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第七章 最後の攻防戦

「見つからないな・・・・・」

 ソランは首を傾げていた。ルミナスの町はこの状況だ。塔の場所はてっきり、すぐに分かるものだと思っていた。なのに周りには塔らしき影はなく、一向に廃墟と荒野が広がっているだけだ。

 しかたなく、ソランはアトリに訊いた。

「なあ、アトリちゃん。 ジルカの町に逃げ延びてきた人達は、どこに謎の塔が現れたって言っていたんだ?」

「そんなことは我は知らん」

 アトリはソランの問いかけに、きっぱりとそう答えた。

「ええっ!? し、知らないってこんなに探しているのに、どこにも見当たらないなんて変じゃないか?」

「我はただそう聞いただけだ。 本当にあるのかまでは分からん」

「そんな無責任な・・・・・」

「・・・・・だが、他の使い手がいた」

 デュークがソランとアトリの会話に割って入った。

「少なくてもデマではないだろう」

「そうですわね」

 モアナもソランとアトリの間をとりなした。

「なら、他の使い手は一体、どこにいるんだろう?」

「それは――」

デュークがソランの疑問に何かを答えようとした、そのときだった。


「喰らえ!! 邪神の使い手ッッッッッッ!!」


「――危ないっ!!」

「え?」

とソランは間の抜けた声を発してしまった。いきなりその少女が奇声を発したと同時に、バルレルが持っていた杖で力一杯、ソランの身体を突き飛ばしたのだ。

「えええええええッッッッ?!?!?!?!」

 初めて出会った時と同じように、ソランの体は地面を転げ落ちて、遠くにあった岩に背中から激突した。

「何する――」

 地面や岩に打ちつけた頭や背中や腰の痛みに耐えながら、抗議の声を上げようとしたソランの視界に映ったのは、突き飛ばされる瞬間までソランがいた場所に、まるで隕石でも落ちたかのように深く穿たれたクレーターだった。

言葉を失うソランに、バルレルが言った。

「いきなりすみません。 大丈夫ですか? ソランさん!」

「悪いけれど、これ以上は行かせないわ! 邪神の使い手!」

 今しがた聞こえたのと同じ少女の声が、ソラン達の方に向かって話しかけてきた。

そしてすぐに目の前に立つピンク色の髪の少女に視線を向け、ゆっくりと彼女に近づいていく。

「そして、魔神の使い手!」

「ふうん。 意外とやるじゃない! あの魔物を全て倒すなんて!」

 エリスリートがにんまりと笑みを浮かべた。

「でも、これで終わりなんて思わないでよね!」

そう告げると、一瞬で新たな魔物――魔神メフィストの恐らく、分身体と数百ものグリフォン達を出現させる。グリフォン達も恐ろしい魔物だと思ったのだが、当然、魔神メフィストの分身体はそれ以上の強さなのだろう。あの、デューク達勇者一行でさえ、手こずった相手なのだから。

「こ、これって・・・・・最悪なんじゃ・・・・・」

 二人の会話の合間に、ソランは呆然とつぶやいた。

 破壊神デリトロスの使い手、メイベル=デューテ。

 そして、魔神メフィストの使い手、エリスリート=エネミア。

先程から戦いを繰り広げているあの化け物じみた力の持ち主である二人よりはマシかもしれないが、どちらもかなりの強敵であることは間違いない。それに今、目の前には魔神メフィストの分身体と数百ものグリフォン達がいる。

「お、お兄様・・・・・っ!?」

振り返ってみると、モアナも不安そうにソランを見つめていた。

モアナが必死になって解明してくれた自分の能力。

本当に、彼女らに太刀打ちできる力なのだろうか?

