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<6.福間着想>

 「総理、報告が入りました。関東経済連合副会長の暗殺、終了しました」

 内閣官房長官の福間幸信ふくま・ゆきのぶが、高原に告げた。

 「そうか」

 高原は短く答えた。

 そこは、首相官邸の執務室である。

 「これで、しばらくの間は経済界もおとなしくなるでしょうね」

 ニヤリと笑い、福間が言う。


 福間は46歳。頭髪が淋しくなりつつある男だ。

 官僚出身で、民合党の選挙対策本部長も経験している。

 他の閣僚と違って、福間の外見は、お世辞にも良いとは言えない。

 高原は、このポジションだけは、見た目や人気よりも能力を最優先して選んだのだ。

 その能力の中には、“裏の政治力”も含まれている。


 「もうそろそろ、私に逆らおうとする愚か者がゼロになってほしいな。そうすれば、もっと楽に、強い日本を作ることが出来るのだが」

 高原は、ため息をついた。

 関東経済連合副会長は、高原に批判的な考えを持ち、賛同者を増やそうと積極的に行動していた。そこで高原は太陽館の連中を使い、彼を抹殺させたのだ。

 「しかし口で批判的なことを言った所で、総理を倒せるほどの力を持つ者はいません。それに愚か者が現れれば、すぐに殺せばいいだけのことですから。例えば自正党の黒川のように」

 福間は平然と言う。

 黒川の死体は九備山で発見され、転落事故として処理された。

 もちろん、高原が裏から手を回したのである。


 「しかし、私が殺し屋を使って邪魔者を消しているのだから、同じことを考える奴が出て来ても不思議ではない」

 「と、言いますと?」

 「誰かが殺し屋を雇って、私を殺そうと考えるかもしれんな」

 「それなら、心配いりません」

 大げさに頭を振り、福間は微笑する。

 「ほとんどの優秀な殺し屋は、我々が高額の報酬で囲い込んであります」

 「だが、全員ではあるまい」

 「もちろん掌握していない殺し屋もいますが、そういった連中が総理に歯向かうほど愚かだとも思えません。仮に命を狙ってきたとしても、我々の強固な警備を持ってすれば、成功する可能性は皆無です」

 「自信たっぷりだな」

 「太陽館で育成されたボディーガードは、優秀ですからね」

 まるで自分が育てたかのように、松岡は胸を張る。


 「まあ、今の総理を殺せるとしたら、せいぜい伝説の殺人王ぐらいでしょうか」

 「伝説の殺人王?」

 高原は顔を上げ、聞き返した。

 「なんだ、その殺人王というのは」

 「ご存知ありませんか。かつて、都市銀行の総裁や金融庁長官、保険会社の会長や大学病院の院長など、政財界の大物を立て続けに暗殺した、伝説の殺し屋です」

 「その話なら、聞いたことがあるな。そうか、その男が殺人王と呼ばれていたのか」

 「裏の世界では、そう呼ばれているようです。今でも、多くの殺し屋が彼を崇拝しており、伝説になっているそうです」

 「ほう、他の殺し屋も一目置くほどの存在というわけか」

 高原は強い関心を示した。


 「ただし彼が活動していたのは、随分と前のことです。10年前に最後の暗殺を成功させて以来、殺し屋の世界から姿を消しています」

 「なるほどな」

 高原は、小さくうなずく。

 「しかし福間、お前はやけに殺し屋に詳しいんだな」

 「ええ、実は殺し屋マニアなもので」

 福間は真面目な顔で、そんなことを口にする。

 「殺し屋マニア?妙な趣味だな」

 高原は、嘲るような笑みを浮かべた。

 「総理、しかし私が殺し屋マニアだったことで、多くの殺し屋との関係も容易に構築することが出来たわけですから」

 福間は高原の反応を見て、少し不機嫌な様子を見せた。


 「悪かったよ、そう怒るな。そうだな、確かに殺し屋との関係を築くことが出来たのは、お前の力が大きい」

 高原は、すぐに詫びを入れた。

 「それで、その殺人王だが、誰かに雇われたという情報でもあるのか」

 「いえ、今の所、殺しの世界に復帰したという情報は入っておりません。完全に引退しているわけですから、総理を狙ってくる心配も無いでしょう」 

 「しかし、興味を惹かれる男ではあるな」

 高原は、少し考え込んだ。

 それから福間を見て、こう言った。

 「なあ、福間。その殺人王を、もしも味方に付けることが出来れば、どうだろうか」

 「どうだろうか、と申しますと?」

 「多くの殺し屋が崇拝するほどの人物が、私の下に付いたとなれば、もう裏の世界で私に逆らう者はいなくなると思わないか」

 「なるほど、確かにそうですね」

 福間は、やや大仰に相槌を打った。


 「それで、その殺人王は今、どこにいるんだ?」

 「さあ、それは」

 福間は、困ったような表情を見せた。

 「数年前に裏の世界で、と言っても殺し屋ではありませんが、少し動きを見せたことはありました。しかし、それ以降は完全に消息が途絶えています。今は生きているのかどうかさえ、分かりません」

 「囲い込んでいる殺し屋の中に、居場所を知っている奴はいないのか」

 「連中は伝説として殺人王を知っているだけで、実際に彼と会ったことのある者は皆無なのです。彼らのルートから殺人王を探し出すのは難しいかと」

 「他に方法は無いのか」

 「そうですねえ、何しろ手掛かりが全くありませんので……」

 福間は、下を向いて考え込んだ。

 「そうだ」

 パッと顔を上げ、福間は少し前のめりになった。

 「上手くいけば、殺人王を誘い出せるかもしれません」

 「本当か?」

 「ええ、任せてください。これでも私は、殺し屋マニアですからね。そこら辺の素人に比べれば、殺し屋探しは得意です」

 福間は、自信ありげに言った。


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