17話 炎のクールロスト作戦 《後編》
諸事情により、細切れで長くなりました。
クルス視点
黒きローブの魔術師に『フラッシュ・フロッド』で作った水竜をぶつける。
魔術師は水竜を漆黒の剣で凪払うがそう簡単に術を破らせない。
水を操作する要領で竜を操り、その水に魔力を流して水温が上昇させる。
すると漆黒の魔術師は切り裂いた水竜が熱湯に変り、驚いている。この水竜たちは大地に魔力を流し込み砂漠の下に溜まっている地下水を魔力で操っている。そのため魔術師が水竜の突進を避けようとしたら、移動する先に間欠泉を出現させることで移動不可の状態であり、元々が水であるため水竜の形が崩れようともすぐ元の形に戻るから破壊不可の水竜と闘うことになる。
これが『フラッシュ・フロッド』の最大の強さだ!
(この戦術が破られる人はそういない。)
魔術師の動きが止まった。その間に間欠泉を魔術師の周りに出現させ、さらにその周りに水竜を多数出現させる。
「流石のあの魔術師もこの魔法には勝てないか。」
そう小さく呟くとクルス倒れたまま気絶しているイヤルに目を向ける。
「もう少しの辛抱だよイヤル。それまで頑張って耐えてね。」
イヤルに声をかけ、クルスは魔術師に目を向けて水竜に魔力を込める。
「これで終わりだ!行け、水竜たちよ!!」
身動き取れない魔術師に水竜は襲いかかる。魔術師に水竜が食らいついた瞬間、水が突然発光する。
悠 視点
(私は今ユウが言ったことを実行すればいいのだな?)
「やってみたいこと」をやるためにやってほしいことをクリちゃんに念話で相談するとあっさりと了承してもらえた。
(そうしてくれればこの状況を乗り切れるかな。)
(だがそのためにはユウの力を借りるぞ?)
(いいよ。こちらが頼んでいるわけだし、そのための協力なら惜しまないよ。)
そう、この作戦が成功しなければ僕らがやられるのだからそのための代償は惜しんでいられない。
「これで終わりだ!行け、水竜たちよ!!」
あちらはこの間に吹き出す間欠泉と操る水竜の数を増やし攻撃準備を整えたようで水竜はこちらに食らいつきにかかる。
そして水竜が体に噛みつく時、
(今だ、クリちゃん!)
(大地に宿る雷の精霊よ、その力を我が身に貸し与えしたまえ―――)
クリちゃんの詠唱でその本体であるクリスタルが黄色く発光する。
「(轟け!『サンダーストーム』!!)」
魔法を発動したと同時に指先から稲妻がほとばしる。先ほどまでの間欠泉により、地面がべちゃべちゃなので電気は水を通して水竜に通電する。
「―――――――!!」
水竜は甲高い悲鳴のような叫びをあげながら点滅する。
たが水を通して水竜に通電するということはその水に触れた自分も雷撃を喰らうということなのだ。
「・・ぐ、ぐわぁ」
いくら多重の障壁があるとはいえ、雷の放出量は数万〜数十万A、電圧に至っては十億Vにも及ぶのだ。その大多数を障壁とクリちゃんの力で防御しても完璧な防御など有り得ない。防ぎきれないダメージの少しは自分にくる、だが生身の人間には百ボルトでもそのダメージは計り知れない。
「自らの魔法に当たるとは選択を間違えましたね。」
一方、クルスは自身の周りだけ水を操作することで感電を免れている。
(ぐわぁああ、キツい。でもここで倒れるにはいかないんだ!)
「一度はいきなり別属性の魔法に驚きましたがそれもこの有り様、やはり状況は覆せませんね。」
(まだだ!まだ後少し時間が足りない!)
「さようなら、黒衣の魔術師さん。」
その言葉を合図として竜が動く。が、ここでクルスは水の異変に気付く。
(?何故水の容量は変わらない?この魔術は地下水を継続的に汲み上げ、魔力で操っているため、水竜の容量は増えることはあっても変わらないことはない。ならば汲み上げた分と同等の先にあった水はどこに消えた?)
「なぁ、君は化学というもの知っているかい?」
「は?・・・・そ、そんなこと今から死ぬ人には関係ないだろ!」
不意の質問に変に高い声を上げて動揺しながらも質問に答える。
「化学とは、全ての物質が何からどのような構造で出来ているか、どんな特徴や性質を持っているか、そして相互作用や反応によって、どのように別のものに変化するかを研究することなんだ。」
「で?それがどうしたと言うんだい?」
「実はその研究のひとつに水の電気分解というものが存在するんだよ。」
この言葉に悠のクルスはわずかに身を震わせる。
(水を電気で分解するだと!?バカなそんなことが出来るなど聞いたことがない。そうか、これは僕を同様させるための戦法なんだ!)
クルスがこう思ってしまったのは仕方がないだろう。悠のいた世界とは違い、この世界で化学は錬金術という形で存在していたのだから一介の魔術師が知るはずもない。
「水は普通電気をよく通すが分解はさせてくれない。だが・・・・」
「水酸化ナトリウムを溶かすか『強い電気』を継続的にあて続けることでそれは可能になる。そう例えば『雷』のようなね。」
「!!」
ここでクルスは容量の変化しない水は悠によって意図的に発生させたものであったのだと気づいた。
「だが、水を分解出来たところで何が出来るというんだ!この状況をひっくり返せるとでもいうのか!?」
クルスから出た当然とも言える質問を無視するがごとく悠は続ける。
「水は非常に燃えやすい性質の気体と火が燃えるのを手助けする性質の気体によって構成されているんだ。ということはそれを分解させると今、説明した二つの気体が発生する。」
この説明によって、悠は笑みを深くするがクルスは顔を青くする。
「ま、まさか!」
「そしてさっき水竜に切りつけた際に直ぐ元の形に戻った。でもそれは水の場合、分解された水を元の形の戻すのにはその構造を知っているものしかできない。戻りたくとも戻れない気体はその場所に停滞するだろうね。じゃあ・・・・」
「その空間で火を放ったら、どうなると思う?」
「ま・・待て!!」
クルスは叫ぶ。クルスも悠の言葉のすべてが真実だとは思っていないがただの予想にすぎない。根拠のない自信に自らの命を棒に振ることなどできない。
「フレム」
発生した炎は大気中に燃え広がり二人の魔術師を飲み込む。悠にとって初めての対人戦は意図的に起こした水素爆発で幕を閉じた。この戦法を悠はクールロスト作戦と名づけるのだった。
今回も一応戦闘のつもりだったのですが・・・・
何故に中学・高校の化学の勉強がでてきた!?
誤字脱字などありましたら、指摘してくださると嬉しいです。
不定期更新ですがこれからもよろしくお願いします。