第八章 魔帝と呼ばれるもの
ソランはその場を駆け出した。
フランの生み出した魔力の球が自分達へと向かう様が、まるでスローモーションのようにゆっくり見える。
モアナ達のもとへたどり着かなくてはいけない。
あの一撃がモアナ達を襲う前に、何とかしてここから逃げなくてはいけない。
アトリちゃんのような悲劇は、もう二度と繰り返したくない。
それなのに、フランが放った一撃同様に、ソラン自身の身体もスローモーションのようにゆっくりとしか動かない。
もっと早く、急がなくてはモアナ達を救うことはできない。
そう自分を叱咤するのに、ソランの足は彼の意思を裏切る。
あの攻撃が当たれば、間違いなくモアナ達は死んでしまうだろう。
それなのに、自分には何もできないのだろうか?
少しずつ、しかし確実に絶望の沼へとソランの身体は沈み込んでいく。
どうして、自分はこれほど無力なのだろう。
もっと・・・・・もっと、力があれば・・・・・。
そう思った瞬間だった。ソランの身体の奥底から、圧倒的な熱量が沸きあがってくる。その熱量に焼かれるように、ゆっくりとソランの意識は遠のいていく。
最後にソランの意識が認識したもの。それは、あのフランが絶叫する声だった。
「――こ、これは! まさか、貴様は!!!」
「・・・・・くっ」
この辺一帯すべてを包み込むまばゆい閃光によって、ディーンは意識を取り戻した。
どうやら、自分はまだ生きているらしい。ぼんやりとした頭でそう認識し、それからすぐに今が戦いの最中であったことを思い出す。
痛む身体に鞭打ち、顔を上げ、辺りを見回すと、そこには不思議な光景が広がっていた。
フランとメイベルが話していたソランという少年が、真正面から視線をぶつけ合って対峙していた。
だが、フランの表情から、先程までの余裕が消えている。代わりに今のフランの顔に浮かんでいるのは、嫌悪としか受け取れない表情。
・・・・・嫌悪?
一体、何故、邪神の使い手としての力を失った、ただの少年を見るのにそんな表情を浮かべているのだろう?
だが、それにも増して不審だったのは、ソランの様子の方だった。
フランの放った攻撃を右手で跳ね返したソランが、静かに口を開いた。
「・・・・・我を呼び覚ましたのは誰だ?」
「お、お兄様・・・・・?」
モアナは唖然とした表情のまま、ぼそりとつぶやいた。
その声は確かにソランの声だったが、同時にそれはソランのものとは全く違った。モアナ達の知るソランは、このような重々しい喋り方はしない。
一体、何が起こっているんだ。
彼に何が起きたのか。
ディーンがまるで理解できないでいると、フランが先程までの嫌悪に加え、怒りの表情を浮かべ言った。
「やはり、貴様か。 覇王ラウレス」
ディーン達は驚愕に目を剥いた。
あのソランという少年が、魔帝の一人である覇王ラウレス?
「・・・・・なっ! バカな・・・・・」
愕然と、デュークがソランとフランを見比べる。信じられないものを見たという表情が浮かんでいる。
モアナとバルレルも全く同じ驚きを味わっていた。特にモアナは驚きを隠せずにいた。自分の兄が魔帝の一人である覇王ラウレスだといきなり言われてもとても信じられない、そんな表情をしていた。
だが、言われた当のソランは、動揺を見せることもなく、その言葉に頷いてみせた。
「・・・・・貴様のおかげで思い出した。 我が何者なのかを・・・・・」
フランがその言葉に頷いた。
「・・・・・そうか。 ・・・・・貴様も前世の記憶が戻ったのか。 なるほど。 初めて貴様を見た時、奇妙な感覚の同調を覚えたのはこのためだったのか」
フランは感情に声を揺らしながら語り始めた。
「だが、どうする? 俺に歯向かうつもりか? 悪いが、今の俺は塔をすべて開放し、真の力を取り戻している。 力を失っている貴様には勝ち目などないぞ」
「・・・・・・・・・・」
彼の話に黙って耳を傾けていたソランが、静かに眉をひそめた。
だめですわ、とモアナは彼女なりに思った。
ソランが魔帝の一人である覇王ラウレスだということ。フランが混沌神ハデスだということ。そして今、現在、危機的状況であるということ。そんなことは、その時は一切何も考えていなかった。
いつものお兄様に戻ってほしいですわ!
