表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

<16.椎奈独断>

 「いや、努力はしてみるけどさあ」

 茶留は山高帽に触りながら、困った表情を浮かべた。

 「だけど、ボスに内緒で行動するってのは、やっぱりマズいんじゃないかなあ」

 「ボスのために動くんだから、きっと後で感謝してもらえるわよ」

 椎奈が強い口調で反論する。


 そこは、鷹内組が管理している無人駐車場だ。

 誰にも知られず内密で話をするため、椎奈が茶留を呼び出したのだ。


 「だけど、行動の内容が大きすぎるからね」

 茶留は、消極的な気持ちを言葉に込めた。

 「さすがに高原首相の暗殺となると、勝手に仕掛けるのは良くないと思うけどなあ。それに、危険すぎるよ」

 そう、椎奈は鷹内の指示に従わず、自分の手で高原を殺そうと決意していたのだ。


 「別に、あなたに高原首相を殺せと言ってるわけじゃないのよ。あなたに頼んでるのは、高原の周辺調査だけ。奴を狙えそうな日時や場所さえ探り出してくれれば、暗殺を実行するのはアタシなんだから」

 「そりゃあ、分かるけど」

 「難しいことなんて頼んでないでしょ。出来ないとは言わせないわよ」

 椎奈は茶留の肩を掴み、脅しめいた言い方をする。

 「分かった、分かった」

 茶留は、降参状態を示すために両手を挙げた。


 「だけど、そこまで高原の暗殺に執着しなくても、いいんじゃないのかなあ。そんなにボスの役に立ちたいのかい?君は、もう充分に貢献していると思うけど」

 「そんなんじゃないわよ」

 椎奈は、即座に否定した。

 「じゃあ、ボスの指示を無視してまで危険な仕事をしようとするのは、なぜなんだい?」

 「伝説を超えるためよ」

 「何のことだ?オイラにも分かるように説明してくれよ」

 手にしたステッキでアスファルトを軽く突き、茶留が尋ねる。


 「芭皇邪九と会ったことは、話したでしょ」

 「ああ、すっかり幻滅したと言ってたね」

 「そうよ。あの男は、多くの殺し屋が崇めるような存在じゃなかった。ただのロクデナシに成り下がっていたわ。でも、今も彼は、伝説の殺人王のまま」

 「そりゃあ、他の連中は、現在の彼を知らないからね」

 「だから、アタシが新しい伝説を作るのよ。高原を殺して、アタシが芭皇邪九を超える殺し屋になるの。そうすれば、あんな奴の伝説は、いずれ消えていくわ」


 「本当に、そうなのかな?」

 茶留はステッキを椎奈に向け、含んだような笑みを浮かべた。

 「何よ、いやらしい顔をして」

 「そうじゃなくて、君は自分の中で、芭皇邪九への気持ちにケジメを付けたいだけなんじゃないのかな」

 「ケジメ?」

 「そうさ。君は、自分が尊敬していた相手が、思い描いていたイメージとかけ離れていたことにショックを受けた。だから彼を超えることで、自分の心に折り合いを付けようとしているんじゃないの」

 茶留は、椎奈の心を見透かしたように言った。

 「殺し屋でもない人間に、そんな偉そうなことを言われたくないわ」

 椎奈は不快感を露にする。

 「そりゃあ、悪うございました」

 茶留は、おどけたように舌を出した。


 「ただ、理由がどうであれ、君は芭皇邪九を超えることは出来ないよ」

 「どうしてよ」

 椎奈は口を尖らせた。

 「アタシが彼より劣っているとでも?」

 「そうは言ってない。だけど、現役の人間は、辞めた人間には勝てないんだ。辞めた人間ってのは、そこにいない分、周囲がイメージをどんどん膨らませるからね。だから芭皇邪九が現役復帰でもしない限り、君が彼に勝つのは無理ってことだよ」

 「アンタ、口だけは達者ね」

 椎奈は、不愉快そうに言った。

 「口の上手さなら、君には負けないよ」

 そう言って茶留は、ステッキをクルクルと回してみせた。

 「だったら、その口の上手さで、高原の情報を聞き出してちょうだい」

 「はいはい、ご要望通りに」

 茶留はニヤニヤしながら山高帽を脱ぎ、大げさに会釈した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