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6.伯爵家三女の想い

ブクマありがとうございます!

感謝です!!


今回は、フィールを中心に書きました!


訂正〜

第4話にて、サシャの瞳の色(翠緑色)を追加しました。他にも進行に影響はありませんが、情景描写の加筆も致しました。

「補佐か……」


 フィールはつまらなそうに小さく呟く。


「最初のクエストで、これは相当優遇されてるだろ?」


 本来であれば、それこそ薬草・食材の採集や家の取り壊し・孤児院の手伝いといった住民援助が最初のクエストになる。


 その点、補佐とはいえAランクモンスターである咆哮地竜(ハウルレックス)と対峙する今回のクエストは、これから最強を目指そうとしているガルやそれに並び立とうとするフィールにとっては相当な経験になること間違いなしであった。


「確かにな」

「それに()()とはいえ、対象外のモンスターを討伐してはいけないなんてことは無いんだからな」

「それもそうか」


 今、彼らは冒険者ギルドを出て帰路についている。


 向かうは、領主の屋敷──フィールの実家であった。近づくにつれ、フィールの顔が陰りを見せる。


そんな彼女の表情を見たガルは問いた。


「貴族の立場は面倒か?」

「ああ、嫌いだな。私の家の場合、そんな事はないが社交界にどうしても、な……誰もが皆、口と思惑に差異が大きすぎる。はっきりいって自分という存在を押さえつけられているようで窮屈だ」

「うむ、大変そうだ」


 フィールは、その時のことを思い出したのだろうか苦笑いを浮かべる。


「幸い、私は三女。親も冒険者になることを許してくれてはいるし、滅多なことがなければ深く貴族世界に入る必要性は無い」


 ぼやく彼女の表情には憂いが帯びていた。


「それよりもだ、お前の話していた新武器について聞きたいのだが?」


 話を変えたかったのか、フィールはガルにそう聞いた。


 ガルはフィールの心情を察し了承した後、武器について詳細を事細かに話し始める。


 彼の話す内容に、フィールは笑ったり驚いたりと先程までの憂いはなく、純粋な表情を見せていた。


 そんな会話を初めてからしばらくす経つと、扇形に展開する街の一角に位置するアスタリア伯爵家の屋敷に到着した。


 彼らの目の前には門があり、開く門から覗くものは中心に噴水のある大庭園そしてその先にある白色のレンガを主とした屋敷は横と高さに長く、重厚感のある厳然としたものであった。


