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第三章 故郷への帰還

 ソラン達がリシアの村に戻ってくる少し前――

 メイベル達は、魔神メフィストの使い手と交戦していたディーンと合流し、ひとまず近くの街の広場に立ち寄っていた。

 そして、メイベル、エルメス、そして合流したディーンも交え、テーブルを囲んで熱い議論が交わされていた。

 もちろん、議題は魔神メフィストとその使い手、そして先程の塔の出来事についてだ。

「ディーン様! ご無事で本当に何よりです!」

 メイベルの言葉に頷き、ディーンと呼ばれた茶色の髪の少年は自分の正面に立つエルメスへと声をかけた。

「当たり前だろう! 俺が魔神メフィストの使い手なんかにやられるわけがない! なあ、エルメス!」

 溜息をつき、首を振りながら、エルメスが言った。

「・・・・・いえ。 そのわりにはボロボロのような感じが致しましたが・・・・・」

 その台詞を受けて、メイベルが発言する。

「あーあ、もう! 『キードロップ』は手に入れ損ねてしまうし、今回は私達、いいところなしだわ!」

「そのことなんだが、『キードロップ』を手に入れた少年とは何者なんだ?」

 ディーンの言葉に、メイベルは端正な顔立ちを不快げに歪め、溜息をついた。

「分かりません。 ただ・・・・・」

「ただ・・・・・?」

「恐らく、彼は邪神グラースの使い手になってしまったものだと思われます」

「そうか」

 メイベルの台詞に、ディーンは大仰に頷いた。

「だが、心配するな! メイベル! 俺とメイベルも同じ『キードロップ』の使い手だ! どんな相手でも軽く倒してみせるぜ!」

 ディーンは左手で持っていた黒い『まりも』のような生き物――もとい破壊神デリトロスの成れの果てをひもで結びつけ、ヨーヨーのようにクルクルと回しながら、右拳を高々と掲げ、熱く語った。

「・・・・・不安ですな」

「・・・・・心配です」

 あまりのディーンの無謀無策ぶりに、思わずエルメスとメイベルはそう口にしていた。






「あんなのに勝てるわけがないだろう!?」

 再び、フエリセーナ帝国の宿屋の一室に戻ってきたソランは、はっきりとそう断言した。

 でもその時、思った。

 デュークはあんな相手と戦ってきたのだと――。

 そんな相手を、自分達だけで倒すことができるのだろうか?

「はあ―、魔神メフィストとその使い手か・・・・・。 デュークはあんな凄い相手と戦ったんだな・・・・・。 なあ、アトリちゃん、バルレルさん、何か、あいつらと渡り合える方法とかはないのかな?」

「うん? そこは貴様次第だな」

 そのソランの問いには、アトリが答えた。

「今の我では、魔神メフィストに借りを返そうにも返り討ちに遭うだけだろう。だが、全ての塔を開放すれば、我は力を取り戻せるのだ! ・・・・・だがそれを成すには、『キードロップ』の使い手の一人であるバルレルだけでは全くと言ってもいいほど役不足なのだ! そこでこの塔の調査に来た、バルレルと同じく『キードロップ』の使い手である貴様にすべてを任せようというのだ!」

「突然、そんなことを言われても・・・・・!」

「そ、そうですわ! それに私達だけであんな人達に勝てるわけないですわ!」

 アトリとソラン達のやりとりを交互に見やりながら、バルレルはどうしてこんなことになったんだろうと、アトリと初めて出会った出来事のことを頭の片隅に思い浮かべていた。






「ママ、見て!」

 一人の少女がさくらんぼのキンホルダーを指差した。薄い桃色の髪を肩まで伸ばし、白いケープを羽織ったまだ五歳くらいの幼い少女である。

「あら、かわいいわね」

 その子の母親がにっこりと笑みを浮かべる。

「ママ―、これ買って―! 買って!」

 そう言って、少女は母親の服をつかんだ。

「もう・・・・・。仕方ないわね」

 母親は右手を頬にやって溜息をつく。

「やったっ!」

 少女は嬉しそうに飛び上がった。

「これ、お願いします」

「はい、ありがとうございます」

 バルレルはそう言って、母親にさくらんぼのキンホルダーを渡した。

 バルレルはそんな日常的な光景に笑みを浮かべながら、空を見上げた。

 フエリセーナ帝国はバルレルの故郷の国より遥か北に存在していた。歴史は新しく、正式な建国は二十年あまり前のことだ。だが、王都のひとつとして名を貫かせている。

 街最大のマーケットには、農民や漁師が持ちよった果物、魚介類が並んでいた。大陸から集められたさまざまな品物が、ここでは手に入る。その中で一人、バルレルは居心地が悪いように目の前の自分の品物を見つめていた。