絶望の沈黙が、ソランを押しつぶそうとしていた。

「行くぞ、ソラン」

ソランは顔を上げた。

デュークがバルレルが出してくれた剣を構え、メイベルとエリスリートを睨みつけていた。

「デュークさん・・・・・!」

 デュークの言葉に、ソランはぽかんと口を開いた。

デュークさんの方が魔神メフィストの分身体の恐ろしさを知っているというのに、それでも立ち向かおうとしている。

 そうだ。

 そのとおりだ。

何のためにここまで来たんだ。

モアナが必死になって自分の能力のことを解明してくれたのは、俺のことを信じてくれていたからなのにその俺がそれに答えないでどうするんだ?

 デュークはソラン達を振り返り、言った。

「・・・・・魔神の使い手、破壊神の使い手がそれぞれ、ここにいるということはここが最後の塔だろう。 なら、ここの塔は絶対に渡すわけにはいかない!」

 ソランが頷き、モアナが頷き、バルレルが頷いた。もちろん、当然というばかりにアトリも頷いた。

 ソラン達はそれぞれの武器を手に取り、身構えた。

 エリスリートは、こめかみをひくひくとさせながら、デュークに言った。

「ふうん、勇者デューク、言うことだけは立派ね。 以前の戦いでは、私が出した魔神メフィスト様の分身体にあれだけ苦戦していたっていうのに・・・・・。 まあ、度胸だけは認めてあげるけれど、相手を見てやらないとどういう目に遭うか教えてあげるわ!!」

 塔をめぐるソラン達の最後の戦いが始まった。






「――バースト・ソウル!!」

 何度目かのソランの叫び声がした。

 そう叫んだ途端、剣から炎と氷の連弾が弾け飛び、そしてその連弾の直撃を受けて、数匹のグリフォン達は一瞬にして塵となって消滅した。だがしかし、すぐに別のグリフォン達がソラン達をめがけて殺到する。襲いかかってくるグリフォン達の動きを瞬間的に見極めて、デュークは次々と剣で切り裂いていった。バルレルがモアナとアトリを護るように、光のバリアを発生させる。

 メイベルがエリスリートと魔神メフィストの分身体の相手をしてくれていたのが、この際ソランにとってはありがたかった。おかげでエリスリートと魔神メフィストの分身体の注意はメイベルのみに注がれて、ソラン達は目の前の魔物達の相手のみに没頭できる。


 それでも、たった二人で百を超える魔物達を相手にするのはやはり無謀な行為だった。いかにソランがグリフォン達が放つ風の魔法を打ち消し、風の魔法を終えた瞬間に生じた一瞬の隙をついて二つの属性を合わせた連続コンボを放ったとしても、またデュークが閃光のように素早く動き回ったとしても、まったくの無傷であり続けることは不可能だった。もちろん、体力とて無尽蔵ではない。倒しても倒しても、新たな魔物が沸いてくる。疲労とダメージの蓄積で、ゆっくりとしかし確実にソラン達の動きは鈍くなっていく。

 やがてついに、ソラン達の動きは止まってしまった。

 ソラン達を包囲するグリフォン達の輪が、ゆっくりと、少しずつ少しずつ、挟まっていく。

 ここまでなのか・・・・・!?

 本当に自分はここまでなのか?

 じりっと距離を詰めるグリフォン達に、絶体絶命の危機に追い込まれたソラン達だったのだが――






「――リべレーションッッ!!」

「えっ?」

 ソランは目を疑った。

 信じられない光景。予想だにしない事態が目の前で展開されたのだ。

 突然、どこからか少女の声がした。

 どこかで聞き覚えのある声だな、と疲労困憊のソランがうっすらと思った次の瞬間。

 まるでグリフォン達が煙のようにゆっくりと消えていってしまったのだ。

あのグリフォン達は本当にここにいたのか?

 自分達は夢か幻でも見ていたんじゃないだろうか?

