そうだよ、見てればわかるでしょ」
しかし当のレイティアは悪びれる様子もなくぞんざいに返す。
「なんで攻撃した、家族だろ!」
フィデスが珍しく怒気のこもった声で言う。
「形式上はね。でもその子は欠陥品だから。私の家の人も誰もその子のことを家族だなんて思っていないよ」
「シアが欠陥品?」
フィデスは理解できないというような顔で聞き返す。
「そうだよ。細かく説明してあげたいところだけど、今は欠陥品のハクアちゃんには用がなくてね、フィデス君とリューネちゃんの二人に用があるんだよね。フィデス君とリューネちゃん、いきなりで悪いんだけど、私と模擬戦しない?」
アリシディア学園最強のレイティア。味方か敵か・・・