19話 野戦の終わりは砂塵と共に
長らくお待たせしました。内容などについては活動報告でお知らせします。
「ん!・・・・ユ・・・・く・・!!」
何かが聞こえる。
「ユウ君!!」
誰かが呼んでいる。誰だろう?僕は疲れているのに‥。
「返事がないか・・なら強制的に。」
声の主はカルロのようだ。・・・・強制的に?
「魔法で目覚めさせるしかないね。」
魔法?魔法だと!?
「炎の力を退けし水の「ちょ・・ちょっと待てぃ!」起きたんだね、大丈夫?」
「いや、「起きたんだね、大丈夫?」じゃないよ!今絶対よろしくない魔法を使おうとしたでしょう!?」
「そんなことないよ。ただの回復魔法だよ?」
微笑みながら返答するカルロ、いつもは見ていて優しいイメージを思うが今はそれが逆に怖い。
「ところでなんで回復魔法を?だって僕はレイグバドルを出て、ウィルドに向かっていたはず、そして盗賊と・・・・・・あ!そうだ、クルスはどうなった!?」
「クルス?ああ、今まで相対していた子だね。あの子ならほら、あそこの岩にもたれかかっているよ。」
カルロの指差すところには突出した岩石に寄りかかってぐったりしているクルスがいた。
クルスが無事であることに安堵したがその周りの惨状を見て青ざめた。周囲の風景は囮をしていたときの荒野とは全く別のものだった。岩は抉れていて、地面はひび割れている。
「こ、これは全て僕とクルスが?」
「自分の目で見たわけではないから本当かわからないけどたぶんその通りだと思う。」
カルロはわからないと言うがほぼ原因は僕とクルスだろう。あれだけ間欠泉や雷撃でドンぱち起こしたのだ周りに被害がないはずがない。
セインさん怒るよな〜など考えながらカルロに現在の状況について問う。
「あ、そうだ。今戦闘はどうなっているの?カルロがここにいるということはもう戦闘は終了したと考えていいのかな?」
「ユウ君のことばかり考えていたからすっかり忘れていたよ。実は・・」
セイン視点
戦闘を始めてもうどれほどの斬激を受けただろうか。今までにも多くの任務を受けて、それら全てを成し遂げてきた。その任務の中である時は人、ある時は獣、またある時は巨大な怪物のときもあった。
だが今、目の前に立ちはだかる男は今までに出会った強敵のどれよりも強い。
「もうバテてきたんじゃないだろうな?」
目の前の男 元パレス国第五騎士団三番隊隊長 鷹の目のバルザは不敵な笑みを浮かべて言う。
「くっ!ならば『アースアロー』!」
アースアローは矢の形をした岩石を撃つ中・遠距離魔法だ。魔力を使ってアースアローを作り出すのは魔力量が少ない人には困難だが周りに岩石などがあればそれに魔力を流すことで使用する魔力量を大幅に削減出来る。幸いに今自らが戦闘している場所は荒野、岩や砂には困らない。それを周りの土に魔力を流して数本四方から放つ。
「ほう。土の矢か、だが」
ガッ、バン、ドン、パキッ!
剣の背で前方の矢を、剣の鞘で後方の矢を凪ぐ。その後、両手の得物を手放し左右の矢は己の拳で受け止めた。まるでそこに放たれるのがわかっていたかのように。
「この俺にそんなもの効かんわ!」
セインは考えた。「この男は本当に人間なのか?」と。
「声に出ているぞ、ハイムの騎士よ。」
「俺はれっきとした人間だ!」と叫んでいる。どうやらいつのまにか考えていることを口に出していたようだ。
「いいだろう。何故今の矢を受けとめられたかを教えてやろう。」
「そうですね。ではご教授願います。」
「それはお前は殺気を消せていないからだ。」
「殺気がなくては戦闘など出来ないのではないですか?」
決闘とは自らの命を賭けて勝負すること、決闘では多少の甘えや油断が命取りになる。
そんな状況で殺気を消すことが出来るだろうか。
「確かに殺気は必要だ。だがそれは幾度も戦場を駆け抜けている歴戦者には逆効果だ。戦場での感覚を呼び覚ましちまうからな。
そしてもう一つは殺気の強い相手ほど剣筋がわかりやすいからだ。」
「剣筋が読めるですって?でしたら試してみましょうか!」
そう言い放ち、バルザにまた四方から土槍をぶつけるように発動する。その後、土槍にバルザに意識がいっている間に腹部に突きをくり出す。
ガッ、バン、ドン、パキッと先程と同じ手順で土槍を破壊する。が、ここまではセインの予想通りになっている。そして腹部への突きを妨げる物はない。
「今度こそ!」
剣が腹部に当たる数秒前にバルザは土槍と同様に拳で受けようとする。でもセインもこれ以上やられてばかりでいられない。
バルザの拳にセインの突きが当たる直前にセインは「チャキッ」という音と共に今まで横になっていた刃を縦に持ち替え、それをバルザの顎目掛けてすくい上げた。
「何!?」
バルザは予想外の展開に驚きながらも身を引いて回避しようとする。だが、何かが割れる音とセインの手に「ガンッ!」と硬いものを叩いた感触が広がるのが早かった。
「今回は攻撃が通りまし・・!?・・なんですって?」
今感じた音と感触から少なくともバルザの顎を割ることは出来ただろうと思っていたが現実は違った。
「おおー危ねぇなーもう少し反応するのが遅かったら、顎が割れていたぜ。」
「何故、無傷なんです?」
「おいおいそんな怖い顔するなよ。俺はただ剣が顎に当たる直前に硬化の魔法をかけて守ったまでだぜ?」
やはり目の前にいるのは本当に人g「だから聞こえているぞ?」・・またも声に出ていたようだ。
「誰が魔法を使えないなんて言った?切り札は最後までとっておくものだろう?
そして魔法を囮にして、隙を見ての突き、防がれることに気づいてそこから剣を持ち替え、はらい上げる。今回は相手が俺であったからしょうがなかったかもしれないがあまり関心出来ない戦法だな。
この戦法は大抵の相手ならば魔法と剣の二段構えのどちらかには引っかかるだろう。だがこれは二段構え自体の強さに頼りすぎているために2つとも突破された際のことが考えられていない。言わば諸刃の剣だな。
でも逆に言えば諸刃の剣=弱点を克服すれば強いということだ。」
「何故それを私に教えるのです?」
「これからどう成長するのか見たくなっただけだ。」
「それでは答えになっていない」と問いをぶつける前に遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「そちらの仲間が来るという事はあいつらはやられたか〜これはもっと鍛えてやらないといけないな!おっと、すまんが俺はここで失礼するぞ。」
ここで逃がすわけにはいかないと思いながらも目の前の人物を止める術は今の自分にはない。
「わかりました。ですが次にお会いしたときにはお手合わせ願います。」
「はは、ではさらばだハイムの騎士よ。」
突然、砂嵐が吹き荒れて咄嗟に目を閉じる。再び目を開けるとそこにバルザの姿はなかった。