そう疑いたくなるほどに、鮮やかにグリフォン達は消えてしまった。

しかしむろん、グリフォン達は夢や幻なんかではない。

「・・・・・な、なんだよ、これ・・・・・」

 ソランは呆然とつぶやいた。

 ありえなかった。助かった。その安堵が来るより先に、膨大な質量の唖然がソランに襲いかかっていた。ソラン達があれほど苦戦し、必死になって倒そうとしていたグリフォン達が、一瞬にして消滅してしまったのだ。絶対にありえないことだった。

 ソランは振り返った。そして再び、信じがたいものを彼は見た。

そこにいたのは、亜麻色の髪に澄んだ森のようなつぶらな瞳の少女だった。彼女を、ソランは知っていた。ジルカの町で常闇姫と呼ばれていた神の子、カナリア=リズゼッタだ。

 カナリアは神楽をリンと鳴らしながらゆっくりと舞っていった。それは神楽についている鈴音が鳴ると同時に、彼女の周りに淡い白い光を一つ一つ溢れさせていく。それと同時に、メイベルと戦っていたはずの魔神メフィストの分身体も先程のグリフォンと同様に姿を消していく。

「常闇姫、どうしてこんなところに!?」

 動揺もあらわに、エリスリートが叫んだ。

 だが、対照的にメイベルは笑みを浮かべて叫んだ。

「遅いわよ、カナリア!」

 ソランは思わず、言葉を漏らした。

「・・・・・と、常闇姫と破壊神デリトロスの使い手は知り合い、なのか・・・・・?」

「そうそう、意外だったかしら?」

 邪神の使い手であるソランと破壊神の使い手であるメイベルは敵同士である。にもかかわらず、ありとあらゆる意味で場違いな声と場違いな会話を、メイベルは返してきた。

 ソランは唖然としながらも訊いた。

「じゃあ、常闇姫と破壊神デリトロスは手を組んでいるのか?」

「そうじゃないわ。 カナリアはディーン王子のために来てくれたのよね」

「ディーン王子?」

 ソランが首を傾げると、メイベルが持っている槍で指し示す。その先には、先程から戦い続けている化け物じみた二人の少年のうちの一人、茶色の髪の少年の姿があった。

「あそこで戦っている方よ」

「・・・・・そ、そうなんだ。 でも、どうして助けてくれたんだ?」

 ソランの当然の疑問に、メイベルはチッチッチッと指を振った。

「助けた? 何言っているの? カナリアはただ、私を助けてくれただけ。 あなた達が私達の敵なのは変わらないわ!」

 まるで、ついでにそうなった、とでもいうような気軽さで、メイベルはあっけらかんと言った。

「でも、今の優先順位はダントツ、魔神メフィストの使い手の方かな? 魔神メフィストの使い手達の狙いは、どうも魔神メフィストの復活ではなさそうだし!」

「ふうん。 でも、そういうあなた達も、破壊神デリトロスの扱いといい、目下、破壊神デリトロスの復活が目的ではないのでしょう?」

 そう言って、エリスリートはにんまりと笑みを浮かべた。

「え、ええっ!? それってどういうことなんだ?」

「どういうことですの?」

 動揺もあらわに、ソランとモアナが叫んだ。

 だが、そんなソラン達の叫びは無視して、メイベルはエリスリートに言った。

「・・・・・探りあいはなしってわけ? まあ、いいわ。 あなた達の目的が何であれ、私は私の使命を全うするだけ!」

「そうね。 結論として、私達の邪魔をするのであれば誰であれ、排除するまで、っていうことだもんね!」

 エリスリートは唇の端を吊り上げて、メイベルに向かって手招きをした。彼女の挑発に、メイベルはある意味、楽しげな笑みを浮かべ、そして長槍を振りかざし、進み出た。

「まあ、それも排除、できればの話だけどね」

