黝
アメリカ国立ドレッドノーティラス学院。
アメリカという様々な人種が入り乱れる環境下にあるこの学院はその名の通り、恐れるものなどない。それぞの個性を生かし、特異と苦手を確実に保管することをモットーにしている場所です。
苦手を補完し、特異を確実に伸ばすのには最適な場所で、留学で選ばれる場所としては堂々の一位を飾っています。
僕がに自宅を済ませていると、寮にある部屋の隅に置いてあったものが目に入りました。
それは、ハンガーにかけられた、白色の軍服風のローブ。なんとなく、それをここに置いていくのは違うような気がして、僕はそれに腕を通します。
あの日の前日、お前にも似合うだろうって言って、わざわざ仕立て屋に注文して作ってくれたものです。そんなわけはないんですけど、もしかしたら零くんは、あの時、もうすでに自分がああいう選択肢をとることを知っていたのかもしれないです。
そうだとしても、違ったとしても、僕のとる選択肢は変わりませんが。
アメリカに行って、強くなる。
そのあとに、会長の目論見を暴いて…もし、零くんが生きているなら見つけ出す。そのための留学だと思っています。
「ここが……」
専用の飛行機から降りた僕と煌さんの目の前に広がるのは、まるで一つの町のような構造をした学院都市です。
「すごいですね……」
「さすがはアメリカっていう感じね。さ、校長にあいさつに行くわよ。GAIDOはその間におろしておいてくれるから安心なさい。」
そういって歩いてく煌さん……その背中はなんとなくうきうきしているような気もしますが、言わないことにしておきましょう。
「やあ、よく来たね。そっちが「戦場のバーサーカー」で、そっちが「戦場の眼」か。これからよろしく頼むよ。」
校長室に案内されると、その席に座る貫禄のある男性—まぁ、校長なんですけど―が言います。ちなみに英語は必修科目なので、僕も煌さんも、大体の言いたいことはわかります。
「こちらこそ、よろしく頼むわ。何せ留学は初めてだし。いろいろ迷惑をかけると思うけど、できるだけ早くなじめるように頑張ることにするわ。」
そういう煌さんの眼と背中はいつも1番隊を率いているときのそれ。ところどころ抜けているところもありますが、こういう場面では頼りになる人です。
「それで、何だが……二人に、実際にGAIDOを用いた模擬戦を頼みたい。」
「二人で、ですか?」
僕が聞くと、校長はいかにもという様子で頷きます。
「噂や評価は聞いているが、それでもやはり、この目で見ないわけにはどうしようもない。君たちにちょうどいいものを用意した。頼むよ。」
「ふん!いいわ、やってあげる。奏太、行くわよ!」
「う、うん…」
そういって意気揚々と向かったはいいけど……地下にある演習場に僕らが入った瞬間、後ろの非常撤退用の扉がシャッターで閉じられる。同時に闘技場の上から降りてくるのは、記念会の時に会長を襲ったのと同じGAIDO似の怪人……いや、たぶんそれを再現した自立GAIDOだと思うんですけど。きっと。その数、ざっと100。本来なら50体を1隊で処理する規模の敵だ。それを断った二人でって…
「舐めてくれるわね……奏太。」
「…やるしかないんですよね……わかりました。やりましょう!」
僕は日本からはるばる超えてきた薄暮の背に生える翼型レドームを全力で展開し、最高速度で戦場の処理を開始する。そうしてできた平面マップを煌さんの駆る翠嵐のモニターに送信する。
「僕ができるだけ指示を出します。煌さんは攻撃を!」
「言われなくても!」
そういった瞬間、目の前に迫ってくる怪人を一気に薙ぎ払ったのを皮切りに、獅子堂 煌の猛攻が始まる。右手の上で両刃の矛をぐるぐると二、三、回し、そのまま敵の中心に放り投げる。敵の集まる場所を縦回転で裂いていく矛を空中でもう一度キャッチ、そのまま空中で一回転したのち、重力に合わせて振り下ろす。その一つ一つの動作のたびに、大量の怪人が四方八方に吹き飛んでいく。
「煌さん、左後ろから3体!踏み込み浅め!」
「せやぁ!」
「その反動で右後ろに飛んでください!薙ぎ払ってくれるだけでいいです!」
「ああもう!私を何だと思ってるわけ⁉薙ぎ払いだけで満足するとでも―思ってんの!!」
煌さんは指示通り右後ろに力強く跳んだあと、下にいる怪人を足場に回転しながら周囲の敵を容赦なく屠っていきます。僕の指示がなくても、一人で全部倒してしまうのではないかとも思うその力。もちろん多武器を振るうようにできている翠嵐の影響もあるんでしょうけど、そのしなやかな曲線を描く肢体のうちにある力量はまさに一流です。
