2.武器化される傘の素材
二日連続!!
楽しんで頂けることを切に願います。
H.29 9.5
掘っ建て小屋の外観・内観描写の加筆
「ちなみに、その素材とは何だ?」
ガルは気になったのでトールに伺う。
「聞いて驚くなよ。 魔鉱龍王の翼に反大蛇の肋骨だ!」
「おぉぉぉ……ってイヤイヤ!? そんなの例外級のモンスター、最近出てないしッ!? しかも、今出たところで倒せる人間いないだろッ!?」
余りにもとんでもない素材を提示してきたトールに、ガルは首が取れるのではという程に首をブンブンと左右に降って否定する。
「さっき言った高ランク冒険者って言うのは嘘だ。そもそも無名鍛冶師にそんなのが来るわけねぇ」
「おい、じゃあ何だ、その目の前に出した素材は?」
「魔鉱龍王の翼に反大蛇の肋骨」
「だからそんなのが何であんだよ!?」
今にも胸ぐらをつかむ勢いでガルはトールに詰め寄った。
「親父の遺産だ」
「お前さんの親父何者?」
「コル=スティート」
「えっ? あの世界一の鍛冶屋と謳われてたあのコル=スティート?」
「そうだ」
「……マジ?」
「マジだ」
トールの父親はガルにとって、否、世界の住民にとって、それはもうやんごとなき人物であった。
それこそコル=スティートの武器を持つ者は歴史に名を刻むと言われていた程に、である。
「お前の名前は?」
「トールだ」
「フルネーム」
「トール=スティートだ」
「マジで?」
「マジだ」
トールの顔は、嘘を言っているようには見えない。
まさか町外れの廃れた小屋にいると噂されていたドワーフの鍛冶師さんが、かのスティートの親族だとは誰も思うまい。
「何でこんなボロボロ小屋にいる?」
「死んだ親父の遺言が、鍛冶師は掘っ建て小屋からだ、と言ってたからだ」
ガルが見たこの掘っ建て小屋の見た目は酷いものだった。
今にもミシミシと音を建てる小さな木造建築に、内部はそこが抜けている場所が数ヶ所。更には、町外れの日光があまり当たらないような立地だ。
とても鍛冶をするような物件ではないだろう。そこがスタートラインだと言うのだから、ガルも思わず苦笑いと共に呆れて肩を竦めた。
その時、ガルが内心で思ったことは
──とんでもない教育だな、コル=スティート様よ……
であった。
「それよりだ! 肝心の軸となるヤツ素材なのだが、細剣が得意だというお前にうってつけなのがある」
「話変えやがったな……で、何だそれは?」
「神針鉱だ」
「……え、何だって?」
「神針鉱」
「ふぇ、へー、よりにもよって神針鉱と来ましたか……」
・神針鉱
それは、針状に長く尖った状態で発見される漆黒の希少鉱石で、あらゆるものを貫き通すと言われる素材だ。だがしかし、針先がコンマ何ミリでもブレると、しなっても折れないというのが売りなので確実に弾かれることが不可避なお蔵入り一直線の鉱石とも言われている。
「それを使うと?」
「お前細剣得意なんだろ? 真っ直ぐ突きも出来ずに最強目指す訳じゃあるまい、だよな?」
にやりと口角を上げそう告げるトール。
ガルはその表情に腹が立った。
「上等だ。扱ってやんよ!」
「じゃ試験だ」
「へっ?」
試験という言葉にガルは首を傾げる。
「神針鉱は、一応でも希少鉱石だ。だから受け継ぐ前に親父に言われたんだ。試験で試せってな」
何とも世界一の鍛冶師からの約束事らしい。
ってあの怪物冒険者時代でも誰ひとりとしてその試験にクリア出来なかったってことか?
正気かよおいッ!?
「やるかやらないか、どうする?」
「アァァッ、クソッやってやんよ!!」
「じゃあホイ」
渡されたのは、長さ1メートルほどの糸であった。
そして針の刺さった針山が1メートル前のテーブルの上に置かれる。
「そこから、糸を針に通せ」
「…………それをやるのか」
ガルはそれが試験内容か、と聞き返す。
「ああそうだ。だが、どうせ出来「余裕じゃないか」な……はっ?」
ガルは、常人には見えない速さで肘を後ろに引き、糸を一直線の棒のようにさせると、次の動作もまた見えない速度で腕が針に向かって真っ直ぐへと伸ばされた。
突き出された糸は、空気抵抗を受け、曲がるなんてことなく、ただひたすら真っ直ぐと針の穴一直線に向かっていく。
やがて糸の勢いが収まると、トールは針の方へと目を向けて、驚愕を覚えた。
目線の先にある光景を見ればその理由も一目瞭然。糸は確かに針の穴を通って下へと垂れ下がっていたからだ。
「ガハハッ、コイツはマジもんの化けモンじゃないか」
「試験クリアでいいか?」
ニヤッと笑みを浮かべるガルに、トールは頷いた。
「あぁ、二言は無い。お前さんなら本当に神針鉱を扱う初めての人間になるだろうからな。面白い」
ようやく傘を作る素材が出揃った。
どんなものでも弾く魔鉱龍王の翼
決して折れることの無い反大蛇の肋骨
扱えれば如何なるモノも貫く神針鉱
これらの素材で作られる武器は、とんでもない物になるのは明確なる事実であった。
改めて見た全ての素材を眺め、ガルは思った。
「……とんでもない武器になんじゃね?」
誠に今更な感想である。
そして少し離れたところには、トールがやる気に満ち溢れていた。
「ようやく掘っ建て小屋から出られる。しかも親父でさえ扱うことのなかった神針鉱も使えるし、見たこともない武器も作れる。今日より親父を超える鍛冶屋の始まりだ!」
いつもは淡々とした口調のトールが今は声を弾ませて意気込んでいた。
そんなトールの姿を見て、ガルは妙な安心感を感じた。これなら立派な武器を作ってくれるだろうと。
「トール、何日くらいかかりそうだ?」
「うむ……1週間程だな」
正直こんな大層な素材を使うくらいだからもっとかかると思っていただけに、その情報はガルにとって嬉しい誤算だった。
「じゃ俺はその間、色々と準備してくるよ。もの凄いの期待してるぞ!」
「おうっ、期待しておけ!!」
トールの確信めいた笑みを見て、ガルは楽しみだ、と笑って鍛冶屋という名の掘っ建て小屋を後にした。
掘っ建て小屋から出たガルは、改めて見たその外観にこう呟く。
「やっぱり何かと才能が化物レベルの人の教えってヤツは理解が出来ないな」
苦笑いを浮かべながらも、ガルは街の外れにあるこの場所から、様々な店が建ち並び賑わいを見せている街の中心地へと足を進め始めた。
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今月どこまで書けるか、作者自身も見ものです。