<26.野望確認>
「福間が殺されるとはな」
高原は執務室の天井を眺め、重々しく言った。
倉庫での激闘があった翌日のことだ。
「だが、それも自業自得だ。愚かな行動を取るから、福間は死ぬことになったのだ」
「そうですね」
松岡は無表情で答えた。
「勝手な行動を取った結果ですから、仕方の無いことかもしれません」
福間が倉庫で椎菜を襲ったのは、高原や松岡には内緒の行為だった。
「福間だけでなく、寝返らせた茶留も一緒に殺された。芭皇邪九の仕業だな」
高原は足を組み、椅子に座り直す。
「そう思われます」
「奴が2人を殺したということは、カウント乃木は暗殺に失敗したということか」
「乃木とは、連絡が取れない状態です。残念ながら仕事を遂行できず、芭皇に殺害されたものと思われます」
「どうやら、芭皇邪九の腕は全く衰えていないようだな。その情報が、一連の事件で得た、唯一と言っていい収穫だ」
高原は静かに語っていたが、その握った拳は小刻みに震えていた。
怒りを抑えているのだ。
「芭皇邪九め、このままでは済まさんぞ。いよいよもって、奴を抹殺せねばならん」
「総理、既に新たな殺し屋を用意しております」
松岡が、一歩前に進み出て申し述べた。
「その殺し屋が、必ず芭皇を始末してくれるでしょう」
「今度の奴は、腕は確かなのだろうな」
「まだ殺し屋歴は浅いですが、相当の実績を上げている男です。若手の中では、抜群だと言っていいでしょう」
「その殺し屋がやり遂げてくれれば問題は無いが、過度の期待はしないでおこう」
「失敗した場合のことも、考えておくべきだと?」
「今の内から次の手を考えていても、損はしない。その殺し屋が失敗したら、もう同じやり方は採用しない。今度は、こっちに誘い出して芭皇を殺してやる」
高原は強い口調で述べた。
「それと松岡」
「はい」
「鷹内の方も、始末せねばならんな」
「そうですね」
松岡は、同意した。
「芭皇邪九が福間官房長官を殺したということは、鷹内の依頼を受けたのだとも考えられます。茶留は、芭皇が依頼を断ったと言っていましたが」
「気が変わったのかもしれんな。芭皇が依頼を引き受けたのか、そうでないのか。いずれにせよ、鷹内が私の命を狙っているのは確かだ」
「そちらの方も、殺し屋を送り込みますか」
「そうだな……」
高原は、少し考える。
「例の手を使うか」
「というと、奴を利用するのですね」
松岡は、すぐに高原の意図を理解した。
「では、私が手はずを整えます」
「頼むぞ、松岡」
「お任せください」
「それにしても」
高原は、大きく息を吐いた。
「理想の国を作るには、苦労が多いな」
「ですが、総理がやらねば、他の誰も出来る者はいません」
「そうだ、私がやらねばならないのだ」
高原は、自分に言い聞かせるように、そう述べた。
「どんな妨害があろうとも、どんな邪魔が入ろうとも、私は必ず強い日本を作り上げてみせる。世界から臆病者呼ばわりされるような国とは、おさらばするのだ」




