ロリエ
私、河合 音莉絵は大学2年生の19歳。
少しだけ、同級生より発育が遅れてるせいで、よく『ロリエ』と呼ばれたりします。《認めてませんが…》
一ヶ月前から勤めている、駅から少し離れた場所にあるアルバイト先の、カラオケ店『オハコ』に向かっています。
背もオッパイも控えめな私ですが、このバイトで、大きな胸の高鳴りを覚えました。
ハッキリ言います………あたし、この店の店長『三木 プルオ』に只今、恋をしています。
今日のお昼のシフトは、私とプルオ店長の二人だけ。
午後0時15分、いつも通りに私は、愛車のチャリンコ「オラシオン」でお店に到着。
このカラオケ店『オハコ』は、13時から26時までの営業なんです。
二階建てのお店で、二階がカラオケ、一階が雑貨屋さんとコンビニ。
階段を登って鍵を開け、オハコに入ると、ロッカールームに行き、お店の制服にお着替えです。
オハコの制服は、メイド服みたいになってます。
胸が強調された、ちょっとHな制服です。
これは、プルオ店長の趣味なんです。
でも、この制服が可愛いって、お客さんから大人気なんですよ?
0時25分、タイムカードを押して、お仕事の始まりです。
私の最初のお仕事。
それは、プルオ店長にお電話です。
プルルルル……プルルルル……プルルルル……プルルルオ店長《幻聴?》……
そして、10コール目に繋がりました。
「河合です。プルオ店長、おはよーございます♪」
「………ゔぁぁあぁあぁ…ぃぃいいぃぃい…」
……バケモノ?
「……大丈夫ですか?……もうすぐ、オープンですけど……お店に来られそうですか?」
「……ぉおぉおぉ……ぃぎぃゔぁぁずずぅぅ…」
「…じゃあ……お店開けて待ってますね」
そうです。
このプルオ店長へのモーニングコールが、最初のお仕事なんです。
プル店長が電話を切るのを待ってから、私はオープン前の部屋のお掃除と、料理やドリンクの準備をします。
そして、13時。
カラオケ『オハコ』はオープン。
いつも、オープンから5分後には、73歳の常連「ヒバリおじいちゃん」がいらっしゃいます。
一曲目はひばりの歌を歌うって決めてるから、本人も店員も、ヒバリおじいちゃんと呼んでます。
「おはよう、音莉絵ちゃん」
「ヒバリさん、おはようございます。今日も1号室でいいですか?」
「はいはい、よござんすよ。
あと、コレうちの娘が置いていったお菓子だから、お店のみんなで食べな」
「わぁー、いつもありがとうございまーす。
皆で頂きますねー」
「いいよいいよ、いつもワシがお世話になってるんだから。
しかし偉いなぁ、音莉絵ちゃんは中学生なのに、よく働いて」
「ヒバリさん、私、大学生ですよ?もう5回は言ってるけど?
今度間違えたら、その手に彫るからね」
「そ……そうだったかなぁ?……それはいいけど、今日も音莉絵ちゃんは一人なのかい?」
「いいえ…もうすぐしたら、店長も来ると思うんですけどねー」
「まったく、プルオ店長は、また遅刻なんだね、アイツとペアの人は、いつも大変だねぇ。
わしが、何回説教しても、アイツの遅刻ぐせは全く治らんからね」
「困ったものですけど、私はもう慣れちゃいました」
「みんな、優しいからねぇ。
でも、音莉絵ちゃんも言う時はビシっと言わなきゃ、アイツはわからんからね」
「は〜い、心得ときます」
「では、ワシは邪魔せんよーに、そろそろ部屋に行きますから、ウーロン茶を入れてちょうだいな。
自分で、持っていくから」
「いつもありがとうございます」
私はカウンターの裏に入り、ウーロン茶をついて、ヒバリさんに渡す。
「はい、ありがとう。あと、店長がきてからでいいから、刺身定食もくださいな」
「はい、ありがとうございます」
「では、行ってきますよ」
「ごゆっくり、どうぞ〜」
このカラオケ『オハコ』は、アットホームなお店なんです。
チェーン店じゃない老舗で、地元のお客さんに愛されてるんですよ。
私は、オハコにアルバイトで入って、まだ一ヶ月の新人だけど、すぐに馴染んじゃいました。
それもこれも、プルオ店長のおかげなんですよ。
13時50分、我が愛しのプルオ店長がやってきました。
髪はねぐせだらけで、無精髭。
顔面には、無数の引っかきキズ。
分厚いレンズのメガネが、鼻からずりおちそうです。
シャツは裾がはみだして、ボタンは掛け違い。
ネクタイは首からかけただけ。
「……おばよぉ……がぁゔぁゔぃ…」
「おはよございます、プルオ店長……今日も、眠そうですね」
「ゔぅ〜……昨日ぼ、朝6時まで飲んべだかださぁ〜……」
「はいはい、早く顔洗ってきてくださいね」
「…ゔぁ〜いぃ……」
「あ、そういえばプルオ店長、八百屋さんがファックス届いてないけど、注文は?って電話ありましたから」
「あ……わすでてたぁ……俺の机にあるど思うかだ、電話しどいでぇぐだざぁぃ……」
「だろうと思って、もうやりましたよ♪」
「……さずがだねぇ…………」
「でも、プルオ店長……その顔のキズ、どうしたんですか?」
「ああ……今、駐車場で……ネゴに、おぞわれて……」
「ああ、野良猫、下の駐車場に、よくいますもんね。
……ん?……そのズボンのポケットに入ってるの何ですか?」
「……いや…こでは……気にじなぐで、いいよ……」
……なんか、獣の手のような……まさか、野良……
「あ………やべ……」
「どうしたんですか?」
「……パンツ……はき忘でだぁ……」
そうなんです……うちのプルオ店長は、ダメ人間なんです。
まったく……可愛いんだから……。
「……あ……うんこも踏んでら……」
……ホント、クズいんだから……。
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