まるで別人のように重々しく話すソランを見て、モアナはそれだけを思った。
気がつくと、モアナはソランの元へと駆け出していた。
「モアナ!」
「モアナさん!」
というデュークとバルレルの声が聞こえた気がしたが、モアナは振り返らなかった。
「お兄様、お兄様っ!」
「我は貴様の兄ではない。 我は――」
モアナの必死の叫びを、ソランの冷徹な声が打ち消した。
だが、それすらもさえぎって、モアナは叫んだ。
「いいえ、お兄様ですわ! 私の大切なお兄様ですわ!!」
モアナはソランに笑顔を向け、そして手を伸ばし、そっとソランの身体を抱きしめる。ソランの身体は一度、びくんと震え、しかし抵抗もなく、モアナの腕の中に納まった。
彼を抱きしめたまま、モアナは言った。
「足手まといで落ち込んでいる私に、お兄様はいつも笑顔で勇気づけてくれましたわ! どんな時でも私のことを護ってくれましたわ! お兄様は私にとって、今も昔もたった一人だけの勇者様ですわ! だから、いつものお兄様に戻ってほしいですわ!」
「・・・・・だ、だまれ・・・・・」
ソランの肩が小刻みに震え、モアナに対して右手を突き出した。バルレルが、デュークが声無き悲鳴を上げた。
モアナはつぶやいた。
「私は・・・・・」
静かに一言一言、一語一語、ゆっくりと告げる。
「私は信じていますわ」
一度、言葉を切ると、モアナはにこっとソランに笑ってみせた。
「お兄様のことを・・・・・」
ソランが動揺に震えた瞳で、モアナを見つめる。
モアナはソランの身体をさらに抱きしめて告げた。
「だって、私の好きな人はお兄様ですもの!」
「・・・・・モ、モアナ・・・・・」
ソランがモアナの名前を呼んだ。ゆっくりと、ソランの瞳が焦点を取り戻していく。やがて、ソランは自分がモアナに抱きしめられていることに気づき、そして自分が今まで何をしていたのかを思い出し、激しく動揺して叫んだ。
「・・・・・俺は今まで――って、モ、モアナっ?! ちょっ、ちょっと、みんな見ているんだけど・・・・・。 ・・・・・あっ、い、いや、まずは謝罪だな。 その、心配かけてごめんな、モアナ・・・・・」
「お帰りなさいですわ、お兄様!」
いつも以上に混乱してハチャメチャな台詞を並び立てているソランに、モアナは顔を上げて微笑みかけた。
しばしの逡巡。数瞬のためらいを乗り越えて、ソランはモアナに言った。
「・・・・・あっ、うん。 ただいま、モアナ」
「これって、本当に一体、どういうことなんだ?」
ディーンは口をポカンと開けたまま、硬直した。
「覇王ラウレスとして覚醒したはずなのに、あっさりと元に戻ってしまったみたいですね・・・・・」
「もう、何なのよぉぉぉぉぉ―――――!!!!!!!!!!!!」
メイベルの困ったようなつぶやきをかき消す勢いで、怒号が響いた。ソラン達がそちらに視線をやると、すっかり存在を忘れられていたフランがそこにはいた。さらにその横には、もっと盛大に存在を忘れ去られていたエルシオンの姿もある。だが、怒号を上げたのは、その二人とは別の人物だった。
怒号を上げた人物――エリスリートはソランに指を突きつけて叫んだ。
「覇王ラウレスに覚醒したと思ったら元に戻りました? あんた、ふざけているの!」
「い、いや、ふざけてなんか――」
ソランの言葉も、エリスリートは聞いていない様子だった。
「あっ――、もう、ふざけているわよ!! いや、ふざけすぎよ!! ふざけすぎ!!」
「・・・・・戻るぞ、エリスリート」
わめき散らしていたエリスリートを、横目で見つめるとフランは静かに告げた。
エリスリートはきょとんと首を傾げる。
「フラン様?」
「虚が冷めた。 行くぞ」
「はっ、はい!」
その言葉に、エリスリートは先程までの自分の取り乱した態度を思い出したのか、照れくさそうな顔をして頷く。
フラン達は何事かつぶやくと、すうっとその場から姿を消した。
「助かったのか・・・・・?」
「・・・・・遅くなってしまって申し訳ございません。 ディーン様」
「うわぁぁっっ!!」
気がつくと、ソランは悲鳴を上げていた。
ソランのすぐ隣に、二十代後半の青い髪の騎士風の男が立っていた。あまりの神出鬼没ぶりに、ソランだけではなくモアナやバルレルやデュークも目を丸くして青い髪の男を見ている。しかし、彼はソラン達の反応なんか気にしない様子で、まっすぐディーンのところへと歩み寄った。
「遅いわよ、エルメス! 今まで何をしていたのよ!」
ディーンとメイベルだけは、突然青い髪の男――エルメスが現れたことも、ごく当然と受け止めているようだった。
そういえば、あのエルメスさんっていう人、初めてメイベルさんと出会った時に彼女を呼びに来ていた人だよな。
エルメスはディーンに対して片膝をつき、謝罪した。
「申し訳ございません。 エルシオンの手によって、瓦礫の中に閉じ込められておりました・・・・・」
メイベルが口を尖がらせて言った。
「もう、そのせいで、こっちはいろいろと大変だったんだから!」
「状況についてはご理解しております。 先程までご様子を伺っておりましたので」
「何よ、今まで黙って見ていたわけ? エリスリートじゃないけれど、ふざけているわよ! もう! で、これからどうするのよ、エルメス?」
「決まっている」
メイベルの不満げな問いかけに、エルメスはさっと立ち上がるとソランのところまで行き、こう言い放ったのだ。
「覇王ラウレスの『キードロップ』の使い手になればよろしいかと?」
言われた当の本人であるソランは硬直した。
そ、それってつまり、覇王ラウレス=自分の使い手になるっていうことで・・・・・?
