颯
あれから数日。
薄暮の扱いにも慣れ、僕ら8番隊は元の勢いを取り戻していていました。
記念式典での会長の護衛を任されたのはそんな時でした。
「今日はよろしく頼むよ、8番隊のみんな。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「会長に触れようとする不届き者は、俺たちが全員排除するので、会長は安心してください。」
そう答える二人の眼は、今までと同じように透き通っている。この前までの大スランプが嘘のようです。
平和の象徴として、他生徒の前で胸を張り演説をする会長の後ろにいる僕は、少し違和感を覚えていました。
なんというか、静かなんです。
いや、会長が演説しているというのもあるんですが、それにしても静かすぎるというか……
こういう時、嫌な予感は当たるものです。
会長が降壇した途端、その横あたりの空間が歪み、中から黒色をした怪人が入り込んできました。
問題は、その形………
「GAIDOに似てる…」
「おい浅見!今はそんなこと気にするな!迎撃だ!」
「あぁ…うん。」
そいつは簡単に片付きました。結構一瞬でした。でも、その時、見えたような気がするんです。僕のレーダーに映る会長の体温が、一瞬二つに分かれたように。
何かおかしい。
あの件があってから、明らかに8番隊の出番が増えました。
みんなは信頼されている証拠といっているけど、どうにもそうじゃない気がします。この頃出番が多くて、あんまり兵器の補充ができてません。僕の薄暮でできるだけ被害は減らすことができるように作戦を立案していますが、それでも完璧ではありません。それに、そのGAIDOの負傷を治そうと整備工場に送っても、ほかの隊のメンバーの順番待ちの間に次の出番が…という風になって、GAIDO、搭乗者両方に負荷がかかってきているような気がします。
「……まぁ、そんなこと言ってても何にもならないんですが。」
そういって薄暮の表面を拭いていると、今日8回目の緊急サイレンが鳴り響きます。
「廃工場地帯に怪人多数。廃工場地帯に怪人多数。」
「またか……行くよ、薄暮。」
廃工場地帯に入った途端、シクッタ、と思いました。
度重なる出動のせいで、僕も無意識のうちにつかれていたんだと思います。普段なら、絶対に気づけたことに気づくことができませんでした。
この廃工場地帯は工場といいつつ電気系統の物を多く作っています。つまりは、微弱な電波がいっぱい集まっているんです。副隊長の浮遊砲台や隊長の盾を展開しているのも、広く言えば電波のようなものの一つです。
…干渉されました。
空を飛んでいた薄暮は、工場地帯に入った途端背中の翼が電波のせいでバランスを崩し、墜落寸前まで高度が落ちます。何とか持ち直しましたが、ほかのみんなも困惑している様子。それに、あたりはよりまずい状態になっていました。民間人は避難できたみたいなんですが……そこには50体くらいの大きな怪人。
「これ、普通3隊くらいで来る奴だろ…!くそ、動け…動け信長!」
どれだけ副隊長が叫んでも、電波妨害を受けたせいで浮遊砲台はすぐに落ち、GAIDOを動かすことすらままなりません。それにここは建物の中。扉もあいつらに閉められてしまっています。
「ダメ…緊急要請も通らない……」
何とか上まで言って緊急信号を発しようとしますが、残念ながら僕の薄暮も翼がジャミングされてすぐにバランスを崩してしまいます。
薄暮には盾などの特殊機能も付いていますが、この状況では一緒です。
その時です。内側から止められていた正面扉が、力任せにぶち破られたのは。
「はーっはっはっはっは!久しぶりね、霧香。」
そこに立つのは、エメラルドグリーンの機体色を工場地帯の光にきらめかせ、右手に両刃の矛を持ったGAIDO。その後ろには同じくエメラルドグリーンで「壱」と筆文字で刺繍された旗が掲げてあります。学院内で堂々のトップの成績を誇る武闘派、1番隊です。
「煌……」
「見てたわよ。相変わらずお堅い作戦なんか考えてるから、こんな姑息な罠にはまるのよ。さてはあんた、寝不足でしょ!まぁいいわ…みんな、こいつら蹴散らすわよ!作戦名は…「爆裂gp-流伝フェスティバル」!」
それを聞くと、ほかのメンバーの肩が一気に下がったのがわかる。多分「はいはい、またいつものね…」という感じです。でも、一度号令をかけられた1番隊のメンバーが臆することはありません。僕らが苦労していたジャミングを意にも介さず、容赦なく周りの怪人たちを殲滅していきます。
「ヒャッハー!」
戦闘がひと段落した後。
隊長の手を引いて起こした1番隊の隊長と思われる人は、そのまま氷室隊長を正座させ、その前で腰に手を当てながら…
「アンタ、寝ぼけてんじゃないわよ!出動が多いなら多いで私たちの方に言う!会長が横流ししてんのか知らないけど、私たちの方はろくにいい任務来ないんだからね⁉」
そういって腕をブンブン振りながら目を吊り上げて怒る1番隊隊長…獅子堂 煌。
「うちの隊長が済まないな。」
そういう1番隊のメンバーは、ものすごく気まずそうに言います。どうやら、氷室隊長と…煌さん?(さっき名字で呼んだら怒られた)は幼馴染らしいです。1番隊情報です。
「ごめん…」
「ほんと、大スランプから抜け出したと思ったらこれって…恋する乙女は大変ね?」
「う、うるさい煌!」
「フフン………それで、私たち、あんたらがすごい顔してたの見て付いてきただけだから、何かしらおとがめを受けちゃうかもしれないのよねぇ……」
「え、じゃ、じゃあ…」
