バーカウンター
「ロリエ、この後どうする?
すぐに帰るの?」
「いや、別に考えてないけど?」
「じゃあ、ちょっとカウンターで、飲まない?」
「うん!いいよ!」
実は、この『オハコ』には、フロントの横にバーカウンターがあるんです。
カラオケをしなくても、食事やお酒が楽しめるんですよ。
近所の飲食店の人たちが、遅い時間にきてくれたりします。
しかも、スタッフがここで飲食するなら、どれも100円!
お仕事終わりには、結構みんな、飲んだり食べたりしてます。
私達二人も、可愛いメイド服を着替えて、カウンターへGo!
「よいしょっと、ロリエは何飲む?」
「えっと、生ビール!」《未成年の飲酒は禁止です》
「じゃあ、あたしも生にしよ。
リンダ、私達に生2つね」
「Yes!」
カウンターでドリンクを作ってくれてるのは、リンダ・ドビーマウスちゃん。
23歳のアメリカ人。
日本のアニメが好き過ぎて、20歳で日本に来て、働きながら漫画を勉強してるんです。
金髪にサファイアの瞳、スタイル抜群。
SNSで、金髪の美女メイドがいるって、すぐに噂になってファンクラブまであるんですから。
「二人とも、お疲れサマー!」
「はい、リンダありがとう。
じゃ、ロリエかんぱーい」
「お疲れ様ー!」
っく〜!
乾いた喉に、ビールがしみこんでくよ〜!
「ぷはぁ!ロリエもかなり飲めるようになってきたわね」
「うん!『オハコ』で飲むまでは、ビールなんてただ苦いだけだって思ってたけど、今は美味しいって感じちゃってる!」
「ロリエ、いい事Yo!」
「あれ?リンダちゃん、顔赤くない?」
「ああ、ホントだわ。リンダもちょっと酔ってる!また、お客さんにお酒奢ってもらったんでしょ?」
「Yes!イケメンのPaPaさんでしたー!」
お店では、お客さんに飲んでいいと言われたら、仕事中でも飲酒が認められてるんですよ。
自己責任ですけどね。
隣のフロントから、二見さんがリンダに指示を出す。
「リンダー、1号室にファジーネーブルと、ジントニックね」
「アイアイサー!」
このバーカウンターは、ホールスタッフがお酒やジュースを作る場所でもあるんです。
少しでも時間が空くと、スタッフはこのカウンター周辺に溜まって、おしゃべりしてます。
「エヘヘ、実は私も、今日お客様に、写真を撮らせてくれって言われて、
そして、お小遣いまでもらっちゃったんですよ?」
「そう、良かったじゃない。
エッチな事はされたの?」
「もう!そんな事させるワケないじゃないですか!プンスカ!
最近、そういう事が、何度かあるんですよね。
みんな、メイド服好きなんですね」
「さあね〜」
「ん?
あっ、そういえば、薫子さん。
今度の日曜日、サークルの人たちと、新入部員歓迎のバーベキューパーティーありますよね」
「ああ、そうらしいわね。
でも、私はパス」
「え?薫子さん参加しないんですか?」
「うん、最近、本読めてないから、部長に会いたくないし」
「ああ、そうなんですね〜」
私たち二人は、文芸サークルなんです。
でも、私達いっつも、ラノベや漫画ばっかり読んでます。
部長の小山内 文代さんは、活動記録を重視してるので、感想文などの提出を厳しく求めてくるんです。
でも、薫子さんは、本を読む事より、書く事を好きな人だから、部長とソリが合わないらしいんです。
「でも、薫子さん来ないと、男子部員の人たちが悲しむんじゃないですか?
新入生も、薫子さんに憧れて入ってきたらしいじゃないですか」
「それなら、ロリエがいるからいいんじゃない?
ロリエもSNSに挙げられて、人気出てるし」
「え?なんですかそれ!!
私、そんなの聞いてないですよ!?」
「そう?よく、大学で写真撮ってくださいって言われてない?」
「ああ、それは写真部の人たちですよね?
なんか、大学紹介かなんかの材料に使うんだとか…」
「ちがうわよ、大学の人たちじゃないわ。
どっかのまとめエロサイトとかで、ロリエの画像を見て、突き止めた人たちよ」
「ええ?……エロ…サイト…?」
「ほら、このサイトに出てるでしょ……『小学生で成長が止まったコスプレ大学生がマジでメイドピクシーなんだが……』ってやつ」
そこには、私の色んな角度のメイド姿がアップされてました。
中には、下半身がきわどい画像まで……。
「ど……どうして?…これ……学校でメイド服なんて、着た事ないのに……
しかも、大学名や、サークルまでバレてる……」
「小山内部長が頼んだのよ。
サークルに新入生を入れるための、ステマを」
「…あばばば……そ……そんな……」
「小山内部長の家は、超お金持ちだから、金で依頼したんだと思うわ」
「誰にですか!?」
「そんなの、店長に決まってるでしょ?」」
いやんっ、やっぱり、クズ店長。
「今度のバーベキューの準備も、全部『オハコ』を通して、契約してるみたいだし。
小山内部長は、店長のいいカモなんだろうね。
世間知らずのお嬢様で、お金持ちで」
「はぁ……あたし、店長にお金で売られてるんですね……」
「でも、儲かったお礼に、ロリエを海に連れて行こうって言ってたわよ?」
「ええ!?ホントですか!?」
「な、何よ!?
そんなくっつかないでよ!?」
「ホントに、店長が海に連れて行ってくれるって言ってたんですか!?」
「うん……ホントだって。
なんで、そんなに興奮してんのよ?
なに?もしかして、ロリエ………店長の事………好きなの?」
「え!?……あ……いや……その、まさか……アハハ……!
私、まだ未成年ですよ?……プルオ店長って、オ……オジサンじゃないですか……あは…あはは…」
「そうだよね、ごめんごめん。
あんなクズ店長を好きになる人が、そんなにいるワケないか、アハハハ!」
「……ええ……そうですよ…。
ク……クズ店長ですよね……あの人……」
「そう……ホントに……ね。
バカだし……さ……」
そう言うと、薫子さんは少しだけ、小さなため息をついて、ビールを一気に飲み干しました。
「ロリエ、飲も飲も!
新さーん、生ビールお代わりちょーだい。
あと、キッチンが忙しくなかったら、クワピザと唐揚げ……ロリエもなんか食べるでしょ?」
「はい!アボカドサラダと、オムライスください!
あ、私も生ビールください」
「は〜いよ」
なんか、1歳しか違わないのに、薫子さんの横顔、色っぽいなぁ……。
私も一年後には、こんな顔できるように、ならないかなぁ。
マジピクシーが、急に大人には、なれないか。