混乱しきっていた思考がどうにか収まり、ソランは素っ頓狂な声をあげた。
「えっ、えええええっ!?」
「なるほど、ナイスだ! エルメス! その手があったか!」
気がつかなかった、とばかりにディーンは手を打った。
かくして、ソランの意思とは裏腹に、彼らを使い手にすることが確定してしまった瞬間だった。
「どういうつもりだ?」
扉を開け、広間を見渡して、デュークがそうつぶやいた。彼にしては珍しく戸惑ったような口調の言葉だった。場所は以前、訪れたことのあるジルカの町の大聖堂だった。
ディーン達はソラン達を連れてすぐに、この場所へと向かったのだった。
案内された広間には、ソラン達以外にも数多くの神官達が集まっていた。その顔ぶれの一人に、ソランは驚いた。多分、デュークが戸惑ったのも同じ理由だろう。
その中の一人には、ルミナスの町でソラン達を助けてくれたカナリア=リズゼッタの姿があったのだ。
常闇姫と呼ばれている、神の子であるカナリアが何故、あの時、ルミナスの町を訪れてそして今、目の前にいるのだろう?
あのディーンっていう人達の知り合いらしいけれど・・・・・?
「どういうことなんだ?」
ソランはつぶやいた。
「どうして、ここに常闇姫がいるんだ?」
ルミナスの町での戦い、アトリちゃんを失ったショック、魔神メフィストの使い手だと思われていたフランが実は混沌神ハデスだということ、そして覇王ラウレスとしての覚醒。
いろいろなことがありすぎて一時的に頭の中から取り払っていた疑問が、ソランの中に次々といてきた。最もここはジルカの町の大聖堂で、常闇姫がいても全く不思議ではなかったのだが、何故、彼らとともにここにいるのかが知りたかった。
「まずは無理やり、ここに連れて来てしまってすまない」
ディーンはソラン達を見渡してそう謝罪した。
「そんなことはどうでもいいのですわ!」
ディーンの発言をさえぎったのはモアナだ。
「私達をどうするつもりですの?」
ディーンはソランを見た。
「簡単なことだ! エルメスが言ったとおり、俺を君の――覇王ラウレスの使い手にしてほしいんだ!」
「・・・・・い、いや、使い手にしてほしいって言われても一体全体、どうすればいいのか分からないんですけれど・・・・・?」
「俺のことを使い手として認めてくればいい! それだけで俺は君の使い手になることができる!」
「・・・・・・・・・・」
ソランはいまだに、自分が魔帝の一人である覇王ラウレスだということが信じられなかった。どうやら、本当に自分は魔帝の一人であるらしい。でも、アトリちゃん達と同じで、今は力は完全に失っているらしい。ソランに分かっていたのはその二点だけだった。
それなのに、いきなり自分の使い手にしろって言われても・・・・・。
「断っておくが、貴公に選択権はない」
悩むソランに、冷水を浴びせるようにエルメスが言った。
「万が一、拒否をするというのなら、この場で君達は私達の敵だと見なすこととする」
「わ、わかったっ! ディーンさんを使い手として認めるよ!」
慌てて、ソランはそう叫んで交渉は成立。
そう叫んだ後、ディーンの持っていた剣がそれに応えるように青い光を放った。
「これで、俺は君の使い手だ!」
ディーンは満足げに頷いた。
その時、ソランは大事なことを聞きそびれていることに気づいた。
「それで、どうしてこの場所に俺達は呼ばれたんですか? 俺の使い手になるだけなら、ルミナスの町でもよかったんじゃないですか?」
ソランの最もな意見に、ディーンはすぐに頷き返し、そして率直に用件に入った。
「その前に、君達は世界を襲った異変についてどこまで知っていたりするんだ?」
「異変って言われても、突如、謎の塔が現れたことくらいしか知らないですけれど・・・・・」
首を傾げるソランに、ディーンはこの数年間に世界を襲った異変について語り始めた。
「これは、今から数年前に実際に起きたことだ――」