「ちょっと待った。説明はいいわ。私たちが絞めれる。それより……助けた見返りよ。二つ、してほしいことがあるの。」
煌さんは乗っていた専用のGAIDO「翠嵐」(入力されている魂は関銀屏という人らしい。)の手に持つ両刃矛の刃を磨きながら話す。
「私たち1番隊は、校長から秘密で頼まれていることがあってね…ここなら傍受もされ愛し話してあげる。……あんたたちの中にも気づいてる人もいるだろうけど、あきらか、あのICUの新しい会長は行動が怪しい。各星の視察も増えているし、学院に対する関与も増えてる。それを危惧した校長から、会長の監視を頼まれているの。もし何か怪しいところがあれば、すぐに勘当できるようにって。」
「…それで、私たちにしてほしいことって?」
「一つは、アンタたちの仲間の戌亥 零、および専用GAIDO『晦冥』の情報開示。あなたたちもあんまり知られたくないこともあるだろうから、開示相手は私たち1番隊のみ。好調だと、変に教えたら会長にばれる可能性があるって教えてくれないのよ。まぁ、理由はごもっともなんだけど。…いい?」
「……いいわ。学院に戻ったら教えてあげる。で、もう一つは?」
「……まず前提条件として、私は成績順的に、海外の学院に留学できるのはわかる?」
地球にあるGAIDO搭乗者を育成する学校は、5つあります。
国内の独自の文化で存在感を示す「日本国立鳳学院」
多くの人材と資材で大量に搭乗者を輩出する「アメリカ国立ドレッドノーティラス学院」
厳格な規律とシステムで上級者を育てる「イギリス王国立ステラナイト専門学院」
広大な土地と特殊な環境下で対応力を養う「オーストラリア国立ロックタートル学院」
充実した設備で初級者、中級者のスコアアップを狙う「エジプト国立バステルナ学院」だ。
それぞれの学院間での友好を深めるため、①学院内でトップ3位以内に入った者②トップ3の生徒が選出した者③校長から要請を受けた者は、海外の好きな学院に留学することが認められている。零くんが8番隊を追放させた人たちは、①に該当します。
「ええ。1番隊の隊長だしね。」
「そう。………詳しくは「今はまだ早い」といって話してくれなかったけれど、校長の話によればこの先、ゾーラス星人以外の星とも戦うことになるかもしれない。」
その言葉に怪訝な顔をするのは副隊長。
でも、煌さんの見立ては、僕は正しいと思います。
「ゾーラス星人を倒せ」といっているのは、まぎれもなく会長だ。その会長が怪しいとなればもちろん、会長が狙っているゾーラス星人はどうなのかという議論が生まれてきます。
もちろん、ゾーラス星人は地球の大都市や他星の大都市を狙って攻撃を繰り返しているわけだから、その答えがすべてが善にひっくり返るわけではないにしろ、何かしら、会長にとっての障害となっている……ということになると思います。
「その場合、今の1番隊一強状態だと、いつか絶対に限界が来るっていう話に話になったの。それで……あんたのとこのその「眼」、そいつを私の留学に同行させなさい。」
そういって、煌さんは僕の方に人差し指をびしっと向けました。
「えっ…!」
「煌、それは…」
「戦力が下がるのを心配しているのなら、心配しなくていいわ。」
「…どういう意味?」
「あたしが留学中、1番隊は8番隊の指揮下に置くことを許可する。これは校長と私たち1番隊できめたことよ。存分に使いなさい。」
声をかけると、1番隊のメンバーが氷室隊長の目の前で頭を下げる。通常、別の隊の隊長に隊員が頭を下げることはないようになっていますし、校内規律でも決まっています。つまり、明らかなイレギュラーです。そして、それだけのイレギュラーを起こす価値が、少なくとも、今の僕に期待されているということになります。
「煌さー」
言いかけた途端、薄暮のモニターが異常シグナルをキャッチする。ゾーラスの怪人たちだ。
「皆さん!上空から中型怪人およそ20です!」
「あ~……私の商談を邪魔するとはいい度胸ね。1番隊!しばらくの間お別れになるわ。それまで最後の指示よ。存分に暴れてきなさい!」
声を掛けられると、1番隊は最初に僕たちを助けてくれた時よりもさらに手際よく、怪人たちを倒していく。
「負けてられないわね…8番隊も続いて!」
「了!」
指示が飛べば、九条副隊長率いる8番隊の面々もあとに続く。
「全員に通達!増援北西から12!」
「了解!さぁ、さっさと来なさい!」
戦いを見ていて思ったことがありました。やっぱり、僕は弱いです。
確かに薄暮を手に入れたおかげで、確実に戦場を広く見ることはできるようになりました。でも、今のままじゃ、やっぱり情報漏れが多いんです。そこについてはもう、実戦経験がないとどうしようもないと思います。
それに……なんというか、その…………煌さんのことが気になるんです。今まで見てきた零くんや氷室隊長、九条隊長とは全く違った毛色で。
「……どうしたの?浅見さん。」
「…奏太でいいです。」
「そ。じゃあ奏太……決まったみたいね。」
「はい……僕を、一緒に連れて行ってください。」
このままではいられない。
あの時に感じた、会長への違和感は何なのか。
あの時に聞こえた、零くんと思しき声は誰のものなのか。本人なら、どこからなのか。
今、この世界がどうなっているのか。
「そう来なくっちゃ!霧香も聞いたわね?」
「ええ。でも、浅見君は8番隊の人間。もし何かあれば…私は、一生あなたの膝を射撃し続けるからね。」
「ひっ…!あんた、目が本気すぎるわよ…」
こうして僕は、突如として海外に留学することになったのだった……学院で一番のバーサーカーと共に。




