穏やかな朝食
ー翌朝、13日目
ケンジのは空腹で目を覚ました。
卵の力で治癒しているとはいえ、無理をしない事に越した事は無い。
長い絶食期間故に胃腸が弱っているかもしれない、量は少なめにして、消化しやすい物を食べるのが鉄則だ。
ケンジの体はまだ踏ん張る事が出来ない、村長夫妻のグリーフとエレノアはケンジがまだ寝ていると思っているだろう。
ケンジはようやく此処に至って冷静である事に務めた、そして考えた。
まず、村人達はケンジの胸ポケットにある卵の力には気がついていなかったようだ。
これはしばらくケンジから離すわけには行かなそうだった、ケンジから離すとケンジの命が危ないかもしれない。
故に当面の間はこの卵の事は秘密だ、力が力なだけにずっと秘密の方が良いかもしれない。
ケンジは冷静に自分に起きた事を分析した、あの日あの時ケンジはスマホに夢中になっていた。
転換点はあそこだ。
高架下の小さなトンネル。
あそこだ、あそこで全てが狂いだした、本来はあっという間に通り抜けることが出来るはずの場所、それなのに1時間以上も歩いていたのだ。
そして極め付けはあのトンネルの中で何に遭遇していたのか、全くわからない。
宗教の勧誘か何かと思ってガン無視してしまったのだ。
間違いなく何かが居た、そして何かを言っていた、色々沢山話していた、間違いなくあの言葉の中に今後を左右する大事な何かがあった筈だ。
ケンジはスマホに夢中の余りに全てをガン無視して突き進んでしまった。
そもそもトンネルで会った存在は人であったかどうかすら怪しい、不思議なくらい記憶があやふやなのだ、いっそ夢であったのでは無いかと思うくらいだった。
「はぁ…………」
ケンジは自分の愚かさを嘆くしか無かった。
歩きスマホで駅のホームから落ちて電車に轢かれそうになったとか、そんなチャチなもんじゃ無い、異次元にブッ飛んだとかいうトンデモない片鱗を味わったのである。
頭がおかしくなりそうだった。
などとくだらない事を考えてしまう辺り、ケンジは呑気であった。
ケンジはふと持ち物を確認しようと思った、ノートパソコンやスマホはもうダメだろうな。
壊れてなかったとして、この世界で何の役に立つんだ、どうせ何の役にも立ちはしない。
こういうのは行きはよくても帰りは不可能なのだ。早々にその辺は諦めているケンジはなんだかんだ言って冷静だった。
とりあえずビジネスバッグを開けてみよう、ケンジは手を伸ばした。
ふと違和感を感じる、中身にこれといって異常が無いのだ。
いや、異常がなさすぎる、ビジネスバッグは特に形が崩れたりしてもいない、それは正せばいいかもしれない。
しかし中身にダメージを感じられないのだ、スマホもノートパソコンも特に破損しているようには見受けられないのだ。
少なくともズタズタバキバキグシャグシャになった様子は感じられない、そういえばおかしい事に気がついた。
ケンジは夏服のビジネススーツ姿である、服が破れていない、自分の血はどこいったのだろうか、ズタバキグシャになったはずだ、服が無事であるはずが無い。
ケンジはおそらく1つしか無いのではないかという結論に達した。
卵だ、今も胸ポケットに入ってる、生物以外も治してしまうのだろうか、この卵は本当に一体何なのだろうか。
結局ケンジはビジネスバッグの中をあまり確認出来ぬまま、あーだこーだウンウンと頭を抱えて考え込んでしまった。
そうこうしている内に部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえた。
村長の妻のエレノアの、声が聞こえた。
「おはようございます、ケンジさん起きていらっしゃいますか?」
「あ、おはようございます、エレノアさん。起きてます、昨晩はどうもありがどうございます。」
「いいえ、どうぞお気になさらず。まだケンジさんの体調を考えて念の為まだそんなに大したものは出せないけど、朝食が出来ましたのでどうぞお越しください。」
「本当にありがとうございます、いただきます。」
ケンジは村長の妻エレノアに連れられて食事の部屋に赴いた。そこには村長のグリーフが座って待っておりケンジを出迎えた。
「おはようございます、ケンジさん。体調は如何ですか、昨晩はよく休む事はできましたか?」
「ありがとうございます、グリーフさん。久しぶりに安心してゆっくりと休む事ができました。本当にすっかり良くなりました。」
「そうですか、それは何よりです。ところでケンジさん、もしよろしければお話し合いは昼からになりますので少々時間があります、朝食が終わりましたら私と一緒に村を散歩しませんか、私たちの村をご案内させて下さい。」
「是非お願いします。助けて頂いた皆さんに是非ともお礼を言いたくて、よろしくお願いします。」
3人はそんな話をして朝食を食べた、朝食は昨晩に続きジャガイモのスープだったが、ほんの少し香り付け程度の2種類のハーブが細かく刻んで少し振りかけられたアレンジが加えられていた。
夫妻の朝食も同じ物を食べケンジはその気遣いと優しさに感謝した。
夫妻と向かい合って6人位が座れる大きさのテーブル、3人の間に付け合わせが大き目の2皿に盛り付けてあり、3人で自由に小皿にとって食べれるようになっていた。
ケンジはまだゆっくりと流石に昨日の様な長い時間は掛けなかったがスープを頂いた、グリーフはお代わりをして付け合わせもモリモリ食べて居たが、本調子では無いケンジはスープだけでだいぶお腹が膨れてしまい付け合わせの2種類の野菜炒めは少しだけしか食べる事は出来なかった。
スープは昨晩と違ってハーブの優しい香りと味がプラスされケンジはまた本当に嬉しそうに表情を緩ませ喜びを噛み締めながら朝食を食べた。
付け合わせの野菜炒めも味付けは控えめになっていた。
見た事が無い野菜もあったがスープによく合う付け合わせで、柔らかいスープと違って歯ごたえを楽しめた。
朝食中に男女の子供が二人入ってきた、村長夫妻の子供らしい。朝食の匂いで目が覚めた様だ。
「おあようごあいます!」
「……おはゃぅ」
「おはようございます。」
まだ起きた直後らしく寝巻き姿であった。村長の妻のエレノアが子供を椅子に座らせて朝食を食べさせた。
朝食の間にケンジは夫妻家族の事を伺った、子供は双子の姉弟で4歳らしい。
元気そうなお姉さんの女の子と、眠そうな弟の男の子だった。
それぞれの両祖父母も近くに住んでいるそうだ。
夫妻は幼馴染で小さい頃から家族ぐるみの付き合いがあり、そのまま結婚したそうだ。羨ましい限りである。
ケンジも家族の事を聞かれ、異世界の話題は一先ず避け、父母や祖父母も存命であり妹も居る事を語ったり、仕事をしていたが今回の遭難で退職になる事は間違いないだろうなどと呑気に語った。
他にも村長夫妻の双子の子供の姉弟二人の姉ユーミ弟ルイスに質問攻めにされたが優しく全て答えてあげたりしたのだった。
朝食を終えると村長のグリーフと散歩に行く事になっていたのだが、姉のユーミと弟のルイスも一緒に散歩する事になった。