その後にディーンの口から語られたのは、驚くべき事実だった。
ソランも驚いたし、モアナも驚いた。
当然だ。そうした世界を襲った事件の数々を、もちろん辺境のそのまた辺境に位置する小さな村タンベリーにいたソランとモアナは知る由もなかったのだから。
だがしかし、よく故郷の国からフエリセーナ帝国へ出稼ぎに来ていたというバルレルや、かって魔神メフィストと戦うために各地を旅していたデュークといった彼らも、別の意味で驚きの色を隠せなかった。驚いていなかったのは、ディーン達一行とカナリアと神官達だけだった。
ディーン達の故郷であるカティス王国の崩壊。
そしてそれを引き起こしたのが、フラン達だということ。
カティス王国が滅んだ後、セルフィナ大陸の各国は各地で彼らに敗北に次ぐ敗北を重ねた。大陸の国々は次々になす術もなく滅ぼされていった。セルフィナ全土が彼らの手に落ちるまで、カティス王国の滅亡が最初に知らされてから一年ばかりの時間しか要さなかった。大陸の国々をことごとく滅ぼし尽くしても、なお彼らの目的は果たされなかった。
次なる塔の目標を求めて、他の大陸にも彼らの魔の手が迫ったのだ。
そしてついにフランがすべての塔を開放し、かっての混沌神ハデスとしての真の力を取り戻したことで、世界は未曽有の危機に追い込まれたのだった。
だからこそ、それを止めなくてはならない。
この場に集められたごく小数の、でも世界で唯一の『キードロップ』の使い手達と使い手に対抗できる者達だけで、彼らに戦いを挑むというのだ。
「そんなの無茶ですわ!」
と当然の声が上がった。発言者はモアナだ。
無理もないとソランは思った。
ソラン達にとって、カティス王国の消滅も大陸の崩壊も遥か想像の外側の出来事でしかなかった。そんな自分達に一体、何ができるというのだろうか。
「そうだよ。 僕達の力だけで、どうにかできる相手じゃない」
バルレルも不満そうにつぷやいた。
「無理なことを言っているのは分かっているわ」
メイベルは彼らの言葉にうつむいた。でも、彼女が顔を背けていたのは一瞬だけだった。すぐに顔を上げると、メイベルは続けた。
「だけど、分かっているでしょう? 彼らをこのまま放っておいたら、大変なことになるって!」
ソラン達はうつむいた。誰もが肌で感じている、それは完全な事実だった。
「なら、貴様らがしてきたことはどうなる?」
突然、デュークが冷たい眼差しで、メイベルを見た。
「奴らを倒すためとはいえ、貴様らの戦いで多くの町や村は壊滅した。 貴様らは、奴らと同じだとは言えなくはないか?」
「不定はしないわ」
メイベルはきっぱりと言った。
「私達は、私達の目的でここまで戦ってきたのだから。 たとえ、それがフラン達と同じだと言われても仕方ないわ」
ソランは深刻な面持ちのまま、口を開いた。
「そのことなんだけどさ」
ソランはメイベルに訊いた。
「一体、目的って何なんだ?」
「故郷の再生よ」
と言ってから、わずかに語調を早めて、メイベルは付け加えた。
「言っておくけれど、復讐とかじゃないわよ! 私達はかっての故郷を取り戻したいの!」
メイベルの目を見据えて、デュークは冷静な口調で言った。
「そのために、他の町や村を犠牲にしてもか?」
ぷるぷると震え始める自分の身体を懸命に制御しながら、それでもせいぜい冷静に、メイベルは言った。
「・・・・・犠牲にするつもりなんかないわよ。 でも、彼らの攻撃を防ぐためには同等の力を持って防がなくてはならない。 その結果、他の町や村が私達の故郷と同じように滅んでしまう。 ・・・・・私達の故郷のような悲劇を防ぐために戦ってきたはずなのに・・・・・何だか八方塞がりね」
最後の方は悲観に満ちたつぶやきだった。決して泣いてはいなかったが、代わりにその表情は乾いていた。
乾ききった微笑を浮かべ、メイベルは続けた。
「でもそれでも、私達は戦うつもりよ。 だって、私達だけが彼らを止める術を持っているのだから・・・・・」