でも……モニターで見ている限り、完全にそうとも言い切れなさそうです。
周りの敵を塵に帰す豪遊無双ぶりは煌さんの強さでもありますが……同時に、翠嵐の関節部には他のGAIDOなら確実に大破しているレベルの負荷が常にかかっています。そしてそれはもちろん、中にいる人も同じ……煌さんにも、時間がたつにつれ負荷が増していきます。
ですが、敵はとどまるところを知りません。そしてもう一つ……これ、GAIDOじゃありません。本物のゾーラス星人が作った怪人です。……と、いうことは…
それから、約1時間。
敵の数も残り20体を切りましたが、ずっとレーダーをフル起動している僕も、ずっとオオ武器を振るい続ける煌さんも、どちらも限界が来始めていました。ずっと放熱弁で排熱はし続けているのですが、GAIDOの中にはものすごい熱がたまっています。それに煌さんの体には、GAIDOが受け流しきれなかった衝撃も一緒に蓄積されているはず。動きが、明らかに精彩を欠き始めていました。
「ふぅ―――…奏太。あんた、大丈夫?」
「煌さんこそ。」
「私なら…大丈夫よ!」
そういって矛を振り回しますが、それに最初のような勢いはなく、怪人たちも慣れてきたのか、避けるものも現れてきています。
その時です。煌さんの動きがほんの少し、コンマ1秒遅れたその瞬間、そのエメラルドグリーンの機体を包囲していた怪人たちが一斉にとびかかりました。普段なら、容赦なく薙ぎ払っていたでしょう。
でも、さっきの動きでバランスを崩した翠嵐に迎撃の余裕はありません。
「煌さん!っ―――」
僕はさっきまで展開していた翼のブーストを全開起動。ものすごい負荷がかかりますが、今は煌さん優先です。その空中で僕は薄暮のオレンジ色の光が集まる拳を突き合わせ、煌さん付近の地面に両掌をつき―
「残照、展開!」
瞬間、地面についた手の中心からオレンジ色のドーム状の電子シールドが展開し、襲ってきていた怪人を吹き飛ばし、それを抜けてきた一体を右手の平から出した小型の残照で受け止めます。
すごい耳鳴りのような残響音が響きますが、今は気にしている余裕はありません。
僕はもう一度薄暮の翼と脚部のスラスターを点火し、壁に怪人を押し付けます。そのまま壁をけり、歌人からぶんどった槍を煌さんの背後に迫る、シールドを突破したもう一体の怪人に投擲。その槍はうまいこと怪人の方に当たり、僕は突き刺さった鉄棒そのまま薙ぎ払います。
もちろんそんな力、薄暮は持っていないので、腕部のスラスター任せです。僕の肩は予備動作なしの飛行や無理やりな動きで脱臼寸前ですが……
「そ、うた…なんで、なんでアンタみたい支援機が前に出てるのよ!」
「うるさいですねぇ!人が死にそうなところ、見たままみすみす見殺しにしろっていうんですか!」
「——っ!」
僕は残照を小刻みに展開しながら、突っ込みを繰り返す怪人たちをとりあえずあしらいます。薄暮に殺傷能力の高い攻撃兵火はないんです。
「僕は、あなたの目になるためにここに来たんです……学院のためもありますけどね…だから―――――目が迷ってたら、剣が困るじゃないですか。………さっさと前…向いてください!隊長!」
他隊の人を隊長と呼ぶのは、頭を下げるのと同じで異例行為。ですが……それだけの価値を、煌さんは確実に持っている!
「……わかったわ。」
僕がモニターで煌さんの顔を見ると、その顔にはいつもの笑みを浮かべています。何か、少し顔が赤いような気もしますが……
「あんたは……索敵はもういいわ。防御…その……頼める?」
そういう煌さんの声は、いつもの物とは違ったように聞こえます。指示ではあるんですが……別の意味で、断れませんね。
「…はい!」
「校長!」
100体の敵を殲滅した後。僕らは満身創痍の体を引きずったまま校長室に向かいます。力任せに煌さんが扉を蹴破ると、そこにはおびえた顔をした校長が。
「あら、ここに来たときのあの威厳はどこ行ったのかしら。それより、こんなことしてどういうつもり⁉」
「それにあれ、本物の怪人ですよね。どうやって運んできたんですか。」
それに……
最後の一体を倒した時、僕たちは、確かに聞いたんです。見たんです。怪人たちの声を。悲しそうな、かすれた声で「星に帰りたい」と嘆く、100人の屍の姿を…!
