16話 炎のクールロスト作戦 《中編》
悠 視点
(ああ、あれは―――魔剣だ。)
炎の魔法のフレムを剣でかき消す男のことをクリちゃんに問うと想像もしていなかった答えが返ってきた。
(魔剣!?魔剣って、あのRPGとかで出てくる剣から魔法を発動したり、敵を倒すほど血を吸って強くなったりするあの魔剣?)
(うむ、あーるぴーじーとかいうのは何か分からんが剣から魔法を発動するなどの解釈は正しいぞ。そして今相手にしている奴が持っておるのはたぶん魔法の力を軽減する魔剣だな。)
(魔法を軽減って・・・・完全に打ち消しているような気がするんだけど。)
(それは魔剣によって威力を軽減した魔法を剣速や的確に魔法の術式を傷つけるなど奴の技量によってあたかも剣を振るだけで魔法が消滅しているように見えているのだろう。)
(へぇ、そんなことが出来るのか〜ってあれ?じゃあ、魔法しか使えない僕が勝てるわけないんじゃない!?)
(そうだな。)
凄い速さで即答されて僕の心は傷つく。
(このまま何もしなかったらな。)
(今の僕に魔法以外に何か出来ることなんて・・・・・・)
今の自分が出来ることを考える。放てる魔法はただ一つ、持っているのはローブと・・・・・・。
(そっか!わかったよクリちゃんの言いたいことが。)
(ふっ、では何をすべきかわかっただろう。ならば反撃開始だ!)
クルス 視点
「グハアァァ!!」
自分の腹に剣が凪払われ数メートル吹き飛ぶイヤル。それを見て、いまだに動揺していたクルスは落ち着きを取り戻す。
「えっと・・イヤル!?大丈夫!?今魔法で直してあげるから!」
「くっ、・・ルス・・・・に・・ろ。」
イヤルは呼びかけに応えようとするが凪払われた際に内臓を負傷したのか吐血し、うまく言葉を発せない。
「え?なんだって?」
「クル・・ス逃げ・・っ!クルス後ろ!!」
「後ろ?」
自分は後ろを確認するとイヤルを倒した漆黒の魔術師が剣を凪払おうとしていた。
「う、うわぁあ!ウォーターバリア!!」
水の魔法によって作り出された水の壁は魔術師の剣をかんだかい音を鳴らしながら受け止めるが剣の威力が水壁の耐久力を上回る。
「くっ!なんて威力だ!?あなたは本当に魔術師なのか!?」
水壁が破壊された衝撃で僅かながらよろめきながら漆黒の魔術師に疑問の念をぶつけるが魔術師は応えない。
クルスは考える。魔術師でありながら剣を扱い、魔術師最大の弱点である接近戦を克服した相手と対等に闘うためにはどうすることが最善の方法なのかを。
(相手は剣を扱うため魔法しか使えない自分では接近戦を仕掛けるのは無謀だ。魔法で勝つ?いや、先ほどのイヤルに使っていた魔法は初歩的な魔法だが魔法の威力は火の魔法より強い水の魔法と渡り合えるほどの威力だった。ならば)
「ならばそれ以上の自分が発動出来る最大の魔法をお見舞いしてあげるだけだ!!」
そうクルスが叫ぶとそれと同時に両手を頭上に挙げて紡ぐ。
「大地より授かりし恵みは時として混乱の渦を巻き起こす水神の怒り―――最上級水魔法『フラッシュ・フロッド』発動!!」
クルスの詠唱により発動された魔法は悠に襲いかかった。
悠 視点
なんとかイヤルを各個撃破出来たことに安堵していると倒れているイヤルに今まで慌てふためいていたクルスが近寄いた。
(あれはさっきの水の魔術師・・・・。)
クルスは倒れたイヤルの体を揺さぶっている。
その姿を見ていて悠は複雑な気分だった。
(あちらが襲おうとしていたのを先読みして先制したわけだけど身を守るとはいえ闘わずに済む方法もあったんじゃないかな?)
(そう深く考えるな。相手は盗賊であり、人に剣を向けることは奴らが今まで行ってきたことなんだ。その者達を傷ついてもそれは今までやってきた事が自分に返ってきただけだから気にするな。)
(そうなのかな?でもこれ以上無闇に人を傷つけていないから降参を勧めてみようかな。)
そして降参を勧めようとしたら、クルスの手が青白く光る。
(ユウ、あの魔術師を止めろ!あの者は治癒魔法を使おうとしているぞ!!)
