13年
彼女は不愉快そうな顔をして去っていく。声が出ない。待ってくれの5文字が出ない。呼び止めなければならないのは分かっている。今呼び止めなければ彼女を幸せにすることなんて出来るはずがない。
一歩踏み出した、そしてまた一歩踏み出す。だが遠い。悲しいほどに遠い。そして僕は、なんとか声を絞りだした。しかしその声は意図したものとは全く異なった。「好きだ。」の3文字は。
所詮彼も他人と同じ。そう思い、追いかけてくる彼を捨て去ろうと私は歩く。彼の一歩は私のそれより広いから差は縮まっていく。しかし、距離は遠い。だがその意識を彼の一言は一気に変えた。「好きだ。」の一言は、だ。
動揺したそぶりを見せる彼女に僕は続ける。「僕は君のことが好きなんだ。幸せにしたいんだ。だからお願いだ。立ち止まって話してくれないか?」彼女は一瞬迷い立ち止まりそしてこちらに振り返る。
彼の言葉を受けて私は振り返った。「私の幸せを考えてくれるなら、私のことが好きなら、一緒にあの星へ行ってよ。君とそれをすること。それこそが私の幸せなんだよ。分かってよ。分かってよ。」気づいたら私は涙目になっている。
ああ、分かっている。彼女の夢を叶えることが彼女に取ってどれだけ幸せなのかを。だがそれだけはできない。僕は彼女の寿命について知っている。彼女は余命をしっかり生きるべきなのだ。そうさせなければならないなやだから。だからからこそ、僕は彼女を幸せにすると決意したのだから。エゴだとしてもこれだけはそうしなければいけない。そして僕は言った。
「瑞穂、お前さ、あと13年しか生きられないんだろ?」彼女は何も言わない。