メイベルは遠い目をして、大聖堂の扉を振り返った。
「ここまで無理やり連れてきてしまってごめんなさい。 あとは私達だけで何とかするわ!」
「メイベル! 彼らをこのまま帰す気か?」
エルメスの叫びに、メイベルは乾いた笑みを浮かべながら頷いた。
「実際は、私達の力だけで何とかするつもりだったでしょう? 『キードロップ』の力が戻った今、あとは私達の手ですべてを解決するべきよ!」
メイベルはソランの目の前に立つとこう言った。
「申し訳ないけれど、私もディーン様と同じようにあなたの使い手として認めてくれないかしら?」
「・・・・・俺は」
しばしの逡巡。数瞬のためらいを乗り越えて、ソランはメイベルに言った。
「俺も一緒に戦わせてほしい!!」
「お兄様っ?!」
「ソラン・・・・・!?」
モアナとデュークが驚きの声を上げる。
メイベルは呆気に取られた表情でつぶやいた。
「・・・・・・・・・・ほ、本気なの?」
「ああ! この世界が滅びるかもしれないっていうのに、このまま黙って見過ごすなんてできない!」
ソランが叫ぶ。
ソランの言葉に、先程まで冷たい眼差しを浮かべていたデュークが表情を和らげてソランに訊いた。
「・・・・・これまでの戦いとは違い、世界の命運がかかった戦いだぞ?」
これまではせいぜい魔帝の使い手との勝敗か、あるいは塔の開放の命運がかかっているだけだった。だが今度は、世界の命運そのものがソラン達の肩にかけられている。
ソランはデュークに向かって言った。
「・・・・・真の力を取り戻している混沌神ハデスの生まれ変わりであるフランとは違い、力を完全に失っている自分には何もできないのかもしれない。 そうなのかもしれない・・・・・。 でもそれでも、負けるから勝てないからって最初から諦めていたら、本当にだめになってしまう! だから、俺は自分から勝負を投げたりしない!! 最後まで諦めない!!」
それはいつものソランの声で、いつものソランの口調だった。自信に満ち溢れ、微塵も不安を感じさせなかった。
そのソランの態度が、デュークを――そしてこの場にいる者達を勇気づけたようだった。デュークは笑みを浮かべて言った。
「守るべき者のため、大切な何かのため、なけなしの勇気を振り絞るか・・・・・。 俺も昔、そんな勇気のある勇者に憧れていたな・・・・・。 ・・・・・彼らのやり方は間違っていたのかもしれないが、これもこの世界を守ろうとした結果なのかもしれないな。 俺はソラン、おまえを信じている! おまえがそうしたいと思ったのなら、俺も一緒に行こう!」
「私も一緒に行きますわ!」
続けて、モアナが言い放った。
「私もお兄様を信じていますわ! お兄様が行くと決めたのなら、私も一緒に行きますわ!」
「モアナ・・・・・、デュークさん・・・・・、ありがとう・・・・・」
デュークとモアナの言葉に、ソランは嬉しそうに応えた。
「・・・・・僕も一緒に行くよ」
最後にバルレルが、少し遠慮がちにつぶやいた。
「あっ、勘違いしないでよ! 本当は行きたくはないんだけど、でも何だかみんなして乗り気みたいだし、まあ仕方ないし行こうかなと思ったまでで・・・・・」
「ふふふっ、そうは見えませんわ」
急にモアナがからかうような声音を使い、バルレルを横目で見た。その声に釣られて、みんながバルレルの顔を見る。バルレルが赤面して、視線を反らした。
「・・・・・なっ、なんでみんなして、僕を見るんだよ!」
「ははっ・・・・・、ありがとう、バルレルさん」
ソランは嬉しそうに微笑みかけた。
「・・・・・本当にいいの?」
メイベルがソランに念を押すように訊いた。
「ああ! 俺達も一緒に闘わせてほしい!」
ソランはメイベルに向かって言った。
「よろしくな! ソラン」
「はい!」
ディーンがそう言って右手を差し出してきた。ソランもそれを見て、右手を差し出し、握り返す。
そして、ソラン達とディーン達、彼らの最後の戦いが始まった。