不穏な匂い
トゥアハの言葉にシグとレヴィアは同時に固まった。
何かの聞き間違いか、トゥアハが冗談を言ったのかと思った。
けれど、現実だった。
「ここの村はほとんど魔物騒ぎがなくて、最も平和な村って言われてる所だよ?」
「えっと、つまり?」
「魔物との最前線の戦いに参加出来ない落ちこぼれデモンテイマーをとりあえず置いておく場所なんだけど……シグ君は本当にここに派遣されたの?」
シグは慌てて地図と指示書を取り出すが、書いてある地名は間違いがなかった。
「えっと、この村の近くに魔物はでないの?」
「うん、一年ここにいるけど、魔力溜まりもほとんど無いし、魔物は全然見かけてないよ」
魔力溜まりとは魔物が失った肉体を再生させることの出来る特殊な力場で、魔物が生まれる場所と言われている。
その魔力溜まりを吸収して、魔物の復活を阻止するのもデモンテイマーの仕事であった。
つまり、戦闘力の高いデモンテイマーは最前線で魔物を封印し、戦闘力の低いデモンテイマーは討ち損なった魔物が復活しないよう魔力溜まりを潰していくことが主な仕事だった。
そういう意味では、シグの実力なら戦闘の多い地域へと派遣されるのが当然だったのだが――。
「魔物が出ないの!? せっかく故郷を離れて新しい魔物に出会えると思ったのに!」
シグにとって、この環境は最悪だった。世界中の魔物と出会い、仲良くなりたいと願いから最も遠い場所だったのだから。
「あ、私、分かったかも。シグ君がここに派遣された理由」
「トゥアハ先輩、その理由は何ですか!?」
「レヴィアちゃんって災厄級の魔物が原典って言ってたけど、力を発揮するとどれくらいすごいの?」
「この村を一分で丸ごと凍りづけするくらいです」
「うん、なら、多分正解だと思うんだけど、シグ君とレヴィアちゃんが強すぎて、周りの人が止められないから、ここに送られたんじゃないかな?」
「どういうことですか?」
「シグ君の封印術は魔物の全盛期の力を再現出来るみたいだけど、それが人間に向けられないっていう保証がないから、前線に送られなかったんだと思う。普通の封印術で召喚されるデモンクルスは本来魔物が持っていた感情と意思が無いから暴走の危険性がないのは知っているかな? それに比べると、危ないと思われたんだろうね」
「そう言えば、封印書にレヴィアを戻せないって言ったら、何か意味深なこと言われました」
「だから、戦うことで暴走する危険がない魔力溜まりの駆除がシグ君のメインの仕事になるここに派遣されたんだね」
封印書にレヴィアを戻せないとシグが言った時、そのことを審査結果と合わせて考慮する、と審査官は言っていた。
その考慮の内容こそ、トゥアハの言った内容だったのだ。
「それじゃあ、四年間も新しい魔物との出会いを我慢しないといけないの……?」
絶望しきった表情でシグが膝をつく。
そんなシグの上に乗ったまま、レヴィアがポンポンとシグの頭を撫でた。
「いや、シグ、どうやら当たりを引いたみたいだよ?」
「え?」
「さっきその人間が戦闘力は無いって言ったでしょ? 近づいて分かったけど、この人の魔力はかなり薄いし、甘い匂いがするんだよね。私がこの村に感じているピリピリした魔力は別のやつのものっぽいんだ」
「あっ、そういえば、そんなことを言っていたね。トゥアハ先輩、この村に魔法使いとか魔力の才能がありそうな人っているんですか?」
シグの質問に、トゥアハは首を横に振った。
すると、レヴィアはふふんと鼻を鳴らして、どや顔をする。
「となると、魔力溜まりがないんじゃなくて、魔力溜まりを食べる魔物がいるってことだよ」
「マジか! よっしゃ! 探しに行こう! レヴィア今すぐ行こう!」
魔物がいると知った途端、シグはレヴィアを肩車したまま立ち上がり、走り出した。
そんなシグをレヴィアとトゥアハが慌てて引き留める。
「わふっ!? シグ!? 荷物荷物! せめて宿屋に荷物置いていってからにして!? 私の私物もあるんだから!」
「というか、シグ君! 山の地図とか地理を知らずに山に入ったら迷子になっちゃうよ!? 魔力溜まりのあった場所も分からないでしょ!? それに後数時間で暗くなるから危ないよ!」
そんな二人の筋の通った提案に、シグははやる気持ちを抑え、渋々宿屋の中へと入るのであった。