「やっぱすごいよな。 こんなところで商売が出来るんだから」

 それが、バルレルの率直な感想だった。

「――って、あれ? さっきの女の子?」

 そこに先程の女の子が再び通りかかった。何故か、母親の姿はない。

「もしかして、迷子にでもなったのかな?」

 こうしてはいられないと、品物を手持ち袋に入れると、バルレルは彼女の後を追いかけ始めた。






「ママ―、見て見て!」

「どうしたの? アトリ」

アトリと呼ばれた少女は、せっせと自分が持っているポーチに先程のキンホルダーをつけると母親に見せた。

「どう?」

「うん、似合っているわよ」

「ほんとうっ!?」

 母親にそう言われて、アトリは上機嫌になった。

「本当よ、すごく似合っている」

 母親はそんな娘の姿を見てくすりと笑った。

「あっ! 何かいる!」

 その時、突然、アトリが路地裏を指差して叫んだ。

「えっ? 何がいるの?」

 母親はきょとんとして首を傾げる。

「私、見てくる!」

 アトリは興味津々に、路地裏へと駆け出した。

「ちょっ、ちょっと、待ちなさい!」

 後ろからそう叫んだ母親の声が届かなかったのか、アトリはそのまま、路地裏に入っていった。



「あれ? あの子、どこに行ったのかな?」

 バルレルはきょろきょろと辺りを見回す。

 すすり泣く声が、すきま風のように、ひそかに闇を震わせる。

 歩いていくと、先程の少女が立ち尽くしていた。路地の奥を見ているためか、バルレルに気がついてはいないようだ。

「ねえ、きみ、お母さんは?」

 バルレルは背中越しに声をかけた。だが、少女は何も応えない。

「あれ?」

「アトリ!」

もう一度、声をかけようとした時、母親が少女に駆け寄ってきた。

「もう、一人でどこかに行かないでね。 心配するじゃないの」

「・・・・・・・・・・・」

 母親は少し怒ったように告げたが、少女は何の反応も示さなかった。

「アトリ・・・・・?」

 一向に何も反応を示さないアトリに、母親は怪訝そうに首を傾げる。後ろで見守るバルレルも思わず、不思議そうにする。

だが、やっとその声が聞こえたのか、アトリは振り返ってにっこりと笑った。

「はーい、ごめんなさい。ママ」

 ホッとした母親の横顔を見て、バルレルはホッと安堵の笑みを浮かべた。


 ごくありふれた光景――、その時の僕はそう思っていた。

 ところが、この後、僕に不運が回ってくる。

 彼女が意図したとおりに。でも僕の願いとは全く関係なく。


 翌朝、バルレルは再び、同じ場所で店をかまえていた。あちらこちらで威勢のよい売り子の声が上がる。

「さて、今日も頑張るか! あっ、そうだ!」

 バルレルは手をポンと叩く。

そして、商品の中に置かれていた一つのアクセサリーを手に取った。

「このアクセサリーは貴重品ぽいけれど、やっぱり少し汚れているし、売らずに杖に引っ掛けて置こうかな」

バルレルはそうつぶやくと、思いっきり深呼吸する。

だが、この時、バルレルは気がつかなかった。

彼がそうつぶやいた途端に、杖に引っ掛けておいたアクセサリーは光を放ちながら消えていったことを。

「おい、おまえ」

「えっ?」

 幼い少女の声がした。その声を聞きとめて、バルレルは視線を巡らせた。目の前に昨日、出会ったアトリという少女がいた。

 先程の声は、この子らしい。

 また、迷ったのだろうか?