「じゃあ十日後だ。またギルドで会おう」

「そうだな。──では十日後にて、冒険者ギルドでお会いしましょう……どうだ、似合わないだろ?」


 いきなりの冗談交えたフィールの貴族態度に、ガルは思わず目を開く。


「そうしてるフィーも、綺麗だと思うぞ。じゃあ、またな」


 賞賛だけ言って歩き出すガルの背中をフィールは長いこと見つめ、彼女の口から溜め息が出る。


「──ったく、何を言っているんだ、キミは……私が綺麗などとある訳なかろう」


 そう呟き、自宅の敷地内を跨ぐ彼女の頬には赤く染まるものがあり、口元には笑みが浮かんでいた。


 ────


「「お帰りなさいませ、フィールお嬢様」」


 フィールが屋敷の中に入ると多くのメイドたちが左右に並んで出迎える。


「ええ、ただいま戻りました。他の方達は?」

「ご帰宅されておりません」


 フィールは貴族のお嬢様の仮面を被る。

 そんな彼女の問いに一人の歳の召したメイドが答えた。


「そう、ならばお仕事の方を引き続きお願いします」


 フィールは小さく、然れど品格のある一礼だけしてラウンジから二階へと続く螺旋階段を登る。


 二階にある一室の扉をフィールは開ける。


 そこはフィールの自室であった。

 内部は特段に華美な施しもされてなく、天蓋付きのベッドとティーカップセットを乗せた小さなテーブルに椅子、そしてクローゼットとたったそれだけを置いた広いスペース。


 フィールはそんな部屋に入り、荷物を置くと外向きの私服を脱ぎ修練用の動きやすい服装へと着替える。


 彼女が部屋に入る時にふと見た時計が示していたのは17:50。


 秒針のない二十四時間時計の時針と分針がそのように指していた。


 彼女が何故この時間に、こんな服装に着替えたかと言うとそれは


 ──トンットンッ


 7歳の頃から毎日、17:55に訪ねてくること人がいるからだ。


「開いている。入ってくれ」

「はいはい」


 フィールは確認もせずに扉のノック音にそう口にすると、軽い返事とともに一人の女性が入ってくる。


 青いローブに身を包んだ150後半程の身長、被るローブからはクリっとしたまん丸の碧眼に明るい茶髪の毛先、そして幼く整った顔立ちが望むことができた。


 その者を一言で表すなら、「美少女」であろう。


 そんな美少女は部屋に入ると、ベッドの方に足を進めて慣れたように腰を下ろした。


「先のメイドたちへのように、敬ってくれてもいいんだよ?」

「お嬢様的作法など、それを示す必要のある相手だけで十分だ。大体、人の部屋に入るや否やベッドに腰を下ろすような者をどう敬えと? ──フルーラ先生」


 そう彼女こそが、フィールの師匠である化物冒険者のフルーラ=ウェバース本人であった。


「それに口調を制限したのも先生じゃないか!?」

「まぁそうなんだけどね!!」


 ケラケラと無邪気に笑うフルーラ。


「じゃ修練場に場所を移そうか」


 フルーラは指を鳴らすと、あっという間に二人の目の前に広がる光景が変わる。


 場所が一瞬で変わったのだ。


「これだけ一瞬にして変わるのに転移魔法ではないんだよな」

「透過と瞬間移動の魔法の応用だね。幾ら何でも見えないような場所に跳ぶ転移魔法は私でも習得できなかったよ」


 そう言った準備を始めるフルーラ。


 フィールの脳内に先のガルとサシャの会話が流れる。


 転移魔法を笑い話で済ませていたサシャ。


 彼女は改めて、あの圧と集魔解体(キャンセリング)いい、とんでもない人だったと思った。

 フルーラはそんな事を考えていると彼女の耳に、自身の名前を呼ぶ声が聞こえる。


「じゃあいつも通りに体内の魔力循環から始めるよ」


 そこから始まる鍛錬。そこでふとフィールはサシャに言われたことを思い出した。


 本当は、世界最強のサシャと話したことも言いたいが都合上言外禁止と言われているので、彼女は今後に関わる大事なことだけを質問した。


「先生、その私の魔力集束速度って遅いのか?」

「フィールの年代で考えればトップレベルの速さだよ」

「……じゃあ、世界基準では?」

「へぇ〜、ちなみに聞くけど何でそんなことが気になるの?」


 その返しに、フィールは言葉に詰まる。

 だがどうにかその理由を彼女は言葉にした。


「それは……私のレベルが、最強を目指すガルの隣に立っていられるモノなのか気になって仕方がないんだ」


 フィールは顔を赤く染めながらもなんとか言い切る。


 一人の男のことを考えモジモジとする彼女を見て、フルーラはうずうずが止まらず彼女の柔らかそうな胸へと飛び込んだ。


「可愛すぎるぅ〜! まさに恋する乙女だねっ! ガルくんは幸福者だなぁ〜!!」


 そう頬をスリスリとしてくるフルーラをフィールはなんとか離すことに成功した。


「……で、それでどうなんだっ!?」

「落ち込むかもしれないけどいいの?」

「……ああ」


 正直に言うと、これを聞くのはフィールにとっては怖いものであった。だが聞かないことには今後のためには必要なものだと、彼女は覚悟を決めフルーラを見据える。


 フィールの覚悟の目に溜め息を吐きつつもフルーラは口を開いた。


「本当はもう少し後に言おうと思ってたけど、覚悟があるみたいだね。じゃあ言うよ」


 そう言ってフルーラは一旦間を置く。

 その時間、フィールはごくりと唾を飲み込んだ。


「それこそ魔力集束の精密さに関していえば、もう少しすればトップレベルに達しそうだよ。ただ、速度に関して言えば平均より少し速いくらいかな」


 その言葉に、フィールは顔を下に向け歯噛みをする。


 そんな彼女にフルーラは待ったを掛けた。


「確かに今はそういう評価になるよ。けどね、それは私の鍛錬メニューを魔法の質の方に重きを置いたからなんだ。質──精密さは若い頃にしか養えないものだからね。速さなんて経験次第でいくらでも速くなるんだ」


 そう話すフルーラに、フィールは下に落ちていた顔を彼女の方に向けた。


 少しは希望を見出せたのか視線を自身に向けるフィールに対してフルーラは笑顔を浮かべて次のように言う。


「魔法師最強には十分になれる器だよ、フィール=アスタリア!!」


 そのフルーラの断言はフィールの表情をたちまち、初めて魔法を使った時のような高揚感の帯びた無邪気な笑顔へと変えていった。


「なら、今日からは速さにも着目したメニューを加えていくよ! 最強に並びたいならちゃんと付いてくるんだよ!」


「はいっ!!」


 いつの日か、最強となるであろうガルの隣にいるのは私だと心の中で宣言して、フィールは鍛錬に戻る。


 今日、冒険者となって元ある覚悟を一層強めた彼女は、ガルの隣に並び立つために魔法師最強への道を、今日この時より歩み始める事となった。

宜しければブクマ、感想、評価の方をポチポチっとして頂けると作者は喜びます。


次回は、ガルとフィールの出会い(過去について)を書いていこうと思います。


まさかの今作初戦闘描写が過去編という……

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