 前方をにらみつけ、メイベルは不適な笑みを浮かべる。彼女の視線の先には、その言葉を聞いて怒りに顔を真っ赤に染めるエリスリートの姿がある。

「ご自慢の分身体も、カナリアの力で無力化できるし、あなたにはもう打つ手はないんじゃないの?」

 メイベルの台詞に、エリスリートはにんまりと笑みを浮かべた。

「それはあなた達の方よ~♪」

 エリスリートがそう言った瞬間だった。


「――メテオインパクト!!」


 突然、背後から誰かの声が聞こえてきた。同時に何かが爆発する音。ソランは慌てて振り向いた。見ると、ねずみの色の髪の青年が不敵な笑みでこちらを見つめている。

 ソランは周囲を見回す。先程まですぐそばにいたはずのアトリの姿がどこにも見えない。アトリが消えたことに気づいたバルレルが、混乱を表情に浮かべて彼女の名前を呼んだ。

「アトリちゃん!!」

 同じく、持っていた黒い『まりも』のような生き物――もとい破壊神デリトロスの成れの果てを喪失したメイベルは、唇を噛み締めてつぶやいた。

「エルメスの馬鹿・・・・・。 しっかり抑えときなさいよね・・・・・」

「これで、あなた達はもう何もできない!」

「・・・・・・・・・・」

 エリスリートの台詞に、メイベルはますます視線を鋭くし、下唇を強く噛んだ。

 ソランは動揺をあらわにして訊いた。

「一体、どういうことなんだ? アトリちゃんはどこに行ったんだよ?」

「消えたわ」

「えっ?」

「あいつの力で消されたのよ。 邪神グラースも、破壊神デリトロス様もね」

「なっ!? 何を言っているんだよ!」

 唐突なメイベルの発言に、ソランは思わず目を剥いた。

「こ、こ、こ、この期に及んで何の冗談だよ!? いきなり、人が消えるわけがないだろう!!」

「そ、そうですわ!」

 と、ソラン同様、顔をひきつらせていたモアナが指摘した。

「いくら、魔神の使い手でも私達、誰一人も気づかないまま、アトリちゃんが消されるわけがないですわ!」

 デュークが言った。

「どういうことなのか、説明してもらおう・・・・・」

 メイベルの表情の険しさがわずかに崩れた。

「簡単なことよ。 先程から戦い続けていた二人、別格だったでしょう? もし、あの二人と戦うとしたら勝てる?」

 その言葉に、ソラン達は無言で首を横に振る。

 メイベルは、相対するねずみ色の髪の青年を指差した。

「・・・・・今、私達の目の前にいるあの男も、それに近い実力の持ち主なのよね!」

「・・・・・は?」

 と、ソランは意味が分からず、聞き返した。

「だから、先程から戦い続けていた化け物じみたあの二人に近い実力をあいつは持っているのよ! だから、私達が気づかない間に攻撃ができる!」

 メイベルは真剣な表情でそう言った。

「・・・・・もう、エルメスの奴、足止めできるって言っていたくせに全く足止めできていないじゃない・・・・・」

 ソランはモアナ達と顔を見合わせた。そして、仲間達の表情に自分と同じものを見出した。

 信じられない。

 メイベルの話に対する感想は一言で表せばそれである。

 先程から戦い続けていた化け物じみた二人に近い実力の持ち主?

 だとすると、魔神メフィストの使い手には化け物じみた力の持ち主が二人いることになる。

『キードロップ』の使い手の中で一、二位を争うほどの使い手が、先程から戦っていた彼らだったのではないのか?

 そんな彼らに及ばないものの、それでも破壊神デリトロスや邪神グラースであるアトリちゃんをあっさり倒してしまう実力の持ち主が、別に魔神メフィストの使い手にいる。

 ――って、そんな相手が二人もいるんじゃ俺達には勝ち目がないんじゃ!?