「どういー」
どういうつもり。そう、煌さんが叫ぼうとした瞬間、部屋の横から一本の真っ黒な直剣が投げられます。
身構えた僕らでしたが、その直剣が突き刺したのは、あろうことか、校長の頭でした。校長の頭は直剣が刺さって1、2秒経ってから、パリンという音を立てて、人間では出るはずのない紫色の血しぶきをあげて倒れました。それに驚いたのか、煌さんは少し僕の後ろに隠れて……いや、隠れようとして踏みとどまっています。
「ほぉら、だから言った、奴は人ではないと。もう少し早くしておれば、こういうことも防げたであろうに。口の軽いパラストめ。我が学院を汚すでないわ。」
部屋の隅から出てきたのは、仕立てのイイスーツを着て、それにしては良すぎるゴツイ身体をした40~50くらいの男性。目は隻眼ですが眼帯で隠すようなことはせず、堂々とその目に刻まれた傷を見せています。
「えっ…!」
先に声を出したのは煌さんでした。
その人の顔は、さすがの僕でも写真だりなんだりで見たことがあります。
地球の中で最も早くビジネスの舞台を宇宙まで広げ、圧倒的な財力で新型のGAIDOの政策に貢献している「黒豹財閥」の現当主で、現在最年長のGAIDO乗り―
「パンサー・ネクロマンス…」
「なんでこんなところに、黒豹財閥の当主が…」
僕と煌さんが疑問を呈すると、ネクロマンスさんは校長の頭に刺さった剣を軽々と抜きながら答えます。
「今日から私が、この学院の校長を務める。合衆国大統領直々の依頼でね。ICUの狸野郎のしっぽをつかむためにな。なに、ただのパトロンの延長さ。……それにしても、日本の1番隊の狂犬が、男の後ろに隠れるか…薄暮の坊主も、ただの支援機乗りでは無いらしいな。」
「かっ、隠れてなんか…!」
そういって足を踏み出した煌さんですが、何せ疲労困憊。そのまま足をもつらせて……なんで僕と抱き着くみたいになるんですかぁ!そしてなんでそっちが紅くなってるんですかぁ!!
「煌さん、無理しないでください!……」
「あの…これ、なんですか?」
僕が校長の頭からしたたる紫の液体を指さすと、ネクロマンスさんはポケットから太い葉巻を取り出し火をつけながら言います。
「パラストに感染した人間はみんなこうなる。」
「パラスト……?」
「なんですか、それ。」
「”寄生惑星パラスト”……ICUの床の狸野郎の母星だ。多分だが、ゾーラスの幹部に根付いてるやつもそれだろうとにらんでる。」
「なんで?ゾーラスが襲ってきているのは確かでしょ?」
「ああ。だが、10年前までは、奴らもICUに所属しているような星だった。何かいざこざが起きればいつでも兵を貸し出し、交渉もうまくいくつもの星間戦争を未然に防ぐような、まさにICUの顔ともいえるような星だった。会長も、大体がゾーラスから選ばれていた。それも今では10年前の話だがな。ゾーラスが他星を攻撃し始めたと聞いたときの衝撃も、若者は知らんだろうがな。それに調べてみれば、10年前という数字は、今の狸野郎がICUに入った時期とほぼ一致する。」
「………あんたは何がしたいの?私たちの味方なの?敵なの?」
聞けば、ネクロマンスさんは白い息をブハァと吐きながら―
「質の悪い依頼から帰ってきたところ悪いが……お前らには訓練を受けてもらう。敵か味方かは、お前ら次第だ。パラストはゾーラスを使って着々と浸食を強めている。それを食い止めるには、『眼』と『矛』は不可欠だ。だが……奴らが本気を出せば、今のレベルでは10秒持ちこたえられるかどうかだ。」
「………わかったわ。正直しんどいけど…そういう理由なら、仕方ないわ。」
「煌さん…わかりました。僕もやります。」
「よし来た。ついてこい、若造ども。特別訓練の時間だ。」