(えっ!ということはこのまま放っておいたら、またイヤルと闘わないといけなくなってしまう。・・・・それは防がなくちゃいけないね。)
すぐに念話を止めてイヤルのもとへ走る。イヤルまであともう少しというところでカダウンを引き抜く。
痛いとは思うが勘弁してくれよ、と心で思いながらカダウンを凪払ったのだが
「クルス後ろ!!」
「う、うわぁあ!ウォーターバリア!!」
倒れていたイヤルの一声で僕の存在に気づいたクルスが咄嗟に発動した防御魔法に守られた。
(予想だにしないことが起きたな。)
(うん。それでも咄嗟に剣撃を防御出来るなんてこのクルスという魔術師はすごいな。)
「くっ!なんて威力だ!?あなたは本当に魔術師なのか!?」
普通の人は誰もがそう思うだろう。まさか現在闘っている者が異世界からやってきた身体能力が強化されたやつだなんて考える人はいないだろうから。
「ならばそれ以上の自分が発動出来る最大の魔法をお見舞いしてあげるだけだ!!」
「大地より授かりし恵みは時として混乱の渦を巻き起こす水神の怒り―――」
(ユウ、あの魔法はさっきの魔法とは一回りも二回り、それ以上のものだ!これは一旦仲間に応援を要請したほうがいいぞ。)
周りを見回す。セインやカルロの姿が見えないが遠くで雷や炎が飛び交っている。いくらセイン達が質では優れていても数ではあちらが圧倒的に有利なのだ。
(いや、助けは呼ばないよ。セイン達なら呼べば助けに来てくれるだろうけどもし僕を手伝っている間に不意をつかれて・・・・。なんてことはしたくないし、あっちも僕を信じて(?)くれているはずだからこちらもそれに応えようと思ってね。)
(・・・・・・。)
クリちゃんから返事はなかった。自分の言ったことがおかしかったのだろうか。
だがそうこうしているうちにあちらも準備が整ったようだ。肌がじりじり傷むこれが魔力というものなのだろう。
「最上級水魔法『フラッシュ・フロッド』発動!!」
クルスが魔法を発動された途端空が黒い雲に覆われ、地鳴りが起きる。
「何が起きるんだ!?」
ブシャアアァァァ
空から蛇のような動きをした水柱が、地面からは間欠泉のような水柱が立ち上る。その数、見える範囲だけで数十本。
最上級魔法の凄さに圧倒されていると雲の間から顔を出していた水柱の先が竜の首へと姿を変え襲いかかってきた。
「――――――!!」
「ただ突っ込んで来るだけであれば至近距離まで近づけて左右に移動すれば避けれる」
かと思った。
すぐ近くまで引きつけてから右に走った。すると
ズドン!!という音とともに現れた間欠泉。間欠泉は僕の移動を阻むかのように発生する。
「―――――――!!」
迫り来る水竜は高らかな咆哮をあげる。
「こうなったら!」
――ブンッ!
目前に迫った水竜の口をカダウン切り裂く。
「あっつ!」
バシャ、と水の姿に戻る水竜だが戻ったのは熱湯だった。
「なんだこいつらは形を変えるだけでなく、水温まで変化させることが出来るのか!?」
(たぶん水竜の水温は魔力の流れに強弱をつけることで調節しているのだろうな。水竜の動きは術者自らコントロールをしているようだな。)
「形だけでなく、温度まで変えられるなんてどう倒せばいいんだ?」
(・・・・倒す方法はあるが難しいぞ?)
先ほど避けた水竜は今度は四体に増えて自分に狙いを定めている。一度は水竜を凪ぐことで直撃を防いだが四方向が一度に攻撃されたら、いくら身体能力を強化されていても直撃は免れない。
(この際、難しかろうがなかろうがやるしかないよ!)
(あれらの竜は何をしようとも原形を留めない水。切り裂こうとも直ぐに竜の形に戻ってしまう。水の状態で直ぐに竜に再生してしまう、ならばあれらを別の形にすることが出来れば勝機はあるかもしれぬが・・・・。)
「水を別の形・・・・・・。」
ここで自分は元の世界での知識で考える。
「水・・・・形、変える・・・・液体・・分解は・・だがここは・・・・!・・!」
今も魔法を発動し続けているクルスをみる。クルスは水竜のコントロールに意識がいっている。
(なあ、クリちゃん。)
(?こんな時にどうした?)
(少しやってみたいことがあるんだけど―――)