 ソラン達の表情を読んだのだろう。

 メイベルは肩をすくめて言った。

「信じられないかもしれないけれど、それが本当のことだから!」

「そ、そんな・・・・・。 じゃあ、アトリちゃんは本当に・・・・・」

 誰もが言葉を失った。

 ソランはアトリを覚えている。

 魔神グラースだということを忘れるほど、旅の間の彼女の姿は普通の女の子のように輝いていた。確かに、彼女は少し傲慢なところがあったかもしれない。だけど、すねた表情も自慢げに話す姿も、普通の女の子と何ら変わらなかった。

 気がつくと、ソランの瞳からは涙がこぼれていた。近くにいたモアナもバルレルも涙を流していた。アトリちゃんの笑顔や、旅の中での楽しかった思い出が、何度も何度もソランの頭をよぎっては消えていった。

「・・・・・言いにくいことだけど」

 少しバツが悪いような表情のまま、人差し指で頬を撫でると、メイベルは告げた。

「・・・・・一番、大事なことを伝えるのを忘れていたわ。 邪神グラース、破壊神デリトロス様を失ったことで、私達は『キードロップ』の力を失ってしまったことになるの・・・・・」

「なっ・・・・・!?」

 いきなりの衝撃の発言に、ソラン達は絶句した。

「だから、逃げるのなら今のうちよ! もっとも――」

 一度、言葉を切ると、メイベルはエリスリートとねずみ色の髪の男を睨みつける。

「あいつらが逃がしてくれたら、の話だけどね!」

「ーーっ」

 圧倒的な恐怖がソラン達を包んでいた。恐怖、いやそんな言葉では生ぬるいかもしれない。それは絶望、ソラン達から全ての意思を奪い取ってしまうほどの絶望だった。ソラン達に成す術はなかった。『キードロップ』の力を失い、しかも相手の動きさえ見えない化け物じみた魔神の使い手が二人もいる。ソラン達は全く何もできないまま、いやほとんど気がつくことさえできないままに、邪神グラースであり、仲間でもあるアトリを失い、『キードロップ』の力さえも失ってしまった。

 絶望の沈黙が、ソラン達を押し潰そうとしていた。

「うっ、うわあああっ!!」

 絶叫がルミナスの町の廃墟にこだました。それと同時に何かが爆発する音がした。

 見ると、先程まで銀髪の少年と死闘を繰り広げていた茶色の髪の少年が満身創痍といった状況で倒れていた。

「ディーン様!!」

「ディーン!!」

 メイベルが、カナリアが悲鳴を上げた。

 『キードロップ』の力を失ったのは本当のことなんだ。

 のろのろと、ソランはその光景を見てそう思った。

この光景に、この絶望的な光景に、他に一体何を思えばいいのだろう?

「ふははははははははははっ! さすがは我の使い手どもだ! いや、よく考えてみれば、我自らが選んだ使い手どもが他の使い手どもに負ける要素などあるはずもなかったな!!」

 マナベルの姿をした魔神メフィストが、細い腕を胸の前で組んでソラン達を見て笑っていた。

「残念だったな、勇者デュークよ! 今回のゲームも我の勝ちのようだ!」

「くっ・・・・・!」

 魔神メフィストのその台詞に、デュークはキッと鋭く睨みつける。

「さて、と」

 茶色の髪の少年――ディーンを倒した銀髪の少年が、魔神メフィストを見すえた。

「あとは貴様だけだな。 魔神メフィスト!」

 剣先を向けながら、銀髪の少年が冷たく言い放った。

「うむう?」

 剣先を向けられたことが意外だったのだろう。魔神メフィストは不愉快そうに銀髪の少年を見た。

 銀髪の少年はかまわず、魔神メフィストに向かって言った。

「貴様にはここで消えてもらう!」

 魔神メフィストは納得したように唸った。

「そうかそうか! 貴様も我に歯向かう愚か者の一人だったか? だが、しかし考えてみよ! 無謀にも等しくはないか? 貴様一人で我に戦いを挑むのはいささかほどに愚かしい」