「あれ? どうしたの? また、何か欲しくなったの?」

バルレルはそう言って、アトリにそっと手を差し伸べた。だが、アトリは手を払いのけると、思いっきり顔を歪めた。

アトリが言った。

「見ていたのだろう」

「・・・・・ええっ!? 何を!?」

 と、バルレルは挙動不審な声を出した。

「ふっ、あくまでもしらばくれるか」

 不愉快そうに、アトリは鼻を鳴らした。

「・・・・・い、いや、しらばくれるも何も見ていないし――」

「まあいい。 どちらにしろ、見られたからには生かして帰すわけにはいかない。 ――覚悟するのだな」

「か、覚悟!?」

「貴様がとる選択は二つ、我とともに来るか、ここで死ぬかだ?」

 何だか、よ、よく分からないがこのままでは命が危うい。

 それだけはわかった。

 バルレルは全身から血の気が引いていくのを感じた。

「じょ、じょーだんだよな?」

「断っておくが、我は冗談は好かぬ」

 動揺するバルレルに、アトリは冷水を浴びせるように言った。

「我とともに来るのを拒否するのなら、今すぐその首を刎ね飛ばしてやるまでだ」

「タ、タンマタンマ! わかった! 一緒に行けばいいんだろう!」

 慌てて、バルレルが叫んで交渉は強引に成立する。

そう叫んだ後、バルレルの持っていた杖がそれに応えるようにまぶしい小金色の光を放った。急に杖から不思議な力が伝わってくる感じがする。

「よし、これで貴様は一生、我の家来だ」

 あっさりと無情なことを、アトリは言った。






 こうしてあの後、バルレルは故郷の国には戻れずにアトリとともに旅をすることになってしまった。

 アトリちゃんの話では、両親には黙って出てきたという。今頃、自分は誘拐犯としてフエリセーナ帝国中にビラが貼られているのではないかと内心ビクビクしながら訪れたのだが、今のところその兆しはない。最もアトリちゃんのビラはフエリセーナ帝国中に貼られてはいたのだが、今のところ、そのビラの少女とアトリちゃんが同一人物だということには気づかれていないらしい。アトリちゃんがばれないようにと、帽子を目深に被って青いコートを身にまとっているせいなのかもしれない。

 『役不足』というとんでもなくひどいことを言われてしまった気がするのだが、少なくともアトリちゃんよりは活躍していると思う・・・・・。

「はあっ・・・・・」

 バルレルは深く大きな溜息をつくのだった。

「なんだ? とても不服そうだな? バルレル」

「ああ、って、い、いや、何でもないって!?」

 表情に出やすいバルレルは、アトリにあっさりと見抜かれてしまう。

「本当か? 怪しいものだな」

 アトリは問いかける視線をバルレルに送った。

 頷きながら、バルレルは答える。

「本当だって! そんなことより、これからどうするかだろう?」

「確かに」

 そう言って、アトリは不適な微笑を浮かべてみせた。






 ――以下は、旅の間にソランとモアナの間でひそかに交わされた会話である。

「これからどうしますの? お兄様」

「どうするって言われてもな」

「本当にこのまま、魔神の使い手や破壊神の使い手と戦いますの?」

「・・・・・そうなんだよな」

「もし、お兄様がそれでも戦うとおっしゃられるのでしたら、私はどこまでも一緒に行きますわ! お兄様は未来の勇者様ですもの! きっと勝てますわ!」

「・・・・・ははは、さすがにこのままじゃとても勝てそうもない気がするけれど。 ・・・・・・・・・・とにかく一度、デュークの元に戻ろう!」

「デュークさんのところに?」

「ああ! デュークなら、魔神メフィストについて詳しいと思うし、もしかしたら力になってくれるかもしれない・・・・・!」

「そうですわね」

 というわけで、ソランとモアナは旅に同行していると見せかけて、ひそかに故郷の村にいるデュークのところに誘導しようと企んでいた。こちらの方が大きい街があるから塔に関する情報が聞けるかもしれない、などと言いながら、その実、モアナとふたりして、必死に故郷の村に戻ろうとしていたのである。

 そのようにして、ソラン達はフエリセーナ帝国を後にし、地平の移動を続けていたのだが――ことは、ソランの思い通りには転ばなかった。とある沼地を越えた辺りで、ソラン達は奇妙な容姿をした魔物の一団に遭遇したのである。

 その魔物の一団はみなひつじに酷似した容貌を誇っていた。

「・・・・・なんだろう? あれ? 見たこともない魔物だけど」

 ひつじのような魔物達を視野に納めて、ソランは目をぱちくりとさせる。

「・・・・・ただの下級魔物どもだな」

 とアトリは答えた。そして、しばらく考え込んでいたが、すぐに顔を上げて言った。

「ちょうど、いい。 貴様の力を試す絶好の機会ではないか!」

「そ、それって一体・・・・・!?」

「決まっておる! 貴様、一人で奴らを倒してくるのだ!」

「・・・・・・・・・・へっ?」

 予想外の言葉に、ソランはマヌケな声を出してしまった。

「あいつら相手にたった一人で・・・・・?」

「驚くこともない。 我の使い手となった今ではあんな下級魔物どもなど敵ではない!」

「でも、いくら何でも俺一人じゃ・・・・・?」

「ほう・・・・・?」

 アトリがキッと鋭い視線をソランに向ける。

 ソランは慌てて言葉を継いだ。

「・・・・・い、いえ、ぜひ行かせて頂きます」

「うむ、なら行ってくるがよい」

 不毛なやり取りの後、ソランは恐る恐る魔物の一団に近づいていった。

「い、行くぞ――――ッッッ!!!!!! こうなったらやけだぁぁぁ――――!!!!!!」

 雄叫びを上げ、ソランが剣を勢いよくひつじの魔物に振り下ろした。

「・・・・・どうだ。 これで――――」

 ――べチッッ!!!!

「・・・・・・・・・・・・・・・うわぁ・・・・・」

 バルレルはうめいた。

 ソランの一撃はひつじの魔物の活動を止めることはできなかったらしい。得意満面だったソランの頭上から、ひつじの魔物が飛びかかり、思いっきりソランの体にのしかかってしまったのだ。

 バルレルの見ている前で、ゆっくりとひつじの魔物が立ち上がっていく。その下から再び、ソランの姿が現れる。ソランの体はヒキガエルのようにペチャンコになったりはしていなかったが、すっかりフラフラで、どう見てもこれ以上戦えるようには見えなかった。

「お兄様ッッッ?!?!」

 モアナが悲鳴を上げる。

 だが、アトリは憮然とした表情のまま、叫んだ。

「・・・・・愚か者! 力を使わぬか!」

「そ、そんなこと言われても、ど、どうすれば、い、いいのか・・・・・?」

 絶望にうちひしがれ、戦う気力さえも失ってしまったソランを救い出してくれたのは、バルレルだった。

「何も考えたらだめだ! ただ、力を使うことを考えて! そうすればきっとできるから!」

「・・・・・・・・・・あっ、は、はい!」

 バルレルの言葉に励まされたソランは再び、魔物の一団と向き合った。

「僕も一緒に戦うよ! ソランさんはそちらをお願い!」

 声に振り向くと、すでに複数のひつじの魔物を倒していたバルレルがソランに小さく頷いた。反対方向の魔物の足止めを、バルレルがしてくれていた。

 ここでバルレルさんの――そして恐らくアトリちゃんの――期待に応えなければ、俺は永遠に勇者を目指す資格なんて持てそうもない!

 ソランは再び、走り出そうとする。だけど先に魔物の方がソランめがけて一撃を加えようとする。反射的に、ソランの口が、そして体が動いていた。

「――バースト・ソウル!!」

 そう叫んだ途端、剣から炎と氷の連弾が弾け飛び、そしてその連弾の直撃を受けて、魔物は一瞬にして塵となって消滅した。

「ようやく、力を使えたようだな」

「な、何とか・・・・・」

 魔物を消し去ると、アトリはソランを見て少し満足そうに言った。

「だが、安心はするな。 魔神や破壊神の使い手どもはあんな程度ではないのだからな。 せいぜい精進するのだな」

「うっ・・・・・、遠慮したいな」

 アトリはそう言ったソランを見て、最後の一匹を倒したバルレルを見て、最後にソランに対して熱い眼差しを向けているモアナを見て、一瞬、小首を傾げたが、すぐににやりと笑って言った。

「・・・・・まあ、これでようやく魔神メフィストにあの時の借りを返すことができそうだな! どちらが上か、はっきりさせてやろう!」

「そういえば、魔神メフィストは力を失っていないのか?」

「ん?」

 思わぬソランの言葉に、アトリは顔をしかめてソランを見た。

「あっ、いや・・・・・確か、デュークの話だと魔神メフィストは分身体を生み出したりとか、力を使っていたって聞いたんだけれど・・・・・?」

「・・・・・そんなの簡単なことだ」

「・・・・・えっ!? ・・・・・それって、もしかしてそれもやっぱり魔神の『キードロップ』の使い手による力とか、そういうことなのか?」

 ソランの答えに、満足そうにアトリは深く頷いた。

「そのとおりだ。 魔神メフィストは使い手が生み出した分身体によって従来の力をそのまま使うことができるのだ」

「・・・・・そ、それって、かなり厄介なんじゃ・・・・・?」

「だろうな」

 ソランの言葉に、なんてこともないようにアトリは答えた。

「あ、あの―、勝算とかあるんだよね?」

 自信たっぷりに答えるアトリに、ソランは不安を隠しきれない表情のまま、訊いてみた。

「そんなもの、不要だ。 我が勝つ! それはすでに決定事項なのだ」

「ちょ、ちょっと、それ、どういう意味!?」

 動揺して叫びつつ、ソランはその時気がついた。

 つまり、そんな従来の力を持った魔神を相手に戦わなくてはいけないのは、『邪神の使い手』である自分自身だということを。

 確かに魔神とはいつか戦うつもりだったけれど、まさかこんなかたちで、しかも実際の魔神と同等の力を持った分身体を生み出せる者達と戦うことになるなんてっ!

はっ!?

まてよ?

 それって、複数の魔神の分身体も生み出せるってことになるんじゃ!?

絶望的な事実に気づき、ソランはがくっと膝から崩れ落ちた。

 人差し指で頬をなでながら、バルレルは困ったように説明した。

「アトリちゃんはこういう性格だから、あんまり期待はしない方がいいかな・・・・・」

 バルレルさん・・・・・。

全く励ましの言葉になっていないんですけれど・・・・・。

ソランはしみじみとそう思うのだった。


「ようやく着いたな」

 ソランはアトリ達に聞こえないように、モアナにそっと耳打ちした。

 ここは辺境のそのまた辺境に位置する小さな村タンベリーである。そしてソラン達の故郷の村でもあった。

「本当ですわね」

「何とか、このままデュークのところまで行こう」

「何をこそこそしているのだ?」

 アトリが邪心に満ちた笑顔を向けて、ソランに言った。

「あっ、いや、こっちのことで・・・・・」

 アトリは不愉快そうに、ソランとともに慌てふためいているモアナに視線を送り、そしてまたソランを見た。

「まあ、いい」

 納得したのか納得していないのかよくわからなかったけれど、とりあえずアトリは軽く頷き、さらに問いかけを重ねることはしなかった。

「そんなことより、塔の情報はまだ分からんのか?」

「あの、そのことで詳しい人がいるので向こうの広場に行きませんか?」

「詳しい人だと? なんだ? その、わざとらしい言い草は?」

「えっ? あ、いや、その」

 しどろもどろに答えるソランから視線をはがし、

「・・・・・怪しいな」

と、アトリはつまらなそうに言った。

 アトリちゃんって、何だかいろいろと鋭いな・・・・・。

「えっ、えっと・・・・・前に話した魔神と戦った人がこの村にいるんです・・・・・」

「・・・・・なるほどな」

 アトリは顎に手を当て思案しだした。

 横から、バルレルが助言を送った。

「今まで手がかりとか何もなかったし、それにあの魔神メフィストと戦ったことがある人だよ。 聞くだけでもしてみたらどうかな?」

「うむ、確かに。 このまま探し回ってもらちがあかん」

 「よし」と頷くと、アトリは高らかに宣言した。

「ソラン、その広場とやらにさっさと案内しろ! その魔神と戦った者とやらに会いに行く!」

「あ、ああ」

 盛り上がるアトリをよそに、ソランは一刻も早くデュークに相談したい思いでいっぱいだった。なにしろ、デュークがやっとの思いで倒した魔神の分身体が相手なのだ。しかも、複数で襲ってくる可能性もなきにもない、とソランは思う。そんな相手に、ソランとバルレルだけで勝てるのだろうか?

 絶対攻略不可能という不安だけがどうしても過ぎってしまうソランだった。

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