「一人じゃないわ! 私達、三人よね? ねえ、エルシオン!」

 魔神メフィストの疑問に答えるように、エリスリートが高らかに言った。

「・・・・・そういうことだ」

 ねずみ色の髪の青年――エルシオンが頷いた。

 魔神メフィストは考え込むかのように右手を顎に触れる。

「ふむう。 我自らが選んだ使い手どもが、どいつもこいつも我に歯向かう愚か者だったとは我の心眼も当てにはならんか!」

「ははっ! そうだね! 最も、最初から裏切るつもりだったけどね!」

 と、エリスリートが楽しげに笑った。

「ぬお!? なんということだ! 貴様らは最初からそのつもりで我の使い手になったのか!! なんと嘆かわしい!!」

 そう言うと、魔神メフィストは額に手をやり大げさに嘆いてみせた。

「だーが!!」

 と、突然嘆きを止め、魔神メフィストは身を乗り出した。

「最後の塔を解放した今、我は真の力を取り戻しておる! そんな我に勝てる要素でもあるのか?」

「あっ、そのことだけど、私達、本当は『魔神の使い手』じゃないのよね!」

「うぬう? 魔神の使い手ではない?」

 魔神メフィストが鸚鵡返しにつぶやいた。

 エリスリートは頷いた。

「あっ、もしかして気づいていなかったんだ! さすが、フランだね! 実はね、私達、魔帝の一人である『混沌神の使い手』なの! だから、あなたは全く、真の力を取り戻していないわけ!」

 これまでは余裕綽々といった表情で物事を進めていた魔神メフィストだったが、この発言に自分の血の気が引いていくのを聞いた。

 混沌神の使い手。

 この者達は今そう表現したのだ。

「混沌神だと!?」

 魔神メフィストは怒りに震えるような声で叫んだ。

 エリスリートは、魔神メフィストの怒りに笑いながら応じた。

「そうそう。 で、あなたはそうとは知らずに今まで自分の使い手だと思い、ふんぞり返っていたってわけ!」

「混沌神だと! その者はどこにいる? 我自らが滅ぼしてくれるわ!」

「あれ、何言っているの? 目の前にいるじゃない! ねえ、フラン!」

 エリスリートはそう言って、銀色の髪の少年――フランを指差した。

 フランは答えなかった。だが目を細めた表情が、なによりも返事となった。

 あの魔神メフィストが珍しく、狼狽の叫びを上げる。

「ま、まさか、本当に貴様が・・・・・!? いや、だがしかし、貴様は『キードロップ』の使い手のはずだ・・・・・!! つまり、我々とは違い、ただの人間のはずだ・・・・・!!」

確かにその通りだ、とソランは思った。

『キードロップ』は本来、力を失ってしまった魔帝と呼ばれている者達が創り出したものだ。魔神メフィストも破壊神デリトロスも、そして邪神グラースであるアトリちゃんもそれを操り、彼らの使い手となる者を探し出そうとしていた。

それなのにだ。あのフランという少年は魔帝の一人である混沌神であるにも関わらず、『キードロップ』の力を難なく扱えている。もし『キードロップ』が自身で扱えるものなのなら、他の魔帝と呼ばれる者達も使い手など探さずに自分自身で使おうとするはずだ。

 それなのに、何故、彼は魔帝の一人であるにも関わらす、『キードロップ』の力を使うことができるのだろう?

「ははっ! 面白いことになってきたね!」

 エリスリートが楽しげに言葉を続ける。

「フラン様は確かに人間だけど、普通の人間ではないのよね。 混沌神の生まれ変わりとでもいった方がいいのかな?」

「なっ、なんだと・・・・・!?」

 魔神メフィストは眉間にしわを寄せた。

 エリスリートはなんてことでもないようにフランに告げた。

「ねえ、フラン。 さっさと魔神メフィストなんか倒して、次にいこうよ!!」

 フランの上方に、巨大な暗黒の球が生成される。

 エリスリートの話に黙って耳を傾けていたフランが静かに言った。

「――散るがいい。 魔神メフィスト!!」

 巨大な暗黒の球が、周囲の全てを消滅させながら、魔神メフィストに直撃した。

「馬鹿な!! こんなはずはッ!! 我は魔神メフィストだ!! その我がこんな場所でやられるはずがィィィィッッッ!!!!」

 断末魔の叫びを残し、魔神メフィストは雲散霧消した。






「そんな、馬鹿な」

 デュークの口からその言葉が漏れた。

「あの、魔神メフィストが・・・・・」

 バルレルの表情が、驚きの形を作ったまま凍り付いていた。

「・・・・・・・・・・っ」

 モアナは何も発せず、息を呑んだ。

 だが、それはソランも同じだった。言葉なんて見つからなかった。見つかるはずもなかった。一体、こんな時、なんていえばいいんだ?

唯一、顔色を失っていなかったのは、魔神メフィストの使い手の者達だけだった。――いや、彼女――エリスリートの言葉が正しければ、混沌神とその使い手の者達となる。

 あのデュークが動揺をあらわにして問いかけた。

「貴様らは一体――」

「混沌神の使い手でーす!」

「混沌神の使い手だと?」

「正確には、混沌神ハデス様もといフランネル=ミュゼット様とその使い手、ね!」

 驚きを隠せずデュークが問い返すと、エリスリートは楽しげに語りかけて最後にウインクした。

「なぜ、だ」

完全に冷静さを失った顔で、デュークは言った。デュークだけではない。その場にいるすべての人間の表情から、あらゆる生気が失われていた。

「貴様が混沌神ハデスだと? どういうことだ?」

「そのままよ!」

 エリスリートは得意げに言った。

「さっき告げたとおり、フランはね、あの混沌神ハデス様の生まれ変わりなの!!」

 エリスリートはソラン達の顔を見回して首を傾げた。

「あれー、反応悪くないー。 もっと、びっくりしてくれないと――」

「ふざけるな!!」

 デュークが怒鳴った。

「そうよ!! あなた達、ディーン様をこんな目に合わせて許されると思っているの!!」

今まで黙っていたメイベルも槍を振り回して叫んだ。

「それに魔神メフィストの使い手だと見せかけたりと、回りくどいことをして一体、何をたくらんでいるんだ!!」

 ソランも叫んだ。

 フランは腕組みをして悠然と構え、ソラン達を睥睨しながら言った。

「まず第一に、許しを請うつもりはない。 何故なら、貴様らはここで死ぬからだ。 そして第二に、たくらむも何も俺はただ他の魔帝の連中と同じように真の力を取り戻したかった。 それだけだ」

「そ、それだけって!? そんな――」

「貴様ら風情の常識で物事を考えるな!!」

 モアナの悲鳴を、エルシオンは強い口調で抑えつけた。

「我々の目的は、フラン様に真の力を取り戻させること、そしてすべての生きとし生けるもの達――いや、あらゆる存在すべてに、混沌神ハデス様の偉大さを知らしめることだ!!」

「じゃあ、今まで真の力を取り戻すためだけに魔神メフィストに従っていたのか?」

「だから、最初からそう言っているじゃない!」

 楽しげに、エリスリートは続けた。

「もっとも、いろいろと最初の計画とは狂ってしまったけれど、まあ万事解決ということでいいかな!」

「貴様らにはここで消えてもらう!!」

 虫けらでも見るような目で、フランがソラン達に吐き捨てた。右腕を突き出し、その手のひらをソラン達へと向ける。その手のひらに魔力が収束していくのを、ソランは確かに目撃した。

メイベルが動揺して叫んだ。

「ま、まずいわ! みんな、逃げ――」

「遅い!」

 膨大な量の魔力が球形を形作り、そして、ソラン達に向かって